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挿話:でぶトラちゃん

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 1月中旬のある土曜日の朝。
 夕べは少し飲んだ後で亜紀ちゃんが甘え、一緒に寝た。
 まあ、よくあることだ。

 「タカさんの匂いがするー!」
 「早く寝ろ!」
 「エヘヘヘヘ、いい匂い」
 
 8時頃。
 俺は暑苦しさで目が覚めた。
 目を開けると、目の前の布団が盛り上がっている。
 俺の足の間で寝ているはずのロボの姿が見えない。 

 「ん?」

 寝汗を掻いていた。
 この1月の寒い季節にだ。
 寝間着のせいではない。
 むしろ無い。

 「お?」

 寝間着がビリビリに破けていた。

 「おい!」

 俺は自分がとんでもないデブになっていることに気付いた。
 隣で寝ていた亜紀ちゃんが起きた。

 「タカさーん……」
 「……」

 「ん?」

 亜紀ちゃんが俺の首に手を回そうとした。
 
 「あれ?」
 「亜紀ちゃん……」
 「あぁ!」

 亜紀ちゃんが布団を撥ね退けて飛び上がった。
 その向こうにロボが飛び降りるのが見えた。

 「なんだ、テメェ!」
 「おい、俺だよ、亜紀ちゃん!」
 「なんだと? こんなデブがいつの間に!」
 「だから俺だって!」

 亜紀ちゃんが俺をじっと見ている。

 「おい、デブ」
 「おい!」
 「ほ、ほんとうにか……」
 「そうだよ」
 
 「でぶトラちゃん!」
 「おい」

 「ちびトラちゃん」の時には飛びついて来た。
 しかし、今回は俺だと分かっても近づきもしない。
 ロボが俺に近づいて来て、顔を舐めた。

 「た、タカさん?」
 「ああ」
 「どうしてまた」
 「多分、クロピョンだろうよ。おい、タマ!」

 すぐに着物姿のタマが現われた。
 
 「どうした、主」
 「お前! また予告もなくこんなことしやがって!」
 「ロボに伝えさせたはずだが」
 「だから! 俺はロボの言葉が分かんねぇんだよ!」
 「なに! こんな簡単な伝達も出来ないのか!」
 「お前! ふざけんな!」

 ロボが部屋の隅に行き、毛づくろいを始めた。
 誤魔化す時のパターンだ。
 そう言えば数日前に「ニャーニャー」鳴いていた。
 今度からは俺も注意しよう。

 「今度からお前が直接言いに来い!」
 「分かった、そうしよう」
 「それで、今回のこれはいつまでだ?」
 「明日の夕方には戻る」
 「そんなにかよ」
 「我慢してくれ。主の身体は調整が難しいんだ」
 「なんか、不味いのかよ?」
 「主自身がどうこうではないのだ。主から発する巨大な波動を調整する必要があってな」
 「なんだ、そりゃ?」

 「そのままでは、銀河系が数十巻き込まれて死滅する」
 「アハハハハハ!」
 「冗談では無いのだ!」
 「早く何とかしろ!」
 「今やっている!」

 まったく冗談じゃねぇ。

 「あの、タカさん」
 「あんだ?」
 「あの、ちょっと臭いです」
 「!」

 亜紀ちゃんが自分の寝間着の臭いを嗅いで言った。

 「風呂に入る! 亜紀ちゃん、手伝ってくれ!」
 「え、いや」
 「なんだと!」
 「自分で洗って下さい」
 「おい、自分じゃ届かねぇよ」

 俺は両手で触れる範囲を示した。

 「わ、私、皇紀たちに知らせて来ますね!」
 「おい、待て!」

 亜紀ちゃんは逃げて行った。

 「……」

 俺は起き上がり、身体に貼りついていたパジャマの破片を剥がした。
 鏡に自分を映す。

 「なんだよ……」

 恐ろしいデブがいた。
 胸はだらしなく脂肪が垂れ下がっている。
 腹は更に酷い。
 贅肉が3段になっておにぎりのような体型になっていた。
 スラリと長かった足は、ボンタンのように醜く膨れ上がっていた。
 俺のダンディな顔が、両頬が垂れ下がり、額の肉までちょっと垂れている。
 顎は見えねぇ。
 
 「見えねぇじゃねぇか」

 腹の贅肉を持ち上げ、何とか先端を握った。
 俺のサイズでなければ届かなかっただろう。

 「トイレはなんとかなりそうだな。でもウンコは自分じゃ拭けねぇな」

 そう思った瞬間に腹が痛くなった。

 「ま、待て! おい、どうすんだこりゃ!」

 言っても仕方が無い。
 俺は裸のままトイレへ向かった。

 「おい! 座れねぇじゃねぇか!」

 俺の尻がでか過ぎて、便器に納まらない。

 「あ……」

 余りの腹の痛さに適当に座ったら脇に零れた。

 「……」

 すぐに調整したが、もう死にたい。

 《ブヴォッ……ヴォヴォッ、ドボン……ヴォヴォ・プゥー、ヴァボン、プォォォォー……》

 途中で何度も流した。
 幸い(?)下痢状の便だったので、詰まることなく流れた。
 一回溢れたが。

 トイレットペーパーを出したが、やはり届かなかった。
 便器に投げ捨てた。
 仕方がないので手洗いのタオルを濡らし、股を挟んで拭いた。
 何度か水洗いして使った。
 タオルをゴミ箱に捨てる。

 ドアを開けるとロボがいた。
 中を一目見ると、すぐに逃げて行った。

 「……」

 俺が階段を裸のままで降りて行くと、下に子どもたちが集まって来る。

 「「「「「でぶトラちゃんだ!」」」」」
 「うるせぇ!」
 
 「ほんとだ! 臭いよ!」
 「あ、ウンコ臭い!」

 ルーとハーが騒いだ。

 「ハー!」
 「はい」
 「トイレを掃除しておけ」
 「え?」
 「この身体で狙いがズレた。はみ出したのを綺麗にしておけ」
 「エェー!」
 「お前はウンコのプロフェッショナルだからな!」

 ハーが上に行った。
 絶叫が聞こえた。

 「バカヤロー! 俺のウンコは汚くねぇ!」

 俺も叫んだが、全員が顔を背けた。

 「亜紀ちゃん」
 「何ですか、でぶトラちゃん」
 「風呂に入る。身体を洗ってくれ」
 「え、絶対嫌です」
 「おい!」

 



 結局、向かいの家から「お掃除ロボ」が連れて来られ、俺の身体とトイレを始末した。
 皇紀がプログラムを改変し、俺の身体も洗えるようにした。

 MAC11(サブマシンガン)を手にしていたので、皇紀の頭をはたいた。
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