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シロツメクサ
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俺は食事の後、御堂を誘って研究所の中を案内した。
蓮花も一緒だ。
ティーグフに乗る。
「大まかに「本館」(基礎研究施設・極秘研究施設)と、専門に分かれた「塔」(タワー)と呼ばれる施設だ。外観は塔じゃないものもあるけどな。名称から察知されないように、「本館」だとか「W塔」(ウエポン・タワー)などと呼ばれている。ブランたちの一部の機密性の高い訓練施設なども「P塔」(プラクティス・タワー)などと呼ばれている。あそこは仮想現実の戦闘訓練の出来るポッドがあるからな」
俺は「W塔」や「P塔」などを実際に御堂に見せた。
「それと「格納庫」(ハンガー)と「領域」(ゾーン)がある。格納庫は主に「武神」「デュール・ゲリエ」そして各種兵器や武器、資源などだ。「領域」は特別な場所のことだ」
「特別な場所?」
「ああ、実際に見せた方が早いな」
俺は「防衛領域」に案内した。
研究所の外周で、研究所から4キロ離れた位置にある。
「例えばここは「防衛領域」だ。俺たちには反応しないが、一種の攻性の結界だな。タヌ吉! 前に入り込んだ連中を見せてくれ! ああ! モザイクを掛けろよ!」
「防衛領域」の一部が揺れ、向こうから4人の男性が歩いて来る。
4人が「防衛領域」に触れた途端、消えた。
映像が切り替わり、4人が別な空間にいるのが見える。
そこからはモザイクがかかり、4人の人影が徐々に削られていくのが見えた。
モザイク越しだが、恐ろしい目に遭ったことは分かる。
御堂が顔を顰めていた。
「よし! もういい! ありがとうな!」
「はい、いつでも御呼び下さい」
「!」
いつの間にかティーグフの荷台に乗っていた美しいレースのドレスの女が一礼して降りて去った。
御堂が驚いていた。
「これが研究所の周囲を取り囲んで、侵入者を排除している」
「誰かが間違って入ってきたら?」
「この外側8キロに、麗星さんが張った防御結界があるんだ。更に外側12キロにも麗星さんの結界がある。そこは普通の人間はこちらへ間違って入って来ないようにするものなんだ。何かの加減で入っても、8キロの結界は強制的に内側へ入れないようにしている。それを突破する奴は、最初から悪意を持って近づこうとしている連中だ」
「なるほど」
俺は「Dハンガー」に向かった。
デュール・ゲリエが格納してある場所だ。
蓮花が端末を操作して格納庫の扉を開いた。
幅500メートルの巨大な壁に、幾つもの扉が一斉に開く。
「ああ、ここのような重要施設の周囲にはさっきの「防衛領域」のもっと強烈なものが展開している。だから攻撃は不可能だ」
扉の内側には殲滅戦装備のデュール・ゲリエが3000体寝ていた。
「地下にももっと多くのデュール・ゲリエがいる。この研究所の防衛もそうだが、お前に万一があればここから出撃するからな!」
「そうなのか」
御堂は呆然としていた。
身長2メートル半のデュール・ゲリエは、総重量3トンの殲滅戦装備を付けている。
「この殲滅戦装備のデュール・ゲリエは、1体で大都市を5分以内に殲滅出来る。そこに軍隊がいようが何がいようがな」
「そんなに強力なのか」
「そうだ」
「でも、どうしてこんなに多くの数が必要なんだ?」
「まあ、多いことに越したことはないよ」
「そうか」
御堂には話せない。
これは「防疫」の準備なのだ。
俺は次に「Bハンガー」に向かった。
「御堂、次に見せるものは最高機密だ」
「だったら僕は観なくてもいいんじゃないか?」
「いや、お前には見ておいて欲しい。俺たちの決戦兵器だ」
「分かった」
また蓮花が端末を操作して、巨大な扉を開けた。
「なんだ、これは!」
「御堂、お前も早乙女の家で観ているだろう?」
「ああ、ピーポンか!」
「「武神」を付けろ! バカみたいだろう!」
「あ、ああ」
武神ピーポンは「武神」のプロトタイプだ。
もちろん戦闘力は恐ろしく高いが、完成形「武神」とは比べようもない。
「これらは「国」を殲滅出来る。それに、妖魔を相手にも戦える」
「……」
御堂は沈黙していた。
「石神、お前は……」
「俺もこいつらが出撃しないことを祈るよ。別に俺は世界征服なんかに興味はねぇしな。大体、こいつらが出張れば、もう何も残らねぇ」
「……」
御堂は何を思っただろうか。
頭のいい男だ、俺の心が通じたかもしれない。
蓮花が扉を閉じ、俺たちはティーグフへ乗り込んだ。
「ティーグフ、Mゾーンへ行ってくれ」
「かしこまりました」
御堂は黙っていた。
「ここは?」
御堂がシロツメクサの花壇を見て言った。
「ミユキのゾーンだ。あいつはシロツメクサが好きなんだ」
「そうか」
俺は記憶を取り戻したミユキから、好きな花のことを聞いた。
皇紀がそれを聞いて、ミユキにシロツメクサの種を渡したことを話した。
「ミユキが喜んでな。最初は鉢植えで育て、大事に世話をしてこの花壇を作ったんだ」
「そうだったのか」
「その後で双子がうちの花壇の土を送ってな。ここへ来ると「手かざし」をしていくようになったんだ」
「ああ、それで」
シロツメクサは菊のような大輪の花を咲かせていた。
白、ピンク、黄色、紫、様々な色の花があった。
その中で、可憐な元の白い花も数多くあった。
「前鬼や後鬼や、他のブランたちも一緒に世話をするようになったんだ」
「ブランたちの思い出の花壇にもなったんだな?」
「そうだ。このシロツメクサは、あいつらの子どもなんだよ」
「!」
御堂がハンカチを取り出して目を拭った。
一瞬で俺の言った意味が分かったのだろう。
「ブランたちは子どもを残せない。自分たちが長生き出来ないことも、多分感じている。「業」に散々なことをされたからな。どうしても長い寿命は望めない。だから、自分たちの死んだ後でも咲き誇るこのシロツメクサを残そうとしているんだ」
「……」
俺たちは本館へ戻ることにした。
御堂は花壇に深々と頭を下げてから、ティーグフに乗った。
一緒に風呂に入り、いつもの食堂で酒を飲んだ。
「何を飲む?」
「ワイルドターキーがいいかな」
「おい、お前の好きなクラウンロイヤルもあるし、それにグレンフィディックのいいものだって買ってあるんだ」
「いいよ、また今度頂くよ。今日はワイルドターキーがいい」
「そうか」
俺の好きな酒を飲みたいと言う。
別にもちろんいいのだが。
蓮花がつまみを用意した。
桜チップで燻製したソーセージ各種。
オイルサーディンの湯葉包。
真鯛とドライトマトのカルパッチョ。
ホタテと長ネギの甘辛煮。
御堂が来ているので、亜紀ちゃんと柳は遠慮した。
まあ、どこかで飲んでいるのかもしれないが。
俺たちはゆっくりと飲み始めた。
学生時代のことなどを、蓮花に話して聞かせた。
「石神はどこに行っても女の人に取り囲まれていてね」
「よせよ!」
「アハハハハ! トイレの中まで来た時は驚いたよね?」
「ああ、いたな!」
「石神が怒っちゃって。オシッコを振りまいてさ」
「やったよなー」
蓮花が爆笑していた。
楽しく話して飲んだ。
御堂が蓮花の料理が美味いと言っていた。
遅い時間まで楽しく飲んだ。
そして御堂が俺に言った。
「石神、僕はお前が死んだら一緒に死ぬよ」
御堂が真面目な顔で言った。
「それはお前の自由だ」
御堂が俺を見ていた。
「ずるいよ、石神」
「何がだ」
「何で僕を総理大臣になんかしたんだ」
「俺を助けて欲しいからじゃないか」
「そのつもりだった。これからもそうするよ」
「頼むぜ」
御堂がグラスをテーブルに叩きつけるように置いた。
蓮花が驚いている。
俺も感情を露わにする御堂は何度も見ていない。
「石神! どうして僕にここの施設を見せたんだ!」
「お前に知っておいて欲しかったからだよ、御堂」
「お前は! 今日やっと分かった! お前は僕に死なせないつもりだったんだな!」
「御堂……」
御堂が泣いていた。
「お前はずるいよ、石神」
「そうだな」
「僕にこんな大きな責任を押し付けて。僕を自分の好きなように死なせないようにしたんだな」
「バレたか」
御堂が笑っている俺を殴ろうとした。
そのまま手を下げた。
蓮花が心配そうに御堂を観ていた。
「御堂、俺たちの戦いは尋常じゃない」
「うん、分かってるよ」
「俺たちは生き残れないかもしれない。これほどの大きな力を手にしてさえ、そう思うんだ」
「そうか」
「別に自分の思った通りに生きて死ねばいいんだけどな。でも、お前に見届けて欲しいと思ったんだ」
「なんだよ、それは」
「俺たちは必ず勝つ。それでもな、俺は最後まで生きていられないかもしれない。それでいいんだけどな」
「石神、お前……」
「お前に、俺にとってのシロツメクサのようなものになって欲しいんだ」
御堂がまた目に涙を湛えていた。
もう俺を見てはいない。
「別に語り継いで欲しいんじゃないんだよ。ただ、俺はお前の中に残りたかっただけなんだ」
御堂が俺を向いた。
「石神の大きな像を建ててやる」
「なに?」
「世界中に建ててやる。お前のことをあることないこと広めてやる」
「おい」
「お前があの世で恥ずかしくて死にそうになるくらいにやってやるよ」
「やめろって!」
俺は慌てた。
こいつはやる。
「お前の子孫は大変だ。世界中の人間から、大英雄の子孫だって褒め称えられて、どこへ行っても大勢の人間に囲まれてしまうんだ」
「だからやめろって!」
「生き残った人間は全員、お前の像に毎日百回手を合わせて拝むんだ。僕がそうするようにさせるよ」
「おい!」
御堂が笑って俺を見ていた。
「嫌なら死ぬなよ、石神」
「う、うるせぇ!」
蓮花が笑っていた。
「石神、そろそろ眠くなった」
「そうか、じゃあラビに送らせるよ」
「ラビ?」
蓮花が自走ロボットのラビを呼んだ。
「六花が大好きなロボットなんだ」
「そうか。カワイイな」
「そうだろ?」
俺は笑って、入り口まで見送った。
御堂はラビに話し掛けられ、笑いながら歩いて行った。
「石神様、まだお飲みになりますか?」
「ああ、後は適当に飲んで寝るから、蓮花ももう休んでくれ」
「宜しければご一緒に」
「おい、また酔いつぶれて俺と一緒に寝ることになるぞ?」
「大丈夫でございます。もうちゃんと用意してございますので」
蓮花は振動型のアラームを俺に見せた。
「じゃあ、もう少し付き合ってくれ」
「はい」
俺は蓮花としばらく飲んでから、一緒に寝た。
蓮花も一緒だ。
ティーグフに乗る。
「大まかに「本館」(基礎研究施設・極秘研究施設)と、専門に分かれた「塔」(タワー)と呼ばれる施設だ。外観は塔じゃないものもあるけどな。名称から察知されないように、「本館」だとか「W塔」(ウエポン・タワー)などと呼ばれている。ブランたちの一部の機密性の高い訓練施設なども「P塔」(プラクティス・タワー)などと呼ばれている。あそこは仮想現実の戦闘訓練の出来るポッドがあるからな」
俺は「W塔」や「P塔」などを実際に御堂に見せた。
「それと「格納庫」(ハンガー)と「領域」(ゾーン)がある。格納庫は主に「武神」「デュール・ゲリエ」そして各種兵器や武器、資源などだ。「領域」は特別な場所のことだ」
「特別な場所?」
「ああ、実際に見せた方が早いな」
俺は「防衛領域」に案内した。
研究所の外周で、研究所から4キロ離れた位置にある。
「例えばここは「防衛領域」だ。俺たちには反応しないが、一種の攻性の結界だな。タヌ吉! 前に入り込んだ連中を見せてくれ! ああ! モザイクを掛けろよ!」
「防衛領域」の一部が揺れ、向こうから4人の男性が歩いて来る。
4人が「防衛領域」に触れた途端、消えた。
映像が切り替わり、4人が別な空間にいるのが見える。
そこからはモザイクがかかり、4人の人影が徐々に削られていくのが見えた。
モザイク越しだが、恐ろしい目に遭ったことは分かる。
御堂が顔を顰めていた。
「よし! もういい! ありがとうな!」
「はい、いつでも御呼び下さい」
「!」
いつの間にかティーグフの荷台に乗っていた美しいレースのドレスの女が一礼して降りて去った。
御堂が驚いていた。
「これが研究所の周囲を取り囲んで、侵入者を排除している」
「誰かが間違って入ってきたら?」
「この外側8キロに、麗星さんが張った防御結界があるんだ。更に外側12キロにも麗星さんの結界がある。そこは普通の人間はこちらへ間違って入って来ないようにするものなんだ。何かの加減で入っても、8キロの結界は強制的に内側へ入れないようにしている。それを突破する奴は、最初から悪意を持って近づこうとしている連中だ」
「なるほど」
俺は「Dハンガー」に向かった。
デュール・ゲリエが格納してある場所だ。
蓮花が端末を操作して格納庫の扉を開いた。
幅500メートルの巨大な壁に、幾つもの扉が一斉に開く。
「ああ、ここのような重要施設の周囲にはさっきの「防衛領域」のもっと強烈なものが展開している。だから攻撃は不可能だ」
扉の内側には殲滅戦装備のデュール・ゲリエが3000体寝ていた。
「地下にももっと多くのデュール・ゲリエがいる。この研究所の防衛もそうだが、お前に万一があればここから出撃するからな!」
「そうなのか」
御堂は呆然としていた。
身長2メートル半のデュール・ゲリエは、総重量3トンの殲滅戦装備を付けている。
「この殲滅戦装備のデュール・ゲリエは、1体で大都市を5分以内に殲滅出来る。そこに軍隊がいようが何がいようがな」
「そんなに強力なのか」
「そうだ」
「でも、どうしてこんなに多くの数が必要なんだ?」
「まあ、多いことに越したことはないよ」
「そうか」
御堂には話せない。
これは「防疫」の準備なのだ。
俺は次に「Bハンガー」に向かった。
「御堂、次に見せるものは最高機密だ」
「だったら僕は観なくてもいいんじゃないか?」
「いや、お前には見ておいて欲しい。俺たちの決戦兵器だ」
「分かった」
また蓮花が端末を操作して、巨大な扉を開けた。
「なんだ、これは!」
「御堂、お前も早乙女の家で観ているだろう?」
「ああ、ピーポンか!」
「「武神」を付けろ! バカみたいだろう!」
「あ、ああ」
武神ピーポンは「武神」のプロトタイプだ。
もちろん戦闘力は恐ろしく高いが、完成形「武神」とは比べようもない。
「これらは「国」を殲滅出来る。それに、妖魔を相手にも戦える」
「……」
御堂は沈黙していた。
「石神、お前は……」
「俺もこいつらが出撃しないことを祈るよ。別に俺は世界征服なんかに興味はねぇしな。大体、こいつらが出張れば、もう何も残らねぇ」
「……」
御堂は何を思っただろうか。
頭のいい男だ、俺の心が通じたかもしれない。
蓮花が扉を閉じ、俺たちはティーグフへ乗り込んだ。
「ティーグフ、Mゾーンへ行ってくれ」
「かしこまりました」
御堂は黙っていた。
「ここは?」
御堂がシロツメクサの花壇を見て言った。
「ミユキのゾーンだ。あいつはシロツメクサが好きなんだ」
「そうか」
俺は記憶を取り戻したミユキから、好きな花のことを聞いた。
皇紀がそれを聞いて、ミユキにシロツメクサの種を渡したことを話した。
「ミユキが喜んでな。最初は鉢植えで育て、大事に世話をしてこの花壇を作ったんだ」
「そうだったのか」
「その後で双子がうちの花壇の土を送ってな。ここへ来ると「手かざし」をしていくようになったんだ」
「ああ、それで」
シロツメクサは菊のような大輪の花を咲かせていた。
白、ピンク、黄色、紫、様々な色の花があった。
その中で、可憐な元の白い花も数多くあった。
「前鬼や後鬼や、他のブランたちも一緒に世話をするようになったんだ」
「ブランたちの思い出の花壇にもなったんだな?」
「そうだ。このシロツメクサは、あいつらの子どもなんだよ」
「!」
御堂がハンカチを取り出して目を拭った。
一瞬で俺の言った意味が分かったのだろう。
「ブランたちは子どもを残せない。自分たちが長生き出来ないことも、多分感じている。「業」に散々なことをされたからな。どうしても長い寿命は望めない。だから、自分たちの死んだ後でも咲き誇るこのシロツメクサを残そうとしているんだ」
「……」
俺たちは本館へ戻ることにした。
御堂は花壇に深々と頭を下げてから、ティーグフに乗った。
一緒に風呂に入り、いつもの食堂で酒を飲んだ。
「何を飲む?」
「ワイルドターキーがいいかな」
「おい、お前の好きなクラウンロイヤルもあるし、それにグレンフィディックのいいものだって買ってあるんだ」
「いいよ、また今度頂くよ。今日はワイルドターキーがいい」
「そうか」
俺の好きな酒を飲みたいと言う。
別にもちろんいいのだが。
蓮花がつまみを用意した。
桜チップで燻製したソーセージ各種。
オイルサーディンの湯葉包。
真鯛とドライトマトのカルパッチョ。
ホタテと長ネギの甘辛煮。
御堂が来ているので、亜紀ちゃんと柳は遠慮した。
まあ、どこかで飲んでいるのかもしれないが。
俺たちはゆっくりと飲み始めた。
学生時代のことなどを、蓮花に話して聞かせた。
「石神はどこに行っても女の人に取り囲まれていてね」
「よせよ!」
「アハハハハ! トイレの中まで来た時は驚いたよね?」
「ああ、いたな!」
「石神が怒っちゃって。オシッコを振りまいてさ」
「やったよなー」
蓮花が爆笑していた。
楽しく話して飲んだ。
御堂が蓮花の料理が美味いと言っていた。
遅い時間まで楽しく飲んだ。
そして御堂が俺に言った。
「石神、僕はお前が死んだら一緒に死ぬよ」
御堂が真面目な顔で言った。
「それはお前の自由だ」
御堂が俺を見ていた。
「ずるいよ、石神」
「何がだ」
「何で僕を総理大臣になんかしたんだ」
「俺を助けて欲しいからじゃないか」
「そのつもりだった。これからもそうするよ」
「頼むぜ」
御堂がグラスをテーブルに叩きつけるように置いた。
蓮花が驚いている。
俺も感情を露わにする御堂は何度も見ていない。
「石神! どうして僕にここの施設を見せたんだ!」
「お前に知っておいて欲しかったからだよ、御堂」
「お前は! 今日やっと分かった! お前は僕に死なせないつもりだったんだな!」
「御堂……」
御堂が泣いていた。
「お前はずるいよ、石神」
「そうだな」
「僕にこんな大きな責任を押し付けて。僕を自分の好きなように死なせないようにしたんだな」
「バレたか」
御堂が笑っている俺を殴ろうとした。
そのまま手を下げた。
蓮花が心配そうに御堂を観ていた。
「御堂、俺たちの戦いは尋常じゃない」
「うん、分かってるよ」
「俺たちは生き残れないかもしれない。これほどの大きな力を手にしてさえ、そう思うんだ」
「そうか」
「別に自分の思った通りに生きて死ねばいいんだけどな。でも、お前に見届けて欲しいと思ったんだ」
「なんだよ、それは」
「俺たちは必ず勝つ。それでもな、俺は最後まで生きていられないかもしれない。それでいいんだけどな」
「石神、お前……」
「お前に、俺にとってのシロツメクサのようなものになって欲しいんだ」
御堂がまた目に涙を湛えていた。
もう俺を見てはいない。
「別に語り継いで欲しいんじゃないんだよ。ただ、俺はお前の中に残りたかっただけなんだ」
御堂が俺を向いた。
「石神の大きな像を建ててやる」
「なに?」
「世界中に建ててやる。お前のことをあることないこと広めてやる」
「おい」
「お前があの世で恥ずかしくて死にそうになるくらいにやってやるよ」
「やめろって!」
俺は慌てた。
こいつはやる。
「お前の子孫は大変だ。世界中の人間から、大英雄の子孫だって褒め称えられて、どこへ行っても大勢の人間に囲まれてしまうんだ」
「だからやめろって!」
「生き残った人間は全員、お前の像に毎日百回手を合わせて拝むんだ。僕がそうするようにさせるよ」
「おい!」
御堂が笑って俺を見ていた。
「嫌なら死ぬなよ、石神」
「う、うるせぇ!」
蓮花が笑っていた。
「石神、そろそろ眠くなった」
「そうか、じゃあラビに送らせるよ」
「ラビ?」
蓮花が自走ロボットのラビを呼んだ。
「六花が大好きなロボットなんだ」
「そうか。カワイイな」
「そうだろ?」
俺は笑って、入り口まで見送った。
御堂はラビに話し掛けられ、笑いながら歩いて行った。
「石神様、まだお飲みになりますか?」
「ああ、後は適当に飲んで寝るから、蓮花ももう休んでくれ」
「宜しければご一緒に」
「おい、また酔いつぶれて俺と一緒に寝ることになるぞ?」
「大丈夫でございます。もうちゃんと用意してございますので」
蓮花は振動型のアラームを俺に見せた。
「じゃあ、もう少し付き合ってくれ」
「はい」
俺は蓮花としばらく飲んでから、一緒に寝た。
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