1,476 / 2,818
羽入と紅 Ⅱ
しおりを挟む
「お前! 幾ら何でも弱すぎだろう!」
俺はすぐにダメージを確認した。
何も不味くは無い。
吹っ飛ばされたが、どこも壊れてはいない。
桜さんも、まだ止めてはいない。
ならば。
俺はゆっくりと紅に近づいた。
両手を前方に構えている。
紅が俺の左側に回り込んで行く。
スピードは無い。
俺は3メートルの距離で止まり、移動する紅を前方に維持していく。
突然紅が右方向へダッシュした。
俺は右手を振るって、吹っ飛ばされた時に拾っておいた小石を投げた。
紅の前に小石が拡がった。
「てめぇ!」
紅は叫んだ。
俺は投げたと同時に紅に「縮地」で迫り、紅の鳩尾に前蹴りを放った。
今度は紅が吹っ飛んで行く。
しかし衝撃はそれほど伝わっていない。
どういう身体操作か、紅は蹴りの衝撃を全身に逃がしていた。
派手に転がっては行ったが。
「ざまぁ!」
俺はダメージはないが無様に転がった紅を嘲笑った。
紅が真直ぐに突っ込んで来る。
俺はその右側に向かって跳んだ。
交差する一瞬で、互いに撃ち込み合う。
右肩に衝撃を感じながら、俺は紅のレバーにブローを突っ込んだ。
二人とも大したダメージはないが、俺の方が急所を突いた分有利だった。
しかし紅はあり得ない身体の回転で、俺のこめかみにハイキックを放って来た。
回避出来なかった。
咄嗟に不動明王真言を唱えた。
今度はまともに喰らってしまった。
《ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダマカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン》
頭が真っ白になり、俺は何も考えられなくなった。
「まずい! 霧島の奴やりやがった!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「桜、霧島を止めろ」
「はい!」
千両が桜に命じた。
霧島は紅のハイキックを喰らい、横に吹っ飛んだ。
しかし何のダメージもなかったかのように立ち上がった。
それまでと雰囲気が違う。
追撃しようとしていた紅も、何かを感じて後ろへ跳んだ。
霧島は紅を見ていない。
しかし、霧島は一気に紅の前に跳び、無数の攻撃を放った。
紅は防御に全力を注いでいた。
恐らく、一発でも入れば相当なダメージを喰らう。
桜は霧島に迫ったが、蹴り一つで距離を取らされた。
その間にも一瞬の隙も出来ず、紅は防御に専念していた。
徐々に紅の動きが鈍って来る。
激突と同時に何かをされているようだった。
桜が裂帛の気合で霧島を怒鳴った。
「それまで!」
霧島が突然倒れた。
両手両足から血が噴き出していた。
空いている部屋に布団が敷かれ、霧島が寝かされた。
俺が処置をした。
圧迫止血するとすぐに血は止まり、打撲傷はあるが大したものではなかった。
結局、「Ω軟膏」を塗ってやっただけだ。
紅は自己診断モードに入っていたが、それも異常が無く終わった。
何かの電磁的なものを撃ち込まれていたようだった。
蓮花が紅を解析して、そのようなことを言っていた。
「千両、羽入のあの状態はなんだ?」
「はい。あれは特殊な拳法のようで、真言を唱えることで一時的にリミッターを外すようです」
「それだけではないようだったがな」
「はい。詳しくは存じませんが、随分と古い流派だそうです」
「そうか」
羽入もあまり話していないのだろう。
これまで羽入が戦った敵には、あのモードが必要になる者がいなかったのだと思った。
羽入は尋常では無い強さを持っていた。
紅が本気に近い戦闘モードになったにも関わらず、それで潰されなかった。
羽入は30分程で目を覚ました。
「どうだ、気分は?」
「あ、石神さん! すいません!」
羽入が慌てて布団の上に正座した。
「いいよ、大丈夫か?」
「はい。まあ、全身が痛いんですが」
筋肉の限界を超えて動いたためだろう。
それにあの激しい攻撃の最中、呼吸を殆どしていない。
倒れたのは、多分酸欠が要因だ。
大丈夫そうだったので、羽入を連れて千両の部屋へ戻った。
紅と蓮花も来た。
「二人とも、やり合って分かったか?」
「はい。この男が全然ダメなことは十分に」
「なんだと!」
桜が止めようとしたが、俺が大笑いしたので何もしなかった。
「まあ、分かったのならそれでいい」
「石神さん!」
「お前らがどう思おうと、俺の命令は変わらん。お前たちは東京で一緒に暮らし、一緒に戦うのだ」
「石神様の仰せのままに」
「わ、分かりました」
羽入は渋々納得した。
「ああ、羽入。言い忘れていたんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「この紅はアンドロイドだ。人間の女じゃねぇからな」
「えぇ!」
「お前が惚れ込んでも、何もできねぇぞ」
「そんな! とんでもないですよ!」
「綺麗な女だろう?」
「そりゃまあ。ちょっとシャーリーズ・セロンに似てるなとは思いましたが」
俺は蓮花を顔を見合わせて、どうなんだと話し合った。
まあ、シャーリーズ・セロンも俺は好きなのだが。
「とにかく、お前らは一緒に暮らせ。別に仲良くなる必要はねぇ。一緒に暮らして一緒に戦えばそれでいい」
「「はい!」」
「羽入! お前も身辺整理があるだろう。二日後に来い!」
「はい!」
俺は蓮花と一緒に紅を連れて帰った。
ハマーの中で紅に話し掛けた。
「紅、霧島羽入はどうだ?」
「全然ダメですね。本当の戦場じゃ生き残れませんよ」
「そうか」
紅は「生き残れない」と言った。
使い物にならないとは言わなかった。
誰かが守らなければならないことを示唆していた。
そして、それを自分の役目だと認識している。
「甘い人間です」
「そうか」
「あいつ、私の顔にはただの一度も攻撃して来ませんでした」
「そうだな」
紅が黙った。
バックミラーで、幽かに微笑む紅の顔が見えた。
蓮花も振り返って微笑んでいた。
「羽入のことを宜しく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!」
蓮花がやっぱり「ツンデレ」というものではないのかと俺に小声で言って来た。
そうかもしれないと言うと、蓮花が笑った。
紅は目を閉じて黙っていた。
今日の戦闘を解析しているのだろう。
紅も結構本気を出していた。
人間ではあり得ない関節の動きで攻撃していた。
それを出す相手は、全力で掛からねばならない敵に限る。
そういう動きを見せれば、相手に対抗策を練られてしまうためだ。
だから、出したからには相手を潰さなければならない。
しかし、羽入は甦って来た。
遙かに強くなって。
紅もまた攻撃を進化させる。
二人の成長が楽しみだった。
今は四月の上旬。
桜は散り、新しい息吹がいよいよ本格的に目覚めていく季節。
いがみ合いから始まったこの二人が、今後どのような関係になっていくのか楽しみだった。
俺はすぐにダメージを確認した。
何も不味くは無い。
吹っ飛ばされたが、どこも壊れてはいない。
桜さんも、まだ止めてはいない。
ならば。
俺はゆっくりと紅に近づいた。
両手を前方に構えている。
紅が俺の左側に回り込んで行く。
スピードは無い。
俺は3メートルの距離で止まり、移動する紅を前方に維持していく。
突然紅が右方向へダッシュした。
俺は右手を振るって、吹っ飛ばされた時に拾っておいた小石を投げた。
紅の前に小石が拡がった。
「てめぇ!」
紅は叫んだ。
俺は投げたと同時に紅に「縮地」で迫り、紅の鳩尾に前蹴りを放った。
今度は紅が吹っ飛んで行く。
しかし衝撃はそれほど伝わっていない。
どういう身体操作か、紅は蹴りの衝撃を全身に逃がしていた。
派手に転がっては行ったが。
「ざまぁ!」
俺はダメージはないが無様に転がった紅を嘲笑った。
紅が真直ぐに突っ込んで来る。
俺はその右側に向かって跳んだ。
交差する一瞬で、互いに撃ち込み合う。
右肩に衝撃を感じながら、俺は紅のレバーにブローを突っ込んだ。
二人とも大したダメージはないが、俺の方が急所を突いた分有利だった。
しかし紅はあり得ない身体の回転で、俺のこめかみにハイキックを放って来た。
回避出来なかった。
咄嗟に不動明王真言を唱えた。
今度はまともに喰らってしまった。
《ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダマカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン》
頭が真っ白になり、俺は何も考えられなくなった。
「まずい! 霧島の奴やりやがった!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「桜、霧島を止めろ」
「はい!」
千両が桜に命じた。
霧島は紅のハイキックを喰らい、横に吹っ飛んだ。
しかし何のダメージもなかったかのように立ち上がった。
それまでと雰囲気が違う。
追撃しようとしていた紅も、何かを感じて後ろへ跳んだ。
霧島は紅を見ていない。
しかし、霧島は一気に紅の前に跳び、無数の攻撃を放った。
紅は防御に全力を注いでいた。
恐らく、一発でも入れば相当なダメージを喰らう。
桜は霧島に迫ったが、蹴り一つで距離を取らされた。
その間にも一瞬の隙も出来ず、紅は防御に専念していた。
徐々に紅の動きが鈍って来る。
激突と同時に何かをされているようだった。
桜が裂帛の気合で霧島を怒鳴った。
「それまで!」
霧島が突然倒れた。
両手両足から血が噴き出していた。
空いている部屋に布団が敷かれ、霧島が寝かされた。
俺が処置をした。
圧迫止血するとすぐに血は止まり、打撲傷はあるが大したものではなかった。
結局、「Ω軟膏」を塗ってやっただけだ。
紅は自己診断モードに入っていたが、それも異常が無く終わった。
何かの電磁的なものを撃ち込まれていたようだった。
蓮花が紅を解析して、そのようなことを言っていた。
「千両、羽入のあの状態はなんだ?」
「はい。あれは特殊な拳法のようで、真言を唱えることで一時的にリミッターを外すようです」
「それだけではないようだったがな」
「はい。詳しくは存じませんが、随分と古い流派だそうです」
「そうか」
羽入もあまり話していないのだろう。
これまで羽入が戦った敵には、あのモードが必要になる者がいなかったのだと思った。
羽入は尋常では無い強さを持っていた。
紅が本気に近い戦闘モードになったにも関わらず、それで潰されなかった。
羽入は30分程で目を覚ました。
「どうだ、気分は?」
「あ、石神さん! すいません!」
羽入が慌てて布団の上に正座した。
「いいよ、大丈夫か?」
「はい。まあ、全身が痛いんですが」
筋肉の限界を超えて動いたためだろう。
それにあの激しい攻撃の最中、呼吸を殆どしていない。
倒れたのは、多分酸欠が要因だ。
大丈夫そうだったので、羽入を連れて千両の部屋へ戻った。
紅と蓮花も来た。
「二人とも、やり合って分かったか?」
「はい。この男が全然ダメなことは十分に」
「なんだと!」
桜が止めようとしたが、俺が大笑いしたので何もしなかった。
「まあ、分かったのならそれでいい」
「石神さん!」
「お前らがどう思おうと、俺の命令は変わらん。お前たちは東京で一緒に暮らし、一緒に戦うのだ」
「石神様の仰せのままに」
「わ、分かりました」
羽入は渋々納得した。
「ああ、羽入。言い忘れていたんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「この紅はアンドロイドだ。人間の女じゃねぇからな」
「えぇ!」
「お前が惚れ込んでも、何もできねぇぞ」
「そんな! とんでもないですよ!」
「綺麗な女だろう?」
「そりゃまあ。ちょっとシャーリーズ・セロンに似てるなとは思いましたが」
俺は蓮花を顔を見合わせて、どうなんだと話し合った。
まあ、シャーリーズ・セロンも俺は好きなのだが。
「とにかく、お前らは一緒に暮らせ。別に仲良くなる必要はねぇ。一緒に暮らして一緒に戦えばそれでいい」
「「はい!」」
「羽入! お前も身辺整理があるだろう。二日後に来い!」
「はい!」
俺は蓮花と一緒に紅を連れて帰った。
ハマーの中で紅に話し掛けた。
「紅、霧島羽入はどうだ?」
「全然ダメですね。本当の戦場じゃ生き残れませんよ」
「そうか」
紅は「生き残れない」と言った。
使い物にならないとは言わなかった。
誰かが守らなければならないことを示唆していた。
そして、それを自分の役目だと認識している。
「甘い人間です」
「そうか」
「あいつ、私の顔にはただの一度も攻撃して来ませんでした」
「そうだな」
紅が黙った。
バックミラーで、幽かに微笑む紅の顔が見えた。
蓮花も振り返って微笑んでいた。
「羽入のことを宜しく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!」
蓮花がやっぱり「ツンデレ」というものではないのかと俺に小声で言って来た。
そうかもしれないと言うと、蓮花が笑った。
紅は目を閉じて黙っていた。
今日の戦闘を解析しているのだろう。
紅も結構本気を出していた。
人間ではあり得ない関節の動きで攻撃していた。
それを出す相手は、全力で掛からねばならない敵に限る。
そういう動きを見せれば、相手に対抗策を練られてしまうためだ。
だから、出したからには相手を潰さなければならない。
しかし、羽入は甦って来た。
遙かに強くなって。
紅もまた攻撃を進化させる。
二人の成長が楽しみだった。
今は四月の上旬。
桜は散り、新しい息吹がいよいよ本格的に目覚めていく季節。
いがみ合いから始まったこの二人が、今後どのような関係になっていくのか楽しみだった。
1
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる