富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂、衆院選 ヘッジホッグ起動

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 栞の居住区に戻り、桜花たちが御堂の歓迎を込めた夕食を作ってくれた。
 アラスカらしく、最高のサーモンのステーキ。
 鹿肉のシチュー。
 キノコと山菜の和え物。
 出し汁で溶いた自然薯の摺りおろし。
 茶碗蒸し。
 ご飯にはイクラの丼がついている。
 椀は麩とワカメだ。

 正巳さんには少し重いかと思ったが、旺盛に召し上がっていた。
 最近、結構活動しているので、代謝が上がったのだろう。
 御堂もワキン・ショックから立ち直って嬉しそうに食べている。

 

 
 夕飯の後で、幻想都市「アヴァロン」を案内した。
 移住してきた人も増え、街は徐々に活性化している。

 街灯が千変万化し、歩いていると楽しい。

 「綺麗ですね!」

 亜紀ちゃんが誰もいない広場を見てそう言った。

 「パピヨンの考えていたことが分かるよなぁ」
 「はい!」
 
 俺たちは広場に面しているガラス張りの店に入った。
 テーブルが広い間隔で配置されていて、ゆったりとした雰囲気だ。
 照明も若干暗く、店の前の広場の灯を一際感じることが出来る。
 俺たちはコーヒーをもらった。

 「正巳さん。御堂家の周辺にもこういう都市を建設しますから」
 「ああ、本当に楽しみだよ」

 正巳さんも幻想的な雰囲気に酔っているようだった。
 店を出て、しばらく散策してからヘッジホッグへ戻った。
 俺が「ほんとの虎の穴」に案内する。
 栞も呼んだ。
 もちろん御堂を歓待するのだから、50平米のスペシャル・ルームだ。
 以前に栞が破壊した絨毯は何とか修復し、カウンターの傷も出来るだけ目立たないように直した。

 俺が雑賀さんに「光明」を出させた。

 「あなたー! あ! 「光明」だぁ!」
 「お前は水な」
 「なんでぇー!」
 「お前はこれを飲んでここを無茶苦茶にしたんだろう!」
 「えーん」

 御堂に栞と一江、大森で飲んで、国宝級の絨毯を毟り、俺のお気に入りのマホガニーのカウンターを傷つけた話をした。
 御堂と正巳さんが大笑いした。
 御堂が栞のグラスに「光明」を注いでやる。

 「御堂が注ぐんじゃしょうがねぇ」
 「なに! 私より御堂くんが大事なの!」
 「当たり前だろう」

 みんなが笑う。

 



 「でも、御堂くんはいよいよ総理大臣かぁー」
 「僕も実感が無いよ。石神に振り回されているだけ」
 「おい、しっかりしろよ」
 「アハハハハハ」

 御堂が明るく笑った。
 口ではそんなことを言っているが、とっくに覚悟は決めている。

 「それにな。まずは総理大臣だけど、いずれ「大統領」になる」
 「え!」
 「総理大臣も権限はあるけど、いろいろと素早く決めて行動するには、もっと御堂の権限を高めなくてはいけない」
 「そうかー」
 「国民投票が必要だけどな。これまでの御堂人気と、今後の政策を見れば大丈夫だよ」
 「うん、頑張ってね、御堂くん!」
 「ああ」

 雑賀さんがいいつまみをどんどん持って来てくれる。
 トマトのチーズ焼きやセロリのベーコン挟み揚げなど、食べたことのない料理もある。
 みんなが楽しんで食べ、飲んだ。
 亜紀ちゃんも柳も大人しく味わいながら飲んでいる。

 「しかし、スゴイ所だよね、ここは」
 「ああ、あのヘッジホッグか。あれには驚かされた」

 「正巳さん、あれがどういうものか見せましょうか?」
 「なに! ほんとか!」
 「ええ。折角ですからね。明日の朝にでも披露しますよ」
 「それは見てみたいな!」

 正巳さんは素直に喜んでくれたが、御堂が心配気だった。

 「石神、大丈夫なのか?」
 「大丈夫だよ。時々試験的に動かすしな。見れば驚くぞ」
 「そりゃそうだろうけど」
 「まあ、テストだよ。ほんの一部だけだろうけど、見応えは保証するよ」
 「うん」

 全長1キロにも及ぶ攻撃機体が稼働し、目標を迎撃する様子はきっと驚くだろう。

 「じゃあ、亜紀ちゃん、頼むな」
 「えー、私ですかー」
 「亜紀ちゃんなら、ちょっと誤射されても平気だろ?」
 「わかりましたー!」

 「光明」をみんなで空けて、その晩は帰った。





 翌朝。
 亜紀ちゃんが「Ωスーツ・ディアブロ専用機」で基地の外へ出た。
 俺は400キロ離れるように指示している。
 衛星通信のインカムで亜紀ちゃんとは通話が出来る。

 俺たちは司令本部に集まり、ターナー少将に一時的に亜紀ちゃんの認証を停止するように伝えた。

 「大丈夫なのか、タイガー?」
 「大丈夫だよ。模擬戦だと思ってくれ」
 「分かった、じゃあやるぞ!」

 2分後にターナー少将から準備が出来たと言われた。
 
 「亜紀ちゃん! マッハ20で向かいながら《Les dernieres larmes(レ・デルニエール・ラルメ:最後の涙)》をぶちかませ!」
 「えー! 大丈夫なんですか!」
 「大丈夫だよ! 「虎の穴」を舐めるな!」
 「分かりましたー!」

 亜紀ちゃんが接近すると、たちまち警報が鳴る。

 《ディアブロ・アキの接近を確認! 当基地は最大級の警戒態勢に入ります》

 警報と共に、アナウンスが日本語、英語で流れる。
 亜紀ちゃんほどの敵なだけに、基地は最高レベルの厳戒態勢に入った。

 《脅威クラスS 脅威クラスS 最大級の警戒が発令されました。非戦闘員はすべて順路に従い非難して下さい》

 「タイガー! 大丈夫か!」
 「すぐに終わるよ」

 司令本部内で次々と戦闘コンピューターが迎撃態勢を報告する。

 《「ラスト・バタリオン」全機出撃! ヘッジホッグの20%を稼働!……》 

 次々と迎撃指令が展開していった。

 「タカさん! なんかたくさん上がって来ましたよ!」

 亜紀ちゃんの声がインカムに響く。
 強襲殲滅タイプのデュール・ゲリエ「ラスト・バタリオン(最後の戦隊)」のことだろう。

 「いいから撃て!」
 「はーい!」

 100キロ先から巨大な光の円柱が迫って来た。
 ヘッジホッグの砲塔の幾つかがそれを迎撃したが、割れた円柱の光の一部が外壁に突っ込んだ。

 「!」
 
 外壁がおよそ2キロメートルに渡って崩壊した。

 「……」

 「た、タイガー!」

 後ろでターナー少将が絶叫する。

 「即座に亜紀ちゃんの認証を復帰! 急げ!」

 俺は慌てて指示を出した。
 その間に亜紀ちゃんはヘッジホッグの攻撃を浴び始める。
 超高速機動で逃げながら、技を撃ちまくって攻撃を相殺しようとしている。
 体長5メートルの「ラスト・バタリオン」が徐々に迫って行く。
 全身に装備された凶悪な砲口群が亜紀ちゃんを狙って撃ち始める。

 「タカさん!」
 「待ってろ、今何とかする!」
 「はやくー!」

 「タイガー! 再認証は特殊コードが必要だ!」
 「!」

 ターナー少将が叫ぶ
 そうだった。
 だけど、俺は思い出せない。

 「あぁ! なんだっけ?」
 「おい!」

 ターナー少将が蒼白になって慌てている。

 「こ、皇紀に至急連絡!」

 10秒待たされた。

 「タカさん!」
 「皇紀! 再認証のコードってなんだっけ!」
 「え! あの、えーと! あ、3つあるやつですね!」
 「そ、それだ(多分)!」

 「えーと、最初は「にゃんこニャンニャン ニャンコロリン!」」
 「にゃんこニャンニャン ニャンコロリン!」

 「次は「ロボはニャンニャン 犬はパグパグ」!」
 「ロボはニャンニャン 犬はパグパグ!」

 「最後は「チンコチンチン 虚チン花ぱーん」!」
 「チンコチンチン 虚チン花ぱーん!」

 「認証されました!」

 オペレーターが叫んだ。

 「……」

 日本語の分かるターナー少将が呆れていた。

 自慢の長い髪が半分燃え、ボロボロになって帰投して来る亜紀ちゃんの映像が司令本部の大スクリーンに映されていた。

 「石神……」

 御堂が俺の隣で呟いた。

 「だ、大丈夫だから!」
 「……」

 ターナー少将が眉間を一生懸命に揉んでいた。

 「じゃあ、そろそろ俺たちは帰ろうかな!」
 「待て、タイガー!」
 「な、なんだよ」
 「お前、いい加減にしろよ」
 「お、俺は最高司令官だぞ!」
 「だからって、やっていいことと悪いことがあるだろう!」
 「う、うるせぇ! 御堂を楽しませたかったんだ!」
 「楽しんだのか!」
 「おお、大笑いだぜ!」

 御堂が笑っていた。
 大物だ。

 「ほら!」
 「……」

 とにかく一応謝って司令本部を出た。
 
 「また後で連絡する!」
 「絶対にしろよ!」 
 「わ、分かってるよ!」

 帰りながら桜花に連絡して大量の唐揚げを用意させた。
 亜紀ちゃんの髪は睡蓮が綺麗にカットしてくれた。
 高熱を浴びたせいか、ちょっと髪にウェーブが掛かっていた。

 「お! 綺麗だな!」
 「……」

 亜紀ちゃんが俺を睨んでいたが、唐揚げを食べるとニコニコしていた。





 俺たちは日本へ戻った。
 迎撃システムの再検討がなされ、結果的には有意義な模擬戦となった。




 良かったじゃん。
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