上 下
1,322 / 2,806

再会と宴

しおりを挟む
 目を開けると、亜紀ちゃんが隣で眠っていた。
 ロボが俺の隣で寝ていた。
 俺はベッドから降りて亜紀ちゃんの頭を撫でた。
 美しい娘に育った。
 俺のために死んでも構わないと思う女に育った。

 「あ」

 亜紀ちゃんが目を覚ました。

 「あれ! もう! 私がタカさんの寝顔を見ていたのに!」
 「俺はお前の親父だからな」
 「何ですか、それ!」

 亜紀ちゃんは怒った振りをした。
 すぐに笑顔になる。

 「もうちょっと撫でてて下さい」
 「おう、任せろ!」

 額に掛かった髪を撫で上げ、頭を撫でてやる。
 亜紀ちゃんは気持ちよさそうに目を閉じた。

 「タカさん」
 「なんだ」
 「思ったより落ち込んでませんね」
 「そうか」
 「はい。しばらくは、もうダメかと」
 「そりゃお前だろう」

 亜紀ちゃんは一度死んだ。
 検査の結果、もう傷は全て塞がっているが、まだ血が足りないはずだ。

 「お父さんとお母さんに会えましたよ」
 「マジか!」
 「はい。花畑で」
 「亜紀ちゃん、本当に死んだんだな」
 「アハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが、懐かしかったと言った。
 死んで良かったとも言った。

 「二人が一緒にいたんで、それが一番嬉しかったです」
 「そうか」
 「もうちょっと話をしたかったんですけど」
 「そうだな」
 
 俺はまた、亜紀ちゃんの頭を撫でた。

 「タカさん。私が殺しました」
 「ああ」
 「タカさんじゃなく、私が殺したんですからね」
 「そうだ。助かった、ありがとう」
 「いいえ」

 亜紀ちゃんが俺の腕を取った。
 俺の腕を引き、俺の顔を寄せた。
 キスをされた。

 「あー、なんか久しぶりだぁー!」
 「アハハハハハ」

 ハーが入って来た。

 「タカさん! 大丈夫?」
 「ああ、心配掛けたな。もう大丈夫だぞ」
 「良かったよー!」

 ハーを抱き締めた。

 「みんなは?」

 ハーが、多くの人間が斬の屋敷の片付けをしていると言った。
 栞と士王、桜花たちは、念のために防衛区画に入っている。
 
 斬が入って来た。

 「おい、栞たちに会わせろ」
 「ああ。お前は大丈夫か?」
 「ふん! 何のこともない、と言いたいがな。お前のお陰ですっかり戻った」

 「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませたことを言っているのだろう。

 「あれのお陰で、始末できた。感謝する」

 斬が頭を下げた。
 亜紀ちゃんとハーが驚く。

 「俺も子どもたちに助けられた。お互いいいザマだな」
 「ふん!」

 俺は蓮花に連絡し、栞たちの警戒を解くように伝えた。

 「斬の屋敷に行く。ハマーはあるか?」
 「はい。ミユキが運転して戻っております」

 「よし。おい、蓮花。一緒にドライブに行くか?」
 「!」

 蓮花は一瞬驚いていたが「喜んで」と返事をした。




 俺は栞と士王たちを食堂へ向かわせた。
 亜紀ちゃんとハー、斬も行かせる。
 先に食事をするように言った。
 用意はもう蓮花がしている。
 ハーが温め直すだろう。

 俺は蓮花とハマーで斬の屋敷へ向かった。
 ロボも付いて来る。
 
 屋敷では大勢の人間が壁を修復し、また亜紀ちゃんの攻撃で大きく抉れた地面の修復に入っていた。
 俺は全員を呼ぶ。
 俺の姿を見て、ブランたちが喜ぶ。
 皇紀とルーと柳が俺に抱き着く。

 「よし、みんな見てろよ! 「クロピョン」!」

 俺が呼ぶと、太い黒い触手が現われる。
 直径で10メートルほどもある。
 もう、俺が命じることが分かっている証拠だ。

 「土地を元に戻せ!」

 巨大な触手が空中で「〇」を描き、すぐに土地が隆起して行く。
 亜紀ちゃんの「最後の涙」で1キロ先まで、深さ30メートル削られていた。
 その先の山では、林が大きく抉れている。
 それが、すぐに元の高さまで戻り、山の形も修復された。
 もちろん、畑や林が戻ることはない。
 ロボが長い爪を出したので、しまっとけと言った。
 こいつ、何をするつもりだったのか。

 「ルー、斬に畑などの被害をまとめさせる。賠償の金を用意してくれ」
 「はい!」
 「復旧に必要な耕運機なんかもな」
 「うん!」

 全員撤収し、蓮花研究所に帰った。
 子どもたちはハマーに乗せ、ブランたちは重機を片付けながら、トラックやバスに乗り込んで戻った。




 研究所では食堂に亜紀ちゃんとハーがいて、珍妙な顔をしていた。
 斬が士王を笑顔であやしていたからだ。

 「「……」」

 俺たちが戻ると、やっと笑顔になって食事を再開した。

 「なんですか、あれ」

 亜紀ちゃんが食べながら言う。

 「びっくりだろ? 俺も驚いたぜ」
 「「おじいちゃん」じゃないですか!」
 「あの殺人鬼がな」
 
 聞こえているのだろうが、斬はまったく気にしない。
 栞もニコニコしている。

 「おい、お前も座って食事にしろよ」
 「わしはいい」

 一瞬俺に顔を向け、すぐに士王に戻す。
 今は夕方の6時になっている。
 
 「蓮花、俺も腹が減ったな」
 「はい。少し遅くなりましたが、庭でバーベキューの用意をさせております」
 「そうなのか?」

 研究所に残ったブランたちで、既に準備を進めていたらしい。

 「「ワーイ!」」

 亜紀ちゃんとハーが喜ぶ。
 こいつらは今、散々食べていたはずだ。

 「斬、お前も今日はこっちに泊まれよ」
 「ふん! 当たり前じゃ」

 士王と一緒にいたいらしい。




 7時頃になったが、俺たちは庭でバーベキューを楽しんだ。
 俺と子どもたちと栞と士王、斬、ブランたち、研究所の所員たち。
 桜花たちと青嵐、紫嵐も、ブランたちの間に入って、楽しそうだ。
 今日ばかりは子どもたちも争い無く楽しく食べている。
 まあ、一番の暴れん坊の亜紀ちゃんが大人しいせいもあるかもしれない。
 ロボも満腹してからは、大勢の間を回って可愛がってもらってご機嫌だ。
 
 「斬、少し食べておけよ」
 「ふん! 何故か食欲が湧かん」
 「それはあの粉末のせいだ。でも一口食べれば、元に戻るぞ」
 「そうなのか?」

 斬が俺が持って来た肉を食べた。
 そこから、猛然と食べ始め、栞が笑った。

 「栞、来てもらったのに、散々だったな」
 「いいよ。これがあなたの生きる世界なんだから」
 「そうか」
 
 「さっきね、ちょっと夢を見たの」
 「そうか」
 「懐かしかった」
 「そうか」

 何の夢かは聞かなかった。
 栞も口にしない。

 最悪の再会になったが、俺たちはみんな懐かしい人間と再会もしたようだ。
 斬も口には出さないが、もしかしたら同じだったかもしれない。
 聞きはしないが、俺はそうであったらと思った。
 斬にとっても、あまりにも辛い戦いだったに違いないからだ。
 冷血で鉄血の人間に見せてはいるが、斬は心の奥底に美しい何かを秘めている。
 俺はそれを知っている。





 子どもたちが、時々俺の前にやって来て、一緒に食べたがった。
 俺が落ち込んでいないことを分かると、ニコニコして自分の「喰い」に戻った。
 柳はちょっと泣いた。

 亜紀ちゃんは流石に腹が一杯なのか、ずっと俺の隣でゆっくりと食べていた。
 
 「みんな元気で良かったですね」
 「そうだな」

 俺と顔を見合わせ、二人で笑った。

 宴が和やかに進んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...