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左門とリー

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 土曜日の昼。
 左門とリーが遊びに来た。
 時々、土曜の昼を一緒に食べている。
 今日はステーキウドンだ。
 俺がステーキ蕎麦ばかり喰うなと言ったからそうなった。

 「……」

 焼きウドンの上にでかいステーキが乗っている。
 俺は外しているが、左門たちは喜んで食べていた。

 「トラ兄さん、渋谷の事件は大変だったね」
 「ああ。あの無差別憑依はヤバかったな」
 「御堂さんの決断があったから」
 「そうだ。まあ、困った奴だと思ったけどな」
 「本当にね。でも、僕たちの間では大評判だよ。これまで自分の命を懸けるような政治家っていなかったからね」
 「そうだけどなぁ。でも、政治家って、元々はそういうものだったんだけどな」
 「そうなの?」

 子どもたちもどんどん替えステーキをしながら、俺たちの会話を聞いている。
 
 「例えば明治の大久保利通な。あの人は自分は武士だから、護衛はいらないと言っていたんだ。それで紀尾井坂で暗殺された」
 「滅多斬りだったそうですね」
 「そうだ。一言「無礼者!」と叫んで、六人にこれでもかと斬られた。ああいう人間が真の政治家だ。当時はみんな熱いからな。気に入らなければ斬るって連中が全国にいたよ。それでもビクビクしないで堂々と自分の信念を貫いた。後から色々と言う奴もいるが、俺は「じゃあお前がやってみろ」と言いたい」
 「御堂さんは命を懸けているんですね」
 「そうだ。ああいう奴は本当に狙われるんだけどな。だから俺たちが守ると決めている」

 リーがステーキだけ食べ始めた。
 ウドンは必要無いと気付いた。

 「トラ兄さんは、いつ表に出るの?」
 「分からん。俺なんかは出なくてもいいと思っているけどな」
 「そうかー。トラ兄さんが表に出たら、大評判だと思うけどなー」

 俺は笑った。

 「大評判なんて冗談じゃないよ。俺はそんな人間じゃないからな」
 「そんなことないよ!」
 「左門にもいろいろ話してやっただろう。俺のガキの頃のこととかさ。とんでもないワルガキだったんだ。今だってそうだよ。親友の子どもを引き取って、奴隷にしてんだからな!」
 「みんなステーキ食べてるよ?」
 「なに! 雑草じゃねぇのか!」

 みんな笑った。

 「なんで奴隷がステーキ食べて、俺が焼きウドンなんだよ」
 「アハハハハハ!」

 柳が俺と左門にコーヒーを淹れて来た。
 リーはまだステーキを食べている。

 「明日の選挙は楽しみだね」
 「そうか」
 「アレ? トラ兄さんは楽しみじゃないの?」
 「いや、もう決まっていることだからなぁ。ドキドキも全然無いじゃん」
 「そういうものかー」
 「まあ、事前に色々動いたからな」
 「凄い評判になったもんね」
 
 俺は左門とリーにヤマトテレビのことを話した。
 リーがステーキを噴き出して大笑いした。

 「リー! 鼻からステーキを出すんじゃねぇ!」
 「アハハハハハ!」

 「でも、いいスケープゴートだったよ。あれでマスコミ各社が御堂との接し方を学んだんだからな。陰険な真似をすれば許さないというなぁ」
 「そうだね。ヤマトテレビはバカなことをやったよね」
 「あれは、テレビがこの国で最も力を持っていると思い上がっていたからだよ。実際にそうだしな。テレビ報道で事件がどんな色にも染まる。逆らえばとんでもない逆襲を受ける」
 「うん、分かるよ」
 「芸能人ってみんな自分が大事な連中ばかりだからな。だからテレビ局の言いなりよ。またバックに付いているのが大企業だからな。ますます思い上がってしまった」
 「トラ兄さんたちは、その上になったんだね」
 「まあ、そういうことだ。戦前はマスコミはみんな軍人の言うなリだったじゃない。お前らはサッパリだけどな」
 「アハハハハハハ!」
 「これから恐ろしい時代が来る。もう目の前だ。だから戦う人間が権力になる。その過渡期が分からなかったんだよ」
 「そうだね」
 
 リーも食べ終わって、話に加わって来る。

 「でもトラさん。トラさんは権力を握りたいの?」
 「いや、全然。そんなものは真っ平だよ。犬に喰わせろってなぁ。だってアメリカを支配出来るんだけど、全然してねぇじゃん」
 「あ、そうか!」
 「ああ、ネコは喰わないでいいからな」
 「そこはどうでもいいよ」
 
 「私たちは「隠密同心」なんですよ! 「死して屍拾う者なし」です!」
 
 時代劇好きの亜紀ちゃんが言う。

 「違ぇよ! だから俺の屍は拾えよって!」
 「はい!」

 みんなが笑う。

 「評判はいらねぇけど、必要なことはやらせてもらう。それだけだ。だから「虎」の軍でいいんだよ。ネコの軍でもいいんだしな!」
 
 ロボが食べ終わって俺にまとわりついて来る。

 



 「ところで、お前らの仕上がりはどうなんだよ? しばらく見てねぇけどなぁ」
 「うん、千両さんは凄いよ。みんな格段に強くなったと思う」
 「そうか」

 俺は剣技の修練のために、自衛隊「対特殊生物防衛隊」に千両を派遣した。
 斬でも良かったのだが、怪我人が続出するだろうから辞めてやった。
 千両の剣技は幾つかの剣術の統合だった。
 実戦に使う剣技を中心に修練したものだ。
 「虎王」は主を選ぶ。
 千両の純粋な求道を認めたから、千両は「虎王」を使えるのだ。

 「対特殊生物防衛隊」は、俺が貸与している「カサンドラ」を使う。
 「業」の改造兵士やジェヴォーダンなどの凶悪な生物に対抗するには、自衛隊の戦力や能力では乏しい。
 まあ、ジェヴォーダンには厳しいだろうが、それ以下の生物に対しては有効だろう。
 妖魔そのものは相手に出来ないが、妖魔化した者であれば十分に対抗出来る。

 「千両さんは教え方が上手いんだ。非常に論理的なんだよね」
 「そうか」
 「桜さんも凄いよ」
 「あいつかー」
 「なんだよ?」
 「あいつはヘッポコだったんだけどなぁ」
 「え! 凄いよ!」
 「そうかよ。じゃあ、お前らはまだまだだってことだな」
 「酷いよ! トラ兄さん!」

 俺はじゃあ分からせてやると、桜に電話した。

 「石神さん!」
 「よう! 今よ、目の前に左門とリーがいるんだ」
 「はい! しばらく一緒に鍛錬しました!」
 「それでよ、こいつらがお前のことをスゲェって言うんだけどさ」
 「とんでもありません! 自分などまだまだ全然なっちゃいません!」
 「そうだろ?」
 「はい! 間違いありませんので訂正をお願いします」
 「おし!」

 電話を切った。

 「な?」
 「トラ兄さん、それはちょっと」
 「なんだよ?」
 「無理矢理って言うか、桜さんがトラ兄さんの前で自分をスゴイって言うわけじゃいじゃないですか」
 「あ、お前! 兄貴の言うことに逆らうのか?」
 「そんな!」
 「また俺たち一家で富士の演習場に行くぞ!」
 「ちょっと待ってよ! 嬉しいけど怖いよ!」
 「どっちだよ!」

 子どもたちが笑った。

 「ルーとハーが樹海の獣をみんな狩っちまうぞ!」
 「やめてよ! 自活の訓練が出来なくなっちゃうよ!」
 「どうせお前ら、イノシシも狩れないだろ?」
 「トラ兄さんたちが異常なんだよ!」
 「あ! てめぇ! うちの子らをバカにすんのか!」
 「勘弁してよー!」

 みんなが笑った。

 「皇紀! 殲滅装備のデュール・ゲリエ500体で富士演習場を襲え!」
 「え、1体でも十分でしょう!」
 「ほら、バカにされてんぞ?」
 「無理だって!」

 前に殲滅装備のデュール・ゲリエを演習に付き合わせた。
 あまりの破壊力に、全員がビビった。
 訓練の大半が、デュール・ゲリエが破壊した大穴を埋める作業になった。

 「あのさ、あれを見たら、僕らが本当に必要なのかって思ったよ」
 「ばかやろう! だからお前らはダメなんだ! なんであれ以上になろうって気概がねぇんだよ」
 「うーん」
 「左門、がんばろ?」
 「うん」

 まだまだ頼りない。

 「あ、姉さんがまたこっちに遊びに来たいってさ」
 「お前、話題を変えようとしやがって」
 「ほんとなんだよ! 今日はそれも頼みに来たんだ」
 「まあ、陽子さんならいつでも大歓迎だ。ああ、月末くらいだろうけど、うちで毎年花見をするようになったんだよ。その頃ってどうだ?」
 「いいの!」
 「今年はメンツが凄いだろうけどな」
 「え?」
 
 今年、考えられる来客を話した。

 「アメリカ大使夫妻と副大使はお前たちも会ったよな?」
 「うん」
 「今年は米大統領夫妻も来るだろうし、自由党の幹部も何人か来るだろう。米軍のトップたちやCIAなんかも来るかもな。ああ、警察のお偉方もな」
 「えぇ!」
 「お前らには、いい顔繋ぎになるだろ?」
 「僕らはともかく、姉さんは身の置き場がないよ!」
 「そうか?」
 「そうだよ!」
 
 でも、俺は陽子さんに響子や俺の大事な人間たちを紹介したかった。

 「花見はともかく、俺の大事な人間が集まるからな。陽子さんに紹介したいんだよ」
 「うーん、まあ話してみるよ」
 「宜しくな」

 陽子さんも俺の大事な人間だ。
 だからみんなにも紹介したい。

 「陽子さん! 来てくれるんですか!」

 亜紀ちゃんが喜んだ。
 他の子どもたちも楽しみだと言う。

 「花見はきっと楽しいですよ! 来てくださいよ!」
 「分かったよ、亜紀ちゃん。誘ってみるから」
 「お願いします!」

 「ああ、旦那さんやお子さんたちも良ければな」
 「うん、分かった」




 左門とリーが手を繋いで帰って行った。
 あいつらには幸せになって欲しい。
 俺のお袋を大事にしてくれた左門と陽子さんだ。
 俺の出来る限りで恩を返したいと思っている。

 自衛隊は、国家の危機に必ず先頭で戦うことになる。
 あいつらには出来るだけ力を付けてもらい、生き延びて欲しい。

 そう願っている。
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