上 下
1,415 / 2,808

イタリアンレストランにて

しおりを挟む
 とんでもない事件があったが、カタは付いた。
 俺は響子とチェスで遊んで、子どもたちには防衛施設の見回りとロックハート家の掃除を命じた。

 夕方になり、俺は出掛ける準備をした。

 「あ、タカさん! 聖さんと会うんですね!」
 「ああ、行ってくる」
 「はーい!」

 玄関ホールの掃除をしていた亜紀ちゃんが俺を見つけ、見送った。
 車を出すという静江さんの申し出を断り、歩いて向かった。
 少し距離はあるが、ニューヨークは懐かしい。
 東洋人が珍しいのか、すれ違う人間が俺を見ている。
 先ほどはハムスターのせいだったが。

 「Hi!」

 俺は聖たちに会う上機嫌で、俺を見ている女性に手を挙げて挨拶した。

 「Hi!」

 何度かすれ違うたびに言う。
 ゆっくりと歩いて来たので、いつものジャンニーニのイタリアン・レストランには丁度いい時間に着いた。
 俺の顔を見て、支配人が笑顔で席に案内する。
 俺と聖はジャンニーニの親友だと分かっている。

 「ところで、後ろの方々は?」
 「さぁ」

 100人くらいの女が俺の後に付いて来ていた。
 彼女らは店に入ろうとしたが、今日は予約しか受けていないと断られた。
 外のウインドウにへばりついたいた。

 「よう!」
 「トラ!」
 「おい! あいつらは何だ!」

 ジャンニーニが驚いて言った。
 
 「知らねぇ。来る途中からついてきた」
 「お前が愛想でも振りまいたんだろう!」
 「そんなんじゃねぇよ!」

 ジャンニーニが追い出せと支配人に命じた。
 女性たちはみんないなくなった。

 「まったく、てめぇはいつもとんでもねぇよな」
 「アハハハハハ!」

 聖が俺にワイルドターキーを注ぎ、三人で乾杯した。




 「トラ、今日スパイダーマンの衣装の連中が大暴れしてたって、あれはお前の子どもたちだろう?」
 「おお、よく分かったな」
 「なんだと! あの事件がトラの子どもたちだっていうのかよ!」

 俺と聖が笑った。

 「そうだよ。あんな人間技じゃねぇ動きは、もう決まってる」
 「なんてこった!」
 
 美味そうな料理が運ばれて来た。

 「それでよ、聖。ちょっと問題があってな」
 「なんだよ?」
 「パフォーマンスに突っ込んで来た奴な」
 「あ?」
 「ガキの頃からスパイダーマンが大好きって男のようでな。興奮してハーの高速回転に向かって来やがった」
 「バカかよ」
 「お前も観ての通り、怪我は大したことなかったんだけどな。俺が詫びをいれて終わったんだけど」
 「それで?」

 ジャンニーニも真剣に聞いてくれている。
 何か自分が手伝えることがあればと思ってくれているのだろう。

 「それでな。子どもたちが自分たちも謝りたいって言うんで、行かせたんだ」
 「おお」
 「そこで冗談で拳法の基礎を教えたんだよ」
 「おお」
 「そうしたらな。そいつ、窓をぶっ飛ばしてサッシごと粉々にしやがった」
 「ほう」

 ジャンニーニが驚いている。
 聖は冷静だ。

 「普通は出来るわけはねぇ。子どもたちも驚いていたけど、あの男はとんでもない天才だったようだ」
 「そうか」
 
 聖も天才だ。
 だから子どもたちの動きを見て、聖は独自に「花岡」を習得した。
 まあ、その後で俺も多少の手ほどきはしたが。

 「それでトラはそいつをどうするんだ?」
 「まあ、悪いがもう巻き込んじまった。アラスカで雇うつもりだ」
 「そうか、まあいいんじゃねぇの?」
 「それでな」
 「おう!」
 「あと一年大学に通うんだ。ニューヨーク大学の国際教養学部だ。悪いんだが、何かあったら、手を貸して欲しいんだよ」
 「ああ、分かった」
 「突然、大きな力を持っちまったからなぁ。まあ、大丈夫だとは思うんだが気が大きくなってバカなことをするかもしれん」
 「俺に任せろよ。何かやったら、俺が何とかするよ」
 「悪いな」
 「いいって」

 ジャンニーニが話が終わったとみて俺に聞いた。

 「トラ、お前らの「カラテ」ってどうなってんだよ?」
 「ジャンニーニ、それを知ったらお前も命が危なくなるんだぞ?」
 「今更だぜ。お前やセイントと繋がってる時点で、俺はもう激ヤバだ」
 「そうか、ありがとうな」

 俺と聖が笑ってジャンニーニに酒を注いだ。

 「うぉっと! 入れすぎだぁ!」
 「「ワハハハハハ!」」





 俺たちは楽しく話して飲んだ。
 今日はジャンニーニが来ているので、確実に安全な客しか入れていない。
 その数も少ない。
 まあ、俺と聖がいれば、どんな奴が来ても平気なのだが。

 「トラ、そういえばさ。ジャンニーニの子どもたちがお前の軍に入りたがってるってよ」
 「なに?」
 
 聖が言い、ジャンニーニが慌てて言った。

 「おい、それはいいって!」
 「なんだよ、こないだそう言ってただろう?」
 「そ、それはそうだけど」
 
 「なんだよ、ジャンニーニ。そうなのか?」
 「いや、いいんだよ。ただ、トラのアラスカ基地なら、世界で一番安全なんだろう?」
 「まあ、そうだろうな」

 ジャンニーニの考えていることは分かる。
 こいつはこれから世界が未曽有の危機に陥ることを予感している。
 だから愛する妻や子どもたちを安全な場所に行かせたいのだろう。

 「もちろん、いつでも言ってくれよ。シルヴィアとパオロだったよな。それにマリアもな。大歓迎だぜ」
 「トラ……」
 「なんだよ、当たり前だろう。お前もファミリーの全員を連れて来いよ」
 「いや、俺たちはいいんだ。ここでお前やセイントのために動く」
 「そうか」

 聖が笑っていた。
 散々大勢の人間をぶっ殺して来た男だが、その笑顔は天使のようにあどけない。
 こいつは、自分が大好きなことが起きると、そういう笑顔をした。

 「まあ、お前らのことは俺が何とかするよ」
 「いや、お前はうちに突っ込んで来ないようにしてくれ。まずな」
 「ワハハハハハ!」

 「ジャンニーニ、俺もなるべくお前を守るからな」
 「いや、俺のことはいい。女房と子どもたちを頼む」
 「何言ってんだよ。まあ、見てろ」

 俺は立ち上がって後を向いた。

 「ルドンメ!」

 レストランの中の空気が変わった。
 照明はそのままだったが、やけに薄暗く感じる。

 やがて、床から巨大な目玉の怪物が出て来た。

 「!」

 ジャンニーニや店の人間、客たちが驚く。

 「よう、久し振りだな!」
 「我が主、さほどのこともない。何かあったか?」
 「いや、お前に守ってもらいたい奴が増えてな。紹介するために呼んだ」
 「そうか。その二人か」
 「そうだ。特にこっちの奴は弱いから頼むぜ」
 「分かった」

 ジャンニーニは椅子から落ちそうになっている。
 客が何人か逃げて行った。

 「おい、ジャンニーニ! お前を覚えさせるから服を脱いでくれ。ああ、マリアたちも呼べるか?」
 「あ、ああ、分かった!」
 
 ジャンニーニは電話を掛けた。
 その後で下着姿になる。

 「それも脱げよ。ちゃんと守れねぇじゃんか」
 「あ、ああ」

 全裸になった。
 やけに小さくなっている股間を見て、俺が笑ってからかった。

 そのままの格好で飲み食いを続けた。
 間もなく、マリアと二人の子どもが来た。
 恐らく防弾仕様の特殊リムジンだった。

 「あなた!」
 
 三人はルドンメの異形を見て驚いていた。

 「心配するな! これはトラの仲間だそうだ。これから俺たちを守ってくれるんだ!」
 「そ、そうなのですか」

 シルヴィアとパオロも脅えている。

 「早く服を脱げ!」
 「はい?」
 「三人ともだ! こいつに覚えさせるために必要なんだ!」

 「いや、全然必要ねぇんだけど」
 「なんだと!」
 「ルドンメ! もう覚えたな!」
 「大丈夫だ」
 「おし! じゃあ今後も頼むぞ! 帰ってよし!」

 ルドンメが消えた。
 全裸のジャンニーニがナイフとフォークを持ったまま立って震えていた。

 「と、トラ……」
 「おう!」
 「なんだよ、ありゃ」
 「お前! 「ルドンメ」だって言っただろう!」
 「そういうことじゃねぇよ!」
 「あんなのがお前の仲間にはいんのか」
 「そうだよ、他にもな」

 ジャンニーニが放心したように椅子に座った。
 俺は仕方が無いので、マリアたちも座らせた。
 ウェイターを呼んで、料理と飲み物を持って来させる。

 「おい、お前いい加減に服を着ろよ!」
 「あ! お前! 騙したな!」
 「アハハハハハ!」

 マリアたちも笑う。

 「お前はビビりだからなぁ。聖を見ろよ! 堂々としてんだろうよ!」
 
 みんなで聖を見た。
 




 聖は気絶していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...