富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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納会は「薔薇乙女」

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 クリスマスを終えた翌週。
 もう、年内はあと二日で俺は休暇に入る。
 もうオペも無いので、夕方から納会を予定していた。
 今年はうちの第一外科部が院長室と合同の納会の組み合わせだった。
 一江と相談し、「薔薇乙女」でやることにした。
 院長はもちろん許諾し、また女装することになった。
 そのせいで俺も女装になった。

 亜紀ちゃんが聞きつけて一緒に行きたいと言ったが、今日は仕事関係者だけだ。
 俺の部下14人と、そして院長と秘書の二人と、今回は特別に静子さんにもいらして頂く。
 院長は静子さんの出席を最初断っていたが、俺の部下たちや秘書の二人が懇願し、実現した。
 女装はだからやめるかと思ったら、やると言う。




 夕方の6時からの貸切にしてもらった。
 会費は一人5千円で、もちろん後は俺が出す。
 日頃みんなに世話になっている。

 俺の部下たちもゲイバーは行ったことがないので、喜んでいた。
 一江と大森は知っている。
 そしてそれ以上に、秘書の二人が楽しみにしていた。
 大月玲奈さんと安藤桃子さんだ。

 「石神先生! 今年は素敵な会場をありがとうございました!」
 「ゲイバーなんて初めてですよ! それに石神先生がよく通われてる店だって!」
 「あのさ、年に数回だよ。知り合いが働いているから、顔を出しているんだ」
 「「楽しみですぅー!」」
 「アハハハハハ」

 まあ、そう思ってくれると俺も嬉しい。
 俺はタクシーで院長と一緒にお宅へ行き、着替えて店に向かった。
 6時前に店に着いたが、全員もう揃っていた。
 テーブルが配置されており、院長と静子さんは一番上座に座った。
 みんなが大笑いしている。

 「じゃあ、今日は院長はいないからな!」
 
 みんなが笑う。

 「石神部長もいない。みんな、大いに楽しんでくれ。ああ、この店は俺の大事な「ユキ」がいるんで通っているんだが、美人のママさんや他の綺麗な女の子も楽しくて明るい人たちだ! それと! 今日の一番大事なゲストは院長の奥様の静子さんな! じゃあ、乾杯!」

 全員で乾杯し、すぐに楽し気な雰囲気になった。
 店の「女の子」たちは、本当に客を楽しませるのが上手い。
 俺の隣にユキが来て、院長の隣には静子さんが座っている。
 俺の部下たちや秘書の二人も、ホステスが座って盛り上げていく。

 「石神センセー! 今日は特別にパフォーマンスの人たちを呼んでるの!」

 ママが言った。

 「そうなのか! 楽しみだな!」
 「ええ! スゴイ人たちなのよ!」
 「へぇー!」

 よく分らんが、俺は上機嫌で応えた。
 ママが気を遣ってくれたのが分かるからだ。

 みんながどんどん飲み食いしていく。
 バーテンがまた腕を上げたようで、どれも料理が美味しい。
 俺は席を立ってバーテンを褒めに行った。

 「石神先生のお陰ですよ! このお店の料理が美味いってことが、自分の誇りになりました」
 「そうか。まあ、本当に美味いよ」
 「アハハハハ!」

 ユキが、早乙女がここに何度か十河さんを連れて来たと言った。

 「あんまりお客さんのことは話しちゃいけないんだけど」
 「そうか、ありがとうな」
 「ええ。石神さんの親友の方ですし」
 
 恐らく、慣れない東京で暮らす十河さんを楽しませたかったのだろう。
 こういう店が好きかは分からないが、早乙女が知る、数少ない楽しい場所ということなのだ。

 「十河さんは、俺が青森から連れて来たんだよ」
 「ええ、聞きました。だから、石神さんにはお話ししてもいいかと」
 「うん。で、楽しんでもらえたかな」
 「ええ! お酒が好きな人で、楽しそうに私たちともお話ししてくれましたよ」
 「そうか。本当にありがとうな」
 「いいえ!」

 斎木が白鹿と楽しそうに話していた。
 何か馬が合ったらしい。
 ママはあちこちに行って席を盛り上げてくれる。
 
 「静子さん、こういうお店は初めてでしょう?」
 「ええ! 楽しいお店ね!」
 「院長が大好きなんですよ、ここ」
 「おい、石神!」
 「男同士だったら、浮気じゃありませんよね?」
 「ええ、そうね!」

 静子さんは日本酒を飲み、今日は楽しもうとしている。
 院長が連れて来てくれたのが嬉しいのだろう。
 二人で何か喋りながら料理を召し上がっていた。

 ここのホステスは飲ませるのも上手い。
 1時間もすると、場も和んで本当に楽しい雰囲気になってきた。

 「じゃあ、タカトラ祭の前に、今日は特別なパフォーマーを招待したわ! みんな楽しんでね!」

 拍手が湧き、奥の部屋から5人のスパイダーマンの衣装の集団が出て来た。
 一層大きな拍手が湧く。
 俺も笑顔で手を叩いた。

 スパイダーマンたちは前に作られたステージ用のスペースでダンス曲に合わせて踊り出した。
 珍妙なダンスで、みんなが笑った。
 そのうちに「セイントーラ」の音楽が始まり、床でブレイクダンスをしていく。
 打って変わって本格的なダンスにみんなが盛り上がる。

 「?」

 20分ほどのパフォーマンスだったが、みんな感動した。

 「じゃー、最後! 「ヒモダンス」! やるよ!」

 俺は酒を噴き出した。
 ユキが慌てて口元を拭いてくれる。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 最初はみんな呆気に取られていたが、大爆笑になった。
 静子さんも大笑いだ。
 院長はバナナを片手に固まっている。

 「「院長せんせー!」」

 二人が両側から院長を抱き締めた。
 静子さんにも抱き着く。

 「ルーちゃん! ハーちゃん!」

 お二人が驚いている。
 双子がマスクを取って、お二人にキスをした。

 「「エヘヘヘヘヘ!」」

 「お前ら!」

 亜紀ちゃん、皇紀、柳もマスクを取った。
 
 「来ちゃいましたー!」

 みんなが驚き、大歓迎した。
 院長と静子さんは大喜びだ。
 亜紀ちゃんは斎藤の隣に座り、皇紀は秘書課の二人に呼ばれ、柳は一江と大森に呼ばれた。
 双子はもちろん院長と静子さんだ。

 「ママぁ」
 「オホホホホ! 驚いたでしょ?」
 「まあね。まあ、この店だからいいですけどね」
 「ありがとー!」

 俺は子どもたちにいつものように喰うなと言った。
 そのうち、亜紀ちゃんと柳がバーテンを手伝った。

 「じゃー! いよいよタカトラ祭よー!」

 ユキが笑ってギターを持って来た。
 俺もエスタス・トーネを弾き、トム・ウェイツを歌って盛り上げた。

 「タカトラァー! ここをオランダにしてぇー!」

 俺は静子さんがいるので一瞬躊躇したが、意を決した。

 「亜紀ちゃん! ユキ!」

 俺はスカートとパンツを脱いで振り回した。
 亜紀ちゃんとユキがチューリップを作る。

 「これでここはもうオランダだぁー!」

 院長と静子さんが大笑いした。
 秘書の二人も大笑いで近くに見に来た。
 酔った斎木が俺の隣で回し始めた。
 一江と大森に言われ、男性が全員振り回す。
 バーテンも来た。
 女性陣とホステスが全員チューリップを作る。
 ママが大笑いで写真を撮った。

 「ねえ、石神先生。この写真、お店に飾っていい?」
 「目線を入れてくれな」
 「はい!」

 


 閉店の12時までみんなで騒いだ。

 「院長、静子さん、最後までありがとうございました!」
 「石神、楽しかったよ」
 「本当に! またお誘いしてね!」
 「はい!」

 「石神先生! また一緒に飲みに行きましょうね!」
 「今日は本当に楽しかったです!」
 
 秘書の二人も嬉しそうだった。
 部下たちも口々に楽しかったと言う。
 じゃあ、良かった。

 「タカさん、二次会は!」
 「帰るぞ!」
 「えぇー!」

 「ロボはどうした?」
 「あ、早乙女さんの御宅に」
 「おい、もうこんな時間じゃねぇか!」
 「アハハハハ!」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたいで急いで帰った。
 深夜で申し訳ないが、亜紀ちゃんと早乙女の家に行く。

 「おい、玄関でロボを受け取ったらすぐに帰るからな」
 「はい!」

 中へ入ると「柱」がいる。

 電話で謝り、ロボを迎えに来たと告げた。
 早乙女が門を開けてくれ、中に入るといきなり脇から「柱」に抱きつかれた。
 
 「!」

 俺はなんでこいつが苦手なのか分かった。
 俺は人間でも妖魔でも気配を感じることが出来る。

 


 しかし、こいつは一切何も分からなかった。

 俺はまた「柱」をハグしてやった。 

 こいつは一体、何者なんだ?
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