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アラスカ・デート

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 桜花たちと戻ると、栞や鷹、一江と大森、それにうちの子どもたちがリヴィングのテーブルでお茶を飲んでいた。
 流石に酒では無かった。
 他の人間も、お茶に付き合っていたようだ。

 「よう!」
 「あ、お帰り」
 「「「「お帰りなさーい!」
 
 「酒じゃないんだな」
 「エヘヘヘヘヘ」

 栞が優しく笑った。
 俺が誘って、桜花たちもテーブルに座る。
 鷹が俺たちにも紅茶を淹れてくれた。
 桜花たちが礼を言う。
 
 「今ね、みんなに日本でのことを色々聞いていたの」
 「そうか」

 久し振りに、栞もみんなと話せただろう。
 まあ、夕べはそれどころではなかっただろうし。

 「あなた! 「ちびトラちゃん」になったんだって!」
 「おい、話したのかよ!」
 「だってぇー!」
 「なんで私が知らないのよ!」

 栞が怒っている。

 「いや、隠すつもりじゃなかったんだがな。でも、言う間も無かったというか」
 「なんで!」
 「大したことじゃなかったしなぁ」
 
 亜紀ちゃんがPCを持って来て、栞に写真を見せた。

 「カワイイー!」

 夢中になって栞が次々に見て行く。
 桜花たちも後ろで覗き込み、喜んでいた。

 「六花が部長に夢中でさ。響子の部屋から逃げて来て、自分の椅子に座ったんだよ」
 「えー!」
 
 一江が説明する。

 「他の人間には、部長の親戚の子だって説明して。でも、性格は部長と同じだって言ったら、もう誰も近づかないよ」
 「アハハハハハハ!」

 「響子ちゃんも大喜びでしたよね」
 「そうだな。一応見た目は子どもだしな。一緒に遊べる相手がいて嬉しそうだったよ」
 「あー、私も見たかったなー」
 「見世物じゃねぇ! あの時は他の人間を不安にしないようにしていたけど、内心じゃ目一杯だったんだよ」

 亜紀ちゃんが二度目の「ちびトラちゃん」の画像を見せた。

 「蓮花と麗星さんに対策を聞こうってことで、蓮花さんの研究所まで行ったんですよ」
 「そうなんだ!」
 「まあ、遊ばれて終わりでしたね!」
 「あいつらなぁー!」

 栞や桜花たちが笑った。

 「今度なったら、私のとこも来てね!」
 「無理だよ。「飛行」も出来ねぇんだから」
 「タイガー・ファングで来ればいいじゃない」
 「バカ言うな! そんなことであれが使えるわけねぇだろう」
 「なんでよー!」

 俺は笑って、亜紀ちゃんから画像データを貰えと言った。
 桜花がすぐにハードディスクを持って来た。
 亜紀ちゃんがデータをコピーして行く。

 「じゃあ、今日はもう寝るか!」

 解散した。




 俺は栞を誘って一緒に風呂に入った。
 軽く洗って、湯船で愛し合った。
 二人でゆっくり湯に浸かる。

 「「ちびトラちゃん」な、俺が小学一年生の頃の身体だったんだ」
 「うん、そうなんだ」
 「まだ大病もしてない。喧嘩で大怪我もしてない」
 「うん」
 「傷一つ無い身体を見て、亜紀ちゃんが「このままでいましょう」って言った」
 「……」

 栞は困ったような、それでいて優しい微笑みを浮かべて聴いていた。

 「もしもな、あのままでいたら」
 「うん」
 「俺は成長しながら、きっと同じように傷だらけになっていたと思うよ」
 「そうよね」
 「俺は俺だからな」
 「うん、分かってる」

 栞が俺の傷だらけの身体を撫でた。

 「俺はどんな姿になっても、お前たちを守るからな」
 「うん」

 「オチンチンはちっちゃいけどな!」
 「アハハハハハ!」

 寝室へ行くと、士王がベッドでロボに抱き着いていた。

 「こいつもやっぱりネコ好きだな」
 「そうね」

 俺は栞と一緒に寝た。




 翌朝。
 朝食を食べ、響子を連れて外へ出た。
 
 「お前とデートする機会はあまりないからな!」
 「アハハハハ!」

 ハンヴィに乗り、パピヨンの創った都市《アヴァロン》へ向かった。
 一部は移住が始まり、街が稼働し始めている。
 俺は響子と車を降りて、街を散策した。
 腕を組んで歩く。

 「大分出来て来たな」
 「そうだね。あ、あの喫茶店素敵だよ?」
 「おお」

 広いテラス席のあるガラス張りの喫茶店に入った。
 ウッドデッキの下に床暖房があるらしく、テラス席も温かい。
 アラスカならではの仕様だ。
 俺と響子が座ると、ウェイターが注文を取りに来た。
 俺はコーヒーを、響子はホットチョコレートを注文した。

 「寒くないか?」
 「うん、大丈夫」

 二人で他愛ない話をした。

 「響子はどんどん綺麗になって行くな」
 「そう?」
 「ああ。毎日違うよ。毎日響子の綺麗さを見つけてる」
 「ウフフフフ」

 店の人間がケーキを持って来た。

 「おい、注文してないぞ?」
 「石神様と気付かず、申し訳ございません」
 「いいよ、特別扱いする必要はないんだぞ?」
 「いいえ! うちの店に来て頂けただけで、光栄です!」
 「そんなことなぁ」
 「そちらは、もしかして響子様ですか!」
 「そうだよ。今日はこっちに来たんで散歩していたんだ」
 「そうですか。では、ごゆっくりなさってください」
 
 響子が嬉しそうにケーキを食べた。
 俺も仕方なく一緒に食べる。
 響子はイチゴのムースで、俺はチョコレートムースだった。
 チョコレートムースは苦みが効いて美味かった。

 「特しちゃったね!」
 「世界一の富豪の娘が何を言う!」
 「えー! 世界一はタカトラじゃん!」
 「そうか!」

 二人で笑った。

 「タカトラ」
 「なんだ?」
 「全部終わったらさ。ここで一緒にお店をやろうか?」
 「おお、いいな!」
 「タカトラは何のお店がいい?」
 「そうだなー。「響子屋」でもやるか」
 「なにそれ!」

 響子が笑う。

 「響子のいろんな写真を売ってさ。響子のフィギュアとか「響子コスチューム」とかもあってさ」
 「アハハハハハ!」
 「「等身大響子」一億円とかな」
 「高いよ!」
 「だって、服を脱がせると響子の裸なんだぞ?」
 「絶対だめー!」
 「ヌード写真集なんて売れるだろうなぁ」
 「ダメだよ!」
 「いつも店に響子がいてさ」
 「うん」
 「「響子スマイル」は0円だけど、握手は300円な」
 「なにそれー!」
 「響子はカワイイから、一杯売れるだろうなぁ」
 「ヌードはダメだからね!」
 「分かったよ」

 二人で笑った。

 「タカトラ・グッズも売るの」
 「おお」
 「タカトラ団扇は50円」
 「安いな!」
 「だって、みんなに持っててもらいたいもん」
 「そうか」
 「あ、「タカトラ・響子団扇」は10円ね!」
 「じゃあ、みんな買うな」
 「そうだよね!」

 俺たちは楽しく話し、店を出た。




 他愛のない俺たちの会話。
 他愛のない俺たちの愛。
 俺たちは《いま》を永遠に生きている。
 だから、俺たちの愛は永遠なのだ。
 俺と奈津江がそうであったように、俺と響子の愛も永遠のものとなる。

 俺も響子もいつか死ぬ。
 それは他愛のないことなのだ。
 俺たちは既に永遠を得た。



 《しかし、永遠とは現在の時間の静止であり、《静止しているいま》である》
 (ホッブス『リヴァイアサン』第四部第四十六章より)
 


 俺はこの日の響子の美しさを忘れることは無いだろう。
 そして、明日の響子の美しさをまた知るのだ。
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