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甘味処「ケルン亭」

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 1月第二週の土曜日。
 今日から三連休だ。
 予定は組んでいない。
 年末年始に結構あちこちに行ったためだ。
 ということで、のんびり休日の定番、朝食の後で双子と散歩に出た。
 寒い季節だが、俺たちは絆があるから一緒にいるだけで温かい。

 「タカさん、寒いね」
 「もっとくっつけよ」
 「うん」

 寒かった。

 「どっかに入ろうよ」
 「いつものベンチはどうすんだ?」
 「あそこ寒いよー」
 「そうだなぁ」
 
 公園のベンチでコーヒーを飲みながらまったりするのが俺たちのコースだ。

 「でも、日差しがあるから暖かいかも」
 「じゃあ、行ってみるか」

 ベンチに座った。
 ルーが缶コーヒーを買って来た。
 ベンチが冷たく、寒風が吹いた。

 「「寒いよー」」
 「そうだな」

 やけに冷える日だった。

 「ソフトクリームは辞めるか」
 「「うん!」」

 JR中野駅前に向かって歩く。

 「あ! 「梅屋」があるじゃん!」
 「ああ」
 「あそこは甘味処だから、今の季節はお汁粉とかやってるんじゃない?」
 「いいね!」
 「夏はかき氷だもんな!」
 「「そうだよ!」」

 向かった。
 真夏はよく寄る。
 ソフトクリームで足りないことも多いので、「梅屋」でかき氷を食べる。
 俺たちはかき氷が大好きだ。
 
 「いらっしゃい! ああ、石神さん!」
 「「「こんにちはー」」」
 「どうぞどうぞ!」

 顔見知りなので、挨拶して入った。
 メニューを三人で見た。

 「お汁粉ないね」
 「かき氷がまだあるぞ」
 「ほんとだ」

 ここのかき氷は絶品だ。
 おでんを3つと葛餅、それとレインボーかき氷(4色)を頼んだ。
 
 おでんで身体が温まり、葛餅で糖分が身体を巡り、かき氷で一気に冷えた。

 「「寒いよー!」」
 「そうだな」

 三人で寒風の中をまた歩いた。

 「タカさん、あたしたちってバカなのかな」
 「そうだなー」
 「なんでかき氷なんて食べたんだろう」
 「そうだなー」
 
 まったくだ。
 何故か三人でいると、温かい気がして失敗した。

 「せっかくおでんで温まったのにね」
 「でも美味しかったね」

 三人で笑った。
 くっつきながら歩いた。

 「どっか寄る?」
 「こうなるとお汁粉が食べたいな」
 「「そうだね!」」

 ハーがスマホで検索した。

 「新井薬師だって」
 「遠いな」
 「そうだよね」

 三人でしょげた。

 「じゃあ、俺が注文してやるよ」
 「「え?」」

 俺は電話した。

 「もしもし、甘味処「ケルン亭」ですか?」
 「おー! 石神か!」
 「これからお汁粉を三人前お願いしたいんですが」
 「何かあったか?」

 「あの、お汁粉を三人前です。今日は営業してますか?」
 「あ、ああ!」
 「お願いします」

 俺は電話を切った。

 「タカさん、あるの!」
 「すごいよ!」
 「まあ、俺もこの辺は長いからな」
 「「流石タカさん!」」
 「まーなー!」

 二人が両側から俺を担いで走った。
 寒いからやめろと言った。

 



 「ここだよ」
 「「……」」

 俺はチャイムを押した。
 すぐに応答して門が開く。

 「行くぞ!」
 「「……」」

 玄関に、早乙女が出迎えに来てくれた。
 ラン、スー、ミキもいる。

 「入ってくれよ。雪野さんが今作ってるから」
 「悪いな。散歩の途中で急に食べたくなってなぁ」
 「大歓迎だ。さあ!」

 「柱」が俺を見て両手を上に上げて踊った。

 「おう! ヒモダンスな! また今度やろうな!」

 握手を求められる。
 握ってやると、一瞬全身が光った。

 「いや、それちょっとコワイから」

 「柱」が顔の横を手で掻いて謝った。
 俺たちはエレベーターで3階に上がった。

 「石神さん、いらっしゃい」
 「すいませんね、急に」
 「いいえ! 丁度主人と退屈していたところでした」
 「こいつ、つまらない男ですからね」
 「ウフフフフ、そんなことはありませんよ」

 早乙女が嬉しそうに笑う。
 俺はベビーベッドにいた怜花に挨拶した。

 「おう! 今日も美人だな!」
 
 怜花が笑って俺に手を伸ばす。
 抱き上げてやると喜んだ。
 ルーとハーも横から頬や頭を撫でる。

 しばらく抱いていると、雪野さんがお汁粉を持って来てくれた。

 「出来ましたよ」

 俺たちは礼を言って怜花をベッドに戻し、テーブルに着いた。

 「石神さんはお餅はあんまりお好きじゃないと聞いていましたが」
 「雑煮はね。でも磯辺焼きとかたまには汁粉なんかも食べたくなるんですよ」
 「そうなんですか」

 「俺も雪野さんも餅が好きだから、お汁粉もよく食べるんだよ」
 「お前は雪野味ならなんでも喰うだろう!」
 「アハハハハハ!」

 小さな丸餅だった。
 やはり雪野さんはセンスがいい。
 切り餅では、どうしても何度か噛んで千切らなければならない。
 そういうものが好きな人はいいが、俺は上品に一口で入れたい。

 「タカさん、美味しいよー!」
 「雪野さん、ありがとー!」

 双子が嬉しそうに食べている。
 
 「一杯作ったからね」

 鍋を持って来る。
 双子が何杯も食べた。

 「正月はゆっくり出来たか?」
 「ああ、親子三人でな」
 「初詣以外はどこかへ出掛けたか?」
 「うん、雪野さんの実家とか西条長官のお宅にも伺ったよ」
 「そうか」

 普通の正月だ。
 まあ、俺たちが異常なのだ。

 「今晩は予定はあるか?」
 「いや、別に」
 「じゃあ、お汁粉の御礼をしていいか?」
 「え! 別にいいよ! 石神にはいつもいろいろご馳走になってるんだから!」
 「そうはいかないよ。こんなに急に、こんなに美味いお汁粉を頂いちゃったんだからな!」
 「いしがみー」

 


 俺には計画があった。

 「じゃあ、今晩また来るからな」
 「分かったよ」

 身体がすっかり温まり、また三人でくっついて帰った。
 ホカホカだった。
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