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大阪 風花の家 Ⅲ

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 「お姉ちゃん、本当におめでとう」
 「ありがとう、風花」

 二人で紅茶を飲みながら話した。

 「赤ちゃんは順調?」
 「うん。段々お腹も張って来たよ」
 「そうなんだ。楽しみだよね!」
 「うん」

 姉は本当に嬉しそうに笑う。
 そして美しい。
 石神さんと姉は、ずっと子どもを欲しがっていた。
 栞さんとはすぐに出来たそうだが、姉との間にはなかなか出来なかった。
 子どもが出来たことを姉が石神さんに話すと、大喜びしてくれたそうだ。
 
 「半分、お尻だったからね!」
 「……」

 私は聞こえない振りをした。
 二人で子どもの名前を考えたのだと言った。
 石神さんが「吹雪」という名前はどうかと言った。
 私たちが「雪」にちなんだ名前だったから、二人の子どももそうしようと話していたらしい。
 そして、その名前にまつわる不思議な話を聞き、私は感動した。
 お姉ちゃんと石神さんは、運命で結ばれていた。

 二人でいろんな話をした。
 二人で笑い、今ある幸せを噛み締めた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「やー! 石神はん!」

 大柄な塩野社長が笑顔で迎えてくれた。
 俺は土産の鈴伝の栗菓子を渡した。

 「またこんなにぎょうさん頂いてしもうて」
 「なかなか来れませんからね」

 社長室のソファを勧められ、紅茶を頂いた。

 「風花の家、驚きましたわ」
 「あー」

 俺は笑った。
 塩野社長には、風花に住まわせるのと同時に、親友の御堂の大阪の拠点にすると話していた。
 しばらく、御堂の選挙の話や、総理大臣となってからの活躍を二人で楽しく話した。

 「それと別な話やんけど」
 「はい」
 「しばらく前から大阪でも東京でも、それに群馬でっか。うちの売上が急上昇しておりまして」
 「良かったですね!」
 「つい先日、石神はんのお陰やいうことを知りまして」
 「え?」

 塩野社長が俺をまっすぐに観ていた。

 「神戸山王会。関西で知らん者はおりまへん。その神戸山王会が飲食店を中心に、うちの肉を使うことを命じられたと。それがすべて石神はんの御指示だったと」
 「あー、いえ、それはー」
 「東京では稲城会系列と吉住連合、それに群馬が中心ですが、千万組。うちも飲食店にも卸してきましたから、ああいう勢力との関りは以前からありました。でも、一斉にうちの肉を使うようになったら驚きますがな」
 「はぁ」
 「最近は米軍からも注文がありますし、いろんな大使館からもや。石神はんは、一体どういうお方で」
 「アハハハハハ」

 笑って誤魔化すことは出来なかった。

 「今はまだ、ちょっと詳しいお話は。でも、俺は塩野社長の仕事に対する誠実さや、実際にここの肉が素晴らしいことをよく知っています。だから、知り合いにここが良い肉を提供するということを教えて来ただけですよ」
 「いや、でも!」
 「俺の大事な妹分の風花を大事にしてきて下さった。それだけでもね。それに、風花自身が塩野社長に恩返しがしたいと言っている。だったら、俺だってやれることはやりますよ」
 「石神はん……」

 塩野社長が困惑していた。

 「それにね」
 「はい」
 「うちが物凄く助かってる!」
 「は?」
 「毎日、一人5キロ以上肉を食うんですよ! 買い物の点だけで言っても、どれだけ感謝していいのか!」
 「アハハハハハ!」
 「しかも本当に美味しい! それに、どんな注文をしても応えて下さる」
 「まあ、それは石神はんのとこがお得意様やし」
 「月に2回のステーキ大会では、50キロ喰います」
 「ワハハハハハ!」
 「同じく月に2回ずつのすき焼き大会とハンバーグ大会でも40キロずつ食べるんですよ!」
 「ワハハハハハ!」

 「昼は蕎麦だって言っても、薬味にステーキを焼く連中ですから!」
 「ワハハハハハ!」

 一緒に聞いていた秘書の方も大笑いしていた。
 塩野社長は笑い過ぎて、ハンカチで涙を拭いている。

 「こないだね。子どもたちが自分らが幾ら何でも肉ばかり食べ過ぎだと言って。肉の量を一般の人並みに抑えたんですよ」
 「え!」
 「そうしたら、身体を壊しそうになって。俺が命じて辞めさせました」
 「ワハハハハハハハ!」
 「健康のために、梅田精肉店の肉を食べないと駄目ですね」
 「ワハハハハハハハ!」

 俺は塩野社長に提案した。

 「今後、山梨に大規模な都市の建設の予定があるんです」
 「え!」
 「御堂が実現します。そこで梅田精肉店さんにもご協力頂きたく」
 「それはもちろん! 是非やらせて下さい!」
 「そこでお話なんですが。今は提携している牧場などから肉を仕入れていますね」
 「そうです」
 「直営の牧場を経営してみませんか?」
 「えぇー!」
 「土地は用意します。資金も提供します」
 「いえ、それはいきなりなお話で」
 「具体的な草案は、後日エージェントを送ります。一度お話を聞いてみて下さい」
 「石神はん……」

 塩野社長が言葉を喪っていた。

 「日本の食糧自給率を上げたいんです。今は大半を輸入に頼っている。ですが、今後世界は大きく変わる。輸入が途絶えることも十分に考えられます」
 「……」
 
 塩野社長が笑って俺の手を握った。

 「石神はん。私も実は同じような不安を抱えていました。褒めて頂いて恐縮ですが、うちでも輸入肉は使ってます。もちろんなるべく厳選するようにはしてますが。でも、ずっと全部国産の肉でやれないやろかと思ってました」

 俺が30万坪の土地の用意があると言うと、塩野社長が驚いていた。
 放牧しても100頭近く飼える。
 牛舎を用意し、餌を与えるつもりであれば、もっと飼える。

 「最初は様々なノウハウを知るために活動しますが、いずれは土地を拡張して、もっと多くの牛などを飼えるように考えています」
 「そうしますと、人間も大勢必要ですな」
 「はい。ですが、こちらでロボットの提供も可能と思いますので」
 「ロボット?」
 「既に一部の実用の実績があります。今度東京へいらしてください。お見せしますよ」
 「それは是非!」

 俺は梅田精肉店を出た。
 




 風花の家に戻ると、二人が楽しく話していた。
 
 「じゃあ、そろそろ行くか!」
 「「はーい!」」

 俺たちは新地の有名な海鮮料理の店にタクシーで向かった。
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