上 下
1,522 / 2,806

大阪 風花の家

しおりを挟む
 ゴールデンウィーク最後の2日間。
 俺は六花と一緒に大阪へ行った。
 新幹線でも良かったのだが、六花の駅での階段の昇降や人混みを避けたかったので、車で行くことにした。
 乗り心地のいいロールスロイスを出す。
 六花はまだ乗ったことが無かったので喜んだ。

 5月5日朝9時に迎えに行く。
 俺たちは明日まで休みだ。
 出産前に風花と会わせるのが目的だった。
 六花の妊娠のことは知らせているが、顔は合わせていない。
 二人で話したいこともあるだろう。

 皇紀を連れて来ようかと思ったが、俺にからかわれるのが嫌で今回は遠慮した。
 まあ、これからはいつでも自由に会いに行ける。
 その方があいつも気楽だろう。
 イッヒッヒ。

 


 六花がベルルッティのトートバッグとエルメスの赤のフールトゥを持ってマンションの前で待っていた。
 俺は車を停めて抱き合う。

 「なんだよ、部屋で待ってろって言っただろう」
 「待ちきれませんでした!」
 「子どもかよ」
 「ウフフフ」

 動きやすい綿のベージュのスカートとジャケット。
 白の少しフリルのあるブラウス。
 俺と同じくカザールのサングラス。

 「もう安定期には入っているけど、大事にしろよ」
 「はい!」

 荷物をトランクに入れる。
 一泊なので少ないはずだが、フールトゥにはいつものヤツが入っているのだろう。

 「後ろの方が乗り心地がいいぞ?」
 「嫌です」
 
 俺は笑って助手席のドアを開けてやった。
 六花がニコニコしながら座った。
 俺にシートベルトを締めろと示す。
 俺はオッパイを揉みながら締めてやった。

 「お前のを締めると、余計なものまで触っちゃうよな!」
 「はい!」

 六花が嬉しそうに笑った。
 




 六花は車内の内装に感嘆していた。

 「スゴイですね、ロールスロイスは!」
 「そうだろう。まあ後ろの方が高級感はあるんだけどよ。これは元々運転手に走らせる車だからなぁ」
 「御堂さんの時には、青嵐さんとかが運転してましたよね」
 「そうなんだ。誰かいねぇかなぁ」
 「便利屋さんとか」
 「そうなんだけどな。でもあいつも今は早乙女の「アドヴェロス」の方の仕事で結構忙しいんだ」
 「そうなんですか」

 エンジン音は恐ろしく小さい。
 12気筒のでかいエンジンなのだが。

 「みんな避けていきますよね」
 「この車を事故らせると大変だからな」
 「幾らです?」
 「ノーマルで七千万円。こいつはもっと改造しているから、大体20億くらいか」
 「スゴイですね!」

 六花も段々金銭感覚が鈍くなっているが、流石にこの金額は驚く。

 「内装でダイヤモンドとかプラチナとか、稀少な銘木やら生地なんかも使ってるしな」
 「なるほど!」
 「サスとか足回りなんかにも随分と注ぎ込んだしなぁ」
 「全然振動がないですもんね」
 「なんか、運転してる感覚がねぇよ」
 「ウイリーします?」
 「できねぇよ!」

 二人で楽しく話しながら、まずは静岡のいつもの鰻屋に寄った。

 「いつも立ち寄って頂いて、どうも!」
 「こちらこそ! 本当にここは素通り出来なくて!」

 大将と挨拶し、個室へ案内された。
 連絡していたので、すぐに特上の鰻重の二重天井が来る。
 六花が最高に美しい笑顔になる。

 白焼きも一匹ずつもらった。
 酒が飲みたくなる。
 六花はずっと笑顔で頬張っていた。

 「石神先生はいつもここでは一人前だけですよね」
 「俺は大食いじゃねぇ!」
 「アハハハハハ!」

 「そういう六花も一人前で満足してるじゃないか」
 「いいえ、もっと食べたいのですが」
 「なんだよ、注文すればいいだろう」
 「はい。でも最初の時に、一人前でしたので」
 「あ?」
 「まだ私が可憐な処女だった時代です」
 「随分と遠くまで来たな!」
 「はい!」
 
 その思い出を大事にしたいということか。
 そう言えば、最初にここで六花に食べさせた後で、俺たちは結ばれたんだったか。
 
 俺たちは美味かった礼を言って店を出た。

 「ゆっくり走るからな。途中で体調がおかしくなったら言えよ?」
 「はい!」
 「寝てろよ」
 「じゃあ、眠くなったら」
 「ああ」

 六花が俺の頬にキスをしてきた。

 「いつも優しいトラちゃん」

 六花は、時々二人きりの時に、俺のことを「トラ」と呼ぶようになった。
 子どもが出来れば「石神先生」ではおかしいと話し合ってからだ。
 好きに呼べと言ったら、そうなった。
 まだ「石神先生」の方が多いが。

 


 六花は眠って、2時間ほどして起きた。
 もう名神高速道路に乗っている。
 サービスエリアで俺がコーヒーを飲んでいた時だ。
 フードコートに俺を探しに来た。
 俺は六花にもコーヒーを持って来た。

 「あと1時間くらいかな」
 「はい……」
 「予定通りに3時頃に着きそうだな」
 「はい……」
 
 六花の様子がおかしい。

 「体調が悪いのか?」
 「い、いいえ」
 「なんだよ! おかしいなら言えよ!」
 「そうではなくですね」
 「なんだ?」
 「そういえば、風花に今日行くことを知らせていなかったような……」
 「なんだと!」

 六花が謝った。
 うっかり忘れていたようだ。
 風花が休みであることは聞いている。
 ゴールデンウィーク前に、もしかしたら行くかもと予定を打診していたからだ。
 でも、決まったのはゴールデンウィークに入ってからだった。
 六花の体調を見てと思い、「紅六花ビル」から戻ってだ。
 てっきり六花が連絡していると思っていた。

 「すぐに電話しろよ!」
 「はい!」

 六花が風花と話し、風花が驚いているようだった。
 俺が電話を替わった。

 「すまない。俺が確認しておかなかったんだ」
 「いえ! あの、来て頂いていいんですが、今「絶怒」の方々と訓練をしているところでして」
 「別に構わないよ」
 「でも、さっき来られたばかりなので」
 「じゃあ、俺が指導してやるって伝えてくれ」
 「ほんとですか! 喜びますよ!」
 「本当に悪いな」
 「いいえ!」

 電話を切った。
 六花が涙目になっている。

 「お前なー」

 六花が俺の手を胸に導いた。
 
 「こんなことしてもな!」
 「一番母乳は石神先生に飲ませます」
 「!」
 
 俺は笑って早く出せと言った。

 「今、「絶怒」が来てんだってよ」
 「あー、あいつら!」

 前に六花と一緒に大阪に来た時に、暇だったので潰しに行った愚連隊だ。
 調子に乗ってビルごとぶっ飛ばしたが、喧嘩好きで結構真面目な連中と分かり、新しいビルを建ててやった。
 そして運送関係の仕事も与えて感謝されるようになった。
 気のいい連中だったので、大阪で風花に「花岡」を教えさせている。
 皇紀が行った時にも教えている。
 まだ基礎だが、覚えはいいようだ。

 「二番は響子ですかね!」
 「ちゃんと吹雪に飲ませてやれ!」
 「じゃあ、響子は三番で!」
 「ワハハハハハ!」

 自分の子どもが生まれても、響子への愛情は変わらないらしい。
 まあ、そういう女だ。




 俺たちは大阪の風花の家に着いた。
 俺も六花も、実物は初めてだ。

 「でっけぇー!」
 「おっきいですね」

 敷地1200坪、建坪700坪。
 アヤソフィア寺院を模した豪奢と言う言葉では足りないくらいの威容だった。

 「あいつ、よくこんな家に住んでんな」
 「言ってやりましょうよ」
 「おう」

 AIが俺たちを察知し、車用門が開いたので中へ入った。
 風花と「絶怒」の連中が迎えに来た。

 「お姉ちゃん! 石神さん!」
 「よう!」
 「風花!」

 みんなで中に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...