1,466 / 2,806
御堂、衆院選 渋谷HELL Ⅲ
しおりを挟む
「ロボさん! 全兵装の起動をお願いします!」
青嵐さんが車に搭載されたAIに向かって話していた。
《全兵装の解放は石神様の承認が必要です》
「Death Wish コード360253443985……」
青嵐さんが長い数字を唱え始めた。
《Death Wishを承認。青嵐さんの「最後の御勤め」を全力で支援いたします」
「ありがとう、ロボさん」
青嵐さんが真剣な顔で運転席の装置を操作していった。
「青嵐さん、今のコードというのは?」
「何でもありません。この車には結構な兵装がありますからね。それを全部自由に使えるようにセッティングしました」
「でも、石神の承認が必要だと、最初は……」
「はい。それを外せるコードがあるんですよ。僕は御堂さんを絶対に守りますからね!」
「はぁ、お願いします」
若い青嵐さんだったが、ここ数日一緒に行動したことで、信頼の置ける優秀な人間と分かった。
石神が全幅の信頼をもって移動の車の操縦を任せている。
車の操縦だけではない、もっと深い信頼できる何かを持っている。
元はブランという、「業」に破壊された人間だったそうだが、石神を信奉しているのは当然だが、優しい心を持っている青年だった。
「御堂様、石神様を絶対にお助けしましょう」
「ええ、必ず」
それ以上は何も聞けず、青嵐さんの運転に身を任せた。
時速500キロ近くで疾走するが、危うげの感じられない安定した運転だった。
但し、交差点では緊急車両のサイレンを鳴らし、スピーカーで交差点の侵入を警告した。
何度か従わない車両もあったが、青嵐さんがその前方の路面を破壊すると、大人しくなった。
「大丈夫なんですか!」
「はい。私たちは何しろ急いでおりますので」
「!」
二人で笑った。
途中で何度も石神や皇紀くんから戻るように連絡が入った。
僕は電話を切った。
封鎖線に近づくと、青嵐さんはAIのロボさんに通達を頼み、封鎖線は屋根の上からの何かで破壊して突っ切った。
最速で現場に着いた。
それは僕が保証する。
青嵐さんは実に見事な運転で、僕をここまで運んでくれた。
僕は青嵐さんにお礼を言って、車の外に出た。
すぐに上空で並走してきたダフニスとクロエも両脇に降りて来た。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
磯良が倒れたのを見た瞬間、俺のシボレー・コルベットが駅前に入って来た。
すぐにその傍に降りる。
「このバカ! 何しに来やがった!」
「石神、そんなに怒るなよ」
大バカが笑っていやがった。
この惨状を見ての上だ。
「青嵐さん、さっきのメッセージを最大音量で流して下さい」
「分かりました!」
御堂がコルベットに乗っている青嵐に指示した。
《御堂正嗣だ! ここにいる! ここにいるぞ!》
コルベットのスピーカーが大音量で流した。
その瞬間に、御堂のやろうとしていることが分かった。
「ルー! ハー! 必ず探れ! 御堂が囮になる!」
「「!」」
「アザゼル! 御堂を守れ!」
地面から黒い霧が立ち上り、真っ黒い美しい天使の形に収斂していく。
クロピョンの眷属の妖魔だ。
御堂の体表で何かが弾けた。
「タカさん! あっちだよ!」
ルーが俺の目の前に降りて来て指さした。
亜紀ちゃんが入ったビルの4階だ。
「槍雷」で窓を粉砕し、中へ入った。
直径2メートルほどのカニのようなモノがいた。
甲羅に魔法陣のようなものが描かれている。
俺は躊躇なく「虎王」で貫いた。
甲羅の下の肉が高温で焼かれて行く。
瞬時に絶命した。
亜紀ちゃんに連絡し、「無差別憑依」をさせていた妖魔を片付けたことを伝えた。
「よーし! やるぞー!」
インカムから亜紀ちゃんの喜ぶ声が聞こえる。
もうビルは任せて大丈夫だろう。
御堂の元へ戻った。
倒れた磯良をルーが介抱していた。
「手かざし」で磯良の身体に入ったであろう妖魔を駆逐している。
御堂は周辺の倒れた人たちを見て回っていた。
「おい、御堂!」
「石神、何人かまだ息があるんだ!」
青嵐が御堂の傍についている。
アザゼルもまだ消えていない。
「御堂さんはもう何人も応急処置をしているんですよ」
「そうか」
「僕はついこないだまで医者だったからね」
「そうなんですか!」
青嵐は俺の前に歩いて来た。
「おさらばです! 石神様! どうか御武運を!」
「待て!」
「いいえ、最後に御堂様のお役に立てて良かった。満足です」
「青嵐、待て!」
俺は青嵐の言葉で全てが分かった。
青嵐は笑って右手の手刀を首筋に当てた。
俺は青嵐をぶん殴って、コルベットまで引きずって行った。
「ロボ! 青嵐の「デス・ウィッシュ」を解除! 俺の命令だ!」
「かしこまりました。青嵐様の「デス・ウィッシュ」を解除いたします。このログは抹消いたしますか?」
「ああ、そうしろ!」
俺は青嵐を地面に座らせて言った。
「バカヤロウ! 俺が御堂に役立った奴を死なせるわけはないだろう」
「石神様……」
「子どもたちや部下たちによく言ってるんだ。止められて止まるのなら、それは大したことではないんだってな」
「……」
俺は御堂を向いて言った。
「お前は絶対に許さんぞ!」
「分かってるよ、親友」
「ふざけんな! お前が死んだらどうすんだぁ!」
「申し訳ない。謝るよ」
「ダメだぁ! お前が死んだら俺は生きていられねぇ!」
「僕もだよ」
「!」
御堂が笑って言った。
「僕もお前が死んだら生きていたくない。だから来たんだよ」
「お前……」
「もう大丈夫だよね? じゃあ、僕は救援活動に戻るよ」
「まだ安全じゃねぇ。戻ってくれよ」
「青嵐さんも、ダフニスとクロエもいるよ」
アザゼルは危険が去ったのを悟って消えていた。
被害は渋谷駅のハチ公口に限定されていたようだった。
ルーから連絡を受けた「アドヴェロス」の人間たちもやってきて、亜紀ちゃんや双子たちと掃討戦を繰り広げた。
徐々に救護活動も始まり、御堂が陣頭指揮を執って重傷者を運ばせていった。
妖魔化した者81体、妖魔化して即死した者1211名、妖魔に殺された者5803名、負傷者12000名以上。
衆院選を目前にしての悲惨な事件となった。
御堂のことは発表されず、最初はどのマスコミも報道しなかった。
しかし、後から御堂の決死の活躍が負傷者たちの証言から知られ、御堂は一躍渋谷を救った英雄とされた。
命を懸けた勇敢な行動をマスコミ各社が褒め称え、御堂にもインタビューの取材が押し寄せた。
御堂はその取材を受けず、一言だけ応えた。
「僕に出来ることがあった。だからそれをやっただけです」
日本中が御堂正嗣という男を信頼し、日本を変える男だと分かった。
青嵐さんが車に搭載されたAIに向かって話していた。
《全兵装の解放は石神様の承認が必要です》
「Death Wish コード360253443985……」
青嵐さんが長い数字を唱え始めた。
《Death Wishを承認。青嵐さんの「最後の御勤め」を全力で支援いたします」
「ありがとう、ロボさん」
青嵐さんが真剣な顔で運転席の装置を操作していった。
「青嵐さん、今のコードというのは?」
「何でもありません。この車には結構な兵装がありますからね。それを全部自由に使えるようにセッティングしました」
「でも、石神の承認が必要だと、最初は……」
「はい。それを外せるコードがあるんですよ。僕は御堂さんを絶対に守りますからね!」
「はぁ、お願いします」
若い青嵐さんだったが、ここ数日一緒に行動したことで、信頼の置ける優秀な人間と分かった。
石神が全幅の信頼をもって移動の車の操縦を任せている。
車の操縦だけではない、もっと深い信頼できる何かを持っている。
元はブランという、「業」に破壊された人間だったそうだが、石神を信奉しているのは当然だが、優しい心を持っている青年だった。
「御堂様、石神様を絶対にお助けしましょう」
「ええ、必ず」
それ以上は何も聞けず、青嵐さんの運転に身を任せた。
時速500キロ近くで疾走するが、危うげの感じられない安定した運転だった。
但し、交差点では緊急車両のサイレンを鳴らし、スピーカーで交差点の侵入を警告した。
何度か従わない車両もあったが、青嵐さんがその前方の路面を破壊すると、大人しくなった。
「大丈夫なんですか!」
「はい。私たちは何しろ急いでおりますので」
「!」
二人で笑った。
途中で何度も石神や皇紀くんから戻るように連絡が入った。
僕は電話を切った。
封鎖線に近づくと、青嵐さんはAIのロボさんに通達を頼み、封鎖線は屋根の上からの何かで破壊して突っ切った。
最速で現場に着いた。
それは僕が保証する。
青嵐さんは実に見事な運転で、僕をここまで運んでくれた。
僕は青嵐さんにお礼を言って、車の外に出た。
すぐに上空で並走してきたダフニスとクロエも両脇に降りて来た。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
磯良が倒れたのを見た瞬間、俺のシボレー・コルベットが駅前に入って来た。
すぐにその傍に降りる。
「このバカ! 何しに来やがった!」
「石神、そんなに怒るなよ」
大バカが笑っていやがった。
この惨状を見ての上だ。
「青嵐さん、さっきのメッセージを最大音量で流して下さい」
「分かりました!」
御堂がコルベットに乗っている青嵐に指示した。
《御堂正嗣だ! ここにいる! ここにいるぞ!》
コルベットのスピーカーが大音量で流した。
その瞬間に、御堂のやろうとしていることが分かった。
「ルー! ハー! 必ず探れ! 御堂が囮になる!」
「「!」」
「アザゼル! 御堂を守れ!」
地面から黒い霧が立ち上り、真っ黒い美しい天使の形に収斂していく。
クロピョンの眷属の妖魔だ。
御堂の体表で何かが弾けた。
「タカさん! あっちだよ!」
ルーが俺の目の前に降りて来て指さした。
亜紀ちゃんが入ったビルの4階だ。
「槍雷」で窓を粉砕し、中へ入った。
直径2メートルほどのカニのようなモノがいた。
甲羅に魔法陣のようなものが描かれている。
俺は躊躇なく「虎王」で貫いた。
甲羅の下の肉が高温で焼かれて行く。
瞬時に絶命した。
亜紀ちゃんに連絡し、「無差別憑依」をさせていた妖魔を片付けたことを伝えた。
「よーし! やるぞー!」
インカムから亜紀ちゃんの喜ぶ声が聞こえる。
もうビルは任せて大丈夫だろう。
御堂の元へ戻った。
倒れた磯良をルーが介抱していた。
「手かざし」で磯良の身体に入ったであろう妖魔を駆逐している。
御堂は周辺の倒れた人たちを見て回っていた。
「おい、御堂!」
「石神、何人かまだ息があるんだ!」
青嵐が御堂の傍についている。
アザゼルもまだ消えていない。
「御堂さんはもう何人も応急処置をしているんですよ」
「そうか」
「僕はついこないだまで医者だったからね」
「そうなんですか!」
青嵐は俺の前に歩いて来た。
「おさらばです! 石神様! どうか御武運を!」
「待て!」
「いいえ、最後に御堂様のお役に立てて良かった。満足です」
「青嵐、待て!」
俺は青嵐の言葉で全てが分かった。
青嵐は笑って右手の手刀を首筋に当てた。
俺は青嵐をぶん殴って、コルベットまで引きずって行った。
「ロボ! 青嵐の「デス・ウィッシュ」を解除! 俺の命令だ!」
「かしこまりました。青嵐様の「デス・ウィッシュ」を解除いたします。このログは抹消いたしますか?」
「ああ、そうしろ!」
俺は青嵐を地面に座らせて言った。
「バカヤロウ! 俺が御堂に役立った奴を死なせるわけはないだろう」
「石神様……」
「子どもたちや部下たちによく言ってるんだ。止められて止まるのなら、それは大したことではないんだってな」
「……」
俺は御堂を向いて言った。
「お前は絶対に許さんぞ!」
「分かってるよ、親友」
「ふざけんな! お前が死んだらどうすんだぁ!」
「申し訳ない。謝るよ」
「ダメだぁ! お前が死んだら俺は生きていられねぇ!」
「僕もだよ」
「!」
御堂が笑って言った。
「僕もお前が死んだら生きていたくない。だから来たんだよ」
「お前……」
「もう大丈夫だよね? じゃあ、僕は救援活動に戻るよ」
「まだ安全じゃねぇ。戻ってくれよ」
「青嵐さんも、ダフニスとクロエもいるよ」
アザゼルは危険が去ったのを悟って消えていた。
被害は渋谷駅のハチ公口に限定されていたようだった。
ルーから連絡を受けた「アドヴェロス」の人間たちもやってきて、亜紀ちゃんや双子たちと掃討戦を繰り広げた。
徐々に救護活動も始まり、御堂が陣頭指揮を執って重傷者を運ばせていった。
妖魔化した者81体、妖魔化して即死した者1211名、妖魔に殺された者5803名、負傷者12000名以上。
衆院選を目前にしての悲惨な事件となった。
御堂のことは発表されず、最初はどのマスコミも報道しなかった。
しかし、後から御堂の決死の活躍が負傷者たちの証言から知られ、御堂は一躍渋谷を救った英雄とされた。
命を懸けた勇敢な行動をマスコミ各社が褒め称え、御堂にもインタビューの取材が押し寄せた。
御堂はその取材を受けず、一言だけ応えた。
「僕に出来ることがあった。だからそれをやっただけです」
日本中が御堂正嗣という男を信頼し、日本を変える男だと分かった。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる