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トラ&六花 異世界召喚 Ⅴ

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 「クロピョン! よく来たなぁ!」

 クロピョンの触手が「ハートマーク」を作った。

 「おい、この「黒笛」なんだけどよ。もう一振出来ないか?」

 触手が「〇」を作る。
 俺と六花は抱き合って喜んだ。

 「この六花の分なんだ。頼む!」
 
 触手が一度消え、1分後に一振の刀が地面から出て来た。
 ちゃんと、鞘もある。
 鞘は白だった。

 「お前! 分かってるな!」

 クロピョンの触手が五指になり、親指を立てた。
 六花と大笑いした。

 クロピョンを帰し、六花に刀を渡した。
 六花が刀身を抜く。
 刀身は「黒笛」と同じ漆黒だった。

 「銘が同じだとアレだな。よし、命名! 「白雪(しらゆき)」!」
 「素敵です!」

 一度六花にストレージに「白雪」を仕舞わせた。
 まずは剣技を教えなければならない。
 街に戻り、武器屋で木刀を買った。
 最初に基本の素振りを教える。

 「いいか、刃筋を通すことを意識しろ。お前が若い頃に喧嘩で使ってた鉄パイプとかとは違うんだ」
 「鉄パイプ、使ってませんでしたが」

 俺は木刀で六花の頭を叩いた。

 「イタイ!」
 「俺が折角分かりやすく説明してやってるのに!」
 「すいませんでした!」

 そういえば六花たちは「走り屋」だった。

 「鉄パイプはただぶん殴ればいい。だけど刀剣は刃を真直ぐに撃ち込まなければならない」
 「だから鉄パイプ、分かりませんって」

 俺が木刀で殴ろうとすると、六花は避けた。

 「じゃあ、鉄パイプから教えるかぁ」
 「必要ないですよ!」

 俺はしばらく素振りをさせ、それから立木稽古をさせた。
 幹の太い木に木刀を撃ち込ませる。
 最初は戸惑っていたが、六花はすぐに掴んだようだった。

 「石神先生! 刃筋が通るってことが分かりました! インパクトが全然違いますね!」
 「音も違うだろう?」
 「はい! カーンっていい音になります!」

 六花の木刀が折れた。
 「花岡」の戦士だけあって、衝撃には強いので木刀の限界を超えて撃ち込んだせいだ。
 それに、六花の上達が目覚ましいということもある。
 俺は自分の分で買った木刀を六花に与え、稽古を続けさせた。
 その間に、街に戻って木刀と剣を買って来る。

 大きな音を響かせているので、森に入って行く冒険者たちが何度か見に来た。
 俺と六花は有名なので、すぐに異常でないことを理解し、挨拶して去って行った。

 俺は火を起こし、ストレージから肉を出して焼いた。
 鍋でスープも作る。
 俺たちの食事は、この世界では最高級の料理だ。
 調味料をふんだんに使うし、素材も最高だからだ。
 こうして野外で食事を作っても、王侯貴族の食事に劣らないものが出来る。
 魚介の出汁の粉末を持っているのは、俺たちだけだ。
 前に亜紀ちゃんと海に行って膨大に蓄えた。

 六花に稽古を終わらせ、昼食にした。
 六花がニコニコして食べる。
 最高だ。

 昼食を食べ終え、一休みする。

 「じゃあ、ちょっとヤっときますか!」
 「そうだな!」

 六花がグッタリしたので、3時くらいまで二人で寝た。
 魔獣がうろつく森で裸で寝られるのは俺たちだけだ。
 今は日本で言えば春先だが、俺たちは寒さにも強い。

 服を着てお茶を飲んだ。

 「どうだ、感じは?」
 「大体掴めたと思います」
 「じゃあ、ちょっと打ち合ってみるか?」
 「はい!」

 二人で木刀を持って打ち合った。
 六花に好きなように打ち込ませる。
 もちろん、一撃も入らない。
 俺は受けながら指導して行った。

 「狙いを目で追うな! すぐに相手に悟られるぞ!」
 「はい!」
 「目線は相手の左目だ!」
 「はい!」

 よく剣豪小説などでは全体を見ろとかバカなことが書かれている。
 そうではない。
 戦闘では、相手の左目を見るのが基本だ。
 そうすると相手を威圧も出来るし、攻撃も予測出来るようになる。
 その視線を維持しながら、こちらの攻撃を組み立てて行くのが一流だ。
 
 まだ俺には打ち込めないが、六花の攻撃は大分良くなって行った。
 俺も少しずつ反撃を入れて行く。
 六花が乱れて来た。
 1時間も打ち合っていたので、俺は一時休憩にした。
 六花は肩で大きく息をしている。

 「はぁはぁ、全然ダメですね」
 「当たり前だ!」

 俺は笑った。
 六花が落ち着くまで休んで、俺は買って来た剣を与えた。

 「それは中級の冒険者が使うものだ。それで魔獣を狩ってみるぞ」
 「はい!」

 俺たちは「索敵」し、近くにいたイービルボアに向かった。
 先ほど俺たちを覗きに来た冒険者グループがいた。

 「なんだ、かちあったか」
 「いえ、どうぞ! 俺たちの方が少し遅かった」
 「そうか」

 俺は六花に剣で仕留めろと言った。
 冒険者たちが六花を見る。

 六花は突進して来るイービルボアを最小の動きで避け、剣を横に薙いだ。
 走り抜けるイービルボアから、内臓が零れて斃れた。

 「すげぇ!」

 冒険者たちが驚き、喜んだ。

 「一撃ですか! イービルボアの皮は堅いものですが」
 「まあ、良かったら持って帰ってくれよ。俺たちには必要ない」
 「いいんですか!」
 「ああ。譲ってくれてありがとうな」
 「いいえ!」

 冒険者たちはすぐに解体を始めた。
 イービルボアはCランク相当のベテランパーティの獲物なので、一日の成果としては十分いい。
 大体10日分ほどの収入になる。

 俺は今日はここまでにしようと言い、六花と帰った。





 街に戻り、屋台で焼き鳥を摘まんだ。
 この世界のものは、塩で味付けしたシンプルなもので、日本の焼き鳥よりも大分肉が大きい。
 要は鳥肉の串焼きだ。

 「響子に焼き鳥を食べさせてあげたいですね」
 「おお、あっちに戻ったら、また銀座の店に行こう」
 「はい!」

 まあ、覚えてはいないだろうが。
 しかし、六花の心を思えば、そう言ってやりたい。
 俺には何も言わないが、やはり異世界に来たことは六花も不安に思っているに違いない。
 俺を信じ、俺を頼って今は精神状態を保っている。
 俺に負担を掛けないように、いつも笑ってくれている。

 「今日はデートでもするか!」
 「ほんとですか!」

 明るく笑う六花の手を握り、歩き始めた。
 もうすぐ夕暮れだ。
 



 六花は嬉しそうに俺を見て、腕を絡めて来た。
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