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御堂、衆院選 準備

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 新年になって、御堂がマスコミに登場する機会が増えて来た。
 文学界の重鎮が書いた『御堂という男』はベストセラー入りし、発売1週間にして重版が決まるほどの売れ行きだった。
 その内容は御堂家という旧家に生まれた人間の物語であり、特に大学時代からのことが中心に描かれている。
 名前は仮名になっているが俺や山中なども出て来る。
 もちろん脚色された部分もあるが、ほぼ実話だと言っていい。
 うちで一万冊買った。
 関係者(やーさん多数)で50万冊以上買った。
 まあ、重版は当然だが。
 でも、数百万部も売れているので、俺たち以外でも相当買われている。
 アメゾンでも大手書店でも、ずっと売れ行きトップが続き、御堂の清らかでこの上なく優しい心が全国民に広まっている。

 またテレビにも登場し始めた。
 あまりに露出が過ぎれば安くなる。
 対談形式が多く、各界の高名な人間が御堂と様々なテーマで話して行く。
 御堂は揺るぎない信念で、時には尖った意見も言うが、それがまた御堂の芯の通った精神を見せることになった。

 御堂が最も重要視していることが「日本を守る」ということだった。
 「業」の脅威がマスコミによって露わにされ、想像もしていなかった恐ろしい現実を全国民が知ることになった。
 そのために、俺たちから資料や映像が提供され、ジャングル・マスターの選択によって俺たちの正体は隠されつつ、その恐怖が浸透して行った。
 御堂は「虎」の軍によって日本が防衛されることを訴え、そのために自分たちも出来るだけの協力をすることを訴えた。

 「そして! この日本が世界を救う英雄国家となるのです!」

 同時に御堂は日本が世界をリードする技術や思想を確立していくことを約束した。
 自分には導く手段があることを話して行った。
 特にエネルギー問題だ。
 「ヴォイド機関」の名称や詳細は伏せつつ、今までの資源に頼らない、クリーンで安全で豊富なエネルギーを提供できると言った。
 他にも魅力的な提案はあったが、このエネルギー問題が最も根幹になる。
 実際には現在の国民には受け入れがたい政策もあるが、それはまだ表には出さない。
 軍事力だ。
 軍事国家にするつもりはないが、世界で最高峰の軍備を整えることになる。
 そのための徴兵も実施する。
 希望者によるものになるが、恐らく膨大な数の兵士が揃う予想だ。
 世界が平和国家を歌えなくなるためだ。
 「業」には話し合いなど通じない。
 終戦協定も講和条約もあり得ない。
 人類の滅亡が「業」の目的だからだ。

 御堂はまだ軍事については言及しないが、いずれ自然に舵を切ることになる。
 その時には、国民の総意として受け入れられる。

 御堂は政治的なことばかりではない。
 経済についても、有力な企業のトップと会談し、これからの世界経済の激変を訴えている。
 マスコミに流した以上の深刻な現実の資料によって、御堂の傘下に入ることを余儀なくされている。
 御堂は政治的なトップになるばかりか、日本経済を牛耳る頂点になる。
 俺たちはその援助をする。

 中でも慎重に進めているのがエネルギー関連の巨大企業だ。
 エネルギーは日本企業の根幹であり、闇も深い。
 歴史的にもエネルギー問題で巨大企業に反目した場合は、例外なく潰されて来た。
 総理大臣ですら、だ。
 そして金融機関。
 メガバンクが日本経済の中枢だ。
 そちらは双子の莫大な資金と量子コンピューターと、そして「スナーク」という人物が担っている。
 「スナーク」は情報操作の天才ジャングル・マスター、都市建設の天才パピヨンと共に俺が引き入れた天才だ。
 金融関連で異常な才能を発揮する。

 2月も下旬になり、御堂が東京に出て来る。
 衆院選の出馬は地元で小選挙区からの出馬だが、既に与党での比例代表での当選は確約されている。
 まあ、小選挙区でも大丈夫なはずだ。
 正巳さんは別な小選挙区だが、こちらも比例代表で大丈夫だ。
 そして与党は戦後最大の当選者数を獲得する。
 俺たちがそう動いている。

 御堂の総理大臣就任も決まったことだ。
 日本経済を手中に収めつつある御堂に逆らう政治家はいない。
 むしろ、それが当然であるという「雰囲気」作りの方が重要だ。
 マスコミへの登場もその一つであり、御堂の誠実さ、優しさ、強さ、そしてカッコよさが国民に知られて行く。
 もはや、日本国中で御堂旋風が巻き起こりつつあった。
 やはり、ジャングル・マスターの手腕は最高だ。

 新たな政界・経済界のヒーローは海外のメディアも毎日取り上げている。
 そちらもジャングル・マスターの力だった。





 大雪の降った翌週に、俺は御堂に電話した。

 「よう! 上手く行っているな!」
 「石神! もう毎日怖くてしょうがないよ」
 「アハハハハハ! お前がオロオロしてるのは面白いぜ」
 「何を言う! 本当に大変なことになってるんだよ」
 「もちろん分かってるよ。俺が手配したんだからなぁ」
 「おい、本当に手加減してくれよ」
 
 俺はひとしきり笑った。

 「まあ、もうすぐこっちにも来るだろう?」
 「ああ、二月の最後になるかな」
 「じゃあ、その時に愚痴を聞いてやるよ」
 「真面目にそうなりそうだよ。自分でもよく潰れないと不思議なんだ」
 「お前は潰れないよ。そういう男だから頼んでいるんだからな」
 「ああ、分かってる。石神のためだもんな」
 「そして日本のためだ。まだ国民はこれからの世界の激変は分かっていないからな」
 「そうだね」
 「世界が崩壊し、日本だけが立っていることが分かれば、お前への評価は一層だろうな」
 「僕はそんなものはいらないよ」
 「俺の親友なんかにならなきゃよかったな」
 「それは一瞬も思ったことないよ」

 「そうか」

 やはり御堂はいい。
 二月最後の金曜日に正巳さんとうちに来ることが決まった。
 パーティが幾つかあるので、菊子さんと澪さんも何日か来る。
 一週間ほど滞在し、政党のトップたちやまた大企業のトップたちと打ち合わせて行く予定だ。
 俺は青嵐と紫嵐を護衛兼運転手として呼んだ。
 ロールスロイスと新たに来たリムジン《Ciel Bleu》を操縦する。
 事前に運転させて慣れさせた。
 美しい深い青の車体は、多くの人の目を引いた。

 「とにかく、威厳を以って走らせろ!」
 「「はい!」」

 一体どういう走りなのか言った俺にも分からんが、二人には通じたようなのでいい。

 俺も一週間休みを取って手伝う。
 俺と亜紀ちゃんでバイクで並走しながら護衛するつもりだ。
 必要無いとは思ったが、念のためだ。
 まだ御堂は「一般人」なので、警察などの護衛は付けられない。
 まあ、俺たちの方が確実だ。

 俺と亜紀ちゃんは、毎晩警護の予定を打ち合わせた。
 
 「悪人、来ますかね!」
 「来ねぇよ」

 亜紀ちゃんはウキウキだ。

 病院では、一江と大森にだけ事情を話している。
 六花や鷹、響子には話さない。
 御堂が来るので上機嫌な俺の理由は他の人間は知らない。

 「タカトラ! 何か嬉しそうね!」
 「うん!」

 響子をいつもよりも可愛がる。

 「今晩、うちへいらっしゃいますか!」
 「ごめん、大事な用事があるんだ」

 六花の誘いですらも断る。

 家では何度も御堂や正巳さんの泊まる部屋をチェックする。
 食事のメニューを亜紀ちゃんと柳、そして双子を交えて相談する。

 「あ!」
 「どうしました?」
 「パーティの後でさ、小腹が空くかもしれないじゃん!」
 「は?」
 「ほら、挨拶で忙しいからさ。あんまし食べれないんじゃないか?」
 「まあ、そうかもしれませんが」
 「おし! 夜食も検討しよう!」
 「そういうのは、何とでもしますから」
 「ダメだよ!」
 「大丈夫ですよ!」
 「だって、御堂だぞ!」

 「「「「……」」」」

 茶漬け、湯豆腐、蕎麦、焼きウドンなどを揃えることにした。
 夜も遅いので、消化の良いものが必要だ。

 完璧なメニューが完成した。

 「でも、御堂が「アレ食べたい」って言ったら1分で用意するからな!」
 「タカさん……」
 「「飛行」も解禁だ!」
 「「「「……」」」」

 「そうだ、柳!」
 「はい!」
 「御堂に食べたいものを聞いておいてくれよ」
 「はぁ」
 「しまったぁ! メニューはそっからだったな!」
 「もういいですよ」

 ごねる柳に、とにかく電話しておけと言った。






 そして金曜日の二時に、御堂と正巳さんが東京駅に着いた。
 俺は青嵐と紫嵐の運転する《Ciel Bleu》で迎えに行った。
 俺が新幹線の改札で二人を待つ。

 「御堂!」
 「石神!」
 「正巳さんもようこそ!」
 「お世話になります」

 俺は二人の荷物を持ち、案内した。
 駅のロータリーで待つ《Ciel Bleu》へ向かう。

 「おい」
 「おう!」
 「なんだ、これは?」
 「《Ciel Bleu》だ! 先週届いた!」

 「「……」」

 青嵐が後ろのドアを開け、紫嵐が俺から荷物を受け取って後部に固定する。
 俺は二人に座るように言った。
 立ちながら車内を歩ける。

 青嵐が運転し、紫嵐は二人に紅茶を出した。

 「石神……」
 「どうぞ寛いで下さい。御堂、どこか立ち寄りたい場所はあるか?」
 「いや、お前の家に向かってくれ」
 「分かった!」

 俺はニコニコして寛ぐように言った。
 二人は黙って紅茶を飲んでいた。

 30分ほどで家に着いた。
 青嵐たちが連絡していたので、門の前に子どもたちが待っていた。

 「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」

 玄関の前で降りてもらい、子どもたちがすぐに荷物を運ぶ。

 「お父さん、お祖父ちゃん!」
 「柳!」
 「元気そうだね」

 二人とも嬉しそうだ。

 「ところで、石神」
 「ああ、なんだ!」
 「このロボットはなんだ?」
 「ああ! デュール・ゲリエな! 最新の戦闘プログラムを入れてあるんだ! お前と正巳さんの護衛に付けるぞ」
 「はい?」

 俺は二体のデュール・ゲリエを紹介する。

 「俺たちの技術力の宣伝も兼ねている。人間のように歩き、喋るアンドロイドは、またお前の評判を上げるぞ!」
 「聞いてないぞ!」
 「そうか? ジャングル・マスターは賛成してくれたんだけどな」
 「おい!」
 「大丈夫だって。ほら、お前たちも挨拶!」

 「御堂正巳様、正嗣様。数日の間ですがよろしくお願いします」

 「本当に喋ってるぞ!」
 「だから言っただろう」
 
 「今日の御予定は特にございません。ゆっくりと寛いで下さい」
 「御用があれば、いつでも御呼び下さい」

 「あの、何と呼べば?」
 
 「ダフニスです」
 「クロエです」

 二人のデュール・ゲリエはダフニスが黒のタキシードを、クロエは白のタキシードを着ている。
 白の手袋を嵌め、露出しているのは頭部だけだ。
 顔は二人ともミラー加工の強化ガラスだ。
 銀色に輝き、表情は無い。
 頭の後方はチタン合金がそのまま見えている。




 「まあ、とにかく中へ入れよ。少し打ち合わせよう」
 「あ、ああ」

 正巳さんはうちへ来るのが初めてだ。
 広大になった家や敷地を眺めている。
 御堂家も広いが、鉄筋の建物でこの大きさはなかなか見ないだろう。




 俺は笑って二人を中へ入れた。
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