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トラ&六花 異世界召喚 XⅣ
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俺はラーラたちと現状について話し合った。
「まず、魔王には誰でも妖魔化することが出来る能力がある」
「はい、ですがそれは誰でもと言っていいのでしょうか」
「ほう」
国務大臣の意見に、俺は興味を持った。
俺もそう思っていたからだ。
「恐らく、あの広場には200人近い人間がおりました。しかし、そのうちの29名だけが怪物になりました」
「俺もそこが気になっていた」
「まだ完全に検証しておりませんが、結構な範囲に亘っており、もしも自在に怪物に出来るとすれば非効率ではないかと」
「そうだ。俺が見た限りではあまりにも疎ら過ぎだ。一定の距離でやるわけでもなく、俺には意図的にやったのではなく、出来る範囲でやったかのように見えた」
「トラ様!」
「そうだ。妖魔化出来ない人間がいる。どういう理屈かは分からないけどな」
ラーラたちは一縷の望みを持った。
「だが、繰り返すが理屈は分からん。魔王の能力の特性なのか、本当に絶対に妖魔化しない因子があるのか。何にしても、今の段階では何も言えない。俺や六花もやられる可能性もある」
「そんな!」
「今は保留だ。それよりも、もう一つの方が重要だ」
「感染と仰いましたが」
「ああ。前にペストが発生しただろう」
「ペスト!」
六花が驚く。
看護師として、ペストの恐ろしさは知っているのだろう。
「あれと同様に、恐らく妖魔化した者から何かが出ている。それに感染すれば、妖魔化はしないが理性を喪って人を襲う者になる」
「何人か拘束しています」
「まず見てみよう」
俺は六花を残し、一人で行くことにした。
「私も一緒に行きます!」
「ダメだ。万一俺が感染したら、あとはお前が何とかしろ」
「嫌です!」
六花が大粒の涙を零す。
「しっかりしろ! お前がいるから俺は自分がやらねばならんことが出来るんだ」
「嫌です! 私は石神先生と一緒に!」
六花を抱き締めた。
俺の肩に、六花の涙が落ちて行った。
「お前を愛している。俺は必ず戻る。お前は俺がいなくなっても、魔王と戦っていてくれ」
「……」
「お前にしか頼めない。お前なら俺のために必ず何とかしてくれると分かっている」
「はい」
「頼むぞ」
「絶対に戻って下さいね」
「必ずだ。任せろ」
俺は拘留しているという施設に向かった。
守備隊の詰め所に隣接した牢の中だった。
中の獣人は狂暴化しているという。
「多くは殺傷するしかなく、今はこの3名だけが拘束で来ました」
「どういう状況だった?」
「はい。突然暴れ出して、周囲の人間を襲ったようです。武器は使用せず、手足で暴行し、相手が無抵抗になると所かまわず噛みついていました」
「脳を喰われた者はいるか?」
「それは発見していません。でも、身体のどこかを噛まれた者も同様に狂暴化していきました」
「噛まれていない者で狂暴化した者はいるか?」
「今はまだ」
「そうか、ありがとう」
感染はどうやら噛まれることで起きるらしい。
空気感染でないようで、一安心だ。
しかし、最初に感染した者は何が原因なのか。
恐らくあの広場で妖魔化した連中が感染の原因物質を撒いたに違いない。
それは空気感染なのか、または別な原因なのか。
俺は牢内の三人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
「う……」
三人の状態が変わった。
「ここは……」
「おい、話せるか?」
「はい。一体なぜここに……」
「突然意識を喪って暴れ出したんだ。覚えているか?」
「いいえ、何も」
記憶は無いようだ。
「広場にいたか?」
「はい。あの怪物に変わった奴の傍に」
「怪物に触れたか?」
「ええ、爪で引っ掛かれました」
「爪?」
「はい、でも大した傷では無かったのでそのままにしていましたが」
他の一人も同様なことを言った。
もう一人はあの広場にはおらず、突然噛まれたのだと言った。
「そうか、よく分かった。念のためにもうしばらくここにいてもらうぞ」
「あの、家には帰れないのですか!」
「我慢してくれ。家族には連絡しておこう。あとで兵士に話してくれ」
この段階で重要なことが分かった。
まだ安心は出来ないが、恐らく俺の予想は間違ってはいないだろう。
俺は王城に戻った。
王城で国務大臣を呼び出した。
念のために、ラーラや他の重要な人間との接触は避けた。
六花は強引に俺の傍に座った。
「トラ様、何か分かりましたか!」
「ああ、多分間違いないと思う。まず妖魔化した者は最初に人間の脳を喰う」
「はい……」
悍ましい現実に、国務大臣は顔を顰める。
「その次に、感染者を作ろうとするようだ」
「それはどのように?」
「爪を使うことは確かだ。他にも方法があるのかもしれないが、接触された者は要注意だな」
「分かりました」
「それと、狂暴化した者に噛まれるとまた感染する」
「それは!」
「その点についても、噛む以外にも爪でも同様のことが起きる可能性もある」
「分かりました。何にしても、妖魔化した者や狂暴化した者に接触したら隔離ということですね」
「そうだ。その対処を徹底してくれ」
「はい。今は狂暴化した者も全員処理、拘束しています。まあ、拘束出来たものは少ないですが」
「仕方が無い。犠牲者には申し訳ないが、早期に対策が取れそうで良かった」
「トラ様のお陰です」
六花はずっと俺の手を握っていた。
目に涙を溜め、俺の顔を見詰めている。
「狂暴化した者には「エクストラ・ハイヒール」が効いた。まだしばらくは拘留して様子を見るが、多分大丈夫だろう」
「石神先生!」
六花が喜ぶ。
国務大臣も顔を綻ばせた。
「妖魔化した者に効くかは分からん。六花、俺に万一があれば頼むぞ」
「はい! 何度でも、何度でも!」
本当に六花はそうするのだろう。
俺は具体的な対策について話し合った。
妖魔化した者が現われた場合、俺と六花が対応する。
警備兵たちはその場にいた全員を退避させ、一か所に集めて傷の有無を調べる。
傷がある者は隔離し、後に俺たちが治療。
大まかにそのような段取りが出来た。
俺は幾つかのことを考えていた。
「まず、魔王には誰でも妖魔化することが出来る能力がある」
「はい、ですがそれは誰でもと言っていいのでしょうか」
「ほう」
国務大臣の意見に、俺は興味を持った。
俺もそう思っていたからだ。
「恐らく、あの広場には200人近い人間がおりました。しかし、そのうちの29名だけが怪物になりました」
「俺もそこが気になっていた」
「まだ完全に検証しておりませんが、結構な範囲に亘っており、もしも自在に怪物に出来るとすれば非効率ではないかと」
「そうだ。俺が見た限りではあまりにも疎ら過ぎだ。一定の距離でやるわけでもなく、俺には意図的にやったのではなく、出来る範囲でやったかのように見えた」
「トラ様!」
「そうだ。妖魔化出来ない人間がいる。どういう理屈かは分からないけどな」
ラーラたちは一縷の望みを持った。
「だが、繰り返すが理屈は分からん。魔王の能力の特性なのか、本当に絶対に妖魔化しない因子があるのか。何にしても、今の段階では何も言えない。俺や六花もやられる可能性もある」
「そんな!」
「今は保留だ。それよりも、もう一つの方が重要だ」
「感染と仰いましたが」
「ああ。前にペストが発生しただろう」
「ペスト!」
六花が驚く。
看護師として、ペストの恐ろしさは知っているのだろう。
「あれと同様に、恐らく妖魔化した者から何かが出ている。それに感染すれば、妖魔化はしないが理性を喪って人を襲う者になる」
「何人か拘束しています」
「まず見てみよう」
俺は六花を残し、一人で行くことにした。
「私も一緒に行きます!」
「ダメだ。万一俺が感染したら、あとはお前が何とかしろ」
「嫌です!」
六花が大粒の涙を零す。
「しっかりしろ! お前がいるから俺は自分がやらねばならんことが出来るんだ」
「嫌です! 私は石神先生と一緒に!」
六花を抱き締めた。
俺の肩に、六花の涙が落ちて行った。
「お前を愛している。俺は必ず戻る。お前は俺がいなくなっても、魔王と戦っていてくれ」
「……」
「お前にしか頼めない。お前なら俺のために必ず何とかしてくれると分かっている」
「はい」
「頼むぞ」
「絶対に戻って下さいね」
「必ずだ。任せろ」
俺は拘留しているという施設に向かった。
守備隊の詰め所に隣接した牢の中だった。
中の獣人は狂暴化しているという。
「多くは殺傷するしかなく、今はこの3名だけが拘束で来ました」
「どういう状況だった?」
「はい。突然暴れ出して、周囲の人間を襲ったようです。武器は使用せず、手足で暴行し、相手が無抵抗になると所かまわず噛みついていました」
「脳を喰われた者はいるか?」
「それは発見していません。でも、身体のどこかを噛まれた者も同様に狂暴化していきました」
「噛まれていない者で狂暴化した者はいるか?」
「今はまだ」
「そうか、ありがとう」
感染はどうやら噛まれることで起きるらしい。
空気感染でないようで、一安心だ。
しかし、最初に感染した者は何が原因なのか。
恐らくあの広場で妖魔化した連中が感染の原因物質を撒いたに違いない。
それは空気感染なのか、または別な原因なのか。
俺は牢内の三人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
「う……」
三人の状態が変わった。
「ここは……」
「おい、話せるか?」
「はい。一体なぜここに……」
「突然意識を喪って暴れ出したんだ。覚えているか?」
「いいえ、何も」
記憶は無いようだ。
「広場にいたか?」
「はい。あの怪物に変わった奴の傍に」
「怪物に触れたか?」
「ええ、爪で引っ掛かれました」
「爪?」
「はい、でも大した傷では無かったのでそのままにしていましたが」
他の一人も同様なことを言った。
もう一人はあの広場にはおらず、突然噛まれたのだと言った。
「そうか、よく分かった。念のためにもうしばらくここにいてもらうぞ」
「あの、家には帰れないのですか!」
「我慢してくれ。家族には連絡しておこう。あとで兵士に話してくれ」
この段階で重要なことが分かった。
まだ安心は出来ないが、恐らく俺の予想は間違ってはいないだろう。
俺は王城に戻った。
王城で国務大臣を呼び出した。
念のために、ラーラや他の重要な人間との接触は避けた。
六花は強引に俺の傍に座った。
「トラ様、何か分かりましたか!」
「ああ、多分間違いないと思う。まず妖魔化した者は最初に人間の脳を喰う」
「はい……」
悍ましい現実に、国務大臣は顔を顰める。
「その次に、感染者を作ろうとするようだ」
「それはどのように?」
「爪を使うことは確かだ。他にも方法があるのかもしれないが、接触された者は要注意だな」
「分かりました」
「それと、狂暴化した者に噛まれるとまた感染する」
「それは!」
「その点についても、噛む以外にも爪でも同様のことが起きる可能性もある」
「分かりました。何にしても、妖魔化した者や狂暴化した者に接触したら隔離ということですね」
「そうだ。その対処を徹底してくれ」
「はい。今は狂暴化した者も全員処理、拘束しています。まあ、拘束出来たものは少ないですが」
「仕方が無い。犠牲者には申し訳ないが、早期に対策が取れそうで良かった」
「トラ様のお陰です」
六花はずっと俺の手を握っていた。
目に涙を溜め、俺の顔を見詰めている。
「狂暴化した者には「エクストラ・ハイヒール」が効いた。まだしばらくは拘留して様子を見るが、多分大丈夫だろう」
「石神先生!」
六花が喜ぶ。
国務大臣も顔を綻ばせた。
「妖魔化した者に効くかは分からん。六花、俺に万一があれば頼むぞ」
「はい! 何度でも、何度でも!」
本当に六花はそうするのだろう。
俺は具体的な対策について話し合った。
妖魔化した者が現われた場合、俺と六花が対応する。
警備兵たちはその場にいた全員を退避させ、一か所に集めて傷の有無を調べる。
傷がある者は隔離し、後に俺たちが治療。
大まかにそのような段取りが出来た。
俺は幾つかのことを考えていた。
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