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御堂、衆院選 渋谷HELL

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 翌朝の金曜日。
 俺は御堂を連れてアメリカ大使館まで行った。
 シボレー・コルベットだ。
 大使館車だから当然だ。

 「石神、本当にこれはアメリカ大使館の車なのか?」
 「そうだよー!」
 「それにしては、どうにも」
 「なんだよー!」
 
 俺は笑いながらドライヴィング・テクを駆使してぶっ飛ばした。
 
 「おお、10分で着いたな!」
 
 やれば出来るもんだ。

「飛ばし過ぎだぁ!」

 御堂が怒っている。
 俺の車を見て、大使館前の警官が脇に避け、大使館のゲートが開いた。
 俺の身分証で全部大丈夫だ。

 今日はアメリカ大統領、御堂、そして俺との三人の会談の予定だった。
 今後のアメリカとの連携について、取り決めをする。
 もう御堂の総理大臣就任は決定している。

 窓の無い特別室へ案内され、俺たちは挨拶の後で話し合った。
 大統領は補佐官を二人連れ、通訳と記録を担っている。
 



 「まずは日本国内の米軍基地についてですが」
 「それについては、「虎」の軍に明け渡すことは出来る。但しその場合、「業」との戦闘の他に、他国との戦争についてもお互いに連携する形にしたい」
 「具体的には?」
 「虎の軍が対外戦争にも対応してもらえるのならばそれでいいが、そうでない場合は米軍の配置も一部認めて欲しい」
 「極東地域の安全保障か」
 「そうだ。ハワイからではあまりにも遠い。フィリピンやグアムもあるが、日本が地理的に最も望ましいのだ」
 「分かった。では基地の分担を考えて行こう」
 「感謝する。だが、米軍は「虎」の軍に従うことは、先だっての約定の通りだ。我々は独自に動くこともあるが、「虎」の軍から指示があった場合は必ずそれに従う」

 俺がアメリカとの間で交わした密約だ。
 実質的に、俺はアメリカに君臨することが出来る。
 ただ、その必要が無いので、アメリカの自治権が現在まで基本的に通用しているのだ。
 国の支配者など真っ平だ。

 「「虎」の軍への志願者はその後どうなっていますか?」

 御堂が質問した。

 「全国から募集している。現在も3万人ほどが面談を受けてアラスカや君たちの拠点へ向かった所だ」
 「そうだな。俺も報告は聞いている」
 「EUや同盟国にも同様の募集を掛けている。1万人くらいは受け入れられたと聞いているが」
 「ああ。助かっているよ。俺たちは数で圧倒されている」
 「しかし逆に聞きたい。スパイなどの流入については、どう考えているのだ?」
 「それは機密になっている。俺たちには対策はあるよ、大統領」

 「タイガーから依頼のあったロシアからの亡命者だが、非常に少ない。どうやら出国の規制が掛かっているようだ」
 「じゃあ、いよいよ「業」がロシアの支配に乗り出したということか」
 「今の時点ではどの程度かは分からない。ただ、政府の中枢への影響力があることは確かだと思う」
 「現地でエージェントは?」
 「もちろんいる」
 「その人間に、優秀な亡命希望者を集めさせることは出来るか?」
 「タイガーの依頼ならば、そうしよう。だが、出国は今話した通り難しいぞ」
 「俺たちが救援に向かう」
 「なんだって!」
 
 俺はニヤリと笑った。

 「出来ればシベリアなどの、アラスカに近い場所がいい。やり方は任せるが、観光ツアーの態などで集まってくれれば、俺たちが輸送する」
 「でも、まかり間違えば戦争になるぞ?」
 「構わないさ。ロシアの軍事力ではアラスカは落とせない」
 「「業」は?」
 「あいつが潰せると思っているのなら、とっくに来ているさ」
 「それはそうだが」
 「「業」はもっと陰湿な手段で来る。俺たちが泣き叫ぶような方法でな」
 「そうか」

 俺たちは様々なことを話し合った。
 今日は密約を結ぶと言うよりも、その前段階となる両者の意思統一へ向けての会談だった。
 アメリカは俺の傘下になったが、かと言って軍事力はもちろん、人的な引き抜きもそれなりに考えなければならない。
 逆に俺たちがアメリカへ協力する内容も具体的に詰めて行く必要がある。
 重要なのは、今度の「業」との戦争で、今の各国の軍事力では賄えないということだ。
 だから「虎」の軍へ協力を惜しむことは出来ないと同時に、俺たちも要請があれば出撃していく必要がある。

 昼食を挟んで、午後も俺たちは話し合った。

 2時を回った所で、俺のスマホに緊急連絡が入った。
 皇紀からだった。
 
 「どうした?」
 「タカさん! 渋谷で妖魔化した人間が多数暴れています!」
 「分かった! すぐに向かう!」

 直後に部屋に大使館の人間が入って来た。
 大統領が俺たちにも情報を共有するように指示する。

 「シブヤの駅周辺で多数のモンスターが出現しているようです。今もモンスターの数は増えており、被害が拡大しています」
 
 俺の掴んだ第一報と同じだ。
 
 「米軍はまだ動かないでくれ。必要なら「マリーン」を俺が出動させる」
 「分かった」
 
 俺は御堂を連れて家に戻った。
 
 「ロボ! 皇紀からの情報を言え!」
 
 コルベットに搭載したAIに指示した。

 《午後1時58分。渋谷駅周辺に多数の妖魔化した人間が出現。現場周辺で既に多数の死傷者が出ています。現在、警察官が出動していますが、対応は取れていない模様》

 「早乙女に連絡しろ」

 1分後、早乙女と通話が繋がる。

 「石神! 今、「アドヴェロス」の全員が現場に向かっている!」
 「妖魔化した連中の数は分かるか?」
 「具体的には。ただ、現時点で30体はいる模様だ。それもまだ増えている!」
 「どういうことだ!」
 「分からない。さっき街頭の監視カメラの映像を解析したんだが、突然歩いている人間が妖魔化した様子なんだ! 計画的な襲撃ではない!」
 「分かった。俺もすぐに向かう!」
 「頼む!」

 7分後に、俺は家に着いた。
 子どもたちは揃っている。

 「ルー!」
 
 俺は状況解析をしているはずのルーに問い質した。 

 「はい! 全員出撃準備は出来ています! 妖魔化した人間は恐らく50体以上! 現場周辺の監視カメラをハッキングしています!」
 「早乙女は「増えている」と言っていた。どういうことか分かるか?」
 「はい! 周辺を歩いていた人間が妖魔に憑依されているようです! 50体以上の妖魔化の他に、身体を変形させて死んでいる人間も多数いる模様!」
 「分かった! 亜紀ちゃんとルー、ハーは出撃。「飛ぶ」ぞ! 柳と皇紀はここで御堂たちを守れ! 青嵐と紫嵐も御堂の護衛だ」
 「「「「「はい!」」」」」 
 「「はい!」」

 「皇紀! 一江に連絡! 六花と鷹に病院の警護を指示しろ!」
 「はい!」
 「蓮花研究所や他の拠点にも連絡! アラスカもな! それとマリーンの都内の部隊に出撃命令! カサンドラの使用を許可! 左門から連絡があったら、救難活動を頼め!」
 「分かりました!」

 俺は指示を出しながら「Ωスーツ」と変装用の仮面を装着する。

 「行くぞ!」
 「「「はい!」」」




 最悪の攻撃だった。
 恐らくは、妖魔の「無差別憑依」。
 どういう手段かは分からないが、市民に妖魔を憑依させる技術が出来たのだろう。
 但し、100%ではない。
 それは失敗したと思われる、怪物化した死者が示している。
 
 しかしそこは問題ではない。
 俺たちは突然に怪物と化してしまう、もしくは怪物となって死ぬかもしれないのだ。
 それが、いつ、どこでそうなるのか分からない。
 
 地獄の蓋が開いた。
 悪鬼たちが地獄から這い出して来る。
 
 


 俺たちは平和な日常を喪った。
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