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吹雪

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 目を覚ますと、真っ暗だった。

 (視力を失ったか!)

 「タカさん!」

 くぐもった声が聞こえた。
 すぐに、顔に重みを感じた。
 ロボが俺の顔に乗っていた。
 俺は両手でどかす。

 「タカさん!」
 「にゃー」

 亜紀ちゃんと柳が半狂乱になって叫んでいた。

 「おう」
 「「生きてたぁー!」」

 二人が抱き合って喜んだ。
 少しの間、意識が混乱していた。
 ロボが俺の顔を舐めて来る。

 「俺は……」
 「タカさんが呼吸していないのに気付いて! 熱が急に下がったんでおかしいと思ったんです!」
 「すみませんでした! 全然気付かなくて!」
 「ロボがいきなりタカさんの顔に覆いかぶさって!」
 「どかそうとしたら、今、石神さんが!」

 二人がそれぞれに説明してくれる。
 段々俺の意識も明瞭になり、自分に起こったことを思い出していった。

 俺は意識だけ過去に遡り、六花が雪の日に倒れた現場にいたらしい。
 正確には、部屋で倒れた六花を、タケが不安を感じて訪ねて行く所からだ。

 (六花が部屋で妖魔に襲われたことは聞いていた。あの後も別な妖魔が控えていたのか)

 「俺はどのくらいの間死んでいたんだ?」
 「タカさーん!」
 「石神さーん!」
 
 二人が抱き着いて来る。
 亜紀ちゃんが俺の顔をペロペロし、柳も物凄い勢いでキスをしてくる。

 「おい!」
 「本当に死んじゃうかと思ったぁー!」
 「石神さーん!」

 「生きてる! 俺は生きてるから!」

 二人は泣きじゃくり、落ち着かせるのにしばらく掛かった。
 大騒ぎをしていたので、皇紀と双子も起きて来る。
 
 「どうしたの!」
 「タカさんが死んじゃったー!」
 「生きてる!」
 「「「?」」」

 柳に無理矢理説明させ、柳は次第に落ち着いて来た。

 「皇紀! ハムを焼いて来い!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんは皇紀が焼いて来たハムを食べて、ようやく泣き止んだ。
 他の連中も何故か一緒に食べる。
 誰も俺に勧めない。

 柳の説明で大体のことは分かった。
 亜紀ちゃんが俺の体温が下がり始めたことに気付いた。

 「あ! 38度になった!」

 最初は喜んでいた。

 「37度……36.5度、36度、まだ下がる!」

 37度から下降は緩やかになったが、それは柳の体温があったからだろう。
 36度になり、異常を感じた亜紀ちゃんがベッドの俺の様子を見に来た。
 呼吸をしていなかった。
 柳を起こし、二人で半狂乱になったというわけだ。

 その時ロボが俺の顔の上に乗ったらしい。
 ロボがハムをねだるので、皇紀がササミを焼いて来た。
 ロボはそれを食べて満足して俺に引っ付いて寝ている。

 俺は考えていた。

 俺は自分の意識が過去に飛んだことを確信している。
 そして、以前にロボが俺が諦めていたブランの脳の再構築を実現したことを見ている。
 その二つの出来事が繋がった。

 ロボは、時間を遡れる。

 どういう原理かは、もちろん分からない。
 しかし、その精度は非常に優秀だ。
 俺の意識をあの時間に正確に送り、また現在に引き戻した。
 ブランたちの脳もそうだ。
 精確に破壊直前からの再構築だった。
 それは後から聞いた5人のブランたちの記憶で確認している。
 破壊の前であれば、破壊の記憶は残っていない。
 後であれば、もちろん脳は障害を負っている、

 蓮花とは、何らかの時間の把握能力を持っていることは話し合っていた。

 俺の熱は38度まで下がっていた。
 時間は朝の6時になっていた。

 「腹が減ったな」
 「「「「「!」」」」」

 やっと自分たちだけがハムを喰っていたことに気付いた。
 大分早いが、みんなで朝食を食べることにした。
 双子がすぐに炊飯器のスイッチを入れ、支度を始めた。
 30分で全て作り終える。

 ナスの素揚げ。
 目玉焼き。
 コーンとほうれん草のバター炒め。
 ウインナー(大量)。
 温野菜サラダ(必須)。
 麩と生青のりの味噌汁(青のり後入れ)。
 俺には鰆の西京焼きが別につく。
 味噌汁が絶品に美味かった。

 「味噌汁が美味いな! また作ってくれ!」
 「「うん!」」

 双子が喜んだ。




 コーヒーを飲み終えて庭に出た。
 7時過ぎだが、もう外は明るい。
 うちの雪かきも昨日のうちに子どもたちが終えている。
 雪は植栽の無い壁の近くに寄せられており、幾つかまた遊びで雪像を作ったようだ。

 ネコやウサギは双子の作品だろう。
 でかいパンケーキのようなものは亜紀ちゃんか。
 タマゴは多分柳だろう。
 
 「!」

 俺は双子を呼んだ。
 二人は急いで駆けて来る。

 「なんだ、これは?」
 「うーん、なんとなく?」
 「あのね、なんだろうね?」
 「お前らが作ったんだろう!」
 「そうなんだけど」
 「なんとなくなんだよ」

 ヤギのような頭を持つ男。
 そして背から触手の伸びた犬。

 犬は知らないが、六花を襲った奴だろう。
 そして俺はヤギ頭は知っている。

 双子が俺の手を引いて、中庭の方へ導いた。

 「おい!」

 俺は動けなくなった。

 赤子を抱いた六花の雪像だった。

 「素晴らしいな……」

 双子がニコニコしていた。

 「ここは日が当たらないから、しばらく残るんじゃないかな?」
 「気に入ってくれた?」
 「最高だぁ!」

 二人を両側に抱き寄せた。

 「そうだ、六花にも見せてやろう!」
 「「うん!」」

 午後に来るように六花に電話した。




 3時頃に六花が来た。
 雪がまだ残っているので、電車で来た。
 お茶を飲んでから、みんなで庭を散策した。
 六花が自分の「母子像」を見て感動していた。
 双子に丁寧に礼を言っていた。
 写真を一緒に一杯撮った。

 夕飯の後、二人でまた見に行った。
 庭のウッドデッキからよく見えた。
 双子がやったのか、ライトアップまでされていた。

 「綺麗ですね」
 「そうだな。お前だもんな」
 「ウフフフフ」

 六花に毛布を掛け、ウッドデッキのテーブルに腰かけて温かいミルクティーを二人で飲んだ。
 俺は今朝自分が見た夢を話した。

 「お話の通りです! 私はタケに担がれ、よしこのショベルカーに乗って助けられました!」
 「やはりそうだったか」

 俺はやはり、本当に過去へ行っていたのだ。

 「物凄い吹雪だった」
 「はい」
 「六花はその中で俺と出会い愛し合うことを約束してくれたんだな」
 「はい! 私は本当に石神先生と出会うことが出来ました!」

 顔を寄せ合ってキスをした。

 「俺たちの子どもな、「吹雪」という名前はどうかな?」
 「最高です!」

 六花が立ち上がって喜び、俺に抱き着く。
 サーシャさんが二人に付けた美しい雪の名前。
 そして俺たちは美しい友情と約束をもたらした雪の名前を子どもに付ける。

 「ちゃんと生まれてから発表な」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが呼びに来た。

 「風邪トラちゃんは早く中へ入って下さい!」

 俺たちは笑って、ライトアップでも写真を撮りたいと言った。
 亜紀ちゃんは急いで皇紀を呼び、また写真を撮った。




 六花が、最高に優しく美しい笑顔を見せた。
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