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骨壺

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 翌日の日曜日の朝。
 全員が8時に食堂に集合し、蓮花の朝食を食べた。

 金目鯛の西京漬け。
 数の子たっぷりの松前漬け。
 目玉焼き(石神家はサニーサイドアップ)。
 湯豆腐(鍋で取り合い)。
 絶品栗ご飯。
 はまぐりの吸い物。
 香の物。

 俺と斬、亜紀ちゃんには蓮花お手製スムージーが付いた。
 斬も朝食は食べていないようで、スムージーをヘンな顔をして飲んだ。
 斬はすぐに食べ終え、栞から士王を預かって食べさせている。
 
 「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 俺たちが驚いた顔で見ているのも気にしていなかった。
 一江と大森は、こんなに美味しい朝食は初めてだと言った。
 また栞と三人で楽しく話しながら食べている。

 桜花たち三人と青嵐、紫嵐はブランたちと一緒に食事をしているはずだ。
 ロボは金目鯛の焼き物を美味そうに食べている。
 西京漬けは、蓮花自身が用意したのだろう。

 「斬、「おじいちゃんでちゅよー」って言わないと、士王が「おじいちゃん」って呼んでくれないぞ?」
 「ふん!」

 斬はそれでも、小さな声で「おじいちゃんでちゅよー」と言った。
 全員にそれが聞こえた。

 「「「「「「「「!」」」」」」」」

 食事を終え、子どもたちが片付けようとした。
 
 「おじーちゃ」

 士王がそう言うのを全員が聞いた。
 斬が一番驚いていた。
 満面の笑みで、士王を抱いて顔を寄せた。

 「おい! 曾孫が生まれた男が泣くんじゃねぇぞ!」

 斬が笑顔で俺に向いた。
 
 「ワハハハハハ!」

 上機嫌だった。

 俺は全員を外に出し、栞の後ろに置いた台の箱を、栞に説明した。
 事前に話せば栞が乱れると思ったので、最後にした。
 栞は泣きながら、士王を抱いて台の上の二つの箱に触らせた。
 俺は小さな陶器の入れ物のことも話した。
 栞は一層泣きながら、頭を下げ、士王に触れさせた。
 





 栞と士王たちを見送り、俺たちも帰ることにした。

 「ジェシカにも宜しく言っておいてくれ」
 「はい」

 今は所用でロックハート家に行っている。
 「武神」の配備の打ち合わせのためだ。

 「一度、石神様の御宅へお邪魔させても宜しいですか?」
 「もちろんだ。うちでゆっくり休ませるようにしてくれ。あいつもまた頑張り過ぎる奴だろう」
 「はい!」

 蓮花が嬉しそうに笑った。
 子どもたちが荷物を車に積む。
 
 「斬、送って行くぞ。乗れよ」

 斬を助手席に乗せた。
 蓮花たちに見送られて出発した。

 


 斬は屋敷の塀が修復されているのを見て驚いていた。

 「昨日のうちに直したのか」
 「そうだ。畑なんかも、一応ガラは戻したからな」
 
 大きく抉れていたはずの土地が戻っているのを見て、更に驚いた。
 壁は皇紀の技術と人海戦術だったが、土地はクロピョンだ。

 少し寄らせろと俺が言うと、斬もそうしろと言った。
 全員で屋敷に入った。
 茶はいらないと断った。

 俺はハーに言って、ハマーから二つの箱を持って来させた。
 二つの骨壺だった。
 昨日、ハーと柳に集めさせた。
 骨壺は柳が家の中の被害を見て回っている中で偶然見つけた。
 きっと、斬が用意していたのだろう。
 ちゃんと雅さんと菖蒲さんの名が入っていた。

 「……」

 「雅さんと菖蒲さんのものだ。黙っていたが、さっき食堂に置いていた。栞には話して、士王もちゃんと会っているぞ」
 「そうか……」

 「戒名が決まったら教えてくれ。アラスカにも位牌を置く」
 「分かった……」
 「じゃあな。数日はちゃんと休めよ」
 「……」

 俺たちはすぐに屋敷を出た。
 泣く姿を見られたくはないだろう。
 それに、思い切り泣いて欲しかった。
 斬は座敷に座ったままだった。

 

 
 俺の親父の身体は、俺が必死で掴んだ小さな肉片と、燃えて炭化した少しの灰が残った。
 小さな陶器の入れ物に仕舞って運んでいる。

 ハマーの助手席には亜紀ちゃんが座った。
 
 「虎影さんの御墓も用意しましょうね」
 「おじいちゃんって言え!」
 「え?」

 俺は夢の中で「親父」と呼んで「お父さんと言え」と怒られた話をした。

 「小学生の4年生くらいかな。その前までは「お父さん」だったんだ。でもなぁ、ちょっとそういう雰囲気の人じゃなかったからよ。お袋と二人の時とかは「親父」って呼んでたんだよ」
 「そうなんですか!」
 「親父は何だか「お父さん」って呼ばれたかったみたいなんだがな。だから最初のうちは怒鳴られてた」
 「アハハハハハ!」
 「まあ、そのうちにうやむやになって、「親父」になったけどよ」
 「そうなんですね」

 「だから、お前らは「おじいちゃん」って呼んでやってくれ」
 「はい!」

 亜紀ちゃんがニコニコした。

 「墓は、麗星さんが用意してくれてるんだ」
 「え!」
 「俺へのせめてもの詫びだと言ってな。こないだみんなで行った時に、俺だけ最後の日に麗星さんと出掛けただろう?」
 「はい!」
 「あの時に、親父の墓に案内されたんだ。立派な墓を建ててくれてた」
 「そうだったんですか」
 「本当にいい墓だった。俺はあの時に、親父がこんな墓に入ってくれたら嬉しいと思ったんだ」
 「はい」
 



 東京に戻り、俺は親父の小さな骨壺代わりの陶器の入れ物をリヴィングに置いた。
 亜紀ちゃん以外は気付いていない。
 しばらく、俺の子どもたちの賑やかな日常を見て欲しいと思った。
 ルーとハーは気付いてしまったようだ。
 でも、他の人間には話さないでいてくれた。

 時々二人で笑い掛けたり手を振ったりしていた。
 



 それを見るたびに、俺は涙を抑え、嬉しくて笑った。  
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