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大阪 風花の家 Ⅱ

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 一服する間もなく、俺と六花は訓練場に向かった。
 敷地の中の庭の一部だ。

 全員が改めて挨拶をして来るが、目を輝かせて俺たちを見ている。

 コンバットスーツを着た15人の連中に組み手をさせる。
 俺はそれを見ながら、大体の仕上がりを見た。
 個別に技の出し方や、鍛錬の方法を指導していく。
 みんな大声で嬉しそうに礼を言ってくる。
 気のいい奴らだ。
 純粋に、自分が強くなることを求める連中だった。
 俺たちと関わることで、そこに更に意味を見出した。
 一層身を入れて訓練をするようになった。

 「絶怒」の全員が来ているわけではない。
 みんな仕事の休みを使ってここに来ている。
 風花も仕事があるので、風花が一緒になるのは、月に二、三度だ。
 ただ、他の日も自由に出入りできるようにしている。
 俺たちの訓練は、場所を限られるためだ。

 俺は調子が出て来て、直接組み手で教え始めた。

 「お前らぁ! カワイイなぁ!」
 「ありがとうございます!」
 「あ! まともに入っちゃった!」
 「グッフェェー!」
 「ワハハハハ!」

 「次はお前な!」
 「ありがとうございます!」
 「よっと!」
 「グッフェェー!」
 「おい、戻って来い! ああ、じゃあお前、行くぞ!」
 「いえ、自分は!」
 「オラァ!」
 「グッフェェー!」
 「ワハハハハハ!」
 
 どんどん「絶怒」の連中が吹っ飛んで行く。

 「お姉ちゃん! 止めてあげて!」
 「……」
 「ねえ! お姉ちゃん!」
 「……」
 「そんな、諦めた顔しないで!」
 「……」
 「遠い目をしてないで、止めて!」
 「……」

 全員が地面に横たわり、動かなくなった。

 「「……」」

 俺と六花は風花と中に入ってお茶にした。





 「風花、悪かったな、急に」
 「いいえ。お話は前にありましたから、もしかしたらと思ってました」
 「こいつが連絡を忘れてやがってよ」
 「一番母乳で手を打ちました」
 「えぇー!」

 六花の頭を引っぱたいた。

 「しかしお前、随分とでかい家に住んでんな!」
 「石神さんが無理矢理ですよ!」
 「ワハハハハハ!」

 アヤソフィア大聖堂を模しているが、もちろん本物とは違った内部構造だ。
 1階は広いホールがあるが、最上階のドームに向けて吹き抜けの構造で、他はちゃんとした部屋を周囲に配置している。
 ここは万一の避難所を想定している。
 周囲には客室とシャワー室の他は備蓄とデュール・ゲリエの格納庫がほとんどだ。
 一部にはサンルームなどもある。
 2階(実質3階)には居住区だ。
 階段もあるが、玄関脇にはエレベーターも付いている。
 ドームへの吹き抜けの周囲に部屋を配置した。
 内側に回廊が巡らせてあり、ドーム下の採光窓からの光が幻想的でいい。
 テーブルと椅子を幾つか置いてある。
 居住区は主寝室は40畳。
 キッチンにリヴィング50畳。
 前面に広いテラスも設けた。
 通常使う20畳ほどの風呂場の他、大勢で入れる30畳の半露天風呂もある。
 今後、俺たちが大阪へ来る機会も増えるだろう。
 他に大小の部屋が30ほど。
 風花の大量の衣装や荷物の倉庫、客室(俺と六花専用もある)、バーラウンジ(俺たちしか使わないだろう)、喫茶室、その他フリースペースなど。
 六花と風花の母親であるサーシャさんの遺影を置いた部屋も作った。
 日本の仏間ではなく、ステンドグラスを嵌めた美しい空間にした。
  
 4階、5階もあるが、主に作戦本部になっている。
 5階からドーム上に向かう4本の外階段がある。
 硝子の通路になっているが、12畳ほどのガラスの小部屋がある。
 まあ、「幻想空間」的な構造だ。
 地下はヴォイド機関と量子コンピューターのAIが深い場所に納まっている。

 「引っ越しは「絶怒運送」がやってくれただろ?」
 「はい。お金を払おうとしたら、「絶対に受け取れない」って言うんで困りました」
 「あいつらは別にいいよ。俺から渡しておく」
 「でも」
 「風花はあいつらの師匠だからな。師匠の引っ越しを手伝うなんて、当たり前なんだよ」
 「そんな、困ります」
 「あいつらは喜んでやってたろ?」
 「まあ、そうですけど」
 「だったらな!」

 六花は風花が出して来たジェラードを嬉しそうに食べていた。
 半分ほど食べた所で、俺が取り上げる。

 「妊婦はあまりお腹を冷やすな」
 「あーん!」
 「他に何か無いか?」
 「あ、どら焼きが!」
 「それを貰えるか」
 「はい!」

 六花がどら焼きを嬉しそうに食べた。
 風花には莫大な資産を渡しているが、生活はこれまでと同様のようだった。
 そのうちに、もっと美味い物を探させるようにしたい。
 土産は都内の美味い菓子などにしてある。
 量は多いが、「絶怒」の連中もいるので大丈夫だろう。
 今日の午前中に宅急便で届いているはずだ。
 その礼は言われたが、まだ中を開けていないらしい。




 「こっちでも、御堂さんの人気は凄いですよ!」
 「そうか。やっぱりみんな御堂を好きになるよな!」
 「はい!」
 
 俺は渋谷での御堂の行動を詳しく話した。

 「あいつよ、自分の立場も考えねぇで無茶なことをしやがって」
 「最初は報道されませんでしたよね?」
 「ああ、俺たちもマスコミに流すつもりは無かったからな」
 「どうしてですか? 勇敢だったじゃないですか」
 「やり過ぎなんだよ。ヘタをすれば、これまでの御堂の美談や評判が、虚構のものだと思われた可能性があった」
 「え?」
 「あまりにも勇敢すぎる。あんなに勇敢な人間は、今の日本人には信じられないんだよ」
 「そんな……」
 「結果的には信じてもらえて良かった。身を挺して市民を守る、本物の政治家がいることをみんなが知ってくれた」
 「そうですね」
 「まあ、もうあいつに身を挺するような真似はさせねぇけどな」
 「ウフフフフ」

 六花はどら焼きを食べ終え、腕を組んで頷いていた。

 「あ! 夕飯どうしましょうか! 私作りますね!」
 「おい」
 「はい」
 「オオサカ・オイシーズが来たんだ。もう予約してある」
 「そうなんですか!」
 
 風花に美味しいものを食べさせようと、俺と六花で検索し、特別料理を頼んだ。
 仕入れもあるので、事前にある程度の金は支払っている。
 六花が笑顔で、美味しいから楽しみにしているようにと話していた。

 「風花、お前はもうちょっといいものを喰わないとな」
 「はぁ。あまり贅沢は分からなくて」
 「それはな、贅沢ではないんだ。俺たちの気持ちを受け取れということだよ」
 「あ!」
 「この家だってそうだ。お前にいい暮らしをして欲しかったからだぞ?」
 「そうですよね!」

 皇紀と風花をびっくりさせたかっただけだが。

 「俺たちの妹なんだからな。美味しい物も食べてくれよ」
 「はい!」
 「そのどら焼きったってよ。例えば「たねや」の〈どらバター〉とかさ。評判がいいのがあるんだぞ?」

 六花が俺の腕をつついた。
 俺に包装紙を見せる。
 〈どらバター〉と印刷してあった。

 「美味しかったです」
 「……」
 
 風花が笑いを堪えて俺を見ていた。

 「じゃあ、俺はちょっと出掛けて来るな」
 「え、どこへ?」
 「塩田社長さんに挨拶して来る。お前らはゆっくりしてろよ」
 「私も一緒に」
 「いいよ。六花を頼む」
 「はい、分かりました」




 俺は出掛けた。
 広い駐車場には、風花が通勤で使っているホンダのジョルノ(ベージュカラー)だけが納まっている。
 可愛らしいデザインで、若い風花によく似合っている。
 綺麗に使っているようだ。
 庭の掃除をしていたネコ耳メイドが俺に頭を下げて来た。
 俺が手を振ってやると、嬉しそうに笑った。
 この屋敷には50体のネコ耳メイドロボットがいる。
 ディディたちのように人間らしいものでも良かったのだが、俺と蓮花で相談して「ネコ耳」にした。
 非常に愛くるしいメイドたちだ。
 彼女らから、風花は料理の特訓を受けている。
 
 「皇紀も連れて来てやれば良かったな」

 俺は笑いながら外へ出た。  
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