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亜紀ちゃんのオリ合宿 Ⅲ

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 いろいろな人間と交流するために、夕飯のグループはテントとは別に組まれた。
 今度は男女が一緒になる。
 フランス語の選択は、大体男女が同じ割合だった。

 私と真夜は一緒だった。
 私たちで持って来たバーベキュー台で焼くためだ。
 上クラのパ長である坂上さんと他に三人、そして同クラの里山さんと西部くんが一緒になる。
 みんなで肉や野菜をカットし、下味を付けて行く。

 「石神さんは手際がいいね」
 
 坂上さんに言われた。

 「しょっちゅうバーベキューをしてますから!」
 「そうなんだ」

 包丁を握るのも初めてという子がいるので、真夜が丁寧に教えていた。
 皇紀も双子もいないのでいつもとペースが全然違うが、こういうのも楽しい。
 ロボは最初、みんなが集まる炊事場の方をウロウロして可愛がられていたが、自分が食べられるものが無いのが分かって私の所へ来た。
 ステーキを焼いてカットしてやると、唸りながら食べた。


 「しかし、スゴイ肉の量だな」
 「梅田精肉店さんから、いつも頂いているんですよ」
 「そうなの」

 私は塩野社長の話をした。
 子どもの頃にいじめっ子だった塩野社長が、交通事故で死ぬところを命懸けで女性に救ってもらった話。
 死んだ女性が孤児で、家族にも恩を返せなかったこと。
 だから心を入れ替えて、自分以外の人間のために生きようとしていること。

 「今でも、子どもの頃の自分を助けてくれた女性に感謝しているんですよ」

 みんな手を止めて泣いていた。

 「あ、ごめんなさい! 楽しい雰囲気を壊してしまって!」
 「いや、いいんだ石神さん。本当にいい話だった」

 坂上さんがそう言い、みんなも良かったと言ってくれた。

 「世の中には素晴らしい人間がいるんだね。僕もね、一人尊敬する人がいるんだ」
 
 坂上さんが話し出した。

 「会ったことも無いんだけど、僕らの先輩でね。ほら、石神さんと同じ「石神」って苗字の人なんだよ。石神高虎」
 「タカさんだぁー!」

 私が叫ぶと、坂上さんが驚いた。

 「石神さん、知ってるの?」

 私はまた、タカさんが私たちを引き取ってくれた話をし、タカさんと同じ医者になろうとしていることを話した。

 「そうだったのか! 僕はね、ほら6年前に外国人の少女を救った手術で石神さんを知ってね。それ以来、大ファンなんだ」
 「ああ! 響子ちゃん!」
 「え、日本人なの?」
 
 私は笑って、ハーフの子だと話した。
 詳しいことは話せないが、大富豪の子どもなのだと言った。

 「そうなんだ! 新聞やニュースにもなったけど、あの手術は絶対に成功しないものだったんだって」
 「そうなんですよ。院長先生も、世界中のお医者様も諦めてて。でも、タカさんはやったんです」
 「そこだよ! 失敗することが分かっててもだよね?」
 「はい。それに失敗したら、医者としてはもうやっていけない状況でした。相手の大富豪の人が絶対に許さないって」
 「うん! 凄い人だよね!」
 「タカさんは一緒に死ぬつもりでやったんです。自分がしてやれることを全部やって、それでもダメなら一緒に死んでやるって」

 坂上さんは感動して泣いていた。

 「どうしてそこまで出来るのかなぁ。僕にはとてもそんな勇気はないよ」
 「タカさんの身体には、全身に傷があるんですよ。物凄い身体なんです」
 「え?」
 「子どもの頃からそうだったんです。誰かを助けるために自分が傷だらけになっちゃって。そういう人なんですよ」
 「そうだったのか」

 私は虎のレイの話をした。
 みんなが大笑いし、最後にまた泣いた。

 「やっぱり石神さんは最高だ!」

 坂上さんが言い、他の人たちも賛同した。
 1時間もすると、ピザや他の料理が出来た。
 今回は私たちが大バーベキューを用意しているので、ピザとスープとサラダだけだ。
 大量の紙皿と紙コップが配られ、みんなで銘々に料理を選ぶ。
 2トントラックをレンタルし、折り畳みのテーブルや椅子も運んで来た。
 みんなそれに座って楽しく食事をした。
 お酒も配られる。
 ロボはあちこちのテーブルを回り、可愛がられて喜んでいる。

 「亜紀さん、私が焼きますから座ってて下さい」
 「なんで?」
 「みんな怖がって近づけないじゃないですかぁー!」
 「ん?」

 真夜から言われた。
 知らないうちに、「石神家バーベキュー」の顔になっていたらしい。
 みんな私を脅えた目で見ていた。

 「みんな、ハロー!」

 微笑み掛けると、ぎこちない顔で笑ってくれた。
 真夜がどんどん焼きながら、私の皿にもどんどん入れてくれる。
 私もどんどん食べるので気付かれないかと思ったが。

 「石神さん、どんだけ喰うんだよ?」
 「アハハハハハ!」

 坂上さんがしっかり見ていた。
 上坂さんや中島さん、矢代さん、そして車やテントで一緒だった人たちも寄って来る。

 「上坂さん、石神さんってあの奇跡の手術をした石神さんの娘なんだってさ」
 「えぇー! 坂上くんの憧れの人だよね?」
 「ああ、びっくりしたよ」

 坂上さんが知らない人たちに、響子ちゃんの手術の話をした。
 タカさんが大好きだと言う坂上さん。
 私はどんどんお酒を勧めた。
 今はビールを飲んでいる。

 「坂上さんって何がお好きですか?」
 「うん、ビールもいいんだけど、日本酒が好きかな」
 「わかりましたー!」

 私は「菊理媛」を取り出して栓を抜いた。
 坂上さんに新しい紙コップで飲んでもらう。

 「美味いな! これ!」
 「でしょ!」

 「「菊理媛」かぁ。知らないなぁ」

 坂上さんがスマホで検索する。

 「なんだこれ!」
 
 一本5万円近い。

 「私、家の食糧大臣ですから!」
 「なんだ?」
 「私が食品の購入や保管を担当してるんです。だから今回持って来ちゃった」
 「石神さん、スゴイね!」
 「ワハハハハハ!」

 お酒が飲める人も飲みたがった。
 みんなに飲ませる。
 私はワイルドターキーを飲んでいたが、一杯自分にも注いだ。
 真夜にも飲ませる。
 ロボにもちょっとあげた。

 「石神さん、お父さんの話をもっと聞かせてくれないかな」
 「いいですよ!」

 「おい! みんな集まってくれ! 石神さんがいい話をしてくれるから!」

 坂上さんが叫んでみんなを集めた。

 「じゃあ頼む!」
 「はい!」

 私は自分がタカさんに引き取られたことを話し、それからいろんな機会にタカさんから昔の話を聞いたのだと言った。

 「優しい人なんですけど、喧嘩が大好きで。だから子どもの頃から警察に捕まることも多くて」
 「へぇー!」
 
 私は山の中にプールを作った話や、中学生の時にロケットを矢田さんと自作してとんでもないことになった話をした。
 みんな大爆笑で聞いてくれた。

 高校生になって暴走族「ルート20」の特攻隊長で、近隣で知らない人間がいないようになったこと。
 刑事佐野さんとの話。
 佳苗さんを助けた話と虎の「レイ」との話をもう一度した。
 みんな笑って泣いてくれた。

 幾らでも話すことはあった。

 9時を回り、一旦片づけをすることになった。
 その後で交代でお風呂に入る。
 10時に解散となり、みんなテントに入って行く。
 飲みたい人間は12時までとし、またテーブルに集まった。
 私も真夜もまだ飲む。
 坂上さん、上坂さん、その他20人くらいが残った。
 残り物がテーブルに集められた。
 肉はない。
 バーベキュー台はまだ火を落としていないので、私が持って来た冷蔵機からマグロの柵を真夜に切らせ、私は車エビやホタテなどを鉄板部分でオリーブオイルで炒め、塩コショウで味付けした。

 「タカさんから、雑な食事はするなと言われているんで」

 家でも酒のつまみは別途作る。
 トマトとモッツァレラチーズでカプレーゼも作った。
 私の手際にみんなが驚いていた。

 みんなで飲み直す。
 お酒が飲めない人もいたが、ソフトドリンクも一杯ある。
 少し寒くなり、ロボが私と真夜の膝の上で横になった。
 またタカさんの話をせがまれて話した。
 上クラの先輩たちもいろいろな話を教えてくれた。

 12時近くになり、みんな黙って星を見た。

 

 ≪あゝ、星がみな降ってくる≫(Oh! Toutes les etoiles tombent!)



 「それはなんだい、石神さん?」
 「前にタカさんに教えてもらったんです。モーリス・メーテルランク『ペレアスとメリザンド』の中の一節です」
 「素敵な言葉ね」
 「タカさんは最高です!」

 みんな嬉しそうな顔をしてテントに入って行った。
 ロボは私と真夜の間に入った。
 真夜となるべくくっついてやると嬉しそうに鳴いた。
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