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イタリアンレストランにて Ⅱ

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 俺は笑いながら、聖の頬を軽くはたいて意識を取り戻させた。

 「トラ……」
 「お前、ああいうのは苦手だったか」
 「……」

 聖はグラスのワイルドターキーを煽った。
 俺が注いでやる。

 「なんだ、セイント! 俺はビビらなかったぜ!」
 
 ジャンニーニがからかい、殴りかかろうとした聖を俺が止めた。

 「しょうがねぇだろう! お前気を喪っちゃったんだからよ」
 「トラァー」

 みんなで笑った。

 「そう言えば、お前には全然妖魔を見せたことが無かったな」
 「話には聞いてたけどよ。考えて無かったよ」
 「そうか」

 俺はまた立ち上がって後ろを向いた。
 客は全員いなくなっていた。

 「タマ! タヌ吉!」

 俺が呼ぶと、二人の着物姿の美しい女が現われた。

 「なんだ、主」
 「主さまぁー!」

 またジャンニーニが驚き、聖は目を丸くしている。
 マリアたちも驚いていたが、反応がルドンメとは違った。
 人間の姿だったためだろう。

 「大丈夫か、聖?」
 「あ、ああ」
 
 今度は気絶しない。
 俺は笑ってタマとタヌ吉に近づいた。

 「タマとタヌ吉だ。よろしくな!」

 全員が頷く。
 シルヴィアとパオロは手を振っている。
 大物かもしれない。

 俺は三人で日本舞踊を踊った。
 子どもたちに教えるために、タマとタヌ吉に稽古を付けてもらっていた。
 ようやくジャンニーニたちも落ち着き、俺たちの舞を見ていた。

 「よし、帰っていいぞ! ありがとうな!」
 「主様」
 「なんだ?」

 タヌ吉が言った。

 「私もご一緒してもよろしいですか?」
 
 いつの間にか、レースのドレス姿になっている。

 「じゃあ、ちょっとだけな。身内の集まりだからよ」
 「はい!」

 嬉しそうに俺の隣に座った。
 グラスを頼み、俺が注いで料理も小皿に取ってやった。

 「ありがとうございます!」

 タヌ吉が嬉しそうにグラスを口に含んだ。
 聖が不思議そうに見ている。

 「飲み食いするのか」
 「こいつは人間と同じようにするのが大好きなんだよ。風呂に入ったりな」
 「そうなのか」
 
 ジャンニーニたちも次第に慣れ、子どもたちはタヌ吉に興味を持った。

 「これ、美味しいですよ?」
 「ありがとう!」

 英語の遣り取りもまったく流暢だった。
 ジャンニーニがいるので、俺たちは基本英語で話している。
 パオロたちが自己紹介するのを、タヌ吉が笑顔で聞いていた。
 タヌ吉は、俺のどこが魅力的かを話し、楽しそうに飲み食いした。

 「主様、ありがとうございました」
 「おお、もういいのか?」
 「はい! またいつでも御呼び下さい」
 「ああ、ありがとうな!」

 タヌ吉は満足したか、帰って行った。
 ちゃんと出口から出て行く。

 「驚いたな……」

 ジャンニーニが言った。

 「聖、大丈夫か?」
 「ああ。一度もう見たからな。次は大丈夫だ」

 そういう男だ。
 現実主義というか、こいつは何でも受け入れ、その上で行動を決めて行く。

 「トラ、さっきの二人は弱そうだったけど、大丈夫なのか?」
 「ああ。最初のルドンメよりも強いよ。二人とも、アラスカの防衛の中核だ」
 「そうなのかよ!」
 
 俺は笑って少しだけ話した。

 「今帰ったタヌ吉な。あいつはあちこちの俺の拠点を守っている。前に「業」が来た時に撃退したのはタヌ吉だ」
 「なんだと!」

 「栞と俺の子どもを狙って来た。凄腕の人間二人を配していたんだけどな。ヤバそうだったんで、タヌ吉が追い返した。まあ、殺すことは出来なかったけどな」
 「なんてこった。じゃあ、人間は何をすりゃいいんだ?」

 ジャンニーニが言う。

 「あいつらは人間とは別な存在だ。人間と同じように戦わない。運用が難しいんだよ」
 「そうなのか」

 ジャンニーニには理解が難しいだろう。

 「聖はどう思う?」
 「戦えば強いだろうな。でも、俺たちと一緒に戦えるのかは分からん」

 こいつは流石に戦いに関しては理解が早い。

 「そうだ。基本的に俺たちが戦わなければならない。あれは、「業」が同様の戦力を持っているから仲間にしているんだ。妖魔同士の戦いには必要だからな」

 


 俺は話題を変えて、パオロのことを聞いた。
 
 「お前、随分と体格が良くなったな!」
 「はい! トラさんに言われて毎日鍛えてます!」
 「そうか!」

 パオロが嬉しそうに笑う。
 シルヴィアが俺の隣に座った。

 「トラさん! 私も鍛えてるんですよ!」
 「ほんとかよ。まあ、ほどほどにな」
 「なんでですか! 私もトラさんの力になりたいんです!」

 俺は笑ってシルヴィアの頭を撫でた。

 「トラ! シルヴィアに触るんじゃねぇ!」
 「お前はいい男を見つけて幸せになれよ。ジャンニーニもそれを望んでいる」
 「いい男はもう見つけましたよ?」
 「そうなのか?」
 「トラァ!」

 シルヴィアが俺の手を握った。

 「一生ついていきます」
 「そうか」

 ジャンニーニが来て、シルヴィアに手を離させた。
 引っ張ろうとすると、シルヴィアに振りほどかれた。
 なるほど、強くなった。
 ジャンニーニは諦めて席に戻る。
 シルヴィアはずっと俺の手を撫でて行く。
 それが段々と俺の身体全体を撫でるようになる。

 マリアが見かねて帰ると言った。

 「おう! 子どもはもう寝る時間だぁ!」
 
 ジャンニーニも言い、三人は帰って行った。
 帰り際に、シルヴィアが俺の頬にキスをしていった。




 「まったく、トラだけはどうしようもねぇ」
 「アハハハハハ!」
 「笑い事じゃねぇぞ、まったく」
 「トラはいい女を見つけるんだよ」

 聖が言い、ジャンニーニが驚いた。

 「お前から女の話が出るとはな!」
 「トラは優しいんだ。だから自然に女が寄って来る」
 「そうだけどよ」
 「しょうがないんだよ。でも、トラは何度も女のために泣いている」
 「そうか」

 ジャンニーニも、レイのことは知っている。

 「ジャンニーニ、俺はシルヴィアよりも、マリアが好みなんだけどな」
 「トラ! てめぇ!」
 「ワハハハハハ!」

 ジャンニーニが真っ赤になって立ち上がった。

 「まあ、アラスカに来たら、マリアたちのことは任せろ。お前が来る頃には家族が増えてるぞ」
 「トラ! マリアに手を出しやがったらぶっ殺すからな!」
 
 俺と聖が笑った。




 深夜まで飲み、ジャンニーニが潰れて解散となった。
 迎えに来たリムジンまで、俺が担いで行った。

 「トラ」

 眠りかけていたジャンニーニが言った。

 「なんだよ」
 「楽しかったな」
 「そうだな」

 ドアが開けられ、ジャンニーニを中へ入れた。

 「シルヴィアのこと、頼むな」
 「あ?」
 「お前になら任せられる」
 「おい」

 「マリアは辞めてくれ」
 「分かったよ!」

 まったく、ろくでもない。




 俺と聖は飲み足りないので、「セイントPMC」の砲撃訓練場でまた飲んだ。
 つまみは俺が厨房を借りて作った。
 訓練場に運んだ。

 「なんだよ、飲んで無かったのか」
 「トラと飲みたいんだよ」
 「そうか」

 俺が作ったつまみを、聖が美味いと言って食べて行った。
 真冬だ。
 俺はアクアスキュータムのホワイトカシミアのコートを着ていたが、聖はスーツだけだ。
 
 「お前、寒くねぇの?」
 「あ、寒い」

 俺は笑って建物の中で毛布を探して来た。

 「トラ、あんがとー」
 「アハハハハ!」

 俺たちはほとんど黙って飲んだ。
 たちまち冷たくなった料理を少しずつ口にした。

 「トラ、お前、どんどん強くなっていくな」
 「そうかな」
 「俺はどんどん弱くなりやがる」
 「年だかんな」
 「お前も同じだろう!」
 「アハハハハ!」

 聖が遠くを見詰めている。

 「お前、若返ってるよな?」
 「そんなことはねぇだろう」
 「いや。ニカラグアにいた頃みたいになってるぜ」
 「ばか」
 
 分かっている。
 俺の肉体は確かに若返っていた。

 「聖は贅肉がついてきたよな。髪も薄くなっちゃってよ」
 「そうだな」
 「おい!」

 聖が笑っていた。

 「でもな、トラ。俺はお前を絶対に守るぞ」
 「頼むな」
 「ああ! 任せろ!」

 俺も笑った。

 明け方になってきた。

 「そろそろ帰るか」
 「……」

 「おい、聖?」

 聖は眠っていた。
 幸せそうに笑っていた。

 俺は聖を担いで帰ろうとした。
 足がもつれて二人で倒れた。




 俺は大笑いし、亜紀ちゃんを呼んだ。

 「はーい! もう二人とも大丈夫ですよー!」
 「カワイイ亜紀ちゃんが来たからな!」
 「そうですよー!」

 亜紀ちゃんが笑って俺たちを担いだ。
 ロックハート家で車を借りて来たようだった。
 
 「「「タカさーん!」」」

 皇紀と双子もいた。

 俺は大笑いして先に聖を送れと言った。




 聖は俺の隣で屁をした。
 寒かったが、全員で窓を開けて走った。
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