上 下
1,311 / 2,806

道間家最強の札

しおりを挟む
 「ねえ、雪野さん」
 「はい、なんですか?」
 「あの「柱」のことなんだけどさ」
 「ああ」

 俺は夕べのことに加え、さっき石神を見送った時にも「柱」が動いた話をした。

 「えぇ!」
 「ね! おかしいよね!」
 「まあ、おかしいのは最初からですけど」
 
 石神が以前に住んでいたマンションに置いた時にも、夜中に方向が変わっていた。
 この新居に越して来た時には色がピンクに変わったと石神が言い、更に紫になった。
 そして、昨日。
 手が生えて、さらに移動して目の前で踊った。

 「あのさ、やっぱり処分した方がと思うんだ」
 「でも、折角石神さんが下さったんですよ?」
 「そうなんだけど、どうにも気味が悪くて」
 「はぁ」

 雪野さんは釈然としない。
 雪野さんも気持ち悪いのだろうが、石神の好意を無下にしたくないのだろう。

 「じゃあ、麗星さんに相談してみようかな」
 「そうですねぇ」
 



 昼食の後で、麗星さんに電話した。

 「あら、早乙女さんですか」
 「はい、お忙しいところをすみません」
 「まあ、忙しいのですが」
 
 麗星さんは、石神にはベッタリだが、俺には素っ気ない。

 「実は相談がありまして」
 「はぁ、忙しいのですが、お聞きしましょうか」
 「ありがとうございます。実は、うちで見られた「柱」のことなんですが」
 「……」

 「あの、麗星さん、聞こえますか?」
 
 応答が無いが、幽かに「ぷぷぷぷぷ」という音が聞こえる。

 「麗星さん!」
 「あの、アレが何か?」

 麗星さんの声が震えているように聞こえた。

 「あれが夕べ歩いて来まして」
 「ぷぷぷぷぷ」
 「石神が娘の誕生祝をしてくれたんですが、そこで一緒に踊りまして」
 「ぽぽぽぽぽ」

 「ですので、何とかならないものかと」
 
 電話が切れた。
 困っていると、1時間後にメールが届いた。

 《来週末金曜日の夜に伺います。石神様の御宅に泊めていだだけるよう、ご手配下さいませ》

 俺は急いで返信し、礼と石神家の件は必ずなんとかすると伝えた。
 もしも石神の都合が悪い場合は、うちへ御泊めすることも書いた。
 すぐにまた返信が来た。

 《お宅へは絶対に泊まりません。そこは必ずお願いします》

 俺は石神の家に行った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「なんだって?」
 「だから、来週の金曜日の夜に麗星さんが来てくれるんだ」
 「それで、どうしてうちに泊めるんだよ!」
 「麗星さんが、是非そうして欲しいと」
 「うちは関係ねぇだろう!」
 「お前が持って来た「柱」だろう!」
 
 ちょっと押し問答になった。
 だが、確かに早乙女の言う通りだった。

 「なんでお前の家に泊めねぇんだ」
 「麗星さんがうちは嫌だって言うんだよ!」
 
 まあ、そりゃそうだろう。
 「柱」に加えて「モハメド」もいる。
 麗星には刺激が強すぎる。

 「分かったよ! ちぇっ! こないだ来たばっかりなのによ!」
 「頼む! 石神!」
 「しょうがねぇ」

 仕方なく承知した。
 俺は思い出して、五平所も一緒に連れて来るように言った。




 金曜日の夜。
 早乙女に迎えに行かせた。
 柳のアルファードを貸してやる。
 俺はオペがあったので、8時頃に家に帰った。
 
 既に子どもたちが食事(ビーフシチュー:ビーフ多目)を出して、麗星と五平所に食べてもらっていた。

 「石神様!」
 「私までお呼び頂きまして!」

 二人に挨拶した。
 
 「五平所さんもお元気そうで」
 「あの、本当に私なども良かったのですか?」
 「もちろんです。先日麗星さんが来てくれた時に、五平所さんにうちの温泉を味わって欲しいという話になりまして」
 「温泉ですか?」
 「まあ、実際はただの露天風呂なんですけどね。でも、特殊な金属を通したら、いろいろな病気に良いということが分かりまして」
 「そうなのですか!」
 「麗星さんが、五平所さんのことを真っ先に口にされましてね。大事にされてますね」
 
 五平所が驚いて麗星を見る。
 麗星は静かに微笑んでいた。

 俺は早速五平所を隣の敷地に案内した。

 「では、ゆっくり浸かって下さい。今日はここには誰も参りませんから」
 「はい、ありがとうございます」
 「あそこの座敷にちょっと日本酒とつまみを用意しました。よろしければ」
 「は! ありがとうございます!」

 五平所が嬉しそうに顔を綻ばせた。
 京都では付き合う程度だったが、本来は酒が好きらしい。
 
 俺は戻って夕飯を食べた。
 麗星と、内風呂に入り、楽しんだ。




 翌朝。
 朝食に降りて来た五平所が見違えるようになっていた。
 
 「石神様! 信じられません!」

 興奮している。

 「長年の腰痛がすっかり治りました! 膝も痛みがなく、夜中にトイレに起きることなく朝までグッスリでした!」
 「そうですか」
 「水虫や、あの、他の痒みもありません!」
 「良かったですね」
 「あの、髪の毛も少し増えた気が」
 「そういえば!」

 麗星も嬉しそうにしていた。
 手に持っていた雑誌を五平所に拡げる。

 「オォーーー!」

 『プレイボーイ』のアメリカ版だった。
 無修正のプレイメイトだ。

 「これはぁ!」
 
 屹立していた。
 五平所は涙を流して麗星の手を握った。

 「そんな恰好で近づかないように!」

 麗星は『プレイボーイ』を五平所に渡した。
 五平所は大事そうに膝の上に乗せて朝食を食べた。
 雑誌がヘンに盛り上がっていた。
 すぐに自室に帰った。

 「それじゃあ、早乙女の家に行きますか」

 俺は麗星を連れて、早乙女家に行った。




 早乙女だけが降りて来た。
 雪野さんと怜花は、何かあってはまずいと思ったのだろう。
 麗星は、鞄から大きな御札を取り出した。

 「うちで最も強力な魔封じの札「怒愚羅封殺札」です。強力な上位のあやかしも、これで鎮めることが出来ます」
 「ありがとうございます!」

 麗星は御札の裏側に糊をたっぷりと塗って、「柱」に貼りつけた。
 
 「ほら、このように!」

 「柱」が一瞬揺れて、そのまま硬直した。

 「これで終わりでございます」
 「麗星さん! 本当にありがとう!」
 「おお!」

 早乙女が喜んだ。
 ちょっと涙ぐんでいる。
 そんなに怖かったのか。

 三人で喜び合い、俺たちはエレベーターで上に上がろうとした。

 
 《ペリペリ》

 
 音がして振り向くと、「柱」が自分の手で御札を剥がしていた。

 「「「……」」」

 俺は上で早乙女からマジックペンを借り、「柱」に丸い目と丸い口を描いた。

 「おい、石神!」
 
 「柱」が左手を直角に上げ、右手を直角に下げた。

 「おお! 「踊る男女」像!」

 埴輪のポーズだ。

 「もう、これで怖くないな!」
 「「……」」

 



 家に帰ると、五平所がスッキリした顔で茶を飲んでいた。
 俺はタクシーを呼び、早々に二人にお帰りいただいた。

 皇紀が、五平所の部屋の片づけをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...