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トラ&六花 異世界召喚 Ⅵ

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 俺は貴族の居住区に近い商店街へ向かった。
 宝飾店に入る。
 王都に劣らない品揃えがある。
 アイザック一族が俺のお陰で王都で重要な役職に就いているためだ。
 王族に劣らない資産を蓄えたアイザック一族のために、王都の商店の出店が並んでいる。

 「これはメシア様、六花様。ようこそお出で下さいました」

 店主のトラショーメが挨拶に来る。

 「今日は六花のために何か買いたいんだがな」
 「ありがとうございます。どうぞご覧ください」

 「六花、どれでもいいぞ。選べよ」
 
 六花はニッコリと笑い、照明が灯る店の中を回った。

 「すいません、良く分からないので、石神先生に選んでいただけますか?」

 俺は笑って一通り見た。
 この世界では、カットの技術はあるが、地球ほどではない。
 多くの石が四角で、面取りのような角を削ったものが多い。

 俺はトラショーメを呼び、紙とペンを借りた。

 「こういうものを作って欲しいんだが」

 六花の目の色に合わせたブルーと淡いグリーンの石をブリリアントカットにし、二匹のヘビを8の字に絡めたデザインを描いた。
 石はヘビの牙で固定する。
 リングだ。

 「これは!」

 トラショーメが驚いている。

 「ブリリアントカットというものだが、加工できそうか?」
 「はい! 何とか頑張ります!」
 「失敗したら、その分の金も出そう」
 「は!」

 台はプラチナとし、幅のあるものをデザインした。
 
 「ああ、石は後日届けよう」
 「さようでございますか!」
 
 クロピョンに用意させよう。
 俺たちは店を出て、酒場へ向かった。
 この世界では外食は屋台か酒場だ。
 高級料理店などはない。
 貴族たちは自分の家で食事をし、一般市民は自炊か酒場での食事になる。
 
 俺たちも自分の家で作ればいいものが喰えるが、たまには外で食事も楽しい。
 ソーセージや焼肉をメインに、二人でじゃんじゃん頼み、ワインを飲んだ。
 俺たちは有名なので、他の客が時々挨拶に来る。
 冒険者が多い。

 先ほど、イービルボアを譲った冒険者たちもいて、挨拶に来た。

 「先ほどは、本当にありがとうございました。お陰でいい稼ぎになりました」
 「あの大きさは運ぶのが大変だっただろう。俺たちがストレージに入れてやれば良かったな」
 「いいえ! そこまでお世話になるわけには! 自分たちで喜んで担ぎましたよ」
 「そうか」
 
 礼に何か奢りたいと言うリーダーを座らせた。
 他の仲間たちも椅子を持って来る。
 俺は好きな物を注文しろと言った。
 みんな喜んだ。
 俺たちと一緒に食事が出来るのが嬉しいのだ。
 他の冒険者たちに自慢出来る。

 「知ってたら教えて欲しいんだけど、この街に剣が上手い人はいるかな?」
 「ああ、それでしたら、「ソードタラテクト」の連中が全員結構な使い手ですよ」
 「ソードタラテクト?」

 ソードタラテクトというのは魔獣の一種で、8本の足が剣のように鋭い。
 大きさは8メートルほどで、足の先端は本当に人間の使う剣ほどの長さがある。

 「今は6人になってますけどね。全員が剣士という変わったパーティですよ」
 「そうなのか。どこに行けば会えるかな」
 「ギルドに頼んでおけば。メシア様たちならば、すぐに連絡を取ってもらえると思います」
 「そうか、ありがとう!」
 「いいえ!」

 しばらく楽しく話しながら飲み食いした。
 俺たちはもう帰ると言い、店に全員の飲み食いの分を払っておくと言った。
 全員に礼を言われて、店を出た。

 



 「なんか、あんまりデートっぽくねぇな」
 「そんなこと! 楽しかったですよ!」
 「まあ、俺があんまりデートってしたことねぇからなぁ」
 「アハハハハハ!」

 奈津江とは貧乏デートばかりだったし、保奈美ともそうだった。
 栞や鷹、それに六花とも、それほどデートの思い出はない。
 ドライブくらいか。
 他は数えるほどだ。

 まあ、やっぱりドライブか。

 「じゃあ、ムードのある場所に行くか!」
 「はい!」

 俺はシエルを出して、六花を後ろに乗せた。
 六花も持っているが、今は二人でくっついていたい。

 俺たちは夜空に上がった。




 「石神先生! どこへ行くんですかぁ!」

 インカムが無いので大声で話す。
 マッハ2ほど出している。

 「海だぁ!」
 「わーい!」

 前に亜紀ちゃんと来た時に作った、海辺の別荘に向かった。
 まだあるだろうか。
 この世界では海は非常に危険で、陸地よりも強大な魔獣が多い。
 だから人間は海浜では生活していないかった。
 俺たちは力づくで別荘を作り、魔獣を狩って遊んでいた。
 しかし、俺たちがいなくなってからは、もう近づく人間もいなかっただろう。
 荒れ果てているかもしれない。




 海が見えてくると六花が喜んだ。

 「海ですよ!」
 「ああ!」

 俺は六花よりも先に、海辺に建てられた白い家を見つけていた。
 外見は問題ない。

 家の前にシエルを降ろす。
 
 「わぁ! 綺麗な家ですね!」
 「ああ、放置されていたはずなんだが、綺麗だな」

 俺は結界を解き、六花を中へ案内した。
 まあ、結界が強かったので侵入されることも、汚損することもなかったのかもしれない。
 2階のコテージに出て、六花と酒を飲んだ。
 大きな月に照らされて、海が輝いていた。

 「綺麗ですね」
 「そうだな」

 俺たちは黙って海を見た。

 「六花、ちょっとは泣いてもいいんだぞ?」
 「はい」
 「多分俺のせいだろうけど、こんな訳の分からん世界に来てしまった。響子もいねぇ。「紅六花」の連中もいねぇ」
 「はい」
 「寂しいだろう」
 「はい。でも、石神先生がいます」
 「おう」
 「それだけで、十分です」

 六花は、そう言って微笑んだ。
 十分なはずはないが。

 「俺もお前がいてくれて良かった。独りだったら、どうにかなっちまってた」
 「そうですか」

 俺の本心だ。
 子どもたちも、栞も士王も鷹も蓮花も、御堂もいない。
 でも、六花がいてくれるから、こうして笑っていられる。
 俺の大事な人間だ。

 「まあ、特別休暇とでも思えよ」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと数年過ごしたとは言わなかった。
 どうなるかは分からん。

 


 俺は六花を立たせ、『ドナウ河の漣』を歌った。
 六花とワルツを踊った。

 月の光に照らされ、六花はいつも以上に美しかった。




 俺がそう言うと、六花ははにかんで笑った。 

 「本当にお前と一緒で良かった」
 「はい、嬉しいです」




 俺たちの世界がそこには在った。 
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