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御堂、衆院選 渋谷HELL Ⅲ

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 「ロボさん! 全兵装の起動をお願いします!」
 
 青嵐さんが車に搭載されたAIに向かって話していた。

 《全兵装の解放は石神様の承認が必要です》

 「Death Wish コード360253443985……」

 青嵐さんが長い数字を唱え始めた。

 《Death Wishを承認。青嵐さんの「最後の御勤め」を全力で支援いたします」
 
 「ありがとう、ロボさん」

 青嵐さんが真剣な顔で運転席の装置を操作していった。

 「青嵐さん、今のコードというのは?」
 「何でもありません。この車には結構な兵装がありますからね。それを全部自由に使えるようにセッティングしました」
 「でも、石神の承認が必要だと、最初は……」
 「はい。それを外せるコードがあるんですよ。僕は御堂さんを絶対に守りますからね!」
 「はぁ、お願いします」

 若い青嵐さんだったが、ここ数日一緒に行動したことで、信頼の置ける優秀な人間と分かった。
 石神が全幅の信頼をもって移動の車の操縦を任せている。
 車の操縦だけではない、もっと深い信頼できる何かを持っている。
 元はブランという、「業」に破壊された人間だったそうだが、石神を信奉しているのは当然だが、優しい心を持っている青年だった。

 「御堂様、石神様を絶対にお助けしましょう」
 「ええ、必ず」

 それ以上は何も聞けず、青嵐さんの運転に身を任せた。
 時速500キロ近くで疾走するが、危うげの感じられない安定した運転だった。
 但し、交差点では緊急車両のサイレンを鳴らし、スピーカーで交差点の侵入を警告した。
 何度か従わない車両もあったが、青嵐さんがその前方の路面を破壊すると、大人しくなった。

 「大丈夫なんですか!」
 「はい。私たちは何しろ急いでおりますので」
 「!」

 二人で笑った。
 途中で何度も石神や皇紀くんから戻るように連絡が入った。
 僕は電話を切った。

 封鎖線に近づくと、青嵐さんはAIのロボさんに通達を頼み、封鎖線は屋根の上からの何かで破壊して突っ切った。




 最速で現場に着いた。
 それは僕が保証する。
 青嵐さんは実に見事な運転で、僕をここまで運んでくれた。
 僕は青嵐さんにお礼を言って、車の外に出た。
 すぐに上空で並走してきたダフニスとクロエも両脇に降りて来た。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 磯良が倒れたのを見た瞬間、俺のシボレー・コルベットが駅前に入って来た。
 すぐにその傍に降りる。

 「このバカ! 何しに来やがった!」
 「石神、そんなに怒るなよ」

 大バカが笑っていやがった。
 この惨状を見ての上だ。

 「青嵐さん、さっきのメッセージを最大音量で流して下さい」
 「分かりました!」

 御堂がコルベットに乗っている青嵐に指示した。

 《御堂正嗣だ! ここにいる! ここにいるぞ!》

 コルベットのスピーカーが大音量で流した。
 その瞬間に、御堂のやろうとしていることが分かった。

 「ルー! ハー! 必ず探れ! 御堂が囮になる!」
 「「!」」

 「アザゼル! 御堂を守れ!」

 地面から黒い霧が立ち上り、真っ黒い美しい天使の形に収斂していく。
 クロピョンの眷属の妖魔だ。
 御堂の体表で何かが弾けた。

 「タカさん! あっちだよ!」

 ルーが俺の目の前に降りて来て指さした。
 亜紀ちゃんが入ったビルの4階だ。
 「槍雷」で窓を粉砕し、中へ入った。

 直径2メートルほどのカニのようなモノがいた。
 甲羅に魔法陣のようなものが描かれている。
 俺は躊躇なく「虎王」で貫いた。
 甲羅の下の肉が高温で焼かれて行く。
 瞬時に絶命した。




 亜紀ちゃんに連絡し、「無差別憑依」をさせていた妖魔を片付けたことを伝えた。

 「よーし! やるぞー!」

 インカムから亜紀ちゃんの喜ぶ声が聞こえる。
 もうビルは任せて大丈夫だろう。
 御堂の元へ戻った。

 倒れた磯良をルーが介抱していた。
 「手かざし」で磯良の身体に入ったであろう妖魔を駆逐している。
 御堂は周辺の倒れた人たちを見て回っていた。

 「おい、御堂!」
 「石神、何人かまだ息があるんだ!」

 青嵐が御堂の傍についている。
 アザゼルもまだ消えていない。

 「御堂さんはもう何人も応急処置をしているんですよ」
 「そうか」
 「僕はついこないだまで医者だったからね」
 「そうなんですか!」

 青嵐は俺の前に歩いて来た。

 「おさらばです! 石神様! どうか御武運を!」
 「待て!」
 「いいえ、最後に御堂様のお役に立てて良かった。満足です」
 「青嵐、待て!」

 俺は青嵐の言葉で全てが分かった。
 青嵐は笑って右手の手刀を首筋に当てた。
 俺は青嵐をぶん殴って、コルベットまで引きずって行った。

 「ロボ! 青嵐の「デス・ウィッシュ」を解除! 俺の命令だ!」
 「かしこまりました。青嵐様の「デス・ウィッシュ」を解除いたします。このログは抹消いたしますか?」
 「ああ、そうしろ!」

 俺は青嵐を地面に座らせて言った。

 「バカヤロウ! 俺が御堂に役立った奴を死なせるわけはないだろう」
 「石神様……」
 「子どもたちや部下たちによく言ってるんだ。止められて止まるのなら、それは大したことではないんだってな」
 「……」

 俺は御堂を向いて言った。

 「お前は絶対に許さんぞ!」
 「分かってるよ、親友」
 「ふざけんな! お前が死んだらどうすんだぁ!」
 「申し訳ない。謝るよ」
 「ダメだぁ! お前が死んだら俺は生きていられねぇ!」
 「僕もだよ」
 「!」

 御堂が笑って言った。

 「僕もお前が死んだら生きていたくない。だから来たんだよ」
 「お前……」

 「もう大丈夫だよね? じゃあ、僕は救援活動に戻るよ」
 「まだ安全じゃねぇ。戻ってくれよ」
 「青嵐さんも、ダフニスとクロエもいるよ」
 
 アザゼルは危険が去ったのを悟って消えていた。
 被害は渋谷駅のハチ公口に限定されていたようだった。
 ルーから連絡を受けた「アドヴェロス」の人間たちもやってきて、亜紀ちゃんや双子たちと掃討戦を繰り広げた。
 徐々に救護活動も始まり、御堂が陣頭指揮を執って重傷者を運ばせていった。





 妖魔化した者81体、妖魔化して即死した者1211名、妖魔に殺された者5803名、負傷者12000名以上。
 衆院選を目前にしての悲惨な事件となった。
 
 御堂のことは発表されず、最初はどのマスコミも報道しなかった。
 しかし、後から御堂の決死の活躍が負傷者たちの証言から知られ、御堂は一躍渋谷を救った英雄とされた。
 命を懸けた勇敢な行動をマスコミ各社が褒め称え、御堂にもインタビューの取材が押し寄せた。
 御堂はその取材を受けず、一言だけ応えた。

 「僕に出来ることがあった。だからそれをやっただけです」

 日本中が御堂正嗣という男を信頼し、日本を変える男だと分かった。
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