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響子のガーディアン

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 5月第二週の月曜日。
 一江から報告を聞いて、一江をヘン顔にして遊んでいると、六花が来た。

 「おう、お前もやるか?」
 「石神先生、響子がちょっとヘンなことを言ってまして」
 「なんだ?」

 俺は思わず一江の鼻に指を入れてしまった。

 「イッタァーイ!」
 「ああ、すまん」

 俺は謝りながらアルコール入りのウェットティッシュで丁寧に指を拭った。
 一江は廊下に出て、俺に大事な穴に指を突っ込まれて血が出たと怒鳴っていた。

 「取り敢えず、来ていただけませんか?」
 「分かった」

 一江の頭を引っぱたいて、六花と響子の部屋へ行った。





 「よう!」
 「タカトラー!」

 いつものように、俺の顔を見て抱き着いて来る。
 カワイイ。

 「お前の大事な穴に指を突っ込んでやろうか!」
 「いいよ!」

 物凄くカワイイ。
 耳の穴をくすぐってやった。
 響子が喜ぶ。


 「お前、なんか見えたんだって?」
 「うん。おっきい虎」
 「へぇー」

 六花が頷いている。
 今朝から、響子がしきりに虎が見えたと言っているらしい。

 「俺?」
 「違うよ! 虎だよ!」
 「がおー」
 「がおー」

 六花も真似した。

 「もう!」
 「おい、見えねぇよ。どこにいるんだ?」
 「今はいない。でもいたんだもん!」
 「そうか」

 俺もよく水玉のゾウがいたとか言っていたが。

 「水玉のゾウは?」
 「そんなのいないよ! タカトラの嘘じゃん!」
 「ひでぇな」
 「ほんとに酷いよ!」

 響子が信用されていないと思い、むくれた。

 「ちょっと詳しく話してくれよ」
 「本気で聞く?」
 「がおー」
 「がおー」

 「もう! 話さない!」

 「悪かった! 教えてくれ」

 響子が話した。
 今朝起きたら、ベッドの脇に虎の顔があり、響子を優しく見ていたそうだ。
 大きな虎で、3メートルほどもあったらしい。

 「でもね、ほんとはもっと大きいんだって」
 「お前、喋ったの?」
 「うん」
 「がおー」
 「がおー」

 響子が俺の頭を叩いた。
 六花も呼ばれて叩かれた。

 「なんか、頭の中に響いて来るの」
 「虎の声が?」
 「うーん、声じゃないんだけど。なんか分かるの」
 「へぇー」

 そんな経験が俺にもある。
 テレパシーだ。
 言語的に響く場合もあるし、イメージのような感じで伝わることもある。
 ならば響子が接触したものは……

 「他には何か言ってたか?」
 「うん! 私を守ってくれるんだって!」
 「そうか」
 「そう! 凄く強いんだってさ」
 「へぇ、良かったな!」
 「うん!」

 その後も響子とお喋りして、部屋を出た。
 六花も連れて行く。

 「おい、妖魔かもしれない」
 「はい、やっぱりそう思いますか?」
 「分からん。響子が最初から信頼しているからな。別な可能性もあるが」
 「じゃあ、一体……」
 「俺も響子にガードを付けようとは思っていたんだ」
 「はい、仰ってましたよね?」
 「タマと相談したりもしているんだがな。とにかく、双子を夕方に呼ぶよ」
 「お願いします」
 
 何故かは分からないが、悪いものではないと俺自身は感じていた。
 一応、響子にもモハメドの分体は付けている。
 それが反応していない。
 モハメドの分体とは意志疎通は出来ないから、詳しいことは分からない。
 しかし、俺が手配した者でないことが気になる。
 その一方でどこか信頼している俺に、自分で呆れてもいたが。
 響子に見知らぬ妖魔が接近したのか?
 俺は双子に連絡し、学校が終わったら来るように言った。





 響子が昼寝から起きた頃。
 双子が俺の部屋にやって来た。
 食堂に連れて行き、クリームメロンソーダを飲ませながら、響子が虎を見たという話をした。

 「話からは悪い波動は感じないね」
 「妖魔とも、ちょっと違う気がする」
 「じゃあ、どういうものなんだ?」
 「「分かんない」」

 そりゃそうだろうが。
 俺は二人を響子の病室に連れて行った。

 「「こんにちはー」」
 「ルーちゃん! ハーちゃん!」

 響子が喜んだ。
 響子の周囲の、唯一の同年代だ。

 「響子、お前が見た虎を、こいつらにも見させたいんだ」
 「うん!」
 
 六花が二人に椅子を持って来た。

 「今は虎はいるか?」
 「いないけど、近くにいる感じがする」
 
 双子が部屋を見回していた。
 響子のベッドの足元を見ているようになった。

 「タカさん、いる感じ」
 「とっても大きいよ」

 俺は緊張した。

 「響子、呼べるか?」
 「うん、やってみる」

 響子が「トラー」と言った。

 「トラー、ちょっと出て来てー」

 しばらく経った。
 六花がニコニコして見ている。

 「トラー」

 双子が緊張するのが分かった。

 「「タカさん!」」
 「来たのか!」
 「「タカさんの隣にいる!」」

 「なに?」

 俺には何も見えなかった。
 ただ、気配は感じた。
 物凄く温かな感じだった。

 「あ! タカトラの顔を舐めてるよ!」
 「そうだよ!」
 「タカさん! これはおっきいよ!」

 響子が喜び、双子が驚いていた。

 「こ、これは……」
 「相当だ……」
 「クロピョンよりおっきいかも」
 「なんでこのサイズでいられるの!」

 俺には分からない。
 ただ、超常の存在だということは理解出来た。

 「タカトラのことが大好きなんだって」
 「そ、そうか」
 「うん。また会えて嬉しいんだって」
 「!」

 どういうことだ。

 「おい、俺には虎の知り合いなんて一人しかいねぇぞ」
 「あ! レイなんだって!」
 「なんだと!」

 俺が叫んだ瞬間に、虎の気配が濃厚になった。
 言葉にはならない、熱い情念のようなものが俺の中へ流れ込んで来た。

 「お前! レイなのか!」

 一瞬だけ、虎の柔らかで温かい毛が俺に触れているのを感じた。

 「タカさん! レイだって!」
 「私たちにも聞こえた!」

 双子が騒いでいる。

 「「レイ!」」

 レイの気配が俺から離れた。

 
 「ほんとにレイなんだ!」
 「会いたかったよ!」

 レイは双子の傍に行ったらしい。
 
 双子が何も見えない空間に手を伸ばしている。
 撫でているようだった。
 
 
 「あ! なんかいる!」

 今度は六花が叫んだ。

 「あったかいです!」
 「レイが、一緒に響子ちゃんを守ろうって」
 「相棒って言ってるよ!」

 双子には、より詳細なイメージが分かるようだった。

 「でも、どうしてレイが」
 「それは話せないって」
 「でもタカさんは知ってるんだって」
 「なんだ?」

 よく分からないが、レイならば安心だ。
 
 「レイ! じゃあ響子を頼むな!」

 俺は六花の方を向いて言った。

 「タカさん、そっちじゃないよ」
 「またタカさんの隣にいるよ」
 「!」

 俺は左右どちらかを聞き、左を向いた。

 「レイ、お前に会えて嬉しいよ」
 「タカさん、もう響子ちゃんのとこだよ」
 「お前! 大人しくしてろ!」

 俺は振動のようなものを感じた。
 クロピョンの大笑いのようなものに似ていた。
 レイが笑っているのか。
 俺は両手を伸ばして言った。

 「おい、こっちに来いよ」

 俺の手の間に何かが触れているのを感じた。

 「本当に嬉しい。まさかまたお前に会えるとはな。お前は俺の自慢の友達だった。お前と過ごした時間は忘れたことはないぜ」

 何かが俺の両肩に乗った気がした。

 「お前、響子を守ってくれるんだな。お前なら安心して任せられる。六花と一緒に頼むな!」

 何も見えないが、レイが喜んでいる気がした。





 早乙女から連絡が来た。

 「石神! モハメドさんが、響子ちゃんに付けた分体が戻って来たって言うんだ!」
 「ああ!」
 「そっちで何かあったのか?」
 「そうなんだ。別なものが響子には付いたからな」
 「え! でもモハメドさんは、自分の分体が戻されるなんてあり得ないって言ってるぞ」
 「それだけ大きな存在なんだ」
 「そうなのか!」
 「モハメドには安心していいと伝えてくれ」
 「分かった」
 「今度、お前たちにも話しに行くからな」
 「ああ、分かった。とにかく危険なことじゃないんだな?」
 「そうだ。最高の奴が来てくれた」

 早乙女は安心してくれた。

 「石神、なんか嬉しそうだな?」
 「そうなんだ。そうだ、今晩お前のうちに行っていいか?」
 「もちろんだ。是非来てくれ」
 「ちょっと7時頃になると思うけど、いいか?」
 「構わないよ。絶対に来てくれな」
 「ああ!」





 早乙女にレイの話はしたことがあったっけか。
 まあいい。
 最初からまた話してやろう。
 レイとの思い出は最高だからな! 
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