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亜紀ちゃんのオリ合宿 Ⅱ

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 山間の道に入ると、川が見えて来た。
 道志川だ。

 前を走る坂上さんの車が、脇に入った。
 キャンプ場だ。

 広い駐車場に車を停めて行く。
 みんな車から降りて、それぞれ荷物を降ろして行った。

 「石神さん、手伝うよ」
 「ありがとー」

 ハマーに乗った同クラの子たちが後ろの荷台に来てくれる。
 私が降ろした肉の入った冷蔵ボックスを、二人で持とうとした。

 「何コレ!」
 「全然持ち上がんないよ!」

 「え?」
 
 肉が50キロと、本体が50キロくらいだ。
 私が軽々と肩に担ぐと驚かれた。
 いつもは500キロなのだが。

 「じゃー、行きましょーかー!」
 「う、うん……」

 場所を聞いて走って行った。
 まだまだ荷物はある。
 コンロにテントに、他の食材も。
 真夜がテントを担いで来た。
 他の子たちが二人でコンロを持って来る。
 大分きつそうだ。
 みんながキャンプ場所に着く間に、私が全部他の荷物を運んだ。

 みんなに休んでもらい、私は他の人の荷物の運搬を手伝った。
 ダンボールの食材を両脇に抱えて走る私を見て、みんなが笑った。

 真夜がコンロを組み立て、一部で火を起こした。
 ヤカンを掛けて、お湯を沸かしてくれる。
 荷物を運び終えて、みんなで紅茶を飲んだ。

 「いやー、石神さんのお陰でこんなに早く終わったよ」
 「エヘヘヘヘ!」
 「柿崎さんもありがとうね。紅茶頂くね」
 「はい、どうぞ!」

 真夜はみんなにクッキーを配った。
 こういう気配りは流石だ。

 「みんなが到着するまで、あと1時間くらいかな」
 「どうしようか。テントを組み立てておく?」
 「そうだなー。みんなでやるつもりだったけどなぁ」
 
 「ちょっと、お腹空きません?」

 私が言ってみた。

 「え、さっき相模湖で食べたじゃん!」
 「そうなんですけどー」

 「ほら、亜紀さんってよく動くから、早くお腹が空くんですよ!」

 真夜がフォローしてくれた。

 「あ、そうか! さっきも大活躍だったもんね!」
 「そうそう!」

 「はい!」

 真夜がすぐに1キロのステーキを焼き始めた。
 もちろん、私専用にカットされた肉だ。

 ロボが真夜の足を前足で突く。

 「はい!」

 横で鶏のささみを焼いた。
 
 私がステーキを食べていると、みんなが見ていた。
 後ろを向く。
 ロボも足元で古伊万里のいつもの皿で食べている。
 
 「カワイー!」

 私もニッコリと笑った。

 「亜紀さん! 怖いですって!」

 笑顔がちょっと違うらしい。

 食べ終えて皿を洗ったりしていると、電車組のみんなが到着した。
 最初にみんなで簡単に自己紹介する。
 80人にもなるので、本当に一言だけだ。
 でも、もうほぼ友達だ。
 そしてみんなでテントを組み立て始めた。
 テントはキャンプ場で借りた8人用が10張。
 それに私が持参したクーポラが一つで、6人が余裕をもって寝られる。
 真夜と二人でクーポラを立てた。
 他のテントと比べて、デザインがお洒落だ。
 流石はタカさんが選んだものだ。
 すぐに組み上がったので、他のテントを手伝って行く。
 ほとんどはキャンプが初めての人間で、テントも難渋していた。

 1時間も掛かって、ようやく11張りのテントが揃った。
 くじ引きで割り当てが決まった。
 私と真夜はもちろん一緒で、他に上坂さんと矢代さんという上クラの人、2人の初めての同クラの女の子と一緒になった。

 「あの素敵なテントで良かったー!」
 
 みんな喜んでくれた。
 夕飯までは自由時間で、それぞれのテントでお喋りをしたり、履修の説明などを上クラの先輩たちがしてくれた。
 上坂さんと矢代さんが私たちに履修の組み方などをテントで教えてくれた。
 
 「必修は抽選があるから、必ず忘れないようにね」
 「クラスの役割はね……」
 「「時代錯誤社」の『逆評定』ってあってね……」
 「「シケ対」はね……」


 いろいろなことを教えてくれた。

 「パ長の坂上くんは楽しい人なんだけど、お酒を飲んだら注意してね」
 「どうしてです?」
 「ちょっとね、酔うと女の子に抱き着いて来るから」
 「へぇー」

 楽しくお喋りし、上坂さんが私に言った。

 「柿崎さんも綺麗だけど、石神さんはまた特別に綺麗ね」
 「え! そんな!」
 「亜紀さんは桁が違いますよ」
 「やめてよ、真夜!」
 
 でもみんなが綺麗だと言ってくれて恥ずかしかった。

 「彼氏とかいないの?」
 「あ、タカさん!」
 「亜紀さん、石神さんは父親でしょう」
 「でもタカさん以外いらないもん」
 
 みんなが笑った。

 「あのね、私たちの一つ上に「御堂さん」って人がいてね。あの人も物凄い美人で有名なの」

 上坂さんが言った。

 「え! もしかして柳さん!」
 「知ってるの?」
 「はい! だって一緒に住んでますもん!」
 「えぇー!」

 「柳さんのお父さんがうちのタカさんの親友で、東大に受かってからうちで一緒に住んでいるんですよ」
 「そうなの!」
 「あのさ、ヘンなことを聞くんだけど」
 「なんですか?」
 「こないだ物凄い話題になって当選して、いきなり総理大臣になっちゃった御堂正嗣って、御堂さんの親戚か何かじゃないかなって」
 「ああ、お父さんですよ!」

 「「「「えぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!」」」」

 「あ、不味かったかな?」
 「亜紀さん、ちょっと」
 「あ、今のナシ!」

 みんなが笑った。
 誰にも言わないと約束してくれた。
 上坂さんが、柳さんがモテモテで、いろんな男性に交際を求められているのだと言った。
 
 「ダメですよ。柳さんもタカさん一筋ですから」
 「そうなんだ!」
 
 私は「柳」という名前についての話をみんなにした。
 澪さんが家を飛び出したのをタカさんが助けた話だ。

 「そのことをね、澪さんがずっと感謝してて、「虎」の番(つがい)になってタカさんに恩返しをする名前を付けたんですって」
 「へぇー!」
 「「龍」の字じゃ女の子には難しいから「柳」という名前を考えて」
 「素敵ね!」
 「でも子どもはちょっと重いんじゃ」
 「大丈夫! 柳さんは子どもの頃からタカさんが大好きでベッタリだから!」

 みんなが大笑いした。
 私が柳さんが子どもの頃に川で溺れたのをタカさんが助けた話をした。
 全身血だらけになって、その姿に怯える柳さんに謝ったんだと話すと、みんな涙ぐんでいた。

 「優しい人なのね」
 「そうなんです!」

 


 楽しく話していると、夕飯を作る時間になった。
 午後5時。
 もうお腹ペコペコだった。

 みんなで炊事場に行き、準備を始める。
 ここに来て良かった。
 みんなと仲良くなれた。
 真夜が嬉しそうに私を見て笑っていた。

 「真夜、ありがとう」
 「いいえ!」

 二人で微笑み合った。
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