1,386 / 2,818
顕さんと冬の別荘 Ⅳ
しおりを挟む
話し終わると、顕さんが泣いていた。
「顕さん、すいませんでした。奈津江から昔聞いた話で」
「うん、ありがとう、石神くん」
顕さんが涙を拭った。
モニカが優しく抱き締めた。
「そうだったんだよ。奈津江には随分と寂しい思いをさせていた」
「奈津江は顕さんが帰って来るのが本当に楽しみだったと言っていました。それはもちろん、寂しいってことだったんでしょうけどね。でも、奈津江がそんなに楽しみだったのは、顕さんのお陰ですよ」
「いや、僕は……」
「寂しいから嬉しい。それは奈津江だけのものです。奈津江はそれをずっと大切な思い出にしていました。奈津江は嬉しそうに俺に話してくれましたよ」
「そうか」
「奈津江は顕さんだけでした。顕さんさえいれば、他に誰もいらない。まあ、だから友達なんかも興味は無かったんじゃないですか?」
「そうなのかな」
「顕さんは間違いなく、奈津江の最愛の人間だったんですよ」
「そうか。そうだったら嬉しいな。でも、奈津江は石神くんと出会った」
「まあ、そこからは最愛は俺ですけどね!」
「なに!」
みんなが笑った。
「俺はちょっとだけ変わってますからね」
子どもたちが大笑いするので、近くの亜紀ちゃんを引っぱたいた。
「顕さんと奈津江と三人で飲みに行った時。顕さんが大学時代に付き合った女性がいるって言ってましたよね」
「そうだったかな」
「奈津江が顕さんがいない間に俺に言ってました。自分のせいで別れさせてしまったんだと」
「……」
「後悔してましたよ。だから顕さんには誰かと付き合ってもらいたがってた。モニカさん、やっと顕さんがあなたとそうしてくれたんです。ありがとうございます」
「石神さん……」
「俺も本当に嬉しい。顕さんのことを宜しくお願いします」
「こちらこそ」
亜紀ちゃんが立ち上がった。
「じゃー! お祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」
俺が下品だからやめろと言ったら、日本舞踊をみんなで踊った。
顕さんとモニカが爆笑する。
「見せてくれよ、「ヒモダンス」」
子どもたちがやり、俺も混ざって顕さんたちを爆笑させた。
「おい、ムードもへったくれもなくなっただろう!」
「ワハハハハハ!」
寒くなって来たので、みんなで湯豆腐を食べる。
モニカが感動していた。
「これも美味しいです!」
「大豆という豆の食材なんですよ。あっさりしているけど、結構美味しいでしょ?」
「はい!」
身体が温まる。
ルーに言って、モニカに甘酒を一杯勧めた。
「これも美味しい!」
「本当は夏場に冷やして飲むものなんですけどね。寒い時期に温めても美味しいんです」
嬉しそうに笑うモニカを、顕さんが優しく微笑んで見ていた。
きっと奈津江も同じように見られていたのだろう。
「最初は僕も全然ダメでね。料理なんか出来ないから、スーパーの総菜を出したりね。そうすると奈津江が食べてくれなくて」
「はい」
「だから必死に覚えたんだ」
「だから奈津江は何にも出来ない女になっちゃったんですよ?」
「アハハハハ!」
顕さんが朗らかに笑った。
そうさせたことが、顕さんの誇りでもあったのだろう。
「お袋に会いに山口に一緒に行く時も」
「ああ! あれは大変だったね!」
「顕さんが死にそうになってまで協力してくれたのにね」
「でも、大成功だったんだろ?」
「え! あいつ、そう話してましたか!」
「違うの?」
「大失敗ですよ! 奈津江の奴、出来もしない料理を「やります!」なんて言いやがって。食べたら死ぬって料理を作ったんですよ!」
「え!」
「シチューに致死量の塩を入れやがって」
「ほんとかい!」
「まあ、翌日に俺と一緒にハンバーグを作って、それはまともでしたけどね」
「ああ」
「きっと、そのことだけを顕さんに話したんでしょう」
「そうだったのかぁー!」
みんなが笑った。
俺が掻い摘んでモニカに説明し、モニカも笑った。
「ところでモニカは料理は?」
「はい、フィリピンの料理ですが」
「モニカは大丈夫だよ。何度も食べてる」
「そうですかー」
「これからは日本の料理も覚えます」
「まあ、そっちは顕さんがいますしね」
「うん、僕も作るよ」
俺は亜紀ちゃんに、冷奴を持って来るように言った。
亜紀ちゃんが豆腐を切って、薬味にショウガと千切りの大葉を持って来た。
「ちょっと醤油をたらして。薬味と一緒に口に入れて下さい」
モニカが言われた通りにする。
「あ! これも美味しい!」
「薬味もいろいろなものがありましてね。ネギやミョウガやワサビ、梅肉や大根も美味しい」
「そうなんですか!」
「まあ、ゆっくり試してみて下さい」
「はい!」
亜紀ちゃんが下からギターを持って来た。
俺は『アルハンブラの思い出』を奏でた。
みんなが黙って聴いていた。
安全地帯の『消えない夜』を歌った。
「石神さんはギターも上手いんですね」
「いや、そんなことは」
「タカさんは世界的なギタリストのサイヘーさんに教わったんですよ!」
「そうなのか!」
「へぇー!」
「亜紀ちゃん、よせよ!」
「いいじゃないですか!」
顕さんが驚いていた。
「サイヘーって、あの有名な人だろ?」
「まあ」
「驚いたよ!」
亜紀ちゃんが下に駆け下りて、すぐに戻って来てCDを顕さんに渡した。
「これ、どうぞ!」
「え? あ、これって!」
「お前! 持って来たのかよ!」
「いつも持ち歩いてますよ! 誰にでもすぐに渡せるように!」
「何やってんだ!」
亜紀ちゃんは1000枚俺のCDを買った。
もう半分は配ってると言った。
「いつの間に!」
「石神くん、CDも出してたのか!」
「ピアニストの橘弥生に命令されてですよ!」
「橘弥生!」
「タカさんの親友だった門土さんが橘さんの息子さんだったんです」
「えぇー!」
「橘さんはタカさんの実力を認めてて。絶対にCDを出せって家にまで押しかけて来て」
「おいおい、石神くん!」
「もうよせってぇー!」
顕さんが驚いていた。
「あのね、俺は医者だからって散々断ったんですよ。でも断り切れなくて」
「スゴイじゃないか!」
「そんなことはないです」
「顕さん、このCD世界中で400万枚売れてるんですよ!」
「なんだってぇー!」
顕さんとモニカが驚いた。
「もういい!」
俺はそろそろ解散だと言った。
「顕さんとモニカと三人で飲むからな。お前らは下でウンコでもしてろ!」
「タカさん! もっと上品に!」
俺は立ち上がって日本舞踊を踊った。
みんなが爆笑した。
「顕さん、すいませんでした。奈津江から昔聞いた話で」
「うん、ありがとう、石神くん」
顕さんが涙を拭った。
モニカが優しく抱き締めた。
「そうだったんだよ。奈津江には随分と寂しい思いをさせていた」
「奈津江は顕さんが帰って来るのが本当に楽しみだったと言っていました。それはもちろん、寂しいってことだったんでしょうけどね。でも、奈津江がそんなに楽しみだったのは、顕さんのお陰ですよ」
「いや、僕は……」
「寂しいから嬉しい。それは奈津江だけのものです。奈津江はそれをずっと大切な思い出にしていました。奈津江は嬉しそうに俺に話してくれましたよ」
「そうか」
「奈津江は顕さんだけでした。顕さんさえいれば、他に誰もいらない。まあ、だから友達なんかも興味は無かったんじゃないですか?」
「そうなのかな」
「顕さんは間違いなく、奈津江の最愛の人間だったんですよ」
「そうか。そうだったら嬉しいな。でも、奈津江は石神くんと出会った」
「まあ、そこからは最愛は俺ですけどね!」
「なに!」
みんなが笑った。
「俺はちょっとだけ変わってますからね」
子どもたちが大笑いするので、近くの亜紀ちゃんを引っぱたいた。
「顕さんと奈津江と三人で飲みに行った時。顕さんが大学時代に付き合った女性がいるって言ってましたよね」
「そうだったかな」
「奈津江が顕さんがいない間に俺に言ってました。自分のせいで別れさせてしまったんだと」
「……」
「後悔してましたよ。だから顕さんには誰かと付き合ってもらいたがってた。モニカさん、やっと顕さんがあなたとそうしてくれたんです。ありがとうございます」
「石神さん……」
「俺も本当に嬉しい。顕さんのことを宜しくお願いします」
「こちらこそ」
亜紀ちゃんが立ち上がった。
「じゃー! お祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」
俺が下品だからやめろと言ったら、日本舞踊をみんなで踊った。
顕さんとモニカが爆笑する。
「見せてくれよ、「ヒモダンス」」
子どもたちがやり、俺も混ざって顕さんたちを爆笑させた。
「おい、ムードもへったくれもなくなっただろう!」
「ワハハハハハ!」
寒くなって来たので、みんなで湯豆腐を食べる。
モニカが感動していた。
「これも美味しいです!」
「大豆という豆の食材なんですよ。あっさりしているけど、結構美味しいでしょ?」
「はい!」
身体が温まる。
ルーに言って、モニカに甘酒を一杯勧めた。
「これも美味しい!」
「本当は夏場に冷やして飲むものなんですけどね。寒い時期に温めても美味しいんです」
嬉しそうに笑うモニカを、顕さんが優しく微笑んで見ていた。
きっと奈津江も同じように見られていたのだろう。
「最初は僕も全然ダメでね。料理なんか出来ないから、スーパーの総菜を出したりね。そうすると奈津江が食べてくれなくて」
「はい」
「だから必死に覚えたんだ」
「だから奈津江は何にも出来ない女になっちゃったんですよ?」
「アハハハハ!」
顕さんが朗らかに笑った。
そうさせたことが、顕さんの誇りでもあったのだろう。
「お袋に会いに山口に一緒に行く時も」
「ああ! あれは大変だったね!」
「顕さんが死にそうになってまで協力してくれたのにね」
「でも、大成功だったんだろ?」
「え! あいつ、そう話してましたか!」
「違うの?」
「大失敗ですよ! 奈津江の奴、出来もしない料理を「やります!」なんて言いやがって。食べたら死ぬって料理を作ったんですよ!」
「え!」
「シチューに致死量の塩を入れやがって」
「ほんとかい!」
「まあ、翌日に俺と一緒にハンバーグを作って、それはまともでしたけどね」
「ああ」
「きっと、そのことだけを顕さんに話したんでしょう」
「そうだったのかぁー!」
みんなが笑った。
俺が掻い摘んでモニカに説明し、モニカも笑った。
「ところでモニカは料理は?」
「はい、フィリピンの料理ですが」
「モニカは大丈夫だよ。何度も食べてる」
「そうですかー」
「これからは日本の料理も覚えます」
「まあ、そっちは顕さんがいますしね」
「うん、僕も作るよ」
俺は亜紀ちゃんに、冷奴を持って来るように言った。
亜紀ちゃんが豆腐を切って、薬味にショウガと千切りの大葉を持って来た。
「ちょっと醤油をたらして。薬味と一緒に口に入れて下さい」
モニカが言われた通りにする。
「あ! これも美味しい!」
「薬味もいろいろなものがありましてね。ネギやミョウガやワサビ、梅肉や大根も美味しい」
「そうなんですか!」
「まあ、ゆっくり試してみて下さい」
「はい!」
亜紀ちゃんが下からギターを持って来た。
俺は『アルハンブラの思い出』を奏でた。
みんなが黙って聴いていた。
安全地帯の『消えない夜』を歌った。
「石神さんはギターも上手いんですね」
「いや、そんなことは」
「タカさんは世界的なギタリストのサイヘーさんに教わったんですよ!」
「そうなのか!」
「へぇー!」
「亜紀ちゃん、よせよ!」
「いいじゃないですか!」
顕さんが驚いていた。
「サイヘーって、あの有名な人だろ?」
「まあ」
「驚いたよ!」
亜紀ちゃんが下に駆け下りて、すぐに戻って来てCDを顕さんに渡した。
「これ、どうぞ!」
「え? あ、これって!」
「お前! 持って来たのかよ!」
「いつも持ち歩いてますよ! 誰にでもすぐに渡せるように!」
「何やってんだ!」
亜紀ちゃんは1000枚俺のCDを買った。
もう半分は配ってると言った。
「いつの間に!」
「石神くん、CDも出してたのか!」
「ピアニストの橘弥生に命令されてですよ!」
「橘弥生!」
「タカさんの親友だった門土さんが橘さんの息子さんだったんです」
「えぇー!」
「橘さんはタカさんの実力を認めてて。絶対にCDを出せって家にまで押しかけて来て」
「おいおい、石神くん!」
「もうよせってぇー!」
顕さんが驚いていた。
「あのね、俺は医者だからって散々断ったんですよ。でも断り切れなくて」
「スゴイじゃないか!」
「そんなことはないです」
「顕さん、このCD世界中で400万枚売れてるんですよ!」
「なんだってぇー!」
顕さんとモニカが驚いた。
「もういい!」
俺はそろそろ解散だと言った。
「顕さんとモニカと三人で飲むからな。お前らは下でウンコでもしてろ!」
「タカさん! もっと上品に!」
俺は立ち上がって日本舞踊を踊った。
みんなが爆笑した。
1
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる