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顕さんと冬の別荘 Ⅳ

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 話し終わると、顕さんが泣いていた。

 「顕さん、すいませんでした。奈津江から昔聞いた話で」
 「うん、ありがとう、石神くん」

 顕さんが涙を拭った。
 モニカが優しく抱き締めた。

 「そうだったんだよ。奈津江には随分と寂しい思いをさせていた」
 「奈津江は顕さんが帰って来るのが本当に楽しみだったと言っていました。それはもちろん、寂しいってことだったんでしょうけどね。でも、奈津江がそんなに楽しみだったのは、顕さんのお陰ですよ」
 「いや、僕は……」

 「寂しいから嬉しい。それは奈津江だけのものです。奈津江はそれをずっと大切な思い出にしていました。奈津江は嬉しそうに俺に話してくれましたよ」
 「そうか」
 「奈津江は顕さんだけでした。顕さんさえいれば、他に誰もいらない。まあ、だから友達なんかも興味は無かったんじゃないですか?」
 「そうなのかな」
 「顕さんは間違いなく、奈津江の最愛の人間だったんですよ」
 「そうか。そうだったら嬉しいな。でも、奈津江は石神くんと出会った」
 「まあ、そこからは最愛は俺ですけどね!」
 「なに!」

 みんなが笑った。

 「俺はちょっとだけ変わってますからね」

 子どもたちが大笑いするので、近くの亜紀ちゃんを引っぱたいた。

 「顕さんと奈津江と三人で飲みに行った時。顕さんが大学時代に付き合った女性がいるって言ってましたよね」
 「そうだったかな」
 「奈津江が顕さんがいない間に俺に言ってました。自分のせいで別れさせてしまったんだと」
 「……」

 「後悔してましたよ。だから顕さんには誰かと付き合ってもらいたがってた。モニカさん、やっと顕さんがあなたとそうしてくれたんです。ありがとうございます」
 「石神さん……」

 「俺も本当に嬉しい。顕さんのことを宜しくお願いします」
 「こちらこそ」

 亜紀ちゃんが立ち上がった。

 「じゃー! お祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」
 
 俺が下品だからやめろと言ったら、日本舞踊をみんなで踊った。
 顕さんとモニカが爆笑する。

 「見せてくれよ、「ヒモダンス」」
 
 子どもたちがやり、俺も混ざって顕さんたちを爆笑させた。

 「おい、ムードもへったくれもなくなっただろう!」
 「ワハハハハハ!」

 寒くなって来たので、みんなで湯豆腐を食べる。
 モニカが感動していた。

 「これも美味しいです!」
 「大豆という豆の食材なんですよ。あっさりしているけど、結構美味しいでしょ?」
 「はい!」

 身体が温まる。
 ルーに言って、モニカに甘酒を一杯勧めた。

 「これも美味しい!」
 「本当は夏場に冷やして飲むものなんですけどね。寒い時期に温めても美味しいんです」

 嬉しそうに笑うモニカを、顕さんが優しく微笑んで見ていた。
 きっと奈津江も同じように見られていたのだろう。






 「最初は僕も全然ダメでね。料理なんか出来ないから、スーパーの総菜を出したりね。そうすると奈津江が食べてくれなくて」
 「はい」
 「だから必死に覚えたんだ」
 「だから奈津江は何にも出来ない女になっちゃったんですよ?」
 「アハハハハ!」

 顕さんが朗らかに笑った。
 そうさせたことが、顕さんの誇りでもあったのだろう。

 「お袋に会いに山口に一緒に行く時も」
 「ああ! あれは大変だったね!」
 「顕さんが死にそうになってまで協力してくれたのにね」
 「でも、大成功だったんだろ?」
 「え! あいつ、そう話してましたか!」
 「違うの?」
 「大失敗ですよ! 奈津江の奴、出来もしない料理を「やります!」なんて言いやがって。食べたら死ぬって料理を作ったんですよ!」
 「え!」
 「シチューに致死量の塩を入れやがって」
 「ほんとかい!」
 「まあ、翌日に俺と一緒にハンバーグを作って、それはまともでしたけどね」
 「ああ」
 「きっと、そのことだけを顕さんに話したんでしょう」
 「そうだったのかぁー!」

 みんなが笑った。
 俺が掻い摘んでモニカに説明し、モニカも笑った。

 「ところでモニカは料理は?」
 「はい、フィリピンの料理ですが」
 「モニカは大丈夫だよ。何度も食べてる」
 「そうですかー」
 「これからは日本の料理も覚えます」
 「まあ、そっちは顕さんがいますしね」
 「うん、僕も作るよ」

 俺は亜紀ちゃんに、冷奴を持って来るように言った。
 亜紀ちゃんが豆腐を切って、薬味にショウガと千切りの大葉を持って来た。

 「ちょっと醤油をたらして。薬味と一緒に口に入れて下さい」

 モニカが言われた通りにする。

 「あ! これも美味しい!」
 「薬味もいろいろなものがありましてね。ネギやミョウガやワサビ、梅肉や大根も美味しい」
 「そうなんですか!」
 「まあ、ゆっくり試してみて下さい」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが下からギターを持って来た。
 俺は『アルハンブラの思い出』を奏でた。
 みんなが黙って聴いていた。

 安全地帯の『消えない夜』を歌った。

 「石神さんはギターも上手いんですね」
 「いや、そんなことは」
 「タカさんは世界的なギタリストのサイヘーさんに教わったんですよ!」
 「そうなのか!」
 「へぇー!」
 「亜紀ちゃん、よせよ!」
 「いいじゃないですか!」
 
 顕さんが驚いていた。

 「サイヘーって、あの有名な人だろ?」
 「まあ」
 「驚いたよ!」

 亜紀ちゃんが下に駆け下りて、すぐに戻って来てCDを顕さんに渡した。

 「これ、どうぞ!」
 「え? あ、これって!」
 「お前! 持って来たのかよ!」
 「いつも持ち歩いてますよ! 誰にでもすぐに渡せるように!」
 「何やってんだ!」

 亜紀ちゃんは1000枚俺のCDを買った。
 もう半分は配ってると言った。

 「いつの間に!」
 「石神くん、CDも出してたのか!」
 「ピアニストの橘弥生に命令されてですよ!」
 「橘弥生!」
 「タカさんの親友だった門土さんが橘さんの息子さんだったんです」
 「えぇー!」
 「橘さんはタカさんの実力を認めてて。絶対にCDを出せって家にまで押しかけて来て」
 「おいおい、石神くん!」
 「もうよせってぇー!」
 
 顕さんが驚いていた。

 「あのね、俺は医者だからって散々断ったんですよ。でも断り切れなくて」
 「スゴイじゃないか!」
 「そんなことはないです」
 「顕さん、このCD世界中で400万枚売れてるんですよ!」
 「なんだってぇー!」
 
 顕さんとモニカが驚いた。

 「もういい!」

 俺はそろそろ解散だと言った。

 「顕さんとモニカと三人で飲むからな。お前らは下でウンコでもしてろ!」
 「タカさん! もっと上品に!」






 俺は立ち上がって日本舞踊を踊った。
 みんなが爆笑した。
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