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凄腕エージェント「マタ・ハル」 Ⅱ

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 私は石神高虎の家の近くに住居を手配した。
 偶然を装って接近するつもりだった。
 しかし住宅地だったにも関わらず、石神の家のすぐ近くのマンションやアパートは何故か空きが無かった。
 おかしいとは思ったが仕方が無い。
 別な区画のアパートを押さえた。

 ある土曜日。
 別なエージェントの協力を得て、石神が出掛ける機会を待った。
 石神はよく散歩に出るらしい。
 いい感じだ。




 「あれ? 石神先生!」
 
 石神の家の前で声を掛けた。

 「おう、猪俣さんか」

 石神が散歩から戻ったタイミングで声を掛けた。
 明るいグレーのフランネルのパンツに、薄緑のタートルネックのセーターを着ている。
 間違いなく一級品だ。
 靴も高級そうだった。

 「先生のお宅って、この近くだったんですか!」
 「ああ、ここなんだよ。猪俣さんもこの近くなのか?」
 「はい! 偶然ですね! 嬉しい!」
 「そうなんだ。じゃあ、また会うかもな」
 「はい! あの、良ければちょっとお邪魔しても?」
 「え?」
 「石神先生のオペって素敵じゃないですか! 少しお話を伺いたいとずっと思っていたんですよ!」
 「そうなのか。まあ、じゃあちょっと上がって行くか?」
 「はい!」

 簡単に上手く行った。
 やはり、この好色男は私の美貌と身体を見逃してはいなかった。
 案外簡単に任務が達成できそうだ。

 何の素材なのか、素敵に輝く門を一緒に入り、邸宅を見た。
 大きい。
 想像を超えていた。
 現在6人で住んでいるらしいが、それにしても大きすぎる。
 一体何部屋あるのか。
 
 「さあ、上がって下さい」

 石神に玄関を案内され、中へ入った。
 大きなネコが駆けて来た。
 石神のペットだと資料にあった。
 相当可愛がっているらしい。
 褒めなければ。

 「可愛いネコですね!」
 「ああ、ロボっていうんだよ」

 石神はネコを抱きかかえて階段を上がった。
 ネコは、じっと私を見ていた。
 手を振ると、ネコも振り返して来た。
 偶然か?

 「おい、ちょっとお客さんだ。亜紀ちゃん、コーヒーを淹れてくれ」
 「はーい!」

 5人の子どもたちがいる。
 どうやら、全員揃っているらしい。

 「もうすぐ昼だから、一緒に食べて行けよ」
 「いいんですか!」

 最初からいい感じだ。
 こいつ、いよいよ私の身体を狙っているのか。

 「ああ、この人は少し前から病院に来てくれている看護師の方だ。猪俣晴代さん」
 「いのまたぁー!」

 亜紀と呼ばれた少女が叫んだ。
 「亜紀」は石神の長女のはずだ。
 その亜紀が私を見ている。

 「おい!」
 「だって! 猪俣ですよ! 子どもタカちゃんが散々「世話」になった!」
 「あの、私の名前が何か?」
 「あなた! もしかして親か親戚に小学校教師はいる?」
 「口の利き方に気を付けろ!」
 「すいませーん」
 「あの、伯父が小学校教師で」

 石神が世話になったということなので、私は咄嗟にストーリーを作り上げた。

 「そうなんだ!」
 「はい」
 「もしかして、今は離島にいるとか!」
 「はい! どうしてそれを?」
 「決まりだぁー!」
 「おい!」
 
 亜紀が私の傍に寄って来た。
 最初の顔と違って、鬼のように恐ろしい。

 「タカさん! ちょっとこいつ、トイレでヤキ入れてもいいですか!」
 「ばかやろう!」

 亜紀が石神に頭をはたかれた。

 「俺の客だ! 失礼なことをすんな!」
 「すいませーん」

 何か失敗したようだが、石神が止めてくれた。
 亜紀は石神に手を引かれて部屋を出て、どうやら説教されているようだった。
 戻って来た亜紀が私に謝り、もちろん私も許した。
 とにかく、怖かった。

 「こないだも、子どもの頃に猪俣に付けられた傷とか教えられて。ちょっと頭にきてたんです」
 「そうなんだ」
 「タカさんの背中を流してたら、目立つ傷があったんですよ」
 「そうなの。え、でも一緒にお風呂に入ったりするの?」
 「はい! しょっちゅうですよ!」
 「へぇー」

 亜紀が笑って言った。
 石神はどうやら相当な変態のようだった。
 自分の娘、まだ成人してない少女と関係を持っているらしい。
 下の二人の娘はまだ小学生だ。
 しかし身体は成長し、背も高いし姉に似て美人だ。
 もしかしたら、この二人とも……。
 じゃあ、友人から預かっているという大学生の娘とも。
 石神のハーレムは乱れ切っている。




 昼食は肉うどんだった。
 抜群に美味しかった。
 やけに肉が多かったが。
 しかも、子どもたちはみんな別途ステーキを食べていた。
 なんなのか分からない。

 「アァー!」

 石神が突然叫んだ。

 「思い出したぞ! 亜紀ちゃん、お前「怜花」のメモのことを早乙女に話しただろう!」
 「!」
 「早乙女から、俺が何をやるのか聞いてるはずだ!」
 「タカさん!」
 「俺はやると言ったらヤルからな!」
 「えーん!」

 亜紀の顔が蒼白になっていた。

 「猪又さん、ちょっと話はまた今度ね」
 「あ、はい」
 「うちのバカ娘に思い知らせないといけないことがあって」
 「はい、構いません。では、今日は御暇しますね」
 「悪いね」

 私は昼食の礼を言って家を出た。
 遠くから見張っていると、石神と亜紀が揃って家を出るのを見た。
 驚くことに、亜紀の首にロープが結ばれて石神が持っている。
 ワハハハ、とんだ変態野郎だ。
 そういうプレイが好きなのか。
 後を付けた。

 一軒の家に入って行った。
 なるほど、流石に他の子どもたちの前ではいかがわしいことが出来ないのだ。
 だから小芝居を打って、二人で逢引するつもりだったか。
 ここは秘密の「ヤリ部屋」らしい。
 
 暫く外で見張った。
 大きな石神の声が聞こえた。


 「おい! どうした!」
 「タカさん、もうダメです。もういっぱいいっぱいで、足腰が立ちません!」
 「若いくせにたった一回でへたばるとはな! 俺は許さんぞ! まだまだヤルぞ!」
 「タカさーん! もう勘弁して下さーい!」
 「アハハハハハ! 顔がベトベトだな!」
 「タカさんのせいですよ!」

 ハハハハ、相当責められたようだな。
 では現場を押さえてやるか。
 石神は社会的に破滅だ。
 証拠を押さえた私にはもう逆らえまい。
 まあ、石神の身体を味わうのも楽しみだ。
 ハーレム変態野郎のテクを味わってやるか。

 私は、笑いながらカメラを手に家の玄関の方へ歩いて行った。
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おい! 今、戸が開いたぞ!」
 「は、はい!」
 「新しいパターンだなぁ」
 「今まで無いですよ!」
 
 俺たちは玄関にいた。
 戸がいきなり開いたが、誰もいない。

 「ちょっと怖ぇな」
 「そうですよー!」
 「帰るか」
 「はい! そうしましょう!」

 亜紀ちゃんに佐藤家を三周させるつもりだったが、気が退けた。




 突然だったが、俺の部に配属されたナースの猪俣晴代が、事情があって退職したことを聞いた。
 無断欠勤だったので大学病院に問い合わせると、後日、そのように回答された。
 まったく、あの病院はろくなもんじゃねぇ。

 折角優秀だったから仲良くなろうと思ったのに。

 俺は猪俣晴代の綺麗な顔と抜群の身体をちょっと思い出した。   
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