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飲み会「バッカす会」

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 遡ること、子どもたちの夏休みが終わった9月の中旬。
 週末にいつものように亜紀ちゃんと柳とで家で飲んでいた。
 亜紀ちゃんが楽しそうに唐揚げを頬張ってニコニコしている。

 「亜紀ちゃんは、本当にいつも楽しく酒を飲むよなぁ」
 「エヘヘヘヘヘ」
 「まあ、高校生じゃなきゃそれでいいんだけどな」
 「エヘヘヘヘヘ」

 軽く頭をはたく。
 柳と二人で亜紀ちゃんの前の皿から唐揚げを奪う。

 「あーん!」

 亜紀ちゃんは自分の近くに皿を移動した。

 「これ、亜紀ちゃんのですよー」

 俺は笑ってお返しにシシャモを一本やり、柳はうずらの串揚げを一本やった。
 亜紀ちゃんがニコニコして芋焼酎のロックを飲む。

 「ところで柳よ、お前大学のコンパとか行ってるか?」
 「いえ? 行ったこと殆どないですよ?」
 「飲み友達とかは?」
 「え? そういうのはいませんし」

 俺は立ち上がった。

 「お前なー! 何のために大学行ってんだよ!」
 「勉強のためでしょう!」

 亜紀ちゃんが唐揚げを口に咥えたまま目を丸くしている。

 「ほら! 亜紀ちゃんだって驚いてるだろう!」
 「何なんですかぁー!」

 俺は椅子に座って、柳の頭を撫でた。

 「そうかぁ、まあ俺がお前に教えて無かったのが悪いんだよなぁ」
 「へ?」
 「大学っていうのは、思い切り楽しく飲む仲間を作るために行くものなんだよ」
 「はい?」
 「お前よ、このままじゃ大学に行った意味ねぇぞ?」
 「そんなに大変なことなんですかぁー!」
 
 俺と亜紀ちゃんがため息を漏らした。
 柳は唖然としている。

 「しょうがねぇ。俺の飲み友達の話をしてやるか」
 「あの、あんまり興味は無いんですが」

 柳の頭を引っぱたく。
 亜紀ちゃんは小さく手を叩きながら、俺の話を待っていた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 御堂、山中と飲みに行くことは多かった。
 それに奈津江や栞が加わることも多い。
 奈津江と二人きりでも行ったが、それは飲みに行くと言うよりも、もちろんデートだ。
 二人で会話を楽しみ、二人でいることの温かさを感じるというものだった。

 その他に、「酒を飲む」目的の友達がいた。
 酒の楽しみのための連中だ。
 俺は酒が好きで強く、一緒に酒をガンガン飲む仲間が欲しかった。
 そういう楽しい奴らが5人ほどいた。
 俺と同じく酒豪であり、飲み会になると大騒ぎになる。
 俺たちは《バッカす会》と名付け、とことん飲むための集まりを定期的に開いていた。

 《バッカす会》には決まりがあった。

 1.基本は「スピリタス」。最低でも70度以上(火炎瓶になる酒)を飲むこと。
 2.衣服の着用厳禁。
 3.酔って暴れた場合、「石神沈静剤」を使用する。

 第一条は、これに耐えられない「バカ飲み野郎」でなければ、俺たちの飲み会にはついて来れないという意味だ。
 第二条に関しては「最終的に」という意味で、もちろん最初はみんな服を着ている。
 要は、楽しく盛り上がって終わろうという趣旨のことだ。
 まあ、酔ってだらしなくなって全裸になるのを許可する、という意味合いが強いが。
 第三条は言うまでもなく、飲み会は楽しくやらなければならない。「不夜城石神」は決して乱れることなくまた誰よりも圧倒的に強かったので、問題発生の瞬間に沈静化するという役目を負っていた。

 発端は、先輩方が新入生を歓迎して主催する「鬼酒新歓コンパ」というものだった。
 酒の好きな先輩たちが、同じく酒好きの新入生を集めて歓迎してくれるという、素晴らしい企画だった。
 大学のホールを貸し切って、夕方から大量の酒をみんなで飲んでいく。
 先輩300人と、新入生約100人程が集まった。
 女性は少なく、ほとんどが男だ。
 先輩と一緒に楽しく飲み始める。
 流石に酒好きの集まりだけあって、どんどん酒が消費されていった。
 女性の先輩たちが俺の傍に来て、俺は彼女らとガンガン飲んでいく。
 次第に他の男連中も寄って来て、俺の周りに人が集まった。

 「石神! どんどん飲めよ!」
 「はい! 頂きます!」

 俺の楽しくて、注がれる酒をどんどん飲む。
 ビールが多かったが、俺にとってビールは酒の範疇ではない。
 炭酸で腹が膨れるので、俺はウイスキーに切り替えた。
 ストレートで飲んでいく。

 「おい、石神って新入生がやるぞ!」
 
 2時間後、そろそろ潰れる奴が出て来る頃に、俺のことが話題になっていった。
 女性で参加するだけあって、みんな恐ろしく酒が強い。
 俺と一緒にウイスキーを飲みながら、誰も深く酔っていなかった。
 俺は彼女らに可愛がられ、嬉しくなってまた飲んでいく。

 「なんか、暑いですねー」
 「じゃあ、脱いじゃえば?」
 「そうですね!」

 俺は下着まで脱いで裸になった。
 女性たちは大騒ぎだ。

 「もっと強い酒はありませんかね」

 女性の一人が「スピリタス」を持って来た。

 「ああ! あるんですね!」

 俺は「スピリタス(度数95%)」を空いたビールのジョッキに入れて飲み始めた。
 この酒は全部俺のものだ。

 「石神くん、スッゴイー!」
 「ガハハハハハ!」

 4時間後。
 ほとんどの学生が潰れるか帰るかしていた。
 もう30人ほどしか残っていない。
 新入生は俺を含めて6人だけ。
 女性の先輩ももう2人しかいない。
 真の酒好きだけが残った。

 俺が裸なので、男性全員が服を脱いだ。
 女性2人が大笑いしている。

 タバコを吸っていた先輩が、酔って俺に倒れて来た。
 底に「スピリタス」を1センチ遺したジョッキに火が点いて、全員が慌てた。
 俺は冷静に手をジョッキの口に乗せて鎮火した。

 「おぉぉぉぉーー!」
 
 全員が拍手した。

 「あー、アルコールが飛んじゃった」
 
 先輩が残った酒の中から「エバークリア」を持って来た。

 「「スピリタス」は石神が飲んじゃったからな。あとはこれしかない」
 「あー、この酒ってゴム臭いんですよね」
 「ダメか?」
 「いいえ! 何でも飲みますよー!」

 みんなで笑って分け合った。
 多くの人間が咽る中、俺たち新入生はゴクゴクと飲んだ。

 「お前ら! 強いな!」
 「お前もな!」
 
 一気に仲良くなった。
 俺はオチンチンを振り回し、「ここはオランダだぁー!」と叫ぶと全員が爆笑した。
 「エバークリア」は安いので3本あった。
 それを飲み切って、お開きになった。



 その後、あの日に残った新入生6人で《バッカす会》を作り、毎月集まってひたすらに飲んだ。
 全員が全裸で楽しく飲むのが通例になった。


 
 時々ゲストが来た。
 同じく酒の好きな奴らだったが、時々悪酔いする奴もいる。
 ある時、空手部の奴が暴れ、俺が鳩尾にパンチを入れて首の後ろを手刀で叩いて鎮圧した。

 「スッゲェー! 俺、首チョンで本当に気絶させる奴、初めてみたぜぇ!」
 「ワハハハハハ!」

 ある時、草野球帰りの奴がバットを振り回した。
 俺は渾身のストレートでバットを粉砕すると、そいつがへたり込んだ。

 「いしがみぃー、バンザーイ!」
 「ガハハハハハ!」
 
 全員から褒め称えられた。
 以来、俺が暴れる奴を納める役割になった。

 



 俺の最愛の奈津江が、俺たちの《バッカす会》を知って参加したがった。
 
 「やめとけよ、ちょっと尋常じゃないからな」
 「そんなこと言って! 私をのけ者にするのね!」
 「そうじゃないって!」

 俺の家で開く時に、奈津江も参加した。
 俺たちは一人暮らしをしている3人の家を順番に会場にしていた。

 「おい、綺麗な人だな!」
 「おう! 奈津江だ!」
 「よろしくお願いしまーす!」
 
 いつものように、最初から「スピリタス」を飲んだ。
 奈津江は当然無理なので、99%水で薄める。
 俺の家でやる時は、俺がつまみを作る。
 毎回大好評だった。
 奈津江もニコニコして食べている。

 そのうちに全員が服を脱ぎだした。

 「え?」

 そう言えば、奈津江にこの会の流れを話してなかった。
 俺も奈津江の前だから脱がないということはまったくない。
 いつも通りに全裸になった。

 「「「「「「ガハハハハハハ!」」」」」」

 奈津江が必死の形相で部屋を飛び出して行った。
 その前に、俺の股間をきっちり見て行った。

 「全員でレイプされるかと思ったよ!」
 
 後日、奈津江が怒って言った。

 「ワハハハハハ!」

 


 女性が来ることもあったが、決して淫らなことにはならなかった。
 女性が潰れた場合は、介抱しながら隅で寝かせるだけだ。
 別に俺たちが女性に興味が無いわけではない。
 そうではなく、俺たちは「飲み会」がしたかっただけだ。
 楽しく仲間と酒を飲む。
 それだけの会だった。

 弓道部の佐藤先輩が登場することもあった。
 その時だけは、全員が潰された。

 「ガハハハハハ!」
 「「「「「「……」」」」」」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
 



 「えーと、よく分からないんですが、そういう飲み友達がいたと」
 「まーな! 楽しかったなー!」
 「はぁ」

 折角話してやったのに、柳のテンションが低い。
 亜紀ちゃんはと見れば、ニコニコして唐揚げを頬張って薩摩焼酎をゴクゴクいってる。

 「あの、一つ言いたいんですけど」
 「おお、なんだ!」
 「私、お酒に強くないんです」
 「ああ!」

 そう言えばそうだった。

 「でもさ、楽しく酒を飲める友達は持っとけよ」
 「はぁ」
 「亜紀ちゃん、やりますよ!」
 「おお、今も真夜と飲みに行ってるもんな!」
 「はい! 大学に入ったら、もっと大勢と飲みます!」
 「がんばれ!」

 亜紀ちゃんはボッチだ。
 真夜は舎弟だ。

 俺は昔を思い出して、全裸になった。
 二人が、今日は服を着てろと怒った。

 「なんだよ、裸で飲むから楽しいのによ」
 「それは男同士でやって下さい」
 「チェッ!」

 服を着た。

 「オチンチンだけ出していい?」
 「「やめろ!」」

 大人しく飲んだ。

 「そう言えば、うちにも「スピリタス」はあるんですか?」

 亜紀ちゃんが言ったので、俺は棚から出してやった。
 その棚は、俺だけしか開けてはいけないことになっている。
 俺の大事な酒が仕舞ってあるからだ。

 「一応な。でも誰も付き合えないから、出す機会はねぇな」

 亜紀ちゃんが飲んでみたいと言うので、開けてバカラのショットグラスに注いでやった。

 「ぐっふぁぁー!」

 亜紀ちゃんが咳き込む。

 「喉が焼けちゃいましたよ!」
 
 ちょっとしゃがれた声で言った。
 俺は笑って、バカラのグラスに注いで飲んだ。

 「プファー! 久し振りに飲んだな! やっぱり燃えるぜ!」

  



 昔がやけに懐かしくなった。
 今度、「虎の穴」で酒豪を集めてみるか。
 何人か、強い奴は知っている。
 「ほんとの虎の穴」で情報を集めればいけるかもしれない。
 俺はニコニコして「スピリタス」を飲み、亜紀ちゃんもニコニコして薩摩焼酎を飲んだ。





 柳が「スピリタス」を一舐めして眠った。
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