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ヒヨコ

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 時間は少し先になる。
 御堂が衆院選の時に約束した、「有精卵」を送ってくれた。
 4月の上旬のことだ。

 双子は楽しみにしており、「孵化器」まで用意していた。
 温度を37度に保ち、湿度も50~60%にし、転卵までしてくれる。
 8個の有精卵の孵化が可能で、御堂からは6個が送られている。
 わざわざ、菊子さんが手書きで飼育の方法を送ってくれた。
 双子に礼の電話をさせ、早速孵化器に入れたと言うと、菊子さんが喜んだ。

 双子は学校から帰るとすぐに孵化器を覗き、「手かざし」をしていった。
 20日ほどで孵化するそうだ。
 
 「楽しみだな!」
 「「うん!」」

 本当に嬉しそうに笑う。
 
 「ヒヨコが生まれても食べちゃダメだよ!」
 
 ロボに言い聞かせている。

 「亜紀ちゃん、絶対に食べないでね!」
 「……」

 亜紀ちゃんに言い聞かせている。
 亜紀ちゃんはおやつの唐揚げを頬張りながら「食べない」と言っていた。

 


 18日目に入って、ヒヨコたちが殻を突き始める音が聞こえるようになった。

 「もうすぐだよ!」
 「タカさん、産まれるよ!」
 「そうか」

 俺は別に興味は無い。
 むしろ、しばらくは家の中をヒヨコがうろうろするのが嫌なだけだ。
 ネコと違ってトイレは覚えないだろう。
 裏の新築部分で飼わせるつもりだが。
 双子には掃除はきちんとやるように言った。
 それでも汚れるだろう。

 21日目。
 ついにヒヨコたちが殻を破って来た。
 双子が狂喜している。
 6羽全てが孵り、孵化器の中でピヨピヨ鳴いている。
 カワイイのだが、双子が触ってはいけないと言っていた。
 用意していた大型の水槽の準備を始めた。
 ヒーター付きで温度管理が出来るようになっている。
 幅2メートルもあるでかい水槽で、ヒーターの他、眠る場所には柔らかい布が敷かれ、餌場やトイレまである。
 心配していたトイレは、双子がどういう方法でか誘導して覚えさせることが出来た。

 ロボはしょっちゅう水槽のヒヨコたちを見ていた。
 俺を振り向いて鳴いた。

 「にゃー」

 悪い、何言ってるのか分からん。




 ヒヨコは水槽の中ですくすくと育ち、時々外へ出されてリヴィングを歩き回った。
 双子が本当によく面倒を見ている。
 エサを食べないヒヨコには、直接餌を嘴の前に持って行き、食べさせた。
 エサも市販の乾燥餌の他、双子が葉物野菜を細かく刻んであげていた。
 愛情が注がれていた。

 「なんで!」
 「なんだ?」
 「どうして全然可愛がらないタカさんの傍に行くのよ!」

 知らん。
 俺がいると、いつも俺の傍に寄って来る。
 頭を俺の足に擦り付けて甘えている。
 双子が呼んでも全然無視。
 孵化したときに、インプリンティングがあったはずだが。
 俺はむしろその時に注意して、しばらく双子以外は近づかないように言っていた。
 ローレンツの著作は俺の愛読書だ。

 それにしても、ヒヨコってこんな大きさだったか。
 昔、よく縁日の露店でカラフルに塗られたヒヨコが売られていた。
 あれは子どもの手にも収まるサイズだった。
 生まれてどのくらいのものかは知らないが、うちのヒヨコは一ヶ月で体長15センチにはなっている。
 やけにガンガン食べているとは思っているのだが。
 でも、見た目はヒヨコだ。
 ムクムクの丸い身体でカワイイ。
 俺が優しく頭を撫でてやると、目を閉じて気持ちよさそうにする。

 「なんで!」
 「カワイイな!」
 「「……」」

 ロボも別に攻撃することもなく。そっと近づいて身体をこすりつけたりしている。
 大丈夫そうだ。

 段々個性も出て来て、双子が名前を付けた。

 コッコ、ピヨ子、ピヨ吉、コケ丸、トラ子、鬼アキ。

 「なによ!」
 「いいじゃん」
 「カワイイよ?」
 「そう?」

 亜紀ちゃんがおやつの唐揚げを頬張りながら納得した。

 「なんか大きくない?」
 「普通だよ!」
 「元気なんだよ!」
 「そう?」

 亜紀ちゃんが鬼アキを抱き上げた。
 鬼アキは暴れて羽で亜紀ちゃんの顔をはたく。
 
 「イタイ!」
 「「!」」

 亜紀ちゃんが痛がるので、双子が驚いた。

 「金属バットで殴られても平気なのに!」
 
 亜紀ちゃんの頬が少し赤くなっていた。
 俺はそろそろ別な敷地で飼えと言った。
 双子が泣いて頼んで来る。
 
 「そうは言ってもなぁ」

 カワイイが、でかいのがウロウロするのは気になる。
 双子が自分たちの部屋で飼うと言った。
 翌朝、あちこち引っ掛かれ、髪の毛がボサボサになった双子が、離れたゲージで飼うと言って来た。




 双子と散歩しながら、時々様子を見に行った。
 双子は毎日餌遣りや掃除で行っている。

 「でかいな」
 「「うん」」

 一ヶ月半で、体高50センチにもなっていた。
 30坪の敷地の周囲に、高さ3メートルのフェンスを張っている。
 鳥小屋は前面が開いており、放し飼い状態だった。
 飼育にはいい環境だ。

 二ヶ月後。
 
 「おい」
 「「うん」」

 鶏はさらにでかくなっていた。
 雄鶏体高二メートル半。
 雌鶏体高二メートル。

 ステーキを突いていた。
 俺が中に入ると、一斉に寄って来て身体をすりつけてくる。
 ちょっとよろける。

 「タカさん」
 「おう」
 「ちょっと羨ましい」
 「ちょっとかよ」
 「「うん」」

 可愛くないことも無いが、ヒヨコの時のそれではない。
 
 三か月後、双子が卵を持って来た。
 全長34センチ。

 「でかいな」
 「うん」
 「喰えるのか?」
 「多分」

 生は危ないので、ゆで卵にしてみた。
 うちには寸胴がある。
 でかいので、30分程茹でてみた。

 亜紀ちゃんがハンマーを持って来た。
 
 「そんなの必要か?」
 「分かりませんよ」
 
 ガン。

 割れなかった。
 亜紀ちゃんが意地になってガンガンやり、やっと割れた。
 殻の厚みが2センチもあった。

 二つに割って、ハーが恐る恐るスプーンで黄身を掬う。

 「あ!」
 「どうした!」
 「美味しいです!」
 「まじか!」

 亜紀ちゃんが包丁を入れ、全員が黄身と白身を食べてみた。

 「美味いな!」
 「そうですよね!」
 「御堂家の卵の味ですね」
 「美味しい!」
 「美味しいね!」
 「おばーちゃーん!」

 俺は御堂の実家にも三つほど送った。
 ジェイたちに割らせるようにと手紙に書いた。

 翌週、双子が卵を採りに行くと言うので、ついて行った。
 フェンスの鍵を開けて中へ入る。

 「こんにちは」
 「ああ、こんにちは」

 「タカさん!」
 「!」

 コッコが俺に挨拶をしてきた。

 「お前! 喋れるのか!」
 
 コケーと鳴くだけだった。
 九官鳥などが言葉を覚える、アレか?

 


 東京にいる御堂と正巳さんが見に来た。

 「こんにちは」
 「ああ、こんにちは」
 「御堂!」
 「!」

 二人が呆然と見ていた。
 双子はニコニコしていた。

 「うちの鶏じゃないよ」
 「そうだよな」
 
 コッコたちは庭で組み手を始めた。
 双子が面白がって教えたのだ。
 バシン、ガキンと音が聞こえ、危ないので御堂と正巳さんを外へ出した。

 「うちのじゃないよ」
 「うん、そうだそうだ」

 うちに入れてお茶でもと思った。
 丁度亜紀ちゃんがおやつで卵を食べていた。
 皇紀が作った、特製のエッグカッターで上だけ綺麗に卵を切り取っている。
 長いスプーンで中身を取り出して口に入れていた。

 「御堂さん! 正巳さん! いらっしゃいませ!」
 「「……」」

 亜紀ちゃんに、ウッドデッキにコーヒーを持って来るように言った。




 「石神」
 「おう!」
 「勘弁してくれ」
 「アハハハハハ!」

 帰りがけに、正巳さんが御堂に「石神さんだからな」と言って慰めていた。




 御堂、俺も持て余してるんだよ。
 それによ。
 おまえんちもでっかいヘビとかいるじゃん。
 しかし、あれをどうしようか。
 まあ、卵は美味いんだが。 
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