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血を分けた親子

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 蓮花の研究所から戻った日曜日。
 流石に俺も亜紀ちゃんも疲れ切っていた。
 ハマーの運転も、途中で柳に替わってもらい、亜紀ちゃんと二人で後ろのシートで寝た。
 途中で寄ったサービスエリアでも、俺たちは眠り続けていた。
 起きたのは、家に着いた4時頃だ。

 荷物は他の子どもたちに任せ、俺と亜紀ちゃんは風呂に入った。

 「あー、やっぱりこの家がいいですねー!」
 「じゃあ、もう出掛けるのは辞めような」
 「そんなぁー!」

 俺は一度脱衣所に出て、皇紀に「虎温泉」を用意しておくように言った。

 「夕飯は食べられますか?」
 「ああ、大丈夫だ。ちょっと眠ったから食欲も湧いて来た。亜紀ちゃんは聞かなくても心配ねぇ」
 「アハハハハ!」

 夕飯はカレーにすると言う。
 俺は野菜カレーも作るように言った。
 そのレシピはキッチンにある。

 俺の好きなジャガイモだけは乱切りで、蓮、オクラ、キャベツ、ニンジン、カリフラワー(芯も)、パプリカ、セロリ、ニンニク(1欠片)をミキサーで摺おろし、タマネギはみじん切りにして黄金色までバターで炒め、あとは石神家スパイスを入れて全部煮込む。
 灰汁も取らないし、ほとんどはミキサー任せなので非常に簡単だ。
 身体が弱った時には栄養満点だし消化もいい。
 味ももちろんいい。





 湯船に戻った。

 「うちはハーも死んだし、亜紀ちゃんも死んじゃったし、なんか寂しいな」
 「アハハハハ!」
 「ああ、俺も死んだか」
 「そうですよね」
 
 二人で寛ぐ。
 今日は流石の亜紀ちゃんも「ぐるぐる横回転」はしない。

 「あの、一つ聞いてもいいですか?」
 「なんだ?」
 「こえ、あ、おじいちゃん!」
 「おう!」
 「凄い剣士でしたよね?」
 「ああ、それか」
 
 亜紀ちゃんが聞きたいことは分かった。

 「昔から、剣道とかやってたんですか?」
 「ああ、石神家は本来、代々剣術の稽古をさせられるんだよ」
 「そうなんですか!」
 「ほら、江戸時代は特殊な役目を負ってただろ? だから子どもの頃から剣術の稽古は必須で、当主は奥義を授けられるんだ」
 「じゃあ、タカさんも!」
 
 俺は笑った。

 「いや、親父は当主を弟に押し付けて出奔したからな。親父は相当鍛えられただろうけど、俺は全然。剣道なんて中学の体育でやったくらいだよ」
 「えぇー! だって物凄く強いじゃないですか」
 「まあ、多分血筋だな」
 「そういうものですか」
 「石神家は特殊だと思うよ。俺も剣を握ってから分かったわけだけど、何か自分がどう動けばいいのかって分かって来るんだよ。もちろん最初は覚束ないけど、「分かる」っていう感覚はある。だから後は鍛錬していけば、自然にな」
 「へぇー!」
 
 亜紀ちゃんが興奮して俺を見ている。

 「傭兵時代には、でかいククリナイフとか使ってたんだけど、あれで何となく石神の血を実感したな」
 「そういえば、最初に花岡家に行った時、雅さんと短い木刀でやってましたよね!」
 「ああ、そうだな。御堂の家でも正利とやり合ったりな。栞とも散々やったし。俺が真剣を握るようになってから、全員に負けなくなった。もちろん斬や千両なんかは別だけどな」
 「そうですかー」
 
 亜紀ちゃんが湯船の中で振りかぶったりしている。
 自分もやりたいようだ。

 「それとな、「虎王」もそうだし、後から4振の刀が来ただろ?」
 「はい!」
 「あれらを握っていると、また刀剣が教えてくれる感覚があるんだ」
 「エェー!」
 「それが石神家の血なのかあの刀たちの特殊性なのか、俺自身の場合だけなのかは分からん。今は「黒笛」のことはまるで分からないけど、俺がその気になって握れば、何かあるかもしれん」
 「そうなんですか!」

 「それにな」
 「はい!」
 「もしかしたら、亜紀ちゃんにも剣術が使えるようになるかもしれないぞ」
 「!」

 亜紀ちゃんが俺にしがみ付く。
 やりたいようだ。

 「亜紀ちゃんには俺の「血」を少し入れたからな。もしかしたらな」
 「絶対やりましょう!」

 俺は笑った。
 冗談半分なのだが、亜紀ちゃんを喜ばせたかった。

 「じゃあ、身体が戻ったらな。まず、今は俺がダメだ」
 「早く治して下さい!」
 「お前もな!」

 二人で笑った。

 そろそろ上がろうと言うと、亜紀ちゃんが立ち上がって俺の正面に立った。
 
 「タカさん」
 「おう」
 「私の身体って綺麗ですか?」
 「眩しいくらいだぜ!」
 「アハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんの左の背中と胸に、刀が挿し込まれた傷がある。
 もうすっかり塞がっているが、白い亜紀ちゃんの肌にくっきりと残っている。
 俺がそれを見て落ち込まないようにと、亜紀ちゃんが気を遣ってくれている。
 でも、そんなものはいらない。
 亜紀ちゃんは本当に美しい。




 リヴィングへ行くと、もう食事の準備は出来ていた。
 みんな「ビーフカツカレー」(ビーフカツ厚さ8センチ)を食べている。
 亜紀ちゃんの分もあったが、亜紀ちゃんは俺の「野菜カレー」に興味を持った。

 「なんだ、食べてみるか?」
 「はい!」
  
 「野菜カレー」の鍋からルーを掬って来た。
 それほどライスの量は無い。
 お試しのつもりだ。

 「あ! 美味しい!」

 他の子どもたちが注目する。

 「バカ! お前らは恐ろしい肉カレーを食べろ! 俺の分が無くなるじゃねぇか!」

 通じるわけがねぇ。
 こいつらは時々耳が遠くなる。
 たちまち鍋は空になった。

 「てめぇら!」
 「「「「「ギャハハハハハハ!」」」」」

 まあ、最初に領土宣言をしなかった俺が悪い。
 石神家の食事は厳しいのだ。
 俺も仕方なくビーフカレーを食べた。
 もちろん美味い。




 食事を終え、子どもたちが後片付けをする。

 「タカさん、梅昆布茶にします?」
 「いや、梅酒にしてくれ」
 「はーい!」

 亜紀ちゃんが自分の分と一緒に持って来る。

 「亜紀ちゃんも呑むのかよ!」
 「はい!」

 ソーダで割らせた。

 「カァー! 美味しいですね!」
 「ばかやろ」

 つまみは作らない。
 この一杯を飲んだら終わりだ。
 洗い物をしながら、子どもたちがニコニコして俺たちを見ている。  
 俺たちが元気にしているのが嬉しいのだ。
 
 「おい、今日は自分の部屋で寝ろよ?」

 亜紀ちゃんが目を丸くして俺を見た。

 「なんでびっくりしてるんだよ!」
 「ワハハハハハハ!」

 


 亜紀ちゃんが当然のように、自分の「ロボ枕」を持って来た。
 しょうがないんで一緒に寝た。

 「あー! これで血を分けた親子ですね!」
 「そうだな。もう亜紀ちゃんとセックスはできねぇな!」
 「!」

 亜紀ちゃんが俺の方を向いた。

 「蓮花さんに全身の血を交換してもらいます」
 「バカ言うな!」

 亜紀ちゃんは絶対に何とかすると言いながら、すぐに眠った。
 やはり、相当体力を消耗しているのだ。
 まあ、血を分けなくたって、俺にその気はねぇ。
 
 俺は亜紀ちゃんの美しい寝顔を見ながら、額にそっとキスをした。
 ロボが顔の前に自分の頭を持って来て、自分にもやれと言う。
 俺は笑ってロボの額にもキスをした。




 ロボは小さく鳴いて満足げに亜紀ちゃんの反対側に移動して寝た。
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