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みんなでテレビを
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左門とリーが帰って、俺はロボとのんびりとした。
部屋で寝転んで本を読んでいると、御堂から電話が来た。
「おう! いよいよ明日だな!」
「ああ。期日前投票も不在者投票もどんどん来ているらしいよ。今回の選挙は投票率が過去最高になるよ」
「当然だな! 御堂が出るんだからな!」
「アハハハハ! でも嬉しいよね?」
「そうだな。今選挙事務所か?」
「うん、もう離れられないよ」
「車で選挙区を回るとか言って、サボればいいじゃんか」
「なるほど! 発想になかった」
「お前は真面目だよなぁ」
御堂の声は疲れを感じさせなかった。
慌ただしいのだろうが、元気なようで安心した。
「澪さんも大変だろう」
「ああ、来客が途切れないからな。応対で苦労を掛けるよ」
「正巳さんは?」
「親父はこういうのに慣れているからね。それに今回は僕に会いに来る人間が多いから。親父の方にはそれほど行って無いみたいだ」
「そうか」
選挙区が被らないように、二人は別な事務所を構えている。
山梨の二つの選挙区に分かれているのだ。
「石神、僕はいよいよお前を助ける仕事が出来るよ」
「頼むぜ、親友!」
「任せろ!」
御堂は気合が入っていた。
政治家になって欲しいと言った時には戸惑っていたが、今は違う。
自分が何をするのかをはっきりと見据えている。
自分の道を決めたのだ。
俺は忙しいだろうからと、電話を切った。
「あれ? タカさん、出掛けるんですか?」
「ああ。夕方までには帰るよ」
「そうですか、いってらっしゃーい!」
俺はライダースーツを着て、スーパーレッジェーラに跨った。
無性に奈津江に会いたくなった。
まだ少し寒いが大型エンジンの熱が心地よい。
先行車をどんどん追い抜きながら、軽快に走った。
30分程で、奈津江の墓のある寺に着いた。
近所の花屋で見繕って花を買い、本堂に賽銭を投げてから紺野家の墓に行った。
墓を丁寧に洗い、線香を焚く。
「奈津江、御堂が総理大臣になるんだぞ」
俺は奈津江に話し掛けた。
「こないだ、子どもたちに昔みんなで羽田空港に行った話をしたんだ。あの時には誰も想像もしなかったよなぁ。俺もまさかと思ってるよ」
「明日総選挙なんだ。もう確実なんだけどな。いろいろ手を尽くしたよ。ああ、テレビまで出たんだぞ。お前と一緒に出てから二度目だよ。まあ、今回は変装してたけどな」
「御堂がさ、堂々としちゃって、もう総理大臣の風格があるんだぜ? お前にも見せたかったよ。立派になっちゃってまぁ」
俺は笑った。
「あの大人しい御堂がだぜ! 「僕は日本を変えたい!」なんて言うんだよ。なあ、おかしいよな?」
話すことは幾らでもあった。
「お前が死んじゃって、山中と奥さんも死んじゃって。御堂は総理大臣だ。ああ、俺はヤクザ社会の頂点だし、謎の軍団の総司令官だ。アハハハハ! あの時誰も考えなかったし、俺たちもそんなものになりたくも無かったんだけどな。まったく人生は儘ならないぜ」
「お前、俺のお嫁さんって言ってたじゃないか。どうしてこうなっちゃったかなぁ。それが一番さ……まあ、しょうがないか。俺が悪かったんだよな」
「でも、今でも思うよ。あの日、奈津江がそう言ってくれてさ。俺は最高に嬉しかった。あんなに嬉しかったのは他にないよ。御堂がいて、山中がいて、栞がいて。その中で俺たちは一番の夢を語ったんだ。最高だよ。なあ、そうだろう?」
「俺はあの日があったから、何とかここまで来たのかもしれないな。夢はさ、果たせなくてもしょうがないと思うよ。でもさ、夢を見てそこへ向かおうとした俺たちが確かにいた。今はこんなだけど、それでもあの日の俺たちは永遠に消えない」
俺は立ち上がって墓を見た。
「奈津江、愛している。今も、これからもずっと」
俺はその足で、足立区の山中たちの眠る墓にも寄った。
同じく墓を洗い、花を活けて線香を焚いた。
「山中、奥さん、子どもたちは元気だぞ。もう大きくなっちゃって、俺も振り回されることが多いよ。本当に元気でいい子たちだ」
「それでな、御堂が衆院議員になって、それでよ、総理大臣になるんだぜ! お前、信じられるかよ!」
「御堂がさ、亜紀ちゃんと皇紀に祝いの品をくれたんだ。亜紀ちゃんは東大医学部に合格したのな。それで御堂から金の虎の置物をもらった。喜んでたよ」
「皇紀はさ、散々進学を勧めたんだけど、あいつもう道を決めていてな。研究者としてこれからやって行くんだと。もう学校で教わるようなことは無いからって、中学を卒業したら研究者としてやって行くんだ。やっぱりお前の子どもだよ。俺も進学させようと思ってたけど、皇紀の決意に感動しちゃった」
「それでな、御堂が皇紀に写真を額装してくれたんだ。あの、俺と御堂がお前の家に行った時に撮った写真だ! 御堂がカメラを持って来て撮ってくれたじゃない。三脚まで持って来ててさ。あの写真だよ。お前の家の前でみんなで撮った。懐かしくて泣きそうになったぜ!」
「お前と奥さんがルーとハーを抱いて真ん中にいてさ。亜紀ちゃんと皇紀がその両側で。俺と御堂が両端にいるさ。みんな笑ってた。自然にな。みんなあそこで幸せだった。いい家だったよなぁ!」
「悪いな。今思えばあの家も買って残しておけばよかった。俺は子どもたちを引き取った時に、早く新しい生活に慣れて欲しいと思ったからな。前の家まで残すことは考えて無かったんだ」
「家具とか持って来れるものは全部残したんだけどな。こないだ行ったら取り壊されて、アパートになってた。御堂から写真を貰って後悔したよ。みんなの思い出が詰まっている家だったのにな。ごめんな」
「亜紀ちゃんがさ、時々家具なんかを見ているよ。俺がいると遠慮してるのか、あまり部屋には入らないんだけどな。皇紀や双子も時々見ている。みんな忘れて無いよ。今でもお前と奥さんを慕ってる。当たり前だけどな! お前たちだもんな!」
「三人掛けのソファさ。俺が行くといつも座らせてくれたよな。お前と奥さんは後ろのキッチンのテーブルに座ってみんなでテレビを観てさ。俺は亜紀ちゃんたちに群がられてさ!」
「亜紀ちゃんとルーが俺の膝に乗って、ハーが俺の肩に乗って。皇紀はいつも他の連中に譲って俺の足の間に座ってたよな。そうなると、もう何を見たって、何でも面白かったよな! 最高に楽しかった! 本当にいい家だった!」
「ああ、俺もああいう家にしたいな! 何があるとか無いとかじゃなくてさ。みんがいるだけでいいっていうな。お前の家は最高だったよ」
「じゃあ、また来るな。今度は御堂も一緒に連れて来るよ。じゃあ、またな!」
俺は家に戻り、みんなで夕飯を食べた。
今日は鳥鍋で、味噌仕立てだった。
みんなで楽しく奪い合って食べた。
夕飯の後、俺はリヴィングのテレビの前のソファにみんなを誘った。
ソファは四人掛けだ。
亜紀ちゃんと柳を膝に乗せ、ルーとハーは片足ずつ肩に掛けさせた。
皇紀は足の間に座らせ、ロボは亜紀ちゃんと柳の膝の上に乗せた。
「タカさん、狭いですよ」
「いいからこのままテレビを観るぞ!」
「アハハハハハ!」
テレビはどこの明日の選挙に関する番組だった。
自由党の圧倒勝利が予想され、そこから御堂の新リーダー体制についての話題が中心になっている。
狭い姿勢だったが、子どもたちはみんなテレビに夢中になり、ワイワイと騒ぎながら観ていた。
御堂や俺が出て来るとみんなで騒いだ。
「あ! なんか昔、こうやってテレビ観てましたよね!」
亜紀ちゃんが気付いた。
皇紀も双子も思い出した。
「石神さん! うちに来た時も、いつも私を膝に乗せてくれてましたよね!」
「お前が勝手に乗って来たんだろう」
「えぇー!」
みんなが笑った。
子どもたちの笑い声や騒ぐ声の中で、俺は後ろのテーブルで笑っている声を聞いた気がした。
子どもたちにくっつかれて、生憎振り向くことは出来なかった。
でも、俺は温かい、幸せな気分になった。
部屋で寝転んで本を読んでいると、御堂から電話が来た。
「おう! いよいよ明日だな!」
「ああ。期日前投票も不在者投票もどんどん来ているらしいよ。今回の選挙は投票率が過去最高になるよ」
「当然だな! 御堂が出るんだからな!」
「アハハハハ! でも嬉しいよね?」
「そうだな。今選挙事務所か?」
「うん、もう離れられないよ」
「車で選挙区を回るとか言って、サボればいいじゃんか」
「なるほど! 発想になかった」
「お前は真面目だよなぁ」
御堂の声は疲れを感じさせなかった。
慌ただしいのだろうが、元気なようで安心した。
「澪さんも大変だろう」
「ああ、来客が途切れないからな。応対で苦労を掛けるよ」
「正巳さんは?」
「親父はこういうのに慣れているからね。それに今回は僕に会いに来る人間が多いから。親父の方にはそれほど行って無いみたいだ」
「そうか」
選挙区が被らないように、二人は別な事務所を構えている。
山梨の二つの選挙区に分かれているのだ。
「石神、僕はいよいよお前を助ける仕事が出来るよ」
「頼むぜ、親友!」
「任せろ!」
御堂は気合が入っていた。
政治家になって欲しいと言った時には戸惑っていたが、今は違う。
自分が何をするのかをはっきりと見据えている。
自分の道を決めたのだ。
俺は忙しいだろうからと、電話を切った。
「あれ? タカさん、出掛けるんですか?」
「ああ。夕方までには帰るよ」
「そうですか、いってらっしゃーい!」
俺はライダースーツを着て、スーパーレッジェーラに跨った。
無性に奈津江に会いたくなった。
まだ少し寒いが大型エンジンの熱が心地よい。
先行車をどんどん追い抜きながら、軽快に走った。
30分程で、奈津江の墓のある寺に着いた。
近所の花屋で見繕って花を買い、本堂に賽銭を投げてから紺野家の墓に行った。
墓を丁寧に洗い、線香を焚く。
「奈津江、御堂が総理大臣になるんだぞ」
俺は奈津江に話し掛けた。
「こないだ、子どもたちに昔みんなで羽田空港に行った話をしたんだ。あの時には誰も想像もしなかったよなぁ。俺もまさかと思ってるよ」
「明日総選挙なんだ。もう確実なんだけどな。いろいろ手を尽くしたよ。ああ、テレビまで出たんだぞ。お前と一緒に出てから二度目だよ。まあ、今回は変装してたけどな」
「御堂がさ、堂々としちゃって、もう総理大臣の風格があるんだぜ? お前にも見せたかったよ。立派になっちゃってまぁ」
俺は笑った。
「あの大人しい御堂がだぜ! 「僕は日本を変えたい!」なんて言うんだよ。なあ、おかしいよな?」
話すことは幾らでもあった。
「お前が死んじゃって、山中と奥さんも死んじゃって。御堂は総理大臣だ。ああ、俺はヤクザ社会の頂点だし、謎の軍団の総司令官だ。アハハハハ! あの時誰も考えなかったし、俺たちもそんなものになりたくも無かったんだけどな。まったく人生は儘ならないぜ」
「お前、俺のお嫁さんって言ってたじゃないか。どうしてこうなっちゃったかなぁ。それが一番さ……まあ、しょうがないか。俺が悪かったんだよな」
「でも、今でも思うよ。あの日、奈津江がそう言ってくれてさ。俺は最高に嬉しかった。あんなに嬉しかったのは他にないよ。御堂がいて、山中がいて、栞がいて。その中で俺たちは一番の夢を語ったんだ。最高だよ。なあ、そうだろう?」
「俺はあの日があったから、何とかここまで来たのかもしれないな。夢はさ、果たせなくてもしょうがないと思うよ。でもさ、夢を見てそこへ向かおうとした俺たちが確かにいた。今はこんなだけど、それでもあの日の俺たちは永遠に消えない」
俺は立ち上がって墓を見た。
「奈津江、愛している。今も、これからもずっと」
俺はその足で、足立区の山中たちの眠る墓にも寄った。
同じく墓を洗い、花を活けて線香を焚いた。
「山中、奥さん、子どもたちは元気だぞ。もう大きくなっちゃって、俺も振り回されることが多いよ。本当に元気でいい子たちだ」
「それでな、御堂が衆院議員になって、それでよ、総理大臣になるんだぜ! お前、信じられるかよ!」
「御堂がさ、亜紀ちゃんと皇紀に祝いの品をくれたんだ。亜紀ちゃんは東大医学部に合格したのな。それで御堂から金の虎の置物をもらった。喜んでたよ」
「皇紀はさ、散々進学を勧めたんだけど、あいつもう道を決めていてな。研究者としてこれからやって行くんだと。もう学校で教わるようなことは無いからって、中学を卒業したら研究者としてやって行くんだ。やっぱりお前の子どもだよ。俺も進学させようと思ってたけど、皇紀の決意に感動しちゃった」
「それでな、御堂が皇紀に写真を額装してくれたんだ。あの、俺と御堂がお前の家に行った時に撮った写真だ! 御堂がカメラを持って来て撮ってくれたじゃない。三脚まで持って来ててさ。あの写真だよ。お前の家の前でみんなで撮った。懐かしくて泣きそうになったぜ!」
「お前と奥さんがルーとハーを抱いて真ん中にいてさ。亜紀ちゃんと皇紀がその両側で。俺と御堂が両端にいるさ。みんな笑ってた。自然にな。みんなあそこで幸せだった。いい家だったよなぁ!」
「悪いな。今思えばあの家も買って残しておけばよかった。俺は子どもたちを引き取った時に、早く新しい生活に慣れて欲しいと思ったからな。前の家まで残すことは考えて無かったんだ」
「家具とか持って来れるものは全部残したんだけどな。こないだ行ったら取り壊されて、アパートになってた。御堂から写真を貰って後悔したよ。みんなの思い出が詰まっている家だったのにな。ごめんな」
「亜紀ちゃんがさ、時々家具なんかを見ているよ。俺がいると遠慮してるのか、あまり部屋には入らないんだけどな。皇紀や双子も時々見ている。みんな忘れて無いよ。今でもお前と奥さんを慕ってる。当たり前だけどな! お前たちだもんな!」
「三人掛けのソファさ。俺が行くといつも座らせてくれたよな。お前と奥さんは後ろのキッチンのテーブルに座ってみんなでテレビを観てさ。俺は亜紀ちゃんたちに群がられてさ!」
「亜紀ちゃんとルーが俺の膝に乗って、ハーが俺の肩に乗って。皇紀はいつも他の連中に譲って俺の足の間に座ってたよな。そうなると、もう何を見たって、何でも面白かったよな! 最高に楽しかった! 本当にいい家だった!」
「ああ、俺もああいう家にしたいな! 何があるとか無いとかじゃなくてさ。みんがいるだけでいいっていうな。お前の家は最高だったよ」
「じゃあ、また来るな。今度は御堂も一緒に連れて来るよ。じゃあ、またな!」
俺は家に戻り、みんなで夕飯を食べた。
今日は鳥鍋で、味噌仕立てだった。
みんなで楽しく奪い合って食べた。
夕飯の後、俺はリヴィングのテレビの前のソファにみんなを誘った。
ソファは四人掛けだ。
亜紀ちゃんと柳を膝に乗せ、ルーとハーは片足ずつ肩に掛けさせた。
皇紀は足の間に座らせ、ロボは亜紀ちゃんと柳の膝の上に乗せた。
「タカさん、狭いですよ」
「いいからこのままテレビを観るぞ!」
「アハハハハハ!」
テレビはどこの明日の選挙に関する番組だった。
自由党の圧倒勝利が予想され、そこから御堂の新リーダー体制についての話題が中心になっている。
狭い姿勢だったが、子どもたちはみんなテレビに夢中になり、ワイワイと騒ぎながら観ていた。
御堂や俺が出て来るとみんなで騒いだ。
「あ! なんか昔、こうやってテレビ観てましたよね!」
亜紀ちゃんが気付いた。
皇紀も双子も思い出した。
「石神さん! うちに来た時も、いつも私を膝に乗せてくれてましたよね!」
「お前が勝手に乗って来たんだろう」
「えぇー!」
みんなが笑った。
子どもたちの笑い声や騒ぐ声の中で、俺は後ろのテーブルで笑っている声を聞いた気がした。
子どもたちにくっつかれて、生憎振り向くことは出来なかった。
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