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顕さんと冬の別荘 Ⅵ

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 昼食の後で、一休みした。

 「顕さん、人生ゲームをしませんか?」
 「ああ、懐かしいね!」

 簡単なゲームなので、モニカにはやりながら説明して行く。
 俺、顕さんとモニカ、亜紀ちゃん、柳、皇紀、双子の6チームだ。

 柳が優勝した。

 「ヤッタァー!」
 「お前、相変わらず空気を読まねぇよな」
 「!」

 「顕さん、すいませんね。「接待人生ゲーム」が出来ない奴で」
 「どうやればいいんですかぁ!」
 
 顕さんとモニカが笑った。
 その後で「オセロ」などをして遊んだ。
 亜紀ちゃんが「ロボピンポン」を披露し、顕さんたちが大喜びした。
 モニカがロボを抱き締め、ロボも嬉しそうだった。

 三時にグラマシーニューヨークの杏仁豆腐を出す。
 お茶はジャスミンティーだ。

 「なんだ、これは!」
 「また美味し過ぎます!」

 顕さんたちが喜んでくれる。
 
 「いいでしょう? 時々うちで食べるんですよ」
 「10年に一回ですよね!」
 「ああ、普段は豆腐に砂糖を掛けるだけだもんな!」
 「それは年に一度やりますね!」

 顕さんとモニカが大笑いする。

 「フィリピンじゃ、こういうのは無いなー」
 「じゃあ、早く戻って下さいよ」
 「そうだなぁー」

 モニカが作り方を聞いて来る。

 「一般の杏仁豆腐は簡単なんだけど、このクオリティは出来ませんよ。やっぱり専門店ならではですね」
 「そうですか」
 「「杏仁霜」があれば、あとはゼラチンやグラニュー糖なんかの一般的な食材なんですけどね。じゃあ、今度「杏仁霜」とレシピを送りますよ」
 「ほんとうですか!」

 モニカが喜んだ。
 きっと顕さんのために作りたいのだろう。

 お茶を終え、顕さんたちには少し休んで頂く。

 「これから夕飯の準備に俺たちは入りますから」
 「え、もうかい?」
 「今日はちょっと手の込んだものを作りますからね」
 「何をするのかな?」
 「まあ、お楽しみに。だから部屋でちょっと寝て下さいよ」
 「ああ、分かったよ」

 顕さんは笑ってモニカと部屋へ向かった。





 「よし、じゃあ始めるか」
 「「「「「はい!」」」」」

 皇紀がウッドデッキにバーベキュー台を設置する。
 鰻を焼く予定だ。
 既に朝にぬめりは徹底的に取っている。
 火加減が繊細なので、皇紀が注意深く火を調整していく。
 その間に亜紀ちゃん、双子で鰻を捌いて行く。
 柳は蒸し器の用意だ。
 俺はタレを担当する。
 火を調整した皇紀は米を研ぐ。
 全員が分担を必死にこなしていく。
 俺は全体を管理して行く。

 亜紀ちゃんが最初の鰻に串を打って行く。
 俺がそれをどんどん焼く。
 柳が蒸し器に入れる。
 今回は50匹だ。
 全員で掛かっているので、どんどん進んだ。

 蒸し上がったものがバットに並べられていく。
 一部は白焼きのままだ。
 あとは一斉に焼くだけなので、食事の時間に合わせる。
 捌き終わった双子は、肝吸いを作っていく。
 5時になり、柳に顕さんんたちを呼びに行かせた。
 もう、どんどん俺がタレを付けて焼き始めている。
 二人が降りて来た。

 「おい! 鰻か!」
 「はい!」

 顕さんが大喜びした。
 モニカは知らないが、良い香りで嬉しそうだ。

 「もう出来ますから、座っていて下さい」

 柳が二人を座らせた。
 亜紀ちゃんが重箱にご飯を詰めて俺に持って来た。
 俺は焼き立ての鰻を乗せ、タレをまた掛ける。

 「どんどん焼いて行くので、先に召し上がって下さい!」
 
 二人に食べてもらう。

 「石神くん! 物凄く美味しいよ!」
 「良かったです!」
 「石神さん! 美味しいです!」
 「どんどん食べて下さいね!」

 俺は白焼きも温めてお二人の前に置く。

 「こっちはワサビ醤油ででも」
 「おお!」

 顕さんがモニカに食べ方を教えている。
 モニカがまた嬉しそうな顔で食べていた。

 子どもたちにも先に食べさせ、俺は一気に焼いて行った。
 ようやく終わって、亜紀ちゃんが俺のご飯をよそってきた。

 「お疲れ様です!」
 「おお、いつもはヘビだけどな!」
 「ヘビも美味しいですよ!」
 「ミミズはちょっとな」
 「タカさん、上品に!」

 日本舞踊を踊った。
 みんなが爆笑する。

 鰻はバットに入れて湯煎している。
 寒いのでどんどん冷めて行くためだ。

 「石神くん、これはまいったよ」
 「日本に帰ったら、鰻が食べたいですよね!」
 「ああ、そうだけど。でも発想に無かったよ」
 「モニカさんにも美味しい物を食べて欲しくて」
 「本当に美味しいですよ! 日本は素晴らしいですね!」
 「フィリピンでもどこでも美味しい物はあるでしょうけどね。日本ならではのものと思って」
 「嬉しいです!」

 喜んでもらえて良かった。

 「僕も自分が鰻が好物だって、忘れてたよ」
 「静岡に絶品のお店があるんですよ。帰ってきたら一緒に行きましょう」
 「楽しみだ! でも、これも本当に美味いよ!」
 「そうですか!」

 「石神さん、フィリピンにも是非来てください」
 「そうですね。機会があれば」
 「ええ、来てくださいよ!」
 「分かりました」

 モニカがフィリピン料理を話し、顕さんが一緒に何が美味しいのかと楽しそうに喋った。
 
 「レチョンは食べたんですよね?」
 「いや、顕さんに見つかったんで、実は一口しか」
 「そうだったのか! 悪いことをしたね」
 「いやいや」

 俺たちは笑った。
 ルーとハーが頭を齧ったと話した。

 顕さんたちはうな重を3杯食べた。
 あとは子どもたちが全て食べた。
 米が消費出来た。





 暗くなったので、ウッドデッキで花火をした。
 雪の中での花火は美しい。
 一層幻想的な雰囲気になる。
 フィリピンには日本のような家庭向けの花火はほとんどない。
 だからモニカが一層喜んだ。
 顕さんが火を点けてやり、モニカに渡していく。
 嬉しそうなモニカを見て、顕さんが微笑んでいた。

 顕さんが俺の方へ来た。

 「石神くん、ありがとう。モニカにこんな楽しませ方は、僕には出来なかったよ」
 「そんなことは。うちに子どもがいるからですよ」
 「うん。でも嬉しい。ありがとうね」
 「いいえ」

 顕さんは昔から変わらない。
 奈津江のために何でもし、今はモニカのためにと思っている。
 それだけしかない人なのだ。

 「おい! みんなで花火で雪像を照らせ! 皇紀! カメラだ!」
 「「「「「はい!」」」」」

 皇紀がカメラを三脚に乗せ、子どもたちが花火で照らした。

 「さあ、お二人でまた撮影を!」
 
 顕さんとモニカが嬉しそうに雪像の前に行った。
 美しく照らされた前で、二人でしゃがんで撮った。
 皇紀が画面を確認した。

 「いいですよ!」
 「おし!」

 また誘われて、全員で花火を持って撮った。

 「これはいい記念になったよ」
 「まだまだ、これからですよ!」
 「うん」

 


 奈津江も見ているだろうか。

 顕さんが、こんなにも幸せそうだぞ。
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