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「カタ研」ZERO

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 午後四時頃。
 早乙女たちと一緒に家に戻り、二人はそのまま帰った。
 玄関を開けると、ロボが飛び出して来て俺に駆け寄った。
 柳もいた。

 「お帰りなさい!」
 「ああ、もう戻ってたのか」
 「はい」
 「もっと御堂の傍にいればいいのに」
 「もう二十年以上一緒ですよ!」
 「羨ましーなー」
 「なんですか!」

 笑ってみんなで家に入った。
 柳に土産の御札とお守りを渡す。
 柳は早速自分の部屋に飾った。
 みんなでお茶を飲み、子どもたちが柳と楽しそうに話した。

 「タカさん、夕飯は予定通り鰻でいいですよね?」
 「ああ。そろそろ連絡しておけよ」
 「はーい!」

 量が量だけに、事前に注文はしている。
 予定通りだという連絡をする。
 二重天井を21人前、白焼きを13枚だ。
 俺は各一人前だ。
 俺は人間だ。

 「柳さん、ちょっと太りました?」
 
 亜紀ちゃんが言う。
 
 「え! そうかな!」
 「ええ、ちょっと」
 「柳ちゃん、食べすぎ?」
 「柳ちゃん、顔がおっきくなったね」
 「エェー!」
 
 柳がショックを受けている。

 「あの、私鰻は一人前で」

 瞬間、子どもたちが集まり、「殴りジャンケン」を始めた。
 隙があれば殴り合いながら、吹っ飛んで手が出せなかった奴は失格だ。

 「「「「じゃんけんポイ!」」」」

 柳が呆然と見ている。
 情報戦で負けた。
 泣きそうだ。

 「……」

 俺が笑って、柳は二人前だと言った。
 壮絶な「殴りジャンケン」で、皇紀が鰻重を、亜紀ちゃんが白焼きをゲットした。




 鰻が届いて、みんなで楽しく食べた。
 ロボも白焼きに唸っていた。
 柳もニコニコしていた。
 気のいい奴だ。

 虎温泉を沸かし、みんなで入った。
 皇紀は目隠しをされた上で、額に目を描かれた。

 「見たけりゃ極めろ!」

 亜紀ちゃんが額を叩く。
 みんなで洗い合い、皇紀はまた双子に洗われた。

 「チンコは自分でね」
 「うん」

 湯船に全員で入り、寛ぐ。
 双子がかき氷を作り始めた。

 「おい! 最高だな!」
 「「エヘヘヘヘヘ!」」

 双子がみんなに注文を取り、俺は練乳イチゴをもらった。
 双子はメロンとイチゴのシロップをそれぞれ掛け、その上にバニラアイスを盛った。
 それを見て子どもたちがみんな同じようにした。
 ロボは温泉の岩の上に寝転がり、バニラアイスをちょっと貰った。

 


 風呂を上がって、みんなで「幻想空間」に移動する。
 俺と亜紀ちゃんと双子がつまみを作る。

 身欠きにしん。
 ハモンセラーノや生ハム。
 ソラマメ。
 インゲンの胡麻和え。
 ナスの素揚げ。
 ハムの厚切り焼き(獣用)。
 巾着タマゴ。
 新ショウガの漬物。

 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキー。
 柳はバドワイザー。
 皇紀と双子は梅酒。

 ワイワイ楽しく作り、みんなで運んだ。

 「あー、昼はあんまり飲めなかったからなぁ」
 「アハハハハハ!」

 笑う亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。
 亜紀ちゃんが歌手の北一郎たちが来ていたことを柳に話した。

 「タカさんの歌が絶賛されたんで、ギターもと思ったんですよ」
 「ああ!」
 「弦楽器なら何でもって言ったら、琴が出て来て」
 「アハハハハハハ!」
 
 「ばかやろう! 大恥かいたじゃねぇか!」
 「ごめんなさーい!」

 「和楽器とかも好きなんだけどな。流石に自分じゃやらねぇ」
 「麗星さんの篠笛って良かったですよね!」
 「ああ。響子も篠笛をちょっと始めたんだけどな」
 「そうなんですか!」
 「うん。すぐに飽きて辞めた」
 「「「「「アハハハハハハ!」」」」」

 みんなが笑った。

 「最初はよ、アルと静江さんに聞かせるんだって張り切ってたんだけどなぁ」
 「そうなんですか」
 「わざわざ福原流の人に来て貰ったりしたんだよ」
 「へぇー!」
 「二回かな。それで「タカトラ、もういいよ」って」
 「「「「「アハハハハハハ」」」」」」

 「自分に才能が無いのが分かったってさ。二回で才能が発揮できるかってなぁ」
 「続けさせなかったんですか」
 「まあな。折角いいものを買ったんで、六花にやらせてる」
 「「「「「エェー!」」」」」
 「ちょっと上手くなったぞ。しばらくしたら、みんなにも聴かせられるな」
 「ほんとですか!」

 みんなが驚く。
 まあ、あの歌を聴けばそうなのだが。

 「六花は音楽は好きなんだよ。ほら、歌いたがるだろ?」
 「ええ」
 「しょっちゅう鼻歌も歌ってるしな。大使夫人会で招待されて、あいつ、歌おうとしやがった」
 「ええ!」
 「俺と響子で変装して見ててな。俺が火災報知機を鳴らして辞めさせた」
 「危なかったですね!」
 「そうだよ。そういうこともあって、今度招かれたら篠笛をやらせるつもりだ」
 「ああ、なるほど!」
 「あいつ、「次は必ず歌を披露します」なんて言いやがってよ」

 みんなが爆笑した。

 「アメリカ大使夫人のマリアには、もうそれとなく話しているけどな。篠笛なら行けそうだ」
 「良かったですね!」

 「でも、響子ちゃんも何かやればいいですよね」

 柳が言った。

 「そうなんだ。だから今は都市運営の勉強をさせてるんだ」
 「へぇー!」
 「歴史学、政治学、経済学、社会学、まあ俺の独断と偏見で本を与えているけどな」
 「そうですか!」
 「石門心学やリューベック市の歴史や江戸の還元社会のことなんかをな。専門書もあるし小説だって読めと言っている」
 「石神式なんですね!」
 「そりゃそうだ。俺は俺のものしか教えられないからなぁ。まあ、そのうちにパピヨンも来るし、「都市学」そのものも教わることが出来るだろうよ」
 「それはアラスカのためですね」
 「そうだ。響子にはあの都市を運営してもらいたいからな」
 
 「私も何かやろうかなー」

 亜紀ちゃんが言った。

 「皇紀は防衛システムとか何か作るのが得意だし、ルーとハーは数学とかいろんな研究もあるし」
 「そうだな」
 「柳さんは?」
 「うーん」
 「柳さんもボッチですよね?」
 「え! 私、大学で仲がいい友達いるもん!」
 「そうなんですか!」

 亜紀ちゃんは動揺している。

 「てっきり私……」
 「失礼ね!」
 「だって、家に誰も連れて来ないじゃないですか」
 「それはさ……この家ってちょっと特殊じゃない」
 「はい?」
 「ちょっとさ、お泊りとか出来ないじゃない」
 「あー」

 俺が大笑いした。

 「ちょっと石神さん! 私、実は困ってるんですけど!」
 「なんだよ、連れて来ればいいじゃないか」
 「無理ですよ! あの食事ですよ?」
 「俺は誰でも呼んでいるだろう」
 「まあ、それは石神さんの人格というか……」

 双子が「なんだろうね」と言っているので、柳が睨んだ。

 「じゃあ、今度連れて来いよ。俺が何とかしてやるから」
 「そうですか?」
 「大丈夫だって」

 柳が笑顔になった。

 「じゃあお願いしますね。でも、来年亜紀ちゃんが入って来るでしょう?」
 「はい! 大丈夫ですよ!」
 「そうしたらさ、一緒にサークルでも作らない?」
 「あ! いいですね!」
 「ね! そうすれは他の人も一緒に楽しめるかもしれないし!」
 「あ、やっぱり友達いないんじゃ……」

 亜紀ちゃんが柳を見る。

 「そ、そうじゃないのよ! ほら、親しいって言っても、私もこの家でやること結構あるじゃない?」
 「まー、それは」
 「だからさ! 大学の「親しい」友達とも一緒に遊ぶことも少なくて」
 「……」

 「そんな目で見ないでぇー!」

 みんなで笑った。

 「まあ、好きにしろよ」
 「タカさん、何かサークルでお勧めのものってないですか?」
 「お前らが好きにやれよ。テニス同好会でも何でもさ」
 「えー、そんなその辺にあるものじゃ」
 「そうだよね。石神さん、何かありませんかね」
 「私たちもやりたいー!」

 双子も乗って来た。

 「それなら、この家に何か役立つこともいいよね!」
 「そうですね! 戦略研究会とか?」
 「そうそう! そういう感じ!」
 「妖怪研究会!」
 「アハハハハハ!」

 楽しそうに話している。

 「ねぇ、タカさん!」
 「カタストロフ研究会。カタ研とかどうだ?」
 「どういうのです?」
 「地球や人類の破滅についての研究だ」
 「「「「面白そう!」」」」

 「宗教的に「終末論」というものがあるよな。キリスト教で言えば「最後の審判」だ。その前に幾つかの段階もある。そういうものから、小惑星の衝突や疫病の蔓延、資源枯渇による自滅、核戦争、まあ様々な破滅がある」

 子どもたちが真剣に聞いている。

 「俺たちに繋がるとすれば、「業」との戦いだ。強化兵士や遺伝子操作された怪物。それに恐らくは疫病、また妖魔との戦闘もあるよな。そういうことを研究し、その対処法を模索するという活動だ」
 「いいですね!」
 「流石、石神さん!」

 「タカさん! 早速「人生研究会」でもやるよ!」
 「ああ、大学の連中と一緒にやってもいいんだしな。サークル活動は別に大学生に限らない」

 柳と亜紀ちゃんが喜んだ。






 「カタストロフ研究会」、通称「カタ研」は後に活動し、様々な問題を起こしつつも俺たちの戦いに有用な組織となって行く。
 この時の俺たちは、まだそれを知らない。
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