上 下
1,459 / 2,840

早乙女家のロボ

しおりを挟む
 石神家が御堂たちと一緒に東京ドームでの演説会に行った日。

 「ロボちゃーん!」
 「にゃー(雪野さんだぁー!)」

 9時半に迎えに来た早乙女と雪野に、ロボは預けられた。

 「悪いが、今日はロボを頼むな」
 「ああ、ちゃんと預かるから心配しないでくれ」

 ロボは雪野の足にまとわりつき、甘えた。
 早乙女が笑ってロボの頭を撫で、背中から尻尾まで撫で上げる。
 ロボも早乙女を見て口を開いて嬉しがった。

 「じゃあ、ロボちゃん、行きましょうか」
 「にゃー」

 石神たちが出掛けるのを、ロボは理解していた。
 早乙女たちに預けられることも。
 今日はしばらく、あっちで過ごすのだ。
 石神がいないのは寂しいが、仕方が無いことも分かっていた。

 ロボはどこへ行くのかが分かっているので、ダッシュで道を駆ける。
 30メートルほど先に行って二人を待つ。
 二人は微笑みながら自分を見て近づく。
 またダッシュする。

 「ロボちゃーん! 待ってぇー!」

 雪野が笑って声を掛けた。

 (ん? なんかいるぞ)

 ロボが気配を感じた。
 時々来る、敵の妖魔のようだった。

 (モハメドがいるけど、やっちゃおうかな)

 曲がり角で空中に飛んだ。

 《スン ぶす スン》

 100メートル上空のカラスのような妖魔を爪の一撃で斃して戻った。

 「待ってぇー! あ、いたぁー!」

 雪野がロボの頭を撫でる。

 「にゃー(もう大丈夫だよ!)」
 「ウフフフ、可愛い!」
 「にゃー(にゃー)」

 三人で、早乙女家の門を潜った。




 広い通路を歩き、突き当りのエレベーターホールの「柱」が三人を迎える。
 両手を上げて歓迎した。

 「「柱」さん、ただいま」
 「にゃー(今日はよろしくー)」

 《柱!(よろしくお願いします!)》

 エレベーターで3階まで上がった。

 「はい、じゃああんよを拭きましょうね」
 
 雪野が優しくロボの足を拭った。
 早乙女はロボの食事用の皿とトイレなどを持って奥に行った。

 リヴィングに入り、早乙女が廊下にトイレを置いた。
 
 「ロボさん、ここに置きますね?」
 「にゃー(分かった)」

 三人でソファに座った。
 ロボは雪野に甘えて膝に上半身を預けた。
 しばらくまったりとする。

 ロボがウトウトしていると、早乙女がパソコンを持って来て、ソファの前のテレビに配線を繋げ始めた。

 「あなた、どうですか?」
 「うーん、大丈夫だと思うけど」
 「すいません、私もよく分からなくて」
 「いや、俺が全部ルーちゃんに聞いているから。パソコンを立ち上げるね?」
 「はい」

 早乙女がネットを検索し、認証コードなどを打ち込んでいく。

 「あ! 出ましたよ!」
 「うん!」

 100インチのテレビに、東京ドームの映像が映り始めた。

 「カメラを切り替えられるはずなんだ」

 早乙女がメニューから操作した。

 「替わりました!」
 「良かった! これでやり方は分かったよ」

 早乙女が切り替えると、映像は正面のステージを捉えるものから、角度を替えて映るもの、ステージから観客席を映すもの、上空からの俯瞰、様々な映像が観られた。

 「石神たちだ」
 「にゃー!(ほんとだ!)」

 ネコの仮面を被っているが、体格や波動で分かる。
 もちろん、ロボには明確に分かった。

 「よし、セッティングは出来たから、お昼にしようか」
 「はい!」
 「ロボはここでゆっくりしててね」
 「にゃー(うん)」

 


 ロボは新鮮なマグロと鯛の刺身をもらい、大満足だった。
 怜花が早乙女に抱かれて笑いながら食べている。
 モハメドもロボと同じマグロの切り身を食べていた。

 「ロボちゃん、まだ食べる?」
 「にゃ(もういいよ)」

 毛づくろいを始めた。

 二時前になり、早乙女と雪野はロボを誘ってまたソファに座る。
 ソファの横にロボ用のミルクが置かれ、早乙女たちは紅茶を用意していた。

 「いよいよかな」
 「そうですね」

 早乙女が怜花を抱き、雪野はロボを膝に乗せていた。
 
 「始まった!」
 「にゃー!(愛しのタカトラー!)」

 変装した石神がアップになる。
 華麗にエレキギターを掻き鳴らしている。

 「石神はやっぱりカッコイイなぁ」
 「そうですね!」
 「にゃ(その通り!)」

 興奮したロボがテレビの前でジルバを踊った。
 早乙女と雪野が大笑いした。
 早乙女の腕の中で、怜花も身体を動かした。

 「あれ、お前も?」

 二人が笑った。

 「「あ!」」
 「にゃ!」

 突然、映像が途切れた。
 画面が暗くなり、何も映らなくなった。

 「あれ!」

 早乙女が急いで機器を確認する。
 ロボはしゃがんだ早乙女の背中に乗り、頭をはたいて早くしろとせがんだ。
 パソコンも操作しようとしたが、もう映像は観られなかった。

 「あなた、ダメですか」
 「うん、なんだろう」

 三人は諦めた。
 後に、何者かのハッキングのためだと分かった。

 「仕方ない。ロボさん、ごめんね」
 「にゃー(なんなんだよ!)」
 
 雪野に撫でられて機嫌を直した。

 「ルーちゃんたちに聞きたいけど、今は連絡出来ないだろうしなぁ」
 「しょうがないですよ」

 ロボの機嫌を取るために、雪野が「ロボピンポン」をやった。
 その後でロボは怜花と寝た。





 ロボが目を覚ますと、外はもう暗かった。
 
 「にゃー(愛しのタカトラァー!)」

 ロボが寂しく鳴くと、雪野が寄って来てロボを抱き締めた。

 「もうちょっと待っててね。石神さんが迎えに来るからね」
 
 ロボは雪野に甘えて顔を舐めた。

 「にゃ?(アレ?)」

 敷地の外に嫌な気配がする。

 《おい、気付いたか?》
 《にゃ(うん)》

 モハメドからテレパシーが来た。
 早乙女たちには伝わらない。

 《どうする、お前がまた行くか?》
 《にゃ(うん)》

 ロボがリヴィングのドアの前で雪野を向いて鳴いた。

 「どうしたの?」

 ロボはドアの外に出て、また振り向いて鳴く。

 「外に出たいの?」
 「にゃ(そう)」

 雪野はちょっと迷ったが、ロボの高い知性を知っているので、一緒に廊下に出た。
 ロボはエレベーターまで雪野を導く。

 「本当に外に出たいんだ」
 「にゃ(早くー)」 
 「はいはい」

 雪野は一緒にエレベーターに乗り、1階の玄関に行く。
 玄関を開いた。

 「あんまり遠くへ行っちゃ……あれ?」

 ロボの姿が見えなくなった。
 
 「どこに行ったのかしら? そこにいたのに」

 



 敷地に入れば防衛システムが作動する。
 それを知ってか、妖魔は敷地から離れてこちらを見ていた。
 三つの頭を持つ、翼を持った蛇。

 《スン》

 《お前は! いつの間に!》

 《ぶす》
 《ギャァァァァァーーー!》

 《スン》

 「ロボちゃーん! あ! いた!」
 「にゃー(終わったよ)」

 玄関から出て呼び掛けていた雪野は、自分の背後にいるロボに気付いた。

 「いなくなっちゃって驚いちゃった」
 「にゃ(大丈夫だよ)」

 ロボは雪野の足に絡みついて甘えた。

 丁度その時、石神と子どもたちが歩いて来た。

 「なんだ、ロボが雪野さんにベッタリだな」
 「にゃー!(愛しのタカトラー!)」

 ロボが石神に駆け寄った。
 みんなで玄関に入り、3階に上がる。
 お茶を出され、みんなでテレビの報道を見た。

 「途中で回線が途切れてしまったんだ」
 「そうだったのか」
 「俺も観たかったなー」
 「今度、ブルーレイで渡すよ」
 「ほんとか!」

 ロボが雪野にくっついた。

 「にゃー(良かったね)」
 「お前、ここの子になるか?」
 「ニャァァァァー!(誤解だよ、タカトラァー!)」

 ロボが石神に飛びついた。
 石神は笑ってロボを抱きかかえて帰った。

 


 「タカさん、妖魔の死骸だよ?」

 ハーが蛇の妖魔を掴んで石神に見せた。

 「来る時にもカラスみたいなのがあったよね」
 「そうだなぁ。ああ、ロボがやったか?」
 「にゃー(そうだよ)」
 「よしよし」

 石神に撫でられ、ロボが目を閉じて喜んだ。

 「どうも、この辺一帯をうろつくようになったな」
 「最近ロボが外に出たがるのは、これかな」
 「そうだろうなぁ」
 「ロボ、頼むね!」
 「にゃ(うん)」

 ロボは石神に抱かれて幸せそうに笑った。  
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...