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地下鉄とキス

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 御堂と正巳さんは日曜日に帰った。
 
 「石神、世話になった」
 「何のこともないよ」
 「石神さん、今後とも宜しく頼む」
 「こちらこそ。御堂を支えてやってください」

 青嵐と紫嵐がロールスロイスで送って行く。
 ダフニスとクロエも上空で警護していく。
 今後もダフニスとクロエは御堂の警護を続けていく予定だ。
 
 選挙は次の日曜日だ。
 御堂がやるべきことは全て終わった。
 当選に関しては何の心配も無かったが、今後御堂が打ち出していく政策への指示と調整が整った。
 連日マスコミは御堂のことを取り上げ、盛り上がっていた。
 ネットで御堂を中傷する書き込みは大勢の人間によって攻撃されていった。
 その辺は一江の力もあっただろう。
 御堂自身が言論の自由を訴え、自分を中傷する人間への攻撃を止めるように乗り出した。
 そのことがまた、ネット内での御堂の評判を高めた。




 御堂に関することはもう安心だったが、俺たちは「渋谷怪物化事件=通称:《渋谷HELL》」の件で忙しくなっていた。
 斃された怪物化した人間や、憑依されて即死した者たちの多くが蓮花研究所に移送された。
 今、蓮花研究所は大変な騒ぎになっている。
 特にカニ型の憑依能力妖魔の解析が進んでいる。
 恐らくは甲羅の魔法陣に似たものが能力になっているのだと考えられた。
 あの攻撃を防げなければ、世界中が恐怖のどん底に陥る。
 道間家にも協力してもらい、結界の研究が始まった。

 幸いにも、皇紀が結界を強化する波長のエネルギーを発見し、結界が破られた際の警報の整備も比較的早く進んだ。
 東京に最初に設置し、他の大都市、そして順次他の地方へも広げていくつもりだ。
 もちろん、アラスカにも早期に設置するが、アラスカは別なものが既にある。
 今回のものは、憑依型に特化したものだ。

 早乙女の方では磯良に問題が無さそうで安心した。
 磯良以外では数体の妖魔化した人間を斃したらしいが、他のハンターには負傷は無い。
 磯良もすぐに回復し、検査を受けて翌日には通常の生活に戻った。
 
 「磯良は「虎」の軍に助けられたことは知っている」
 「そうか」
 「今後はあの攻撃にも対処できるようにすると言っていた」
 「あの時も対処しそうだったけどな」
 「ああ。あれには「殺気」が無いそうだ。だから磯良も防ぎ切れなかった」
 「なるほどな。でも、何かを感じたんだろう?」
 「そうだ。だから今後は対処すると言っていた」
 
 早乙女は磯良を喪いかけたことを気にしていた。

 「俺が絶対に守ると言っていたのに」
 「お前は十分にやったよ。お前の親友の俺が守ったんだしな」
 「石神……」
 「あまり考えすぎるな。俺たちは強大な敵と戦っているんだ」
 「そうだな。でも、よくお前はあの攻撃に気付いたな」
 
 「ああ、何か予感のようなものが働いた。まるで以前もあんなことがあったかのようにな」
 「そうか」

 もちろん記憶には何も無い。
 しかし、俺はどこかであの無差別憑依を経験している気がした。

 


 月曜日。
 一江から報告を受けて、更に別室に誘われた。
 「渋谷HELL」の件だろう。
 大森も一緒に来る。

 「部長、本当に御無事で良かったです」
 「お前にも世話になったな。ネットでの統制は見事だった」
 「いえ、自分にはあんなことしか」
 「これから響子の部屋に顔を出すけど」
 「はい。響子ちゃんは何も心配は。でも部長が仮面を被っていたのをすぐにみつけましたよ」
 「そうか」
 「六花は心配そうでした。自分も行きたかったんでしょうね」
 「そうだろうけどな。鷹は落ち着いていたか?」
 「無理ですよ。ずっと屋上で待機してました。呼び出されたらすぐに飛んで行くようにね」
 「あいつも困ったもんだ」
 
 俺は一江たちに今回の敵について改めて話した。

 「「デミウルゴス」は単なる前哨戦だったということだな。人間を妖魔化する手段を模索している中での一つだったんだろう。本来は今回の直接の妖魔合体攻撃だ。最悪の空爆だよ。当たれば妖魔化して暴れるか、妖魔化して死ぬかだ。当たらなかったとしても、妖魔化した奴らに惨殺される」
 「はい」
 「「アドヴェロス」の人間が一人妖魔を撃ち込まれた」
 「え!」
 「幸い手練れの人間で自分で妖魔を斬ったし、双子が「手かざし」したからな。無事に済んだ」
 「そうですか、良かった」
 「万一、俺たちの誰かがあの攻撃を喰らったら、俺は殺すしかない」
 「「!」」
 「俺の子どもたちでもそうだ。六花でも鷹でも響子ですらな」
 「そんな!」
 「もちろん手は尽くす。だが、蓮花が調べた限りでは元に戻す方法はない。細胞が変質してしまうようだな」
 「でも……」

 一江と大森が辛そうな顔をする。

 「だからだ! あの攻撃を何とか無効化するんだ! 一江! お前は蓮花のデータを使って妖魔化のパターンを見つけろ。今回あの場にいた人間の何割が妖魔化し、何割が妖魔化の直後に死んだのか。撃たれた弾数は分かっている。現状の敵の能力と共に、共通する因子を何としても掴め!」
 「はい!」

 「御堂があの攻撃に襲われた」
 「なんですって!」
 「大丈夫だ。護衛に付けた「アザゼル」が跳ね返した。だから方法はあるんだ。今、ハーが「アザゼル」の能力を解析している。あれも上位妖魔だから、なかなか意思疎通は難しいらしいけどな」
 「そうですか!」
 「わかったらハーがルーと解析して行くだろう。お前にもデータを渡すから、蓮花と一緒に考えてくれ」
 「分かりました! 必ず!」

 



 俺は響子の部屋へ行った。
 十日ぶりくらいだ。

 「タカトラ! なんともない?」
 「ああ、大丈夫だよ。心配掛けたな」
 「うん!」

 響子が俺に抱き着き、その後ろから六花も腕を回して来た。

 「響子は何ともないか?」
 「うん、ここには何も来なかったよ」
 「念のために調べておくぞ。パンツを脱げ」
 「なんでよ!」

 「だって、あそこに取り憑いていたら大変だろう」
 「平気だよ!」

 六花が笑っている。
 
 「お前も調べるからな!」
 「はい!」

 嬉しそうに笑った。

 「今日は銀座の焼き鳥を喰いに行くか」
 「ほんと!」
 「ああ。六花も一緒にな」
 「最高!」

 六花は悪阻も軽く、ほとんど通常通りに食べられた。
 麗星は大分きつかったようだが。
 ただ、道間家にはいい料理人も多いので、ちゃんと食べれてはいる。
 六花が重い悪阻だった場合、俺の家にでも連れて来るしか無かっただろう。
 悪阻は母方の遺伝が多いので、きっと風花も軽く済むだろう。




 俺は5時頃に上がって響子と六花とでタクシーで銀座へ向かった。

 いつものカウンターに案内され、店長が直接焼いてくれる。

 「そういえばさ。ちょっと前にリムジンが届いたんだ」
 「へぇー!」

 「今度みんなで乗るか。10人まで乗れるからな」
 「いいね! どこへ行く?」
 「そうだなー。また木更津の寿司でも喰いに行こうか」
 「やったぁー!」

 俺と六花の間で響子が喜んだ。
 あまり外出できない響子は、俺たち以上に嬉しいはずだ。

 「今の忙しいのが一段落したらな」
 「うん! でもみど……」
 
 俺が響子の鼻に指を入れ、六花が口に指を入れた。

 「ご、ごめん」
 「お前は!」
 「ウフフフフ」

 今日はご飯ではなく、ウドンだった。
 恐らく焼いてメイラード反応を利用したスープがとても美味かった。
 店長は実に間の取り方が上手く、大量に食べる六花にどんどん串を出し、その間に俺や響子のリクエストにも応じてくれる。
 六花は40本程食べて満足した。

 「響子、お腹一杯か?」
 「うん! 美味しかった!」
 
 響子は大分体力が付いて来た。
 
 「石神先生」
 「ああ、なんだ?」
 「響子を一度地下鉄に乗せてやりたいんですが」
 「おお!」

 いつもはタクシーで帰る。
 銀座ならば二駅だ。

 「響子、地下鉄に乗るか?」
 「うん! 乗ってみたい!」

 そう言えば、日本の鉄道には一切乗せたことがなかった。
 三人で銀座三越から地下鉄に入る。
 六花が響子の切符を買った。
 響子は大勢の人間が行き交う地下通路に驚いていた。

 銀座線はすぐに来る。
 三人で先頭の車両に乗った。
 みんなスマホに夢中だ。

 「やだよなぁ! どいつもこいつもスマホに夢中でよ! 奴隷かよ!」

 俺が大声で言うと、みんなが美し過ぎる六花と可愛すぎる響子に注目する。
 響子が小さく手を振ると、何人か振り返して来た。
 響子が喜んで俺を見た。

 虎ノ門駅で階段を上がると、響子がバテた。
 俺が笑って響子を抱き上げて歩いた。

 「段々、このポーズも恥ずかしくなったな」

 響子はもう175センチになっている。

 「そんなことないよ。ずっとこうして!」
 「分かったよ。仮面被っていいか?」
 「いいけど。タカトラ、恥ずかしいの?」
 「いや、全然!」

 響子が俺の首に手を回し、キスして来た。

 「大好き、タカトラ」
 「ああ、俺もだよ」

 響子が六花を手招いて、やれと言った。
 六花が笑って俺にキスをしてくる。
 響子が喜んだ。





 その日は六花のマンションへ行き、エレベーターの前で六花を抱きかかえた。

 「やっぱり、ちょっと恥ずかしいよな」
 「そんなことありませんよ」

 六花が俺に優しくキスをして来た。
 輝く笑顔で笑ってくれた。
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