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亜紀ちゃんのオリ合宿

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 3月30日。
 亜紀ちゃんが東京大学の最初の行事と言ってもいい、オリ合宿(オリエンテーション合宿)に参加した。
 事前に諸団体費は全部支払い、特にオリ合宿には一番期待していた。
 友達がいないことを密かに気にしていたからだ。

 「オリ合宿で友達作るぞー!」

 柳が笑って聞いていた。

 ちなみに、真夜も東大に合格し、亜紀ちゃんと同じ医学部に入った。
 最初から真夜がいるので、亜紀ちゃんは嬉しそうだった。
 柳も先輩でいるから、大学生活に不安もない。
 真夜も交えて一緒に手続きやもうシラバスについても楽しそうに話し合っていた。
 オリ合宿は亜紀ちゃんも真夜もフランス語を第二外国語に選択したので、一緒だ。
 40人のクラスになったらしい。
 最初は「業」との戦いを考えて、ロシア語の選択も考えていたようだ。

 「ロシア語は人数が少ないんだよ。10人くらいの年もあるからな」

 俺が教えると、真剣に悩んだ。

 「フランス語とかドイツ語は多いぞ?」
 「フランス語にする!」

 即決だった。

 「オリ合宿が最初に仲良くなる友達が作れるのよ」

 柳が教えると、亜紀ちゃんが燃えた。

 「参加は任意なんだけど」
 「絶対行く!」

 超即決だった。




 フランス語の亜紀ちゃんのクラスは、山梨県の道志村のキャンプ場に行くようだった。
 亜紀ちゃんも真夜も楽しみにしていた。
 上クラ(一学年上のクラス)に詳しい話を二人で聞きに行き、車とテントを用意出来ることを話したらしい。
 大変喜ばれ、是非借りたいと言われて来た。

 「タカさん! ダッジ・デーモン、あと二人乗せられますよ!」
 「ハマーで行けよ」
 「え、ありがたいですけど、どうしてです?」
 「大量の肉が必要だろう!」
 「ああ!」

 ピザ窯のあるキャンプ場らしい。
 そんなもので亜紀ちゃんが足りるわけがない。
 俺は肉と自前のコンロ(大)を持って行くように言った。

 他に、上クラの先輩2人と同クラ(同じ学年)の女性4人を乗せて行くことになった。
 あとは牛肉50キロと野菜(必須)、酒とコンロ(大)とテント(豪華な「クーポラ」)、それにロボを積んだ。
 ロボの同行は上クラの先輩に断り、許可をもらった。
 ロボがいれば、亜紀ちゃんの人気も高まるだろう。
 
 まあ、楽しみながら、「友達」を作って欲しい。
 多くは電車で向かい、他に3台の車が出るようだった。

 3月30日の朝。
 亜紀ちゃんと真夜、ロボは集合場所の新宿駅の南口ロータリーに向かった。
 そこで上クラの先輩二人と、同乗する同クラの四人をピックアップする。

 「おい、あんまり事件を起こすなよ!」
 「大丈夫ですよ!」
 「真夜、亜紀ちゃんを見張っとけよな」
 「はい!」
 「亜紀ちゃん、いい子ですよ!」
 「人を殺すのは2人までな!」
 「分かりましたー!」

 「ロボも楽しんで来い」
 「にゃー!」

 俺は柳と門で見送った。

 「じゃあ、今日は鬼娘がいないからゆったり食べれるな!」
 「他にも鬼がいるような」
 「ワハハハハハ!」

 夕食は阿佐ヶ谷の「ラ・モリーユ」に行く予定だ。
 貸し切りにしてある。
 石神家が喰い過ぎだからだ。
 フレンチレストランだが、味がよく、そして安い。
 サービスが良くて、こちらのオーダーを快く引き受けてくれた。
 要は肉を大量に、ということだが。

 柳と肩を組んで中に入り、のんびり過ごした。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「石神さん、今日はよろしくお願いします」
 
 上クラの上坂さとみさんが同じ上クラの中島京美さんと挨拶して来た。

 「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
 「それにしてもスゴイ車ね!」
 「父のものを借りて来ました! 食材も一杯積んでますよ!」
 「そう、助かるわ。後で清算するからね」
 「いいえ! パ長(コンパ長)の方にもお話ししてますが、今回はうちの持ちこみで」
 「そんな、悪いよ!」
 「いえ、あの、あのですね。私、ちょっと大食いなもので」
 「えぇー!」
 「アハハハハハ」

 真夜が話す。

 「見てもらえば分かりますが、半端ないですから」
 「真夜ー!」
 「肉なら10キロは食べます。みなさんと一緒だと、とんでもないことになるんで」
 「「!」」

 「そ、そんなことないですよ。ちゃんと5キロで抑えることも出来ますから!」
 「「!」」

 「まあ、とにかく出発しましょう」

 真夜が同クラの4人を連れて来て挨拶し、車に乗り込んだ。

 「あ! ネコがいるー!」

 上坂さんが叫んだ。

 「にゃー」
 
 「ロボといううちのネコなんですよ。今日は連れて来ちゃいました」
 「そうなんだ! カワイイね!」
 
 みんなが後部シートにいたロボを呼ぶ。
 ロボはトコトコと来て、全員に身体をこすりつけた。

 「随分と人懐っこいのね」
 「ええ、そうなんですよ! 可愛がってあげてください!」

 車組の集合は相模湖だ。
 私はエンジンを吹かして出発した。




 相模湖には1時間も掛からずに着いた。
 車の中でいろいろな話が出来た。
 もうこの6人とは「仲良し」だ。
 友達と言ってもいいんじゃないか?

 真夜も楽しそうに話していた。
 主に上坂さんたちが、入学後の流れから授業の取り方、サークルの話などをしてくれる。
 私たちは真剣に聞きながら、楽しく会話した。

 「石神さんは、どうして医学部に入ったの?」
 「はい! 父が医者なんで! あ、父と言っても血の繋がりは無いんです。うちのお父さんの親友で、事故で両親が急に亡くなってしまい、私たち四人兄弟を引き取ってくれたんです」
 「そうなんだ」

 上坂さんがちょっと暗い顔になってしまった。

 「でも、本当に毎日楽しいんですよ! タカさん、あ、父のことですが、タカさんが楽しい人で!」
 「そうなの!」
 「大きな病院で外科部長で、理事もしてるんです」
 「ああ、立派な方なのね」
 「そうなんですよ!」

 「真夜さんは?」
 「私は亜紀さんと一緒にいたくて」
 「へぇー」
 「真夜!」
 「亜紀さんは最高です。優しくて強くて」
 「二人は親友なのね」
 「「はい!」」

 嬉しかった。

 「あ! でも、もっといろんな人とも友達になりたいです!」
 「そうね」
 「みなさん! よろしくお願いします!」

 みんな明るく返事してくれた。
 よし、友達ゲットだ!

 相模湖で他の3台の車と合流した。
 駐車場に停めて、みんなで買い出しに行く。
 みんな上クラの人たちだった。

 「石神さん、今日は食事も提供してもらってありがとうね」

 上クラでパ長の坂上さんが言った。

 「とんでもないです! 今日はよろしくお願いします」
 「こちらこそ。でも凄い車だねぇ」
 「アハハハハハ!」
 「上坂さんに聞いたよ。お父さんの車なんだって?」
 「はい!」
 「こんなのに乗ってるんだ」
 「あ、他にもアヴェンタドールとかベンツのロードスターとか、大改造したシボレー・コルベットとか。あ、最近はブガッティの特別車を注文してて」
 「へぇー! 凄い車好きなんだね」
 「はい!」

 坂上さんとも仲良くなった。
 もう友達だ。

 台車を借りて野菜のダンボールなどを運んでいるのを見掛けた。
 駆け寄って全部持つ。

 「私、運びますから!」
 
 全員が驚いていた。
 拍手が湧いた。
 
 「エヘヘヘヘ!」

 四台の車で連なって、道志村のキャンプ場へ向かった。




 「真夜! 楽しいね!」
 「はい!」




 真夜が明るく笑った。
 やっぱり、真夜が最高の友達だ。
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