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ジョナサンの能力
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「タカトラ、大丈夫?」
朝食の席で、響子が俺を心配していた。
大量の酒と寝不足で、流石の俺もきつかった。
二日酔いではないが酷い顔をしているのだろう。
「髪が立ってるよ?」
「撫でて戻してくれ」
「うん!」
響子が俺の頭を撫でた。
「戻んない」
「俺の髪は根性があるからな!」
アルと静江さんが笑った。
子どもたちは最後の食事ということで、一層張り切って食べていた。
ロドリゲスも根性を見せてガンガンステーキを焼いてくれていた。
今日は80キロあると言っていたが、結局全部喰われた。
泣いていた。
「次は必ず、みなさんが満足する量を……」
「満足してますよ!」
「美味しかったですよ!」
「また食べに来るから!」
「ロドリゲス、大好き!」
双子がロドリゲスに抱き着き、頬にキスをした。
双子の最高の礼だ。
気に入られて金や物を貰う人間はいるが、キスをされるのはごく一部だけだ。
ロドリゲスは相当好かれている。
まあ、あれだけ本気で愛情を込めて子どもたちのために何かをやろうとしてくれている奴は少ない。
俺たちは帰ることにした。
「イシガミ、また来てくれ」
「ああ。アルたちもな。こないだも言ったけど全然来てくれないじゃないか」
「アハハハ、そうだね! 絶対に行くよ」
「石神さん、本当にありがとうございました」
「いやいや、また迷惑をお掛けしてしまって」
「楽しかったですよ」
響子と子どもたちがリムジンに乗った。
俺は気になることがあったので、別行動だ。
アルや静江さん、ロドリゲスや執事たちの他、大勢の人間が見送りに来てくれた。
響子が最後にアルと静江さんに抱き締められる。
今度は泣かなかった。
もう、響子も絆を確信しているのだろう。
俺はジョナサンのアパートメントの近くで車を降りた。
響子と子どもたちは先にタイガー・ファングでアラスカへ行く。
俺はジョナサンに会ってから「飛行」で向かう。
ジョナサンは同じアパートメントの別な部屋へ移動していた。
家財やベッドなどは昨日のうちに運んでいた。
チャイムを鳴らす。
ジョナサンが出て来た。
「おい、何の確認もしないで顔を出すなよ」
「あなたは?」
「アラスカの「虎」の軍のエージェントだ」
「え!」
中へ入れられた。
「君は「ハナオカ・アーツ」が使えるようになったと聞いている」
「はい! あれがそういう名前とは知りませんが」
「念のため確認したい。見せてもらえないかな」
「はい、喜んで!」
俺たちはアパートメントを出て公園に向かった。
「じゃあ、上空に向けて撃ってみてくれ」
「はぁ」
「?」
先ほどとテンションが違う。
何かおかしい。
ジョナサンが俺が指さした方向へ技を放った。
「なんだ?」
何も起こらなかった。
多少の風は吹いたようだが。
「どうでしょうか?」
「ああ。今度は地面に向けて撃ってくれ。ああ、軽めでな。出来るか?」
「はい!」
今度は喜んでいる。
ジョナサンが地面に向けて撃った。
地面が抉れた。
「大分力を弱めましたが」
「ああ」
俺は気付いた。
「花岡」ではない。
ジョナサンは普通に拳を前に出しただけだった。
「君は昨日、うちの戦士たちから手ほどきを受けたはずだ」
「ああ、あれはいいですね。身体が温かくなります」
「それと君の技は別なのか?」
「はぁ、よく分かりません」
ジョナサンの能力は……。
「動かないで地面を抉れるか?」
「やってみます」
ジョナサンは両手を下に垂らしたまま、俺が指さした地面を見た。
抉れた。
やはりそうだった。
「PK(PsychoKinesis=念動力)!」
ジョナサンは不思議そうな顔をして俺を見ていた。
亜蘭は天才だった。
だから双子が教えた技を次々に習得していった。
ジョナサンは天才ではなかった。
超能力者だ。
子どもたちは動きをトレースした後での現象だったので、結び付けてしまったのだろう。
しかし、俺は話を聞いて、たった基本の動きだけで「震花」のような大技が撃てるとは信じがたかった。
だから確認しに来た。
「分かっているだろうが、今の技を人前で使ってはいけない」
「はい! これは僕の秘密です。いつか世界を救うために使うものと思ってます」
「その通りだ。でも、万一君の身が危うい時はもちろん力を使ってくれ」
「はい!」
「それと、君の大事な人間を守る時だ」
「はい」
まあ、今は少ないだろうが。
「それだけだ。君の力を他人に見せれば賞賛されるだろう」
「はい!」
「でも、それを一度やれば君は必ずその力に溺れてしまう。強い力を持った者が最も恐れなければならないことだ」
「はい!」
「悪を懲らしめることは気持ちがいい」
「はい、分かります!」
「でも、それを考えれば君は必ず力に溺れて自滅するか、俺たちが君を制裁する」
「!」
「君は力の無い時にどうしていた?」
「はい……」
「君が自分の身を挺して悪と戦って来たのならば、君の力を制限しない」
「はい」
「君は自分の心の弱さをまずは知ることだ。君は弱い。だから強くなれ」
「あの、どうすればいいのでしょうか」
ジョナサンは理解したようだ。
「他人に優しくなれ。他人と関り、困っている人間を何とかしようとしろ。そう考えて行けば、君は強くなる」
「はい!」
「まずは、毎日この公園の掃除をしろ」
「はい?」
「誰もやらない。誰からも評価されない。評価されてもとても小さい。でも、そういうことが出来なければ、君は弱い」
「分かりました!」
ジョナサンが笑った。
「じゃあ、これはプレゼントだ」
俺は上空に向かって「轟閃花」を撃った。
巨大なプラズマが広範囲に広がり、空がしばらく紫色に染まっていく。
ジョナサンはそれを放心した笑顔で見ていた。
「じゃあ、君の卒業を待っているぞ」
「はい! いずれまた!」
俺たちは笑って別れた。
しかしまいったぜぇ。
超能力者なんて、どう扱えばいいのか。
訓練だってまったく分からん。
それに、まずはジョナサンの弱さを何とかしなければならない。
あいつは絶対に自分が得た力を使いたいと思うだろう。
定期的に見張る必要がありそうだ。
まあ、悪い奴ではなさそうだ。
俺は小さく笑って、上空へ飛んだ。
それにしても、ロボの爪って……。
朝食の席で、響子が俺を心配していた。
大量の酒と寝不足で、流石の俺もきつかった。
二日酔いではないが酷い顔をしているのだろう。
「髪が立ってるよ?」
「撫でて戻してくれ」
「うん!」
響子が俺の頭を撫でた。
「戻んない」
「俺の髪は根性があるからな!」
アルと静江さんが笑った。
子どもたちは最後の食事ということで、一層張り切って食べていた。
ロドリゲスも根性を見せてガンガンステーキを焼いてくれていた。
今日は80キロあると言っていたが、結局全部喰われた。
泣いていた。
「次は必ず、みなさんが満足する量を……」
「満足してますよ!」
「美味しかったですよ!」
「また食べに来るから!」
「ロドリゲス、大好き!」
双子がロドリゲスに抱き着き、頬にキスをした。
双子の最高の礼だ。
気に入られて金や物を貰う人間はいるが、キスをされるのはごく一部だけだ。
ロドリゲスは相当好かれている。
まあ、あれだけ本気で愛情を込めて子どもたちのために何かをやろうとしてくれている奴は少ない。
俺たちは帰ることにした。
「イシガミ、また来てくれ」
「ああ。アルたちもな。こないだも言ったけど全然来てくれないじゃないか」
「アハハハ、そうだね! 絶対に行くよ」
「石神さん、本当にありがとうございました」
「いやいや、また迷惑をお掛けしてしまって」
「楽しかったですよ」
響子と子どもたちがリムジンに乗った。
俺は気になることがあったので、別行動だ。
アルや静江さん、ロドリゲスや執事たちの他、大勢の人間が見送りに来てくれた。
響子が最後にアルと静江さんに抱き締められる。
今度は泣かなかった。
もう、響子も絆を確信しているのだろう。
俺はジョナサンのアパートメントの近くで車を降りた。
響子と子どもたちは先にタイガー・ファングでアラスカへ行く。
俺はジョナサンに会ってから「飛行」で向かう。
ジョナサンは同じアパートメントの別な部屋へ移動していた。
家財やベッドなどは昨日のうちに運んでいた。
チャイムを鳴らす。
ジョナサンが出て来た。
「おい、何の確認もしないで顔を出すなよ」
「あなたは?」
「アラスカの「虎」の軍のエージェントだ」
「え!」
中へ入れられた。
「君は「ハナオカ・アーツ」が使えるようになったと聞いている」
「はい! あれがそういう名前とは知りませんが」
「念のため確認したい。見せてもらえないかな」
「はい、喜んで!」
俺たちはアパートメントを出て公園に向かった。
「じゃあ、上空に向けて撃ってみてくれ」
「はぁ」
「?」
先ほどとテンションが違う。
何かおかしい。
ジョナサンが俺が指さした方向へ技を放った。
「なんだ?」
何も起こらなかった。
多少の風は吹いたようだが。
「どうでしょうか?」
「ああ。今度は地面に向けて撃ってくれ。ああ、軽めでな。出来るか?」
「はい!」
今度は喜んでいる。
ジョナサンが地面に向けて撃った。
地面が抉れた。
「大分力を弱めましたが」
「ああ」
俺は気付いた。
「花岡」ではない。
ジョナサンは普通に拳を前に出しただけだった。
「君は昨日、うちの戦士たちから手ほどきを受けたはずだ」
「ああ、あれはいいですね。身体が温かくなります」
「それと君の技は別なのか?」
「はぁ、よく分かりません」
ジョナサンの能力は……。
「動かないで地面を抉れるか?」
「やってみます」
ジョナサンは両手を下に垂らしたまま、俺が指さした地面を見た。
抉れた。
やはりそうだった。
「PK(PsychoKinesis=念動力)!」
ジョナサンは不思議そうな顔をして俺を見ていた。
亜蘭は天才だった。
だから双子が教えた技を次々に習得していった。
ジョナサンは天才ではなかった。
超能力者だ。
子どもたちは動きをトレースした後での現象だったので、結び付けてしまったのだろう。
しかし、俺は話を聞いて、たった基本の動きだけで「震花」のような大技が撃てるとは信じがたかった。
だから確認しに来た。
「分かっているだろうが、今の技を人前で使ってはいけない」
「はい! これは僕の秘密です。いつか世界を救うために使うものと思ってます」
「その通りだ。でも、万一君の身が危うい時はもちろん力を使ってくれ」
「はい!」
「それと、君の大事な人間を守る時だ」
「はい」
まあ、今は少ないだろうが。
「それだけだ。君の力を他人に見せれば賞賛されるだろう」
「はい!」
「でも、それを一度やれば君は必ずその力に溺れてしまう。強い力を持った者が最も恐れなければならないことだ」
「はい!」
「悪を懲らしめることは気持ちがいい」
「はい、分かります!」
「でも、それを考えれば君は必ず力に溺れて自滅するか、俺たちが君を制裁する」
「!」
「君は力の無い時にどうしていた?」
「はい……」
「君が自分の身を挺して悪と戦って来たのならば、君の力を制限しない」
「はい」
「君は自分の心の弱さをまずは知ることだ。君は弱い。だから強くなれ」
「あの、どうすればいいのでしょうか」
ジョナサンは理解したようだ。
「他人に優しくなれ。他人と関り、困っている人間を何とかしようとしろ。そう考えて行けば、君は強くなる」
「はい!」
「まずは、毎日この公園の掃除をしろ」
「はい?」
「誰もやらない。誰からも評価されない。評価されてもとても小さい。でも、そういうことが出来なければ、君は弱い」
「分かりました!」
ジョナサンが笑った。
「じゃあ、これはプレゼントだ」
俺は上空に向かって「轟閃花」を撃った。
巨大なプラズマが広範囲に広がり、空がしばらく紫色に染まっていく。
ジョナサンはそれを放心した笑顔で見ていた。
「じゃあ、君の卒業を待っているぞ」
「はい! いずれまた!」
俺たちは笑って別れた。
しかしまいったぜぇ。
超能力者なんて、どう扱えばいいのか。
訓練だってまったく分からん。
それに、まずはジョナサンの弱さを何とかしなければならない。
あいつは絶対に自分が得た力を使いたいと思うだろう。
定期的に見張る必要がありそうだ。
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