上 下
1,484 / 2,840

亜紀ちゃんのオリ合宿 Ⅳ

しおりを挟む
 翌朝。
 みんなで朝食を作る。
 夕べは洋食だったので、今朝は飯盒でお米を炊き、鮭の切り身をバーベキュー台で焼いた。
 ちょっとした事件があった。

 私たちが朝食を食べていると、川の向こうから一頭のイノシシがこちらを向いていた。
 2メートルくらいで結構大きい。
 みんなが大騒ぎで、急いで逃げなければと言っていた。
 私は6メートルの川を飛び越え、イノシシの前に立った。
 イノシシが威嚇してくる。

 「てめぇ、折角の楽しい雰囲気を邪魔しやがって」

 イノシシの額に拳を充てた。
 イノシシは瞬時に絶命し、足を折って伏せた。
 私はまた川を飛び越えて戻った。

 「もう大丈夫ですよ!」
 「え、だって、石神さん……」

 上坂さんが脅えている。

 「ちょっと言い聞かせましたから! もうこっちには来ません」
 「でも、まだあそこにいるよ?」

 みんなザワザワしている。
 私は小石を投げてイノシシに当てた。
 反応はない。

 「もう寝てますから」
 「そうなの?」
 「はい!」

 真夜がどう反応していいのか困っていた。

 「真夜、イノシシ食べる?」
 「絶対結構です!」
 「そう?」

 「石神さん、さっき何をやったの?」
 
 坂上さんが聞いて来た。

 「えーと、ちょっと言い聞かせて、「えい」って頭をはたいて」
 「えぇー!」
 「そうしたら大人しくなりましたよ?」
 「なんだよ、それ!」

 みんなが笑った。

 「まあ、早く食べてしまおう。中島さん、ちょっと管理事務所に連絡してくれるかな?」
 「うん、分かった!」

 中島さんが走って行った。
 すぐに管理事務所の人が来て、危ないからすぐに帰るように言った。
 みんなで片づけをしていると、ライフルを持った人がやって来た。
 私が川でバーベキュー台の大きな網を洗いたいと言うと駄目だと言われた。
 仕方が無いのでまた川向うまで飛んで、イノシシを足で転がした。

 「ね! もう大丈夫ですからぁ!」
 「……」

 みんな呆然としていた。
 真夜と一緒に、素早く網を洗った。
 そうしないとハマーの中が臭くなる。

 10時頃にみんなで帰った。

 


 「石神さん、お腹空いてる?」
 「もちろん!」

 上坂さんが大笑いしていた。

 「朝食、普通だったもんね」
 「はい! 本当はあのイノシシも食べたかったです!」
 「アハハハハハ!」

 ジョークだと思われている。

 「じゃあさ、また相模湖で食事をしようか?」
 「はいはい!」

 真夜が隣で笑っていた。

 「今度は私がご馳走するよ」
 「ダメですよ!」
 「そうですよ、上坂さん。前に亜紀さんとフグを食べに言ったら、10人前を食べるんですよ?」
 「え!」
 「お金は一杯ある人なんで、自分で払わないと思い切り食べれないんです」

 真夜が説明してくれた。

 「高校じゃ、学食行くのに事前に連絡が必要だった人なんです」
 「ちょっと! 真夜!」

 みんなが大笑いした。

 「本当はね、私たちがこのオリ合宿でみんなにいろんなことを教えなきゃいけなかったの」
 「え、一杯聞きましたよ?」
 「うん、一通りはね。でももっと個別にいろんな不安とかも聞かなきゃだったんだ」
 「大丈夫ですよ!」
 「でも、夕べは石神さんのお話が楽しくて、ついね。だからお昼を食べながらでも、ちょっとでもそういう話があれば」
 「ありがとうございます!」

 優しい先輩だった。
 私たちは相模湖から少し離れたダイニングへ向かった。
 ロボは朝食を十分に食べたので、車の中で寝ている。

 私はハンバーグの上に大きなソーセージが乗ったものを二つと、カレーを二つ頼んだ。
 みんなが笑っていた。

 「そう言えば、サークルとか部活のことは全然話さなかったね」
 
 上坂さんが言う。

 「ああ、それはもう決めているんで」
 「へぇー、どこ?」
 「自分たちで作ります。「カタ研」です」
 「カタケン?」

 「カタストロフィ研究会。人類の存亡を研究する会です」
 「へぇー! 面白そうだね」
 「はい!」

 「もうメンバーは決まっているの?」
 「三人は。あと、大学外からも二人。もしかしたら、そっちはもっと」
 「そうなんだ。えーと、石神さんと柿崎さん、それと柳さんかな?」
 「そうです。それに私の双子の妹と、妹が支配している15人の幹部かな」
 「支配って!」
 「ああ、妹たちは小学校を支配して、それから近隣の中学や高校まで支配しちゃったんですよ」
 「どういうこと!」
 「小学校は優秀な人材を育成って感じなんですけど、中学高校は主に不良たちを締めて歩いて」
 「!」

 みんなが驚いている。

 「あ、でも、不良たちも更生っていうか、みんな命令で猛勉強して結構優秀になったんですよ?」

 上坂さんが爆笑し、他の人たちも笑っていた。

 「まったく、石神さんは変わってるのね」
 「いや、今のは妹たちの話で!」
 「ねぇ、他の人間は募集しないの?」
 「うーん、来てくれますかね?」
 「大丈夫だよ! だって私は入りたいもん!」
 「え?」
 「石神さんといると楽しい! これまでに無かった経験が出来そうだよ!」
 「それはまあ。でも、危ないっていうか」
 「どうして?」

 私は話すべきか迷った。
 真夜を見ると、私を見ている。
 私に全部任せるということだ。

 「あの、上坂さん。私たちは具体的には、こないだ渋谷であったような事件に関わろうとしているんです」
 「あの化け物になって暴れるっていうもの?」
 「そうです。あれを裏で操っている人間がいます。そいつとの戦いに関わるっていうことです」
 「そうなの。でも、危険って?」
 
 「それは今ここでは。本当に希望されるのであれば、また改めて」
 「分かった。絶対に行くからね」

 上坂さんはそれ以上聞いてこなかった。
 他の新入生に、部活やサークル活動の話をしていった。

 



 みんなと新宿駅で別れ、真夜と家に向かった。

 「真夜、ごめんね」
 「なんですか?」
 「これから、真夜を巻き込んじゃうかもしれない」
 「何言ってんですか! そんなのとっくに大歓迎ですよ!」
 「でも……」

 「私は一生、亜紀さんの傍にいたいんです」
 
 真夜はそう言ってにこやかに笑った。

 「楽しみだなー!」
 「ありがとう、真夜」

 真夜が首を振った。

 「亜紀さん、お腹空いたでしょう?」
 「さっき食べたばかりだよ?」
 「でも空いてるでしょ?」
 「まーね!」

 真夜が急いで帰ろうと言った。
 私は笑ってハマーのアクセルを踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

処理中です...