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御堂、衆院選 御堂の恋

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 風呂から上がり、俺たちは「軽く飲もう」ということになった。
 図々しくも、早乙女は雪野さんを呼んだ。

 「だって、あそこで飲むのはあまりないじゃないか」
 「お前んちだって、幾らでもいい場所はあるだろう!」
 「お前の「幻想空間」ほとのものはない!」

 雪野さんが大好きなロボは、最高の出迎え「ジルバ&ふよふよ」で歓迎した。
 ジルバを踊りながら空中に漂い、雪野さんに前足を伸ばして抱き着く。
 雪野さんも大喜びでロボを抱きしめた。
 うちの子どもたちも来る。
 軽く、ということで、つまみはクラッカーのチーズ乗せだけだ。
 御堂と正巳さんにはキャビアも乗せる。
 酒はワインで「シャトー・シュヴァル・ブラン」だ。
 それほど高いものではないが(1本12万円くらい)、非常に飲みやすい爽やかな味わいがいい。
 柳と亜紀ちゃん以外の子どもたちにはジンジャーエールで割って「キティ」を作った。

 「さー! 今日はどんなお話ですかねー!」
 「ばかやろう! 御堂が来たんだから、御堂の話に決まってるだろう!」
 「僕の?」
 「今日は澪さんもいないし、御堂の失恋について話す!」
 「石神!」

 亜紀ちゃんが正巳さんに、ここでは俺が話をする決まりになっていると説明した。
 俺はそんな決まりはねぇと言いながら、笑って話し出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 俺は大学で女たちに囲まれる日々だった。
 奈津江と付き合ってからもそれは同じで、特に学食などでは女たちが寄って来て大変だった。

 「高虎って、絶対なんかおかしいよ!」

 奈津江が文句を言う。

 「そんなこと言ったってよ」
 「なんか、フェロモン的なものが出てると思う!」
 「おい」
 
 石動からは「エロ光線」が出ていると指摘されたが。

 「異常だよ! 私もきっと、そのフェロモンでやられてるんだ」
 「おい!」
 「正気を喪ってるのね。コワイわー」
 「なつえー」

 御堂が大笑いしている。
 その日は三人で食べていた。
 やっと女たちを追い払った後だった。

 「香水を付けてるよね?」
 「ああ、ペンハリガンな」
 「それかー」
 「ちげぇよ!」

 食べていると、また一人の女が寄って来た。
 三人でうんざりする。
 背は高くない。
 160センチちょっとか。
 顔は綺麗な顔立ちで、ちょっと痩せている。
 11月の終わり頃で、少し寒い日だった。
 こげ茶のダッフルコートを抱え、ベージュのフィッシャーマンズセーターを着て、下は生成りの厚手の綿のスカート。
 顔に見覚えがあった。
 同学年の医学部の女性だ。
 名前はたしか柴葉(さいば)と言った。

 「あの……」
 「悪いけどさ、今友達と食事中なんだ」
 「いえ、あの……」
 「あのさ、俺は迷惑してるんだよ。君たちは楽しいのかも知れないけど……」
 「あの! ちょっと黙っててくれます?」
 「はい?」
 
 「御堂さん! ずっとあなたを見てました!」
 「え、僕?」
 「優しくて素敵な人だって! あの! 私とお付き合いして下さい!」
 「石神は?」
 「こんな人、関係ありません!」
 「すみません」

 思わず謝った。
 奈津江が驚いている。

 みんながこっちを見ているので、俺は座るように言った。
 御堂の隣に座る。

 「確か柴葉さんだったよね?」
 
 俺が言った。
 柴葉典子と名乗った。

 「そうです。あの! 石神さんは黙っててくれません?」
 「すみません」

 勢いのある女だった。

 「あのね、柴葉さん。僕はあなたとお付き合いするつもりは」
 「はい! でも私は諦めませんから! 本気で御堂さんが好きなんです!」
 
 俺は御堂が好きだという柴葉に好感を持った。

 「御堂は本当にいい奴だもんな!」
 
 柴葉に睨まれた。
 黙れと目で訴えている。

 「今日は自分の気持ちを伝えたくて。では、お邪魔しました!」
 「また来いよな」
 「石神! あんたがいなきゃね!」
 「すみません!」

 「あんたが御堂くんを誑かしているのは分かってる! あんた、相当ヘンな波動を出してるもんね!」
 「え?」
 「死んでくれない?」
 「はぁ」

 柴葉が立ち去った。
 奈津江が大笑いした。

 「ほら、やっぱり高虎ってイカガワシイ何かがあるんだよ!」
 「おい!」
 「御堂くんもやられちゃったかー」
 「そんなことはねぇよ!」
 「いや、僕は石神が大好きだよ」
 「ほら!」

 御堂も笑った。
 



 それから、柴葉は御堂に話し掛けるようになった。
 しつこいことは無かったが、たまに手紙を書いて御堂に渡していた。
 御堂は困っていたようだが、柴葉の明るく爽やかな態度に、強いことは言えないようだった。
 しかし、毎回交際は出来ないとはっきり言っていた。
 優柔不断な男ではない。
 
 「友達として付き合ったらどうだ?」
 
 山中がある日言った。

 「それはダメだよ。それは恋人として交際すると言うのと同じだ。むしろ無責任に付き合う、ずるいやり方になってしまう」
 「そうかー」

 御堂の言う通りとも思ったが、俺は柴葉という女を気に入り始めていた。
 進展するかどうかは別にして、もう少し御堂も柴葉について知ってもいいように思った。

 「なあ、御堂。一度柴葉とちゃんと話し合ってみたらどうだ?」
 「え?」
 「柴葉はお前のことを知って、お前を好きになったんだろう? でも御堂は柴葉のことは何も知らないじゃない。別に嫌いでもいいんだけど、柴葉がどういうことでお前と付き合いたいのかは、聞いてやってもいいと思うぞ」
 「うーん」
 
 その日は三人で飲んで、御堂がどうして柴葉を断るのかを聞いて見た。

 「僕は地元に戻れば、きっと見合いで結婚することになるんだ。だから、軽い気持ちで今他の女性と付き合いたくはないんだよ」
 「なるほどな。でも、見合いに拘ることもないんだろう?」
 「それはそうだけど」
 「だったら、柴葉のこともちゃんと知ってやれよ。その上で断れば、柴葉だって納得するだろうよ」
 「そうか」

 「そうだよ。あんまり深刻に考えるなよ」

 山中も同意した。

 「そりゃ、石神みたいにあちこちの女と遊びまくるのは感心しないけどな!」
 「俺は奈津江だけだ!」
 「今は確かにそうだけど、それまでは違ってただろう?」
 「ウッ!」
 「今の状態だって、お前が入学と同時に散々遊んでたせいじゃないか」
 「あのね、山中ちゃん! だけど、短い間だったよ?」
 「お前って、そういうとこな!」
 「おい!」
 
 御堂が大笑いしていた。

 「分かったよ。二人の言う通りだ。一度ちゃんと話してみよう」
 「おう!」
 「そうだね!」

 「じゃあ、悪いけど石神も一緒に来てくれな」
 「え、俺?」
 「お前がいないと、どうも話し難いよ」
 「でも、俺って柴葉に嫌われてるぞ?」
 「そのこともちゃんと聞きたいよ」
 「なんで?」
 「石神はいい奴だ。誰かに嫌われるのはおかしい」
 「御堂!」

 まあ、感動はしたが、俺が嫌われる理由なんて幾らでもある。
 とにかく、柴葉と一度話し合うことにした。




 三人で飲むことにした。
 山中は遠慮した。
 まあ、こちらが三人では柴葉も話し難いだろう。
 だから、柴葉にも友達でも誰でも連れて来ていいと言った。

 俺たちはいつも行く居酒屋で待ち合わせた。
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