富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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「カタ研」茶話会

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 4月第四週の月曜日午後2時。
 俺は午前中からのオペを終えて、遅い昼食を食べて来た。

 「部長、お帰りなさい!」
 
 次のオペに出ようとしていた一江が声を掛けて来た。

 「また榎木さんがいらっしゃって、お土産を頂いてしまいました」
 「いらしたのか。いつも美味しい物を貰うんで、挨拶したかったなぁ」
 「また来るって言ってましたよ」
 「そうか」

 榎木さんは傘下の病院からうちの病院に転院した方だ。
 駅の階段から転げ落ちて、それから右半身が不自由になった。
 脛骨の骨折のせいだが、なかなか手が出しにくい状態で、傘下の病院ではどうしようもなく、うちに回された。
 俺が長時間のオペで慎重に骨を成形し、神経の圧迫を取り除いたことで改善した。

 榎木さんは神奈川県の国立大学で中国の歴史を教えていた。
 その分野では高名な教授で、これからも研究が続けられると、大変感謝しておられた。
 そして190センチ、体重120キロの巨漢で、食べるのが趣味という方だった。
 以来、時々うちの病院へ来て下さり、毎回美味い菓子などを頂くようになった。
 入院中から仲良くなり、俺も榎木さんに知っている美味い店などを教え、たまに買って来て召し上がって頂いたりした。
 お互いにあまり高価な上菓子は渡さないようにしながら、榎木さんは直接持って来て、俺は盆暮れにそれなりのものを贈るようになっていた。

 俺は今日持って来て頂いたものを開けた。

 「おお! 銀座菊廼舎(きくのや)かぁ! やっぱりいいものを知ってらっしゃるなぁ!」
 「あ! マカダミアナッツの奴ですか!」
 「そうだよ! えーと、20個あるな」
 「やったぁー!」
 「子どもたちが喜ぶな!」
 
 「え?」
 「あんだよ」
 「だって、みんなで食べるんじゃ?」
 「だからうちの子どもたちに喰わせるよ」
 「私たちはぁー!」
 「うるせぇ! 自分で買って来い!」

 「そんなぁー!」

 俺は尻を蹴って早くオペに行けと言った。





 その日は7時頃に家に帰り、子どもたちにマカダミアナッツの乗った揚げ饅頭を食べさせた。

 「「「「「美味しいぃーーー!」」」」」
 「そうだろう? 榎木さんという方が、いつも美味いものを持って来てくれるんだよ」
 「あ! うちからも毎回お贈りする方ですよね!」

 亜紀ちゃんが気付いた。

 「そうだ。よく病院に持って来てくれるんで、盆暮れにうちから贈るというな」

 みんなで2個ずつ食べ、あとは早乙女と左門の所へ持って行った。
 病院で六花と響子、鷹にもやった。
 うるさいんで一江と大森にもやった。

 「老舗の和菓子屋なんだけどな。オンラインでも買えるものもあるけど、やっぱり店舗でしか買えないものが美味いんだよ」
 「そうなんですか!」
 「これはそれほど高価な品ではないけど、やっぱり美味いだろ?」
 「はい!」
 「この上の上菓子になると、また絶品なんだ」
 「へぇー!」

 亜紀ちゃんが夢中で聞いている。
 他の子どもたちも揚げ饅頭を食べながら耳を傾けている。

 「うちは洋菓子が多いですね」
 「俺がコーヒーが好きだからな。自然にな。コーヒーじゃないと、紅茶だろ?」
 「ああ、だから」
 「別にコーヒーで和菓子でもいいんだけどな。でも、この辺じゃちょっとあまりないからなぁ」
 「タカさん、鈴伝の栗、好きですよね!」
 「そうだ。ああいうデパートで売っているものは時々買うけどな」

 亜紀ちゃんがニコニコしている。
 和菓子に興味が出たようだ。

 「柳さん! 今度「カタ研」で何か探して持って行きましょうか!」
 「あ、いいね!」

 俺は、じゃあ菊廼舎に行って選ぶといいと言った。
 柳が早速店を検索し、店の場所や今売っている上菓子などを調べた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 水曜日。
 「カタ研」部室マンションにみんなが集まった。
 今日はロボもいる。
 パレボレが緊張し、震えている。
 ロボがみんなからカワイイと言われて喜んだ。
 ジルバを踊り、ますます褒められた。

 「今日は「銀座菊廼舎」で和菓子を買ってきましたー!」

 全員が目の前にある、色とりどりの和菓子を見ていた。
 揚げ饅頭もある。

 「揚げ饅頭と、お好きな和菓子を二つずつどーぞ!」

 「これ、結構高いものなんじゃ」

 井之頭が言った。

 「大丈夫ですよ! 先日の部費の100億ドルは、一部を中国株と為替市場で運用して、現在110億ドルになってます」
 「ちゃんと金とプラチナも買ってるんで、安心ですよー」

 ルーとハーが説明する。
 全員押し黙っている。

 「あ、響子ちゃんもスゴイんだけど、この子たちも現物取引じゃ大したものだから」
 
 亜紀が説明し、みんな押し黙っている。

 「じゃー、いただきましょー!」

 みんなが好きな和菓子を取り、口に入れて感動していた。
 双子が抹茶を配り、それも好評だった。
 ジョナサンも喜んでいる。
 パレボレは震えながらロボを見ていた。
 ロボが自分を見るので、黙って口に入れていた。

 「パレボレさんは、あまりお好きじゃないですか」

 微妙な顔をしているパレボレに、鬼頭茜が声を掛けた。

 「どうも、こういう非合理的な食べ物は苦手だ」
 「非合理的?」
 「栄養の補給ならば、もっと合理的な方法がある。下等……グフェッ!」

 ルーがパレボレの腹に手刀を差し、ハーはロボを抱えて来た。

 「も、も、申し訳ありませんでしたぁ!」

 みんなが笑っている。

 「パレボレさんはネコが苦手なんですね」
 「いえ! このロボさんは……」

 ハーが睨んでいる。
 ロボが見詰めている。

 「何でもございません」

 みんなで楽しく話した。

 「金曜日の夜は、コンパだよね?」
 「今から楽しみー!」
 「あの「ミート・デビル」だもんね!」
 「何着てこう?」

 「それにしてもさ、本当に部費って、100億ドルもあるの?」
 「ほんとですよー」
 「必要なものはどんどん言って下さい!」
 「ちょっと思いつかないけどね」

 坂上が言った。

 「じゃあ、移動の車とかどうかな?」
 「そうですね。えーと、私はダッジ・デーモンがあるんで、四人は大丈夫です。柳さんはアルファードで八人は。タカさんにハマーを借りれば、12人は大丈夫ですけど」
 「スゴイね。それで賄えるか」
 「でも、私たち全員で移動できるのもいいよね? マイクロバスとか?」
 「いいですね! 改造して作りましょうか!」
 「出来るの?」
 「お金は十分に。ちょっと考えてみましょうよ!」

 みんなで検索しながら検討してみた。

 「うーん、豪華な仕様にすると、二台に分乗かな」
 「そうですねー。観光バスにすると、駐車の問題も」
 「大型免許も必要だしね」
 「それなら、もう一台普通の乗用車でもいいか」
 「あの、すいません。ダッジ・デーモンって燃費が悪くて」

 坂上が検索して大笑いした。

 「私! あの車好きですよ!」
 「ありがとう、真夜」

 「でも、じゃあ、あと二台、気軽に使えるものも考えようか」

 パレボレが言った。

 「そんなもの、僕が用意するよ」

 ルーに思い切り頭をはたかれた。
 一瞬、パレボレの頭部が外れ、急いで戻した。
 数人が硬直して観ていた。

 「て、手品だから!」
 「スゴイね、パレボレ!」

 パレボレが右手を前に出して親指を立てた。
 声は出ない。

 「手品なんだ」
 「あー、びっくりした」

 ルーがハーに怒られていた。

 「じゃー、今日はここまでにしましょうか。また明日来れる人は来て下さい!」

 全員がワイワイ言いながら帰って行った。
 パレボレは残された。




 「てめぇ! UFO出すつもりだったか!」
 「余計なことを言うな、タワケ!」
 「す、すいません」

 パレボレが怒鳴られる。

 「ロボに追い込ませっぞ!」
 「銀河の黄昏になりてぇのか!」
 「申し訳ありません!」

 柳が言った。

 「ところで、パレボレってどこに住んでるの?」
 「はい、近くの1Kのアパートに」
 「へぇ」

 双子が説明する。

 「家賃、2万円だよ?」
 「探すの苦労したよね」
 「そんな安いんだ」
 「風呂無し、トイレ共同」
 「築50年だっけか」
 「スゴイね」
 「電気、ガス、水道止めてるもんね」
 「……」

 


 柳は聞かなかったことにした。
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