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小柱
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早乙女から電話があった。
グランマザーの分体が来た5月4日の夕方だ。
俺は夕飯を食べようとしていた。
スズキのフライ・カレーだ。
衣にオレガノとパプリカを混ぜている。
俺は食事中に邪魔されることが大嫌いだ。
特に、最初に一口を口に入れようとした瞬間に邪魔する奴は許したことが無い。
「あんだ!」
「大変なんだ! すぐに来てくれ!」
「ふざけんな! 今、まさにカレーを口に入れようとしてたのに!」
「それは済まないが、でも、俺もどうしていいのか分からないんだ」
「緊急なのか?」
「そう思って欲しい」
「チッ!」
俺は電話を切って、急いでカレーを食べて家を出ようとした。
その瞬間に思い出した。
まさか、アレか?
「亜紀ちゃん!」
「はい!」
「早乙女の家に行くぞ」
「私、お替りをー」
「後で喰え」
「残るわけないじゃないですか!」
俺は鍋にカレーを入れ、ジャーを一つ抱えて亜紀ちゃんと家を出た。
皿とスプーンはあっちで借りよう。
亜紀ちゃんがスズキのフライをバットに入れ、俺が抱えていたジャーを持った。
門で早乙女が待っていた。
「さっき気付いたんだ!」
「何に?」
「「柱」さんが小さな「柱」を持っていたんだ!」
「「!」」
早乙女は俺たちの抱えているものを無視して言った。
「突然なんだよ! 俺がちょっと買い物に出ようと思ったら!」
「買い物?」
「ああ、今日はカレーなんで、ジャガイモを買いに」
「「……」」
「買って来たのか?」
「いや、だから大変なことがあったから出掛けてないよ!」
早乙女が興奮している。
「これはうちのだからな」
「なに?」
「途中だったから抱えて来ただけだ」
「あ、そうなのか。悪かった」
俺たちは話しながらエレベーターホールへ向かった。
「柱」が俺に気付いて駆け寄って来る。
なんであいつ走れるんだ!
怖い。
俺に、小さな両手で抱えた「小柱」を見せる。
長さ40センチほどで、太さは5センチほどか。
折れ曲がった足が4本生えている。
「柱」の小型版だ。
「おお、なんだそれ?」
「柱」は左手で「小柱」を抱え、右手で庭の方を指差す。
そして地面から拾う動作をした。
「そうか。それで拾ったお前が面倒を見ているというわけか」
「柱」が前後に身体を動かす。
「そうだ」という意味らしい。
「流石、石神! もう内容を把握したんだな!」
「まーな」
そりゃ、全部知ってる。
俺と亜紀ちゃんでこの家の庭に投げ捨てたのだから。
「これをどうしようか」
「まずは飯を食わせろ! 俺たちは途中で大変だったんだ!」
「わ、分かった」
エレベーターで上に上がり、雪野さんと挨拶した。
カレーの匂いがする。
ジャガイモ以外は、もう出来ているのだろう。
「いらっしゃい。あ、お鍋」
「途中で出て来ましたからね。うちでカレーは残ることが無いんで、半分持って来ました」
「まあ!」
雪野さんが笑った。
俺は仕方なく、うちのカレーを食べろと言った。
亜紀ちゃんが鍋を火にかける。
4人で食べた。
「それで石神、あれをどうすればいい?」
「お前もちょっとは考えろよ! 「アドヴェロス」の長なんだからよ!」
「でも! あんな不思議なことが!」
「あれは「柱」の子どもなんじゃねぇか?」
「なるほど!」
亜紀ちゃんがカレーを吹きそうになった。
「だからここで大事にすればいいだろうよ」
「そうか。でも、「柱」さんと一緒がいいのかな?」
「さあな。それはあいつに聞いてみろよ」
「うん、分かった」
俺と亜紀ちゃんはガンガンカレーを食べた。
早乙女と雪野さんも美味しいと言い、俺たちのカレーをお替りしていた。
スズキのフライも乗せる。
「しかし、どうして子どもが生まれたんだろうか」
早乙女が余計なことを気にしていた。
「お前たちに子どもが生まれたからじゃないのか? 早く二人目を生めって意味かもな」
「成程! じゃあ、二人目が生まれたら、「柱」さんにもまた出来るのかな」
「冗談じゃねぇ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
早乙女と雪野さんが俺を見る。
「いや、まあ、それは任せておけばいいんじゃねぇか?」
「それもそうだな!」
俺が話している間に、亜紀ちゃんは喰いに専念し、ガンガン食べていた。
ジャガイモを持って来いと言うと、亜紀ちゃんが激しく俺を睨んだ。
「早くしろ!」
窓から飛んで行った。
俺は巻き返すのに必死になった。
「あの、石神」
返事をせずに、目だけで早乙女を見る。
「うちのカレーも食べて行けよ」
俺は親指を立ててそうすると合図した。
亜紀ちゃんが早々に窓から戻って来て、ジャガイモの袋を俺に見せた。
俺は洗って皮を剥けと命じた。
亜紀ちゃんはダッシュでキッチンに行き、洗って包丁で皮を剥く。
鍋に湯を張ってカットしたジャガイモを煮た。
カレーに戻る。
早乙女と雪野さんはうちのカレーで満足し、俺と亜紀ちゃんで早乙女家のカレーを全部食べた。
コーヒーを飲んで、家に帰ると言った。
早乙女と雪野さんが見送る。
1階のエレベーターホールに降りると、「柱」がまた近寄って来た。
「おい、何か必要なものはあるか?」
俺が聞くと、右手を左右に振った。
別にいらないらしい。
俺に「小柱」を前に突き出した。
俺は仕方なく、「小柱」を抱き上げた。
気持ち悪かったが、早乙女たちの手前、左右に揺らしてあやす。
「か、カワイイな!」
俺は早乙女達にニッコリと笑って言った。
「タカさん!」
「ん?」
「小柱」に視線を戻した。
羽が生えていた。
「「……」」
俺は早乙女に「小柱」を預け、亜紀ちゃんと急いで出た。
後ろで早乙女が「飛んでるよ!」と叫ぶのが聞こえた。
亜紀ちゃんを背中合わせに背負って走った。
「追ってきたら躊躇なく撃て!」
「はい!」
追って来なかった。
もう、勘弁して欲しい。
グランマザーの分体が来た5月4日の夕方だ。
俺は夕飯を食べようとしていた。
スズキのフライ・カレーだ。
衣にオレガノとパプリカを混ぜている。
俺は食事中に邪魔されることが大嫌いだ。
特に、最初に一口を口に入れようとした瞬間に邪魔する奴は許したことが無い。
「あんだ!」
「大変なんだ! すぐに来てくれ!」
「ふざけんな! 今、まさにカレーを口に入れようとしてたのに!」
「それは済まないが、でも、俺もどうしていいのか分からないんだ」
「緊急なのか?」
「そう思って欲しい」
「チッ!」
俺は電話を切って、急いでカレーを食べて家を出ようとした。
その瞬間に思い出した。
まさか、アレか?
「亜紀ちゃん!」
「はい!」
「早乙女の家に行くぞ」
「私、お替りをー」
「後で喰え」
「残るわけないじゃないですか!」
俺は鍋にカレーを入れ、ジャーを一つ抱えて亜紀ちゃんと家を出た。
皿とスプーンはあっちで借りよう。
亜紀ちゃんがスズキのフライをバットに入れ、俺が抱えていたジャーを持った。
門で早乙女が待っていた。
「さっき気付いたんだ!」
「何に?」
「「柱」さんが小さな「柱」を持っていたんだ!」
「「!」」
早乙女は俺たちの抱えているものを無視して言った。
「突然なんだよ! 俺がちょっと買い物に出ようと思ったら!」
「買い物?」
「ああ、今日はカレーなんで、ジャガイモを買いに」
「「……」」
「買って来たのか?」
「いや、だから大変なことがあったから出掛けてないよ!」
早乙女が興奮している。
「これはうちのだからな」
「なに?」
「途中だったから抱えて来ただけだ」
「あ、そうなのか。悪かった」
俺たちは話しながらエレベーターホールへ向かった。
「柱」が俺に気付いて駆け寄って来る。
なんであいつ走れるんだ!
怖い。
俺に、小さな両手で抱えた「小柱」を見せる。
長さ40センチほどで、太さは5センチほどか。
折れ曲がった足が4本生えている。
「柱」の小型版だ。
「おお、なんだそれ?」
「柱」は左手で「小柱」を抱え、右手で庭の方を指差す。
そして地面から拾う動作をした。
「そうか。それで拾ったお前が面倒を見ているというわけか」
「柱」が前後に身体を動かす。
「そうだ」という意味らしい。
「流石、石神! もう内容を把握したんだな!」
「まーな」
そりゃ、全部知ってる。
俺と亜紀ちゃんでこの家の庭に投げ捨てたのだから。
「これをどうしようか」
「まずは飯を食わせろ! 俺たちは途中で大変だったんだ!」
「わ、分かった」
エレベーターで上に上がり、雪野さんと挨拶した。
カレーの匂いがする。
ジャガイモ以外は、もう出来ているのだろう。
「いらっしゃい。あ、お鍋」
「途中で出て来ましたからね。うちでカレーは残ることが無いんで、半分持って来ました」
「まあ!」
雪野さんが笑った。
俺は仕方なく、うちのカレーを食べろと言った。
亜紀ちゃんが鍋を火にかける。
4人で食べた。
「それで石神、あれをどうすればいい?」
「お前もちょっとは考えろよ! 「アドヴェロス」の長なんだからよ!」
「でも! あんな不思議なことが!」
「あれは「柱」の子どもなんじゃねぇか?」
「なるほど!」
亜紀ちゃんがカレーを吹きそうになった。
「だからここで大事にすればいいだろうよ」
「そうか。でも、「柱」さんと一緒がいいのかな?」
「さあな。それはあいつに聞いてみろよ」
「うん、分かった」
俺と亜紀ちゃんはガンガンカレーを食べた。
早乙女と雪野さんも美味しいと言い、俺たちのカレーをお替りしていた。
スズキのフライも乗せる。
「しかし、どうして子どもが生まれたんだろうか」
早乙女が余計なことを気にしていた。
「お前たちに子どもが生まれたからじゃないのか? 早く二人目を生めって意味かもな」
「成程! じゃあ、二人目が生まれたら、「柱」さんにもまた出来るのかな」
「冗談じゃねぇ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
早乙女と雪野さんが俺を見る。
「いや、まあ、それは任せておけばいいんじゃねぇか?」
「それもそうだな!」
俺が話している間に、亜紀ちゃんは喰いに専念し、ガンガン食べていた。
ジャガイモを持って来いと言うと、亜紀ちゃんが激しく俺を睨んだ。
「早くしろ!」
窓から飛んで行った。
俺は巻き返すのに必死になった。
「あの、石神」
返事をせずに、目だけで早乙女を見る。
「うちのカレーも食べて行けよ」
俺は親指を立ててそうすると合図した。
亜紀ちゃんが早々に窓から戻って来て、ジャガイモの袋を俺に見せた。
俺は洗って皮を剥けと命じた。
亜紀ちゃんはダッシュでキッチンに行き、洗って包丁で皮を剥く。
鍋に湯を張ってカットしたジャガイモを煮た。
カレーに戻る。
早乙女と雪野さんはうちのカレーで満足し、俺と亜紀ちゃんで早乙女家のカレーを全部食べた。
コーヒーを飲んで、家に帰ると言った。
早乙女と雪野さんが見送る。
1階のエレベーターホールに降りると、「柱」がまた近寄って来た。
「おい、何か必要なものはあるか?」
俺が聞くと、右手を左右に振った。
別にいらないらしい。
俺に「小柱」を前に突き出した。
俺は仕方なく、「小柱」を抱き上げた。
気持ち悪かったが、早乙女たちの手前、左右に揺らしてあやす。
「か、カワイイな!」
俺は早乙女達にニッコリと笑って言った。
「タカさん!」
「ん?」
「小柱」に視線を戻した。
羽が生えていた。
「「……」」
俺は早乙女に「小柱」を預け、亜紀ちゃんと急いで出た。
後ろで早乙女が「飛んでるよ!」と叫ぶのが聞こえた。
亜紀ちゃんを背中合わせに背負って走った。
「追ってきたら躊躇なく撃て!」
「はい!」
追って来なかった。
もう、勘弁して欲しい。
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