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響子の初夢 Ⅱ

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 「今日はどんな訓練をする?」
 
 ファブニールを運転しながら亜紀が聞いた。

 「士王兄さんと空中の高機動戦をしたいな」
 「そうか。じゃあ、私も手伝うよ」
 「「うん!」」

 「亜紀様、どうか手加減をお願いいたします」

 桜花が心配そうにそう言った。

 「え! 当たり前じゃん!」
 「いえ、前回は士王様の下半身が潰れかけましたし」
 「ワハハハハハ!」
 「いや亜紀姉、笑いごとじゃないぜ?」
 「大丈夫だよ! 私も段々加減が分かって来たし」
 「まだ分かってないのかよ!」
 「ワハハハハハ!」

 1時間ほど走り、広い原野に出た。
 大きな技を使う場合、よく来る場所だ。

 「士王、誰もいないことを確認して」
 「はい!」

 士王が周辺の気配を探る。

 「大丈夫そうだよ!」
 「よし、じゃあまずは二人でやってみて」
 「「はい!」」

 士王と吹雪が空中に飛び上がった。
 1000メートルほど離れ、そして互いに向かって激突する。
 瞬きする間のことだった。

 空中ですれ違い様に数十の攻撃をお互いに応酬する。
 地上で亜紀たちがそれを見ていた。

 亜紀の端末が鳴った。

 「コラ! 外で訓練する時には連絡するように言ったでしょう!」
 「あ! ごめんなさい、一江さん!」
 「もう! 下手したらヘッジホッグが攻撃しちゃうんだからね!」
 「すみません!」
 「また士王ちゃんと吹雪ちゃん?」
 「はい、私が連れ出したんです!」
 「どうせあの二人が勝手にやってるんでしょう。あの子たちにもよく言っといて!」
 「はい! 必ず!」

 桜花たちが笑っていた。

 「もう! あんたたちも協力してよ!」
 「すみません。てっきりあの二人が許可を得ているとばかり思っていました」
 「私が怒られちゃったじゃない!」
 「申し訳ありません」

 亜紀は笑って空中に上がった。

 「ちょっとしごいてくる!」
 「亜紀様! どうか手加減を!」

 亜紀は手を振って応えた。




 亜紀が上がったことで、士王と吹雪は亜紀に襲い掛かった。
 左右から亜紀に無数の攻撃を放つ。
 亜紀は笑いながら手だけでいなしていく。
 「槍雷」や「虚震花」も出たが、亜紀にとっては何のこともない。

 士王たちが高速移動しながら変幻自在な攻撃を繰り返した。
 亜紀も次第に動きながらかわすようになった。

 「二人とも単調過ぎるよ!」

 亜紀が叫ぶ。

 「!」

 亜紀が初めて高速移動した。
 一瞬で数百メートルを移動する。
 亜紀のいた場所に、巨大な何かが急降下してきた。

 「ワキン!」

 石神の神獣「ワキン」だった。

 「テメェラァー!」

 亜紀が獰猛に笑った。
 瞬時に士王に襲い掛かり、士王が墜落した。

 「士王様!」

 桜花と椿姫が落下地点を追う。
 吹雪はワキンと共に亜紀に襲い掛かる。

 「オロチ・ストライク!」

 三本の光が捩じれながらワキンにぶつかる。
 ワキンも墜落した。

 「あれ、吹雪?」

 亜紀が吹雪の姿を探した。
 ワキンの傍にいたはずだ。
 その瞬間、墜落するワキンから眩い光が上がって来た。

 「こいつ!」

 亜紀が笑いながら光を受け止めた。
 巨大なプラズマの光が亜紀の前で爆発した。

 「ワハハハハハ!」

 亜紀が獰猛に笑いながら、ワキンの陰にいた吹雪にストレートをぶちこむ。
 吹雪が地上に叩きつけられた。

 「吹雪様!」

 桜花が士王を抱え、椿姫が地上に激突した吹雪に向かった。

 「「亜紀様!」」

 「アハハハハハハ!」

 地上に降りた亜紀が笑っていた。




 士王と吹雪は10分後に目を覚ました。
 
 「おい、身体は大丈夫?」

 亜紀が声を掛ける。

 「やっぱり全然ダメかぁ」
 「やっとワキンが来てくれるようになったのにな」
 「あれは驚いたよ! タカさん以外に呼べる人間がいるなんて思わなかった」
 「だろ? 苦労したんだぜ」
 「流石だね! 二人とも呼べるの?」
 「そうだよ。今日は士王兄さんが呼んだけどね」
 「そうなんだ! よくやったね!」
 
 亜紀が二人の頭を撫でる。

 「でも、ワキンが大分やられちゃったからなぁ」
 「後で「Ω」をご馳走しておくよ」
 「頼む!」

 亜紀が二人を立たせた。

 「じゃあ、次! 行くよ!」
 「「え?」」
 
 亜紀が端末を操作した。

 「「キャッスル・ディアブロ」からデュール・ゲリエの「飛行型」を呼んだから! 次はそれと戦闘ね!」
 「「えぇー!」」
 「80体! どれも「殲滅モード装備」だから気を付けてね?」
 「「なんでぇ!」」

 亜紀は笑って桜花と椿姫を抱えて離れた。

 士王と吹雪は怒涛の攻撃から逃げ回り、必死に反撃した。
 しかしどの攻撃も回避され、30分後に瀕死の状態を亜紀に救助された。

 「「亜紀様!」」
 「あー、こんなもんか。よし! 私が手本を見せよう!」
 「もう気絶してますって!」
 「早く手当を!」

 桜花と椿姫が物凄い剣幕で亜紀に怒鳴った。
 士王と吹雪は「大院長」の「手当」で治療された。
 数カ所の骨折と幾つかの内臓破裂が短時間で治癒した。
 




 士王と吹雪が目覚めると、「虎の湯」だった。
 身体を洗われていた。

 「ルー姉!」
 「ハー姉!」

 「二人とも気付いた?」

 美しい双子の姉に洗われていた。

 「あー! 起きた?」
 「「亜紀姉!」」

 湯船から亜紀が上がって来た。
 両頬が腫れ上がっていた。

 「亜紀姉! その顔はどうしたんだ!」
 「タカさんに怒られちゃった!」

 明るく笑う亜紀に、士王たちも笑った。

 「ごめんなさい、俺たちのせいだよね」
 「私がちょっとやり過ぎだったんだよ」
 「「ちょっとじゃないよ!」」
 「アハハハハハハ!」

 亜紀が笑った。

 「亜紀ちゃん、冗談じゃないよ」
 「大院長先生も大変だったんだよ」
 「ごめんって! でもこの二人が一生懸命だからさ」
 「もう!」
 「この子たちは亜紀ちゃんとは違うんだから!」

 双子からも怒られる。

 「でもさ、この子たち、ワキンを呼び出したんだよ!」
 「うん、タカさんの血だよね。それがなきゃ、私たちだって無理なんだから」
 「そっか!」
 「亜紀ちゃん、士王も吹雪も手加減してるんだよ」
 「え?」
 「クロピョン呼ばれたら、亜紀ちゃんでも瞬殺だよ?」
 「ああ!」

 亜紀が驚く。

 「違うよ、亜紀姉! 俺たちは流石にそこまでは無理だから」
 「士王兄さんの言う通りだ。ワキンだって、アラスカでずっと一緒にいるから何とか出来ただけだよ。ミミクンはまだ全然ダメだしね」
 「そうなんだ!」
 「亜紀姉は本当に鍛えてくれるから感謝してるんだ」
 「またお願いします!」
 「うん!」

 双子が呆れている。
 やはり、石神の血だと思った。

 五人で湯船に浸かった。




 「吹雪も戦場に出たいの?」
 「うん! 僕もお父さんと一緒に戦いたい」
 「そっか」
 
 ルーが寂しそうに笑った。

 「でもそうだよね。みんなが必死に戦ってる。もう結構な数の仲間が死んじゃった。みんないい人だった」
 「戦場に出るって、そういうことだよ?」

 ルーとハーが言った。

 「分かってるよ。でも俺も吹雪も何もしないなんて出来ない」
 「うん、竹流もそうだった。タカさんが地元のみんなを守れって言ったけど、結局戦場に飛び出して行った」
 「優しい子だったのにね。人を殺すなんて絶対に嫌な子なのに」
 
 「みんなそうだろう? でもみんな戦っている」

 士王が言った。

 「そうだね」

 亜紀が呟いた。

 「まあ! 石神家は他人をぶちのめしてなんぼだから! しょうがないよ!」
 「それは亜紀ちゃんだよ!」
 「昔からタカさんとヤクザぶちのめしたりして!」
 「ワハハハハハ!」
 
 全員で笑った。

 「じゃあ、食事をした後で、タカさんと響子ちゃんに会いに行こうか!」
 「また無茶するんでしょう!」
 「大丈夫だよ! タカさんは私たちが大好きなんだから!」
 「そうだね!」
 「そうだそうだ!」

 広い浴場に、楽し気な笑い声が響いた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 響子は夕べ見た「夢」を思い出して笑った。
 世の中はそのうちに、過酷な戦場になる。
 世界中で激しい存亡を賭けた戦いが展開していく。

 その中で、自分たちは笑っている。

 (タカトラと六花が幸せそうに笑ってる)

 響子は二人を見て自分も笑顔になっていくのを感じた。

 (まだ二人は子どもの名前も知らない。「フブキ」って言うんだよ? 物凄く綺麗な子。そして明るくて優しい子なんだよ?)

 「おい、響子。何でそんなに笑ってるんだ?」
 
 石神が聞いて来た。

 「しらなーい」
 「なんだこいつ!」
 「ちょっと生意気ですね」
 「パンツ脱がすか!」
 「はい!」

 「やめてぇー!」

 響子は必死に抵抗したが、呆気なくパンツを脱がされた。

 「もう! なんでぇ!」




 石神と六花が笑っていた。
 響子も笑った。
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