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奈津江とクリスマス Ⅱ

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 「高虎!」

 マンションに入り口で、俺はネコに飛び掛かられた。
 
 「おい、なんだ?」

 ネコは俺の胸に捕まり、顔を舐めて来る。

 「高虎のネコ?」
 「違うよ。知らないネコだ」

 痩せているのが分かった。
 毛も汚れている。
 
 「首輪はないね」
 「じゃあ、ノラかぁ」

 俺も奈津江もネコ好きだ。
 だから放ってはおけなかった。

 「中に入れてあげようよ」
 「でもなぁ。飼うわけにはいかないぞ」
 「それでもさ。痩せてて可哀そうじゃん」
 「そうだな!」

 俺はネコを抱いたまま部屋に入った。
 奈津江にミルクティなどを淹れるために、牛乳を買ってあった。
 それを温めてネコにやる。

 その間に、俺は冷凍していた挽肉を解凍し、手早く焼いてやった。
 ネコは猛烈な勢いでガツガツと食べた。

 「ちょっと風呂に入れたいな」
 「そうだねー」

 結構汚れていた。
 ノミなどがいても困る。
 俺は奈津江にネコを任せ、近くのペットショップに行ってエサとシャンプーとトイレを買った。

 「おい、買って来たぞ!」

 ネコが奈津江の膝で幸せそうに眠っていた。

 「お腹がいっぱいになったのね」
 「そうだな」

 俺がネコを抱きかかえると、目を覚ました。
 俺をじっと見ている。

 「ちょっと綺麗にしようなー」

 ネコは大人しくしていたが、浴室に入ると暴れた。

 「おい!」

 俺はシャワーを出し、湯になったところで押さえつけてネコを洗った。
 鳴きながら暴れる。
 
 「奈津江! 手伝ってくれ!」
 「うん!」

 俺が押さえつけ、奈津江が洗った。
 そのうちに諦めたのか大人しくなった。

 「良し、もうすぐだからな!」

 濡れると、一層痩せているのが分かった。

 タオルで拭いてやり、ドライヤーで乾かすと気持ちよさそうにしていた。
 またミルクを温めて与えると、嬉しそうに舐めた。

 俺はトイレを見せた。

 「おい、ここでしてくれな」

 ネコが横目で見た。
 大丈夫か?

 綺麗になったネコは、アメリカン・ショートヘアーであることが分かった。
 結構高いネコだ。
 奈津江が手招きすると、喜んで駆けて行った。
 俺は料理の支度を始めた。

 いい匂いが立ち込め、ネコが俺の足元に来る。

 「おい、さっき食べたばかりだろう」

 仕方なく味付けしていないヒラメとスズキを少し切って焼いてやった。
 唸りながら食べた。

 「高級魚だからな! 今度買って来いよ!」
 「アハハハハ!」

 奈津江が笑った。

 


 二人で食事をした。

 「高虎! 最高に美味しいよ!」
 「そうか、良かったよ」

 ネコは俺の足元に丸くなって寝ている。
 奈津江がクッションを敷いてやった。

 「そのネコ、どうする?」
 「明日は追い出さないとなぁ」
 「え! 可愛そうだよ!」
 「でも、うちじゃ飼えないよ。昼間はいないしなぁ」
 「えぇ! 私も協力するよ!」
 「うーん」
 
 《プー》

 奈津江と顔を見合わせた。
 ネコが起きて、俺が見せたトイレへ行った。
 二人で笑った。

 「プーちゃん!」
 「そりゃお前だろう」
 「なによ!」

 名前が決まった。
 俺も追い出すことも出来ず、飼うつもりになっていた。

 「だけど、ここはネコを飼ってもいいのかな」
 「大丈夫! 利用規約で吼えたり鳴かない大人しい動物は飼ってもいいんだって」
 「そうか! でもお前、よく知ってるな?」
 「だって、いつか私もここに住むじゃん! 規約はちゃんと目を通したもん」
 「え?」
 「なによ!」

 奈津江が赤くなった。
 俺は笑った。

 「そうか。でも、すぐにでっかい家に引っ越すからな!」
 「うん!」

 食事を終え、シャンパンを出して乾杯した。
 奈津江が酒に弱いため、アルコール度の低いものを選んだ。

 俺は奈津江にピンクの革の手袋をプレゼントした。
 奈津江は俺に白い長いストールをくれた。

 「カッコイイな、これ!」
 「うん。前にギャング映画見た時に、タカトラが欲しがってたじゃん」
 「ああ!」
 
 俺は嬉しくてストールを提げて洗面所の鏡の前に言った。

 「おい、奈津江! 最高にいいぞ!」
 
 奈津江が入り口で大笑いしていた。

 「あ、そうだ!」

 奈津江が自分の鞄を開けた。
 
 「これ、お兄ちゃんから」
 「え?」

 ザハ・ハディドや安藤忠雄などの建築書だった。
 俺が好きな建築家だと言ったからだ。

 「うわー、これ物凄く高いものじゃん」
 「そうなの!」
 
 二人で見た。
 豪華本もあった。

 「大丈夫だよ」
 「まあ、俺がいつかお兄ちゃん孝行をしよう」
 「うん!」

 奈津江が嬉しそうに笑った。
 プーはソファで眠っていた。

 

 奈津江が一緒に寝たがった。

 「エッチはダメよ!」
 「お、おう」
 「プーちゃん、私を守ってね!」
 「にゃー」

 「まあ、俺は毛深い子が大好きだからな!」
 「え! あの、私ってあんまり毛は無いんだ……」
 「!」

 俺が耐え切れずに奈津江に抱き着きそうになると、奈津江から頭を殴られた。
 プーを間にして眠った。
 まあ、毛の量なんて、どうでもいいのだが。




 翌朝、朝食を食べて奈津江を送ろうとマンションを出た。
 楽しく話しながら駅へ向かう。

 奈津江が立ち止まった。

 「高虎、これ」

 町の掲示板だ。
 探しネコの張り紙があった。

 「おい、これって」
 「プーかもよ?」

 すぐ近くの家だったので、二人で行ってみた。
 初老の女性が俺たちの話を聞いて涙を流した。

 「レオに違いありません」

 俺のマンションへ行くと、玄関にプーが走って来た。

 「レオ!」

 プーは一瞬俺の顔を見たが、女性に飛び込んでいった。
 
 「こんなに痩せちゃって! ありがとうございました! 本当にありがとうございました!」

 俺は落ち着かせようとコーヒーを淹れた。
 俺がキッチンに立つと、プー=レオが足にまとわりつく。

 「まあ、すっかり懐いたんですね」
 「昨日拾ったんですけどね。余り物をやったら喜んで食べて」
 「そうですか」

 女性は持って来たキャリーケースにプー=レオを入れて帰って行った。

 「あー、残念ね」
 「まあな。でもここで飼って寂しい思いをさせるよりも良かっただろう」
 「うん」
 「そのうち、この家も賑やかになるしな」
 「え?」
 「奈津江がすぐに子どもを生んでくれるだろ?」
 「バカ!」




 再び奈津江を送って行った。
 別れ際に奈津江が小声で言った。

 「さ、三人までは頑張るから」
 「おう!」

 奈津江は笑いながら電車に乗って行った。



 
 俺はその後独りでマンションに住み、そのうちにバカみたいに広い家で独りで過ごした。
 そして、突然に四人のやかましい連中が来た。

 毎日、寂しいと思うことはなくなった。 
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