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御堂、衆院選 虎温泉

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 俺は御堂と正巳さんのために用意した食材を焼き、二人に食べさせた。
 二人とも普通の人間なので、肉はいいものを少しと、伊勢海老や鮑などを焼いて行く。
 俺も「人間」なので、そういうものを御堂より多少多目に食べるだけだ。

 柳が頑張っている。
 御堂と正巳さんがいるからだろう。
 いつもよりも多く取ろうと奮闘している。
 他の子どもたちも攻撃は手加減し、容易に殴られている。
 それを見て、正巳さんも御堂も微笑んでいる。

 「柳がまた強くなったね」
 「ああ、亜紀ちゃんたちが今日は手加減しているからな」
 「そうだろうけどね。でも強くなった」
 「ああ」

 俺は顕さんから柳がとても感謝されたのだと話した。

 「柳に任せて良かった。あいつはほんとうに真面目にやってくれた」
 「そうか」
 「それにな。対妖魔戦で柳を主軸にすると言ったんだ」
 「え?」
 「妖魔には俺たちの「花岡」が効かない。だから柳がずっと前から妖魔に通用する技を研究している」
 「そう聞いてはいたけど」
 
 俺は笑って御堂に話した。

 「お前が心配するから黙っていたんだけどな。真夏の炎天下で何時間もやり、台風の日も大雪の日も毎日欠かさずやってる。何度か倒れてな」
 「え!」
 「俺がその度にぶん殴って叱っても、あいつは辞めない。柳は必ず技を完成させるよ」
 「そうか」
 「でもやり過ぎだ。お前からちょっと抑えるように言ってくれ」
 
 御堂が微笑んだ。

 「石神に全部任せるよ。最初からそう言っていただろう」
 「御堂」
 「柳はお前のために何かをしたい人間なんだ。嬉しくてしょうがないだろうよ」
 「おい、倒れるまでやるなって言ってくれよ」
 「いいよ。万一、それで死んでもいい。柳がそうしたいのなら、僕は応援するだけだ」
 「まったくなぁ」

 俺たちは笑った。
 正巳さんも笑っていた。

 俺は正巳さんにシャンパンを勧めた。
 クリュッグのロゼだ。

 「強い酒だと明日に響きますからね。今日はこういうもので」
 「ありがとう、石神さん」

 正巳さんから御堂の家のことを聞いた。

 「ジャングル・マスターさんがよくやってくれている。最初は家の者も怖がっていたんだけどね。いつの間にか慕うようになったよ」
 「あいつは変わってますが純真ですからね」
 「そうだね! 毎回食事に感動して、礼を言われるよ」
 「食べるのが大好きなのに、何も知らないんですよね」
 「ワハハハハハハ!」

 正巳さんが笑った。

 「すっかり和食に馴染んでくれたよ」
 「特にカレーだろ?」
 「そうなんだ。石神に教わったレシピを全部試したらしいよ」
 「それで、結局はカレーなら何でも好きだっていうことだろう?」
 「アハハハ、でもそうなんだよ。うちでカレーを作るといつも喜んで食べに来てくれる。今じゃ大体うちで食べてくれるかな」
 「それはお前の家族を大好きになったということだ。ジャングル・マスターは他人と飯を食いたくないって人間だからな」
 「そうなのか!」
 
 御堂と正巳さんが驚いていた。
 それほど、ジャングル・マスターが馴染んだということだろう。
 俺は黙って聴いていた早乙女に、ジャングル・マスターのことを話した。

 「そうなのか。石神の交流関係は広いなぁ」
 「お前は狭すぎだよ」
 
 御堂に、早乙女の友達が俺しかいないことを話した。
 ゲイバー「薔薇乙女」でのことを話して笑うかと思っていたが、御堂は真面目に聞いていた。

 「早乙女さん、石神はいい奴でしょう?」
 「はい!」
 「時々、酷いことをするけどね」
 「時々じゃないですよ、御堂さん! いつも騙されてばかりで!」
 「アハハハハハ!」
 「前にもね、ちょっと体調が悪いって言ったら」
 「うん」
 「石神が「それは妖怪の攻撃だ!」って。呪いを解くために、雪野さんの前でオチンチンを揺らせって言うんでその通りにしたんです」
 「アハハハハハ!」

 雪野さんがロボのご飯をやって戻って来た。

 「それでね、雪野さんの頭に乗せて……あ、雪野さん!」

 雪野さんが後ろで大笑いし、御堂と正巳さんも爆笑していた。

 「僕にはそういうことはやらなかったね」
 「やるわけないだろう」
 「なんでだよ!」

 みんなで笑った。

 「この家だって! 妖魔の攻撃を防ぐためだって、こんな大邸宅を用意したんですよ!」
 「ああ、驚きましたよ」
 「三人家族なんですよ! どうやって暮らせばいいか!」
 「お前、暮らしてるだろう」
 「そうだよ! でも、ほんの一部しか使ってないよ!」
 「アハハハハハ!」

 雪野さんが笑って言った。

 「でも、楽しいんですのよ? 主人が休みの日には怜花を抱いていろいろ探検してますの」
 「そうですか」
 「だから外へ散歩に出ることも少なくて」
 「出不精には丁度いい家だったでしょう?」
 「はい!」

 子どもたちが満足して俺たちのテーブルへ来た。

 「亜紀ちゃんも久しぶりにお酒を飲もうかな!」
 「夕べも飲んだだろう!」
 「エヘヘヘヘ」

 柳と二人でグラスを持って来た。
 俺が笑って注いでやった。

 「だけどよ、この家も予想以上に金が掛かってなぁ」
 「そうなのか!」

 早乙女が驚く。

 「だからしばらくうちも節約だよな」
 「はい! 夕べの雑草の味噌汁は美味しかったですよね!」
 「そうだな!」
 「こないだ庭に生えたキノコを食べたら、みんなお腹壊しましたけどね」
 「大変だったよな」

 「石神! うちに食べに来てくれよ!」

 泣きそうな早乙女に、雪野さんが「冗談ですから」と笑って言った。
 御堂と正巳さんが大笑いした。

 俺は御堂と正巳さんに、選挙資金は足りているか聞いた。

 「全然必要ないよ。本当に最小限でしか使ってない。選挙事務所もうちの持ちビルだしね。選挙カーだって、親父と一通り回っただけだから。こんな候補者はいないんじゃないか?」
 「でも、御堂と正巳さんを知らない人間はいないだろう?」
 「そうなんだけどさ。街頭演説すらやってないんだよ」
 「まあ、そっちはこれからだけどな」
 「うーん」
 「今、「御堂」って名前が入ると視聴率がグンと上がる。だからマスコミが放っておかないよ」
 「弱ったな」
 
 明日から御堂には様々なメディアの取材がある。
 正巳さんにもあるが、御堂がほとんどだ。
 それが街頭演説の替わりだった。

 そろそろ全員が満腹になった。

 「正巳さん、御堂、温泉を用意しているんだ」
 「え?」
 「早乙女も来るか?」
 「行くよ!」
 
 「悪いけど雪野さんはダメな。男同士の風呂だからな」
 「じゃあ、その後でいいですか?」
 「もちろん!」

 片づけを子どもたちに任せ、御堂と正巳さん、早乙女と皇紀を連れて家に戻った。
 みんなで「虎温泉」に入る。

 「へぇー! こんな場所を作ったんだ」
 「ああ、子どもたちが俺のためにな」
 
 みんなで背中を洗い合って湯船に浸かった。

 「ここに来て露天風呂に入れるとは思わなかったよ」
 
 俺が温泉を掘る時に、大量の小判や金の鉱脈が出たことを話した。
 御堂と正巳さんが驚いている。

 「その後に亜紀ちゃんの唯一の友達の真夜がうちの庭を掘ったら、レッドダイヤモンドが出た」
 「ああ!」

 御堂が送られて来たことを思い出したようだ。

 「最初は亜紀ちゃんが俺に2キロの塊を持って来たんだよ」
 「大変でしたよね」
 「そうだったよなぁ。ロボはぶん投げて柳が顔から血を出すし」
 「えぇー!」
 「あ! 大丈夫だったから! すぐに「Ω軟膏」塗ったから!」
 「風花さんに送ったら、飛んで来ましたよね」
 「おう、二度とするなって怒られたよな」
 「諸見さん、泣きながら土下座してましたもんね」
 「そうそう、栞はオッパイが痛いって言ってたな」

 御堂たちが大笑いする。

 「諦めてリヴィングのテーブルに置いたんだよな。皇紀が綺麗なライトを作って照らした」
 「やっと終わったと思ったんですよね」
 「そうそう。そうしたら柳が「あれって鉱脈って言ってましたよね?」って」
 「タカさん、激怒してましたよね?」
 「そうだよ! それで慎重に掘って行ったら、最大が850キロもあってよ」
 「今も放置してますけどね」
 「ルパン三世とか来そうだよな」

 みんなで笑った。

 「それにしても気持ちのいい温泉だね?」
 「ああ、それな! ほら、あの湯が出てる虎の顔」
 「うん? ああ」
 
 みんなが見る。

 「あれも温泉を掘った時に出て来たんだ」
 「お姉ちゃんが掘り出したんですよ。あの時はよく分からなくて「ナゾ金属」って言ってましたよね?」
 「そうなんだよ。双子が加工して造形したんだ。それをまた亜紀ちゃんが適当に繋げてな」
 「麗星さんが教えてくれたんですよね」
 「ああ、オリハルコンなんだってさ」
 「「「!」」」

 三人が驚く。

 「稀少って言うか、神話の金属だろ? 参ったぜ」
 「でも、健康にはとてもいいらしいですよ?」
 
 「「「そうなんだ」」」

 「まあ、本当は温泉でも何でもなくて、お湯を溜めているだけなんだけどな。オリハルコンの効能があるから、「虎温泉」って名称にしたんだよ」
 「アラスカは「虎の湯」ですよね!」
 「おう!」




 みんな押し黙ってしまったので、俺が『荒城の月』を歌った。
 みんなが黙って聴いていた。
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