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戦争は愛の如し

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 食事の後、子どもたちはブランたちと訓練に行った。
 俺は少し蓮花と話をした。

 「石神様、まずは謝罪を。本当に申し訳ございませんでした」
 「もういいって。何度も言っただろう」
 「いいえ。わたくしは石神様に信頼して頂いておりながら、それを無下にしてしまいました」
 「お前の優しさだろう。俺が傷つくと思って、お前は黙って胸の裡に秘めてこれまで必死にやってくれたんだろう。それは痛い程に分かる。俺はお前に、何と礼を言っていいのか分からない」
 「そんな!」
 「ありがとう、蓮花。ルーとハーにも言ったけどな。お前たちでよくここまでやってくれた」
 「そんな、石神様!」

 蓮花が泣いた。
 この女が人前で泣くことは滅多にない。
 悲しいから泣いているのではない。
 感情が激しているからだ。
 だから珍しい。
 深い愛情のある女なのはよく分かっている。
 しかし、感情を乱すことは滅多にない。
 蓮花は一つのことを目指している。
 俺のために、俺が戦うことを応援するためにだけ生きている。
 そのために、自分の感情は奥深くに沈めている。
 前に進むためには、感情が乱されてはならないからだ。
 その蓮花が泣いている。

 「蓮花、本当にありがとうな」
 「石神様!」

 俺は蓮花を抱き寄せた。
 俺は優しく背中に手を回した。

 「レイラのことは、誰にも俺の胸の裡を話せなかった。話せば相手は困るだけだからな。だから自分で秘めるしかなかった。本当に辛かったんだ。でもお前たちが俺を救おうとしてくれていた。俺の知らない所で、必死にやっていてくれた。俺はこれほど嬉しいことはない」
 「石神様……」
 「俺に黙っていることは、蓮花にとってどれほど辛かったか。お前も秘めるしかなかったんだな」
 「はい。申し訳ないと、毎日思っておりました」
 「そうか。済まなかった」
 「いいえ! わたくしは何としてもやり遂げねばと。しかしわたくしの非力ではどうしようもなく。石神様にお話しなければと思った折に、ルーさんとハーさんがお力をお貸し下さいました」
 「あいつらはワルだからな。俺に黙ってるなんて屁でもねぇ」
 「ウフフフ」
 「いいワルに縁があったな!」
 「はい」

 蓮花は少しずつ落ち着いて来た。

 「でも、ルーとハーは加減もねぇ。危なっかしいことも平気でやる。今回は何とかなったようだけどな。まあ、あいつらが納め切れないものも少ないだろうけどな」
 「はい、お見事でございました。想定外のことが起きると分かっていて、ロボさんに協力を頼んだり。もう無茶苦茶でございました」
 「アハハハハハ!」
 「ロボさんが、よもやあれほどとは。私もまだまだです」
 
 ロボはジョーカーなのかもしれない。
 俺も何度もロボに救われている。

 「まあ、あくまでもロボはカワイイ猫だけどな!」
 「はい!」
 「俺も人間だけどな!」
 「アハハハハ!」
 「はいって言え!」
 「はい!」

 俺は人間だ。




 訓練はポッドに入ってのヴァーチャルリアリティでのものだった。
 俺は観ていても仕方が無いので、外で「常世渡理」を振るった。
 蓮花が出て来て、観ていた。
 立って観ているので、俺は椅子を持って来て座れと言った。
 蓮花は作業兼家事アンドロイドに、椅子とテーブルを持って来させ、座って観ていた。
 ロボが蓮花の膝に乗る。
 ロボは美味しい物をたくさんくれて優しい蓮花が大好きだ。

 1時間も夢中でやっていた。
 俺は「常世渡理」を鞘に納め、蓮花と一緒に座った。

 「美しい舞でございました」
 「そうか」
 「あの音が素晴らしいですね」

 シャラランという清々しい音のことだ。
 水琴鈴のもっと細かな、砂が鳴り響くような音だ。

 蓮花は氷を入れた緑茶を大振りのコップに注いでくれた。
 ほんのりと甘みを感じる。

 「美味いな」
 「ありがとうございます」

 自分は氷を入れないものを飲んでいた。

 「ああ、夕飯はなんだ?」
 「はい、御堂様がいらっしゃいますので、フグなどは如何かと」
 「いいな! 独りじゃ食べないし、会食でもあまり出ないだろう」
 「宜しいでしょうか」
 「もちろんだ。ああ、蓮花が捌くのか?」
 「いいえ。もちろん専門家が開いたものを使います」
 「でも、ちょっとは蓮花も捌くんだろ?」
 「死にたいのですか?」
 「アハハハハ!」

 多分出来るのだろうが、免許は持っていないのだろう。
 身欠きのものを使うということだ。
 恐らく蓮花のことだから、職人が捌いてすぐのものを使うのだと思う。

 俺もフグは好きで、時々食べにも行く。
 亜紀ちゃんと行くことが多いが、二人でコースを何人前も食べる。
 亜紀ちゃんも好きになり、時々真夜を誘って自分で行く。

 「おい、量は大丈夫か?」
 「石神家の方がいらっしゃるのです。抜かりはございません」
 「ワハハハハハ!」

 大変だ。





 ゆっくりしていると、ポッドでの訓練が終わったようだ。
 また亜紀ちゃんは家でも欲しいと言う。
 俺は笑って、蓮花の夕飯の支度を手伝えと言った。
 今日はフグだと言うと、亜紀ちゃんが喜んで手伝うと言った。

 俺はブランたちと格闘戦をした。
 久し振りに俺と対戦し、ブランたちが喜んだ。

 「ミユキ! ぶちのめされながら笑ってんじゃねぇ!」
 「アハハハハハ!」

 訓練を終え、俺はシャワーを浴びて、また蓮花の作った茶を飲んだ。

 「石神様は、ヴァーチャルのデータに入れられません」
 「どうしてだ?」
 「データ化しても、常に石神様はその先に居られるからです」
 「なんだ?」
 「亜紀様が以前に仰っていました。石神様のために、どんなに努力して強くなっても、いつでも自分よりも強い、と」
 「そうか」
 「ブランたちも成長致します。しかし、石神様との差は常に開いております」
 
 俺は「業」とのことを考えていた。
 俺たちは常に強くなっている。
 しかし、俺は「業」との戦いに安心したことはない。
 あいつも常に進歩している。
 そのような気になって仕方が無い。

 俺たちは超常的な力を手に入れた。
 どのように考えても、俺たちが負ける敵など想像もつかない。
 それでも、「業」はその「想像もつかない」場所にいる。
 俺たちとは違った力を蓄えようとしている。

 俺たちの戦いは、常に苦難の中にある。


 《War is like LOVE, It always find a WAY.
  戦争は愛の如し。そは常に標を示すもの也。》(ベルトルト・ブレヒト)


 俺たちはこの戦いによって、愛を抱き合い、その先にあるものを示すのだ。
 この恐ろしい戦いの果てに、次の時代が開かれる。
 俺たちはそのために命を擲つ。

 英雄などではなく、ただ、愛のために立ち上がった者として。
 勝利があるのならば、それは愛があったというだけだ。
 敗北で終わろうと、俺たちは愛を示し、愛に向かえばそれで良い。

 だから俺は、多くの者をこの戦いに巻き込める。
 躊躇することなく、戦場に送り込むことが出来る。
 笑いながら、慈しみながら。





 罪があるならば、それは全て俺のものだ。
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