上 下
1,428 / 2,818

次の世代に

しおりを挟む
 金曜日の夜。
 俺は亜紀ちゃんとまた風呂に入っていた。
 二人で湯船で足を延ばす。

 「タカさん、また三連休ですね」
 「ああ」
 「六花さんと出掛けます?」
 「いや、特に予定はないな」
 「へぇー! てっきり二人でどこかへ行くのかと」
 「どうしてだよ?」
 「だって! 六花さん妊娠中じゃないですか!」
 「そうだけど?」
 「一緒にいてあげて大事にしないんですか?」
 「別に、妊娠は病気じゃねぇからな。普通にしてりゃいいんだよ」
 「ふーん」

 亜紀ちゃんの長い髪が湯船に拡がる。
 ちょっとコワイからまとめろと言った。
 亜紀ちゃんが前に緑子からもらったシュシュで髪をまとめる。

 「それにしても、タカさんの子どもも二人目ですね!」
 「……まあ、そうかな」
 「アレ?」

 亜紀ちゃんが俺の方へ振り向いた。
 ちょっとオチンチンを見せろと言う。

 「なんでだよ!」
 「あ! 見せられないんですか?」

 俺は仕方なく、湯面にオチンチンを出してユラユラさせた。

 「うーん、オチンチンの顔色がちょっと悪いですね」
 「お前、何言ってんだ?」
 「タカさんって、何か隠し事とかあるとオチンチンに出ますよね」
 「お前、なんなんだよ!」
 「私、たくさんタカさんのオチンチンを見てるじゃないですか」
 「それがどうした」
 「だから、タカさんのオチンチンを見れば、大体のことが分かるようになりました」
 「そんな奴はいねぇ!」

 俺は焦った。

 「うーん、それで一体何を隠してるんですかねぇ」
 「べ、別に何もねぇ!」
 「六花さんと出掛けること?」

 「……」
 「違うな」
 「お前、ほんとに分かるの?」

 なんかちょっと怖くなってきた。

 「じゃあ、六花さんが妊娠したのが嬉しくない?」
 
 「……」
 「うん、もちろん違いますね」
 「あのさ」

 「そうすると、まさか六花さんが二人目じゃない?」
 
 「……」
 「え!」
 「おい、どうした」
 「ほんとなんですか! そんな! まさか!」
 「おい!」
 「今、タカさんのオチンチンが目を逸らしましたよ!」
 「目なんかねぇ!」

 なんなんだ、こいつ。

 「タカさん! どこの誰なんですか!」
 「何が?」
 「恍けないで下さい! 他に女がいるんですか!」
 「いや、落ち着けよ」
 「ウガァァァァァーーー!」

 亜紀ちゃんの頭に拳骨を落とした。
 一瞬気を喪い、涙目になって頭をさすりながら俺を見る。

 「麗星さんだよ! 去年の9月に京都へ行っただろう」
 「その時にヤった!」

 俺がもう一度拳骨を構えると、亜紀ちゃんが咄嗟に離れた。
 湯面にほとんど波が立たない、見事な移動だった。

 「お前らにはいずれ話そうと思っていたけどな。俺の子どもには違いないけど、同時に道間家の跡取りだ。だからちょっと複雑と言うかな」
 「それは分かりますけど! でもタカさんの子どもなんですよね!」
 「そりゃそうだ。士王や六花との子どもと変わることは無い。でもな、士王が「花岡」を継ぐのと同様に、麗星さんとの子どもも道間家を継ぐことが決まっている。「花岡」は俺が頂点にいるが、道間家は違う。そういう点でちょっとな」
 「うーん。まあ分かりますけど」

 亜紀ちゃんが腕を組んで考えている。

 「まだ具体的なことは話していないが、もしかすると、俺が父親であることは隠されるかもしれない。そうなればお前たちにも黙っていようとも思っていたんだ」
 「そうなんですか!」
 「麗星さんは俺たちと常に一緒にいるわけじゃないからな。道間家を守りながら、ずっと京都に住むはずだ。俺は外部の人間なんだよ。だから父親と名乗らない方がいいのかもしれない」
 「そんな!」
 「まだ分からないよ。でも、俺は道間家の決定に従いたいと思っている。それだけ道間家は深い家だからな」
 「じゃあ、タカさんは自分の子どもと会えないんですか?」
 「それも分からん。だけど、会うくらいは出来るだろう。父親と名乗れなくてもな」
 「それでいいんですか」
 「いい」

 そういう親子もある。

 「そうですか。まあ、いいオチンチンの色ですから、それでいいんでしょうね」
 「お前よ……」
 「それじゃ、今年の7月くらいですかね」

 亜紀ちゃんが計算した。

 「まあ、そうだな」
 「出産はもちろん京都で?」
 「そうなるだろう」
 「楽しみですね!」
 「まあな!」

 亜紀ちゃんが足を延ばして俺の肩に頭を預けた。

 「一気に出産ブームですね!」
 「ブームって言うな!」
 「アハハハハ!」

 俺も笑った。

 「でも、どうして急に?」
 「……」

 「オチンチンを見ますよ?」
 「やめろ!」

 こいつ、本当にオチンチンを見分けているのか。

 「次の世代のためだよ」
 「え?」

 「「業」との戦いは、人類の存亡を賭けたものになる。恐らく世界が全く変わってしまう。俺たちが勝つにせよ、今まで通りの世界ではなくなるだろう」
 「はい」
 「だから、その次の世界を雄々しく生きて行く人間が欲しかったんだ。俺たちも精一杯やるけどな。新しい世界を切り開いていく主役はお前たちだよ」
 「……」

 「頼むぞ」
 「タカさんもですよ!」
 「なに?」
 「タカさんも一緒です! 私も頑張るし、皇紀や双子もやるし。士王ちゃんだってきっとやります」
 「亜紀ちゃんなぁ」
 「でも、タカさんがいなきゃ! そうじゃなきゃ、私たちも困っちゃいますよ」
 「困ればいいだろう」
 「何言ってんですか! 私は絶対にタカさんを死なせませんからね!」
 「よろしくー」

 二人で笑った。

 「おい、この話は他の奴らにはするなよな」
 「はい! 分かってます!」
 「特に柳はな」
 「それも分かってますよ!」

 



 風呂を出て、酒を用意した。
 柳も一緒になる。

 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキーを飲み、柳は甘酒だ。
 つまみは味噌田楽と風花から送られた燻製ハム、それに買いだめしたムール貝で酒蒸しを大量に作った。
 双子が乱入して来る。
 ハム焼きとウインナーを追加した。
 ロボも飲みたがり、温めの燗を作ってやる。
 
 「こないだ聖に、家事用のアンドロイドを作る約束をしたんだ」
 「いいですね!」
 「聖よりも強いのを作ろう!」
 「うん! ボコボコにしてやるぅ!」
 
 双子が騒ぐので辞めろと言った。

 「もちろん、アンジーや聖雅を守る戦力は付けるつもりだけどな。聖も不在にすることも多いしな」
 「タカさん、聖さんのアパートメントとか会社には防衛システムは入れないんですか?」
 「ああ。本格的な戦争が始まれば、あそこは引き払うと思うぞ」
 「そうなんですか」
 「聖とは話しているんだ。あいつらはアラスカへ移動することになる」
 「へぇー!」

 「ジャンニーニはニューヨークに留まるだろうからな。あいつらの拠点には防衛システムを置くつもりだ」
 「じゃあ、早くしましょうよ!」

 亜紀ちゃんが俺の肩を揺らす。
 ジャンニーニが大好きなのだ。

 「まあ、待て。まだジャンニーニたちが狙われることは無いだろうよ。あいつらも裏社会で生きているんだ。ヤバいことになりそうになったら、すぐに気づくさ」
 「でもー」
 
 亜紀ちゃんが不満そうな声を漏らしながら、ムール貝をバクバク食べている双子をぶっ飛ばした。

 「大丈夫だよ。防衛システムは無いけど、それなりのことはやっている。何かあれば、すぐに聖が行くさ」
 「そうなんですか」

 俺は柳の小皿にムール貝を入れてやった。
 柳が目をキラキラさせて嬉しそうに俺を見て笑う。
 開くと身が無い。
 俺が喰ったものだ。
 双子が「ギャハハハハ」と笑った。
 いきなり涙目になるので、慌てて身のあるものを5つほど入れてやった。

 ロボが俺の隣でペロペロと日本酒を飲んでいる。
 時々、貝柱をクチュクチュと食べている。
 気持ちよさそうだ。

 「まあ、その前に風花だな」
 「なるほど!」
 「今のマンションにはそこそこのものが入っているけどな。新居は改めて組んでいる所だ」
 「え、風花ちゃん引っ越すんですか?」
 「ああ。あ! 皇紀にはまだ黙ってろ!」
 「「「はい?」」」

 口が滑った。

 「あのな、ここだけの話だぞ。大阪に風花と皇紀の愛の巣を建築中なんだ」
 「「「えぇー!」」」
 「にゃー!」

 「あいつの高校入学祝いだ。もちろん皇紀はずっとここに住むけどな。大阪へ行った時には、新居に泊まる」
 
 子どもたちが驚いている。

 「まだ風花にも話してないんだ。驚かせたいからな」
 「いいですね!」
 「皇紀ちゃん、喜ぶね!」
 「楽しみだね!」

 「そうだろ?」

 みんなで笑った。
 
 「どんな家なんです?」
 
 俺はサンルームのPCを立ち上げ、CGのファイルを開いた。

 「なんですか、これ!」

 みんなが驚く。

 「早乙女の家はケルン大聖堂にしたからな。今度はイスタンブールの「アヤソフィア大寺院」だ」
 「「「「アハハハハハハハ!」」」」

 広大な寺院の周囲に4つの尖塔がある。

 「敷地は2万坪だ。ほとんど建物だけどな」
 「でも、普段は風花ちゃん一人なんですよね?」
 「いや、まあ、それはまたな」
 「えー! なんですかぁ!」

 俺は笑って、今日はここまでだと言った。



 解散して片づけを子どもたちに任せた。
 俺たちはどんどんと新たな環境に変わって行く。
 若い連中のため、次の世代の子どもたちのために、俺は何かを遺してやりたかった。

 ロボが気持ちよさそうにあくびをした。
 今日はここまでだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...