上 下
1,378 / 2,840

奈津江とクリスマス

しおりを挟む
 みんなで「虎温泉」に入った。
 早乙女たちは遠慮して内風呂だ。
 皇紀は目隠しだ。
 双子が身体を洗っている。

 「チンコは自分で洗って」
 「うん」

 今日の功労者の鷹をみんなで洗った。
 鷹が異常に恥ずかしがるのが可愛かった。

 温めの湯にして、ゆっくり浸かれるようにした。
 響子が俺の隣に来て笑った。
 
 「タカトラ、ありがとうね」
 「楽しいか」
 「うん!」

 風呂から上がり、子どもたちが「幻想空間」の準備をする。
 大人たちは酒を呑むが、響子たちのために、フルーツポンチを作った。
 大人たちも欲しがったので、結構な量を作る。
 大きなガラス製のボールで3つになった。
 「幻想空間」に運ぶ。

 運び終わってからライトを消し、クリスマスらしくキャンドルに火を付けた。
 揺らめく炎がまたいい。
 しばらく、みんな黙って雰囲気を味わった。

 響子が俺を見て微笑んだ。
 肩を抱いてやると喜んだ。
 俺の隣に響子と鷹。

 右に六花と亜紀ちゃんと柳。
 左に早乙女と雪野さん。
 向かいに皇紀と双子。
 怜花は、少し離れた場所で揺り籠。
 ロボは俺の後ろ。
 鷹が焼いたカニを食べている。
 幸せそうだ。




 「怜花は大丈夫か?」
 「ええ、さっきちょっと起きてましたけど、楽しそうでしたよ」
 「ここは安心できるんだろう。よく寝てるよ」

 早乙女と雪野さんが幸せそうに笑う。

 「まあ、ある意味で世界で一番安全な場所だからな!」
 「「アハハハハハ!」」

 俺と早乙女、亜紀ちゃんはワイルドターキーを飲み、六花はハイネケン、鷹はフルーツポンチ。
 柳はフルーツポンチと梅酒、他はみんなフルーツポンチだ。
 ハーが指を入れて「フルーツチンポ」と言った。
 皇紀とルーが「ギャハハハハ!」と笑った。
 
 「0歳児の前で下品なことを言うな!」
 「「「はーい」」」
 「1歳になるまで待て!」
 「「「はーい」」」

 「石神ー!」

 みんなで笑った。

 「栞さんたちは寂しいですね」

 亜紀ちゃんが言う。

 「そうかもな。でも、アラスカでも盛大にやってるようだしな」
 「そうなんですか!」
 「そりゃ、向こうは殆どがクリスチャンなんだ。今年は花火なんかもやるみたいだぞ?」
 「えー! 見たいですねー」

 「でもな、あっちじゃ防衛システムが何しろ強烈だからな。その調整で大分苦労したみたいだ」
 「アハハハハ!」

 「最終的にはよ、ターナー少将から泣きつかれて、俺の命令で「目を瞑れ」ということにした。とてもじゃないが、花火が攻撃ではないと戦術AIに理解させることが難しくてなぁ」

 みんなで笑った。

 「ロックハート家ではどうだったんだ?」
 「シズエの提案でね。夕方までに一杯料理を作るの。それで大食堂でみんなで食べるの」
 「へぇー! いいな!」
 「うん! その日はもう全員お仕事は無しなの。みんなで夜中まで楽しく話すの」
 「そうか。流石は静江さんだな」
 「タカトラたちも、いつか来て!」
 「まあ、俺らが行くと、みんなの食べる分が無くなっちゃうじゃん」
 「そっか!」
 
 またみんなで笑った。

 「でも、いつか行きたいな」
 「うん!」

 響子は夕飯を結構食べたはずだが、フルーツポンチもどんどん食べて行った。

 「石神、楽しいクリスマスだな」
 「そうか、そりゃ良かったよ」
 「家族でっていうのもいいんだけど。こうして石神たちと楽しくやるのがまたいい」
 「お前は雪野教徒だけどな!」
 「ウフフフフ」
 
 雪野さんが笑った。

 「ユキノチャンじゃん!」
 「タカさん、今は怜花ちゃんもいますよ」
 「あー。早くも宗派が分裂したかぁ」
 「石神!」

 雪野さんが大笑いした。

 「ねぇ、タカトラ」
 「なんだ?」

 響子が聞いて来た。

 「ナツエとはどんなクリスマスだったの?」

 亜紀ちゃんの顔が強張る。
 俺は手で大丈夫だと示した。

 「美味しいお店とか言った?」
 「まあ、俺たちは金が無かったからな。こんな豪勢なクリスマスじゃなかったよ」
 「そうかー」
 「でもな、お互いの家に行ったりして、楽しかったよ」
 「そう!」

 俺は笑って話し出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 クリスマスをどうしようかと話していた。

 「なんか、美味しいものが食べたいね!」
 「おし! じゃあインペリアルを予約すっか!」
 「え、無理じゃん」
 「そうだね!」

 奈津江に肩を叩かれた。

 「でも、美味しいものが食べたいなー」
 「うーん。じゃあ、俺が作ろうか?」
 「ほんとに!」
 「うちのマンションに来いよ」
 「うん!」

 大学三年の時だった。

 「でもエッチなことはダメだよ!」
 「わ、分かってるよ!」

 


 俺は前日の夜から仕込みをした。
 いいキッチンが入っているが、それでも家庭用だ。
 せめて、オーブンがあるのが有難かった。

 ただ、生憎俺はまともなクリスマスなんて過ごしたことがない。
 子どもの頃には数回、アイスケーキやプリンが出たくらいで、食事なんていつものものだった。
 「ルート20」では遠征してみんなで適当に飲み食いしただけ。
 日本に戻ってからは何もしてない。

 「俺、知らないじゃん!」

 御堂に聞いた。

 「うちも特にはね。正月は大変だったけど」
 「そうかー」

 山中に聞いた。

 「うちもケーキくらいかな」
 「ちなみに、どんなケーキ?」
 「え? 普通の」
 「もういいよ」
 「なんだよ!」

 花岡さんには聞きにくい。
 他の女たちも同じだ。
 聞けば俺が誘ったと捉えかねない。
 木村や駿河などの親しい友達に聞いてもいいのだが、俺は一番確実な人に聞いた。

 「トラちゃん!」
 「陽子さん! お元気ですか!」
 「うん! トラちゃんから電話もらって嬉しいよ!」
 「アハハハハ! すいません。それでですね……」

 陽子さんはやっぱりいろいろアドバイスしてくれた。

 「奈津江さんに宜しくね!」
 「はい!」

 メニューを決めた。

 ローストビーフ。
 コンソメスープ。
 アスパラとスズキの焼き物、バルサミコソース。
 アサリと野菜のリゾット。
 ヒラメのハーブ焼き。 
 カプレーゼ。
 そしてフルーツポンチ。

 安いシャンパン。

 当日、俺は駅で奈津江と待ち合わせた。
 寒さが苦手な奈津江は、また着ぶくれていた。

 「奈津江のプーちゃんだぁ!」
 「おい!」

 奈津江に肩を叩かれた。
 笑って奈津江の荷物を持つ。

 ♪ くまのプー くまのプー まるまるとした ちっちゃいくま ♪

 俺が歩きながら歌うと、奈津江が笑った。

 「おい、荷物が多いな」
 「うん。お兄ちゃんがね、いろいろ持って行けって」
 「おう?」




 マンションの前まで来ると、俺はいきなり抱き着かれた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

処理中です...