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凄腕エージェント「マタ・ハル」

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 5人の人間が集まっていた。
 サンフランシスコの街のある高層ビル。
 そこの最上階の部屋。

 「イシガミたちの軍事力は想像を超えている」
 「アラスカのあの基地はなんだ!」
 「あのエリア51を瞬時に崩壊させた力はとんでもないぞ!」
 「その後の、エアフォースの全ての攻撃、ミサイル攻撃ですら、簡単にあしらわれた」
 「なんとしても、イシガミを抑えねばならない」

 集まった男たちは真剣に話し合っていた。

 「暗殺は?」
 「ほぼ不可能だろう。それに、万一発覚した場合の報復が恐ろしい」
 「では懐柔か?」
 「それしかない。それに、あの「ハナオカ・アーツ」と驚異的な軍事技術を手に入れたい」
 「可能なのか?」
 「それがな。イシガミは大層な女好きらしい」
 「なんだと!」
 「今も何人もの女を囲って楽しんでいるらしいよ。しかも、自分の女は相当に大切にすると報告がある。あの戦争も、元はイシガミの女が殺されたからだ」
 「じゃあ、エージェントを送るのか!」
 「ああ。凄腕の人間を知っている。あの女に依頼すれば、必ず成功する」
 
 男たちは笑い合った。
 上院議員二人とNSAの幹部、そして陸軍の将校二人。
 アメリカは完全に屈服したが、その中で石神高虎に脅威を抱き、危険視し、密かに反攻勢力を組織しようとする者たちのトップだった。
 いずれは石神に敵対し、対抗することを考えている。
 その第一手が打たれた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 私の名前は「マタ・ハル」。
 自分で言うのも何だが、凄腕のエージェント、つまり女スパイだ。
 フリーで仕事を受けている。
 日本人だが、子どもの頃に両親の仕事で渡米して、やがてCIAに勧誘された。
 両親は日本へ帰り、私は大学に通う振りをして、スパイの訓練を受けた。
 私にピッタリな仕事だった。

 これまで数々の男共を陥落させ、どんな情報も引き出し、また男共を操って来た。
 暗殺も何度も経験している。
 そうだ。
 私は超絶の美人だ。

 顔はもちろん、スタイルもB98・W56・H80。
 ミミズ千匹三段俵締めの上、感度もいいしテクニックはどんなプロよりも上だ。
 それに相手に合わせて、どんな変態プレイでもこなす自信がある。
 私を前にして、堕ちない男はいない。

 持って生まれた上質素材を、最高度に磨き上げて来た。
 年齢36歳。
 見た目は20代前半にしか見えない。





 今回の依頼は、アメリカのある実業家からだった。
 いつも私の仲介をする組織からの指名依頼だ。
 まあ、その奥に誰かがいるのは分かっていたが、私には興味は無い。
 実業家が提示した報酬が桁違いだったからだ。
 前金で1億。成功報酬10億。
 もちろんドルだ。

 ターゲットは日本人の医者・石神高虎。
 都内の港区の大病院に勤務している。
 この男を篭絡しろというのが今回の任務だ。
 その資料は受け取っている。
 身長187センチ、体重80キロ。
 顔は最高にいい。
 甘いマスクでありながら、精悍さがある。
 それに金持ちらしい。
 都心にバカみたいに大きな邸宅を持ち、車もイカシテいる。
 どうやら石神は特殊な拳法を使うらしい。
 その拳法を探ることが第一の依頼だ。
 他にも私に頼みたいことがあるそうだが、それは私が石神と「親しく」なってからということだった。

 石神には子どもが四人いるが、すべて友人の子を引き取ったらしい。
 それに現在、別な友人の子も預かっている。
 その子どもたちの資料もあった。
 もちろん、石神の「情婦」たちの資料もある。

 何枚もの石神の写真を見ていると、久し振りに自然に股間が反応した。
 本当にいい男だ。
 遣り甲斐のある仕事だと思った。
 様々な石神高虎の資料を丹念に読みながら、私は計画を立てた。



 今回はナースとして接近することにする。
 身分は、仲介の組織が用意してくれた。
 名前は「猪又晴代」を使うことにする。
 ターゲットに近づくのに、ナースという職業は便利だ。
 勝手に相手が信用してくれ、自分に身体を預けてくれる。
 だからこれまで何度もナースに変装した。
 ナースの一連の作業は習熟している。
 そして、今回はいきなり石神の病院には入らなかった。
 近くの大学病院から、石神の病院へナースが派遣されることを知ったからだ。
 石神は注意深い男のようだった。
 だがまさか、そうやって遠回りに自分に接近するとは、石神も考えないだろう。
 私はまず大学病院の人事部長を篭絡し、石神の病院へ派遣されるように仕向けた。
 石神の実績を知り、傍で働いてキャリアアップを図りたいと言った。

 「君と離れるのは辛いよ」
 「あら、嬉しい。でもそんなに長い期間じゃありませんわ。またこちらへ戻って先生と」
 「うん!」

 他愛無い、どうでもいい男だった。
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「部長、いつもの応援のナースさんですよ」

 一江が俺を呼んだ。
 以前にうちのMRIをぶっ壊し掛けたことでねじ込み、一定数のナースを派遣するように近くの大学病院へ命じていた。

 「おう、今回はうちの部か」
 「はい。オペ看の経験もあるそうですので」
 「それは助かるな」

 俺は部屋へ呼んだ。
 美しい女だった。

 「猪又晴代です。どうぞよろしくお願いいたします」
 「ああ、宜しく。うちは結構忙しいけど、頑張って下さい」
 「はい! 石神先生の実績を知り、是非お傍で働きたいと思っていました!」
 「そうですか。まあ、俺はそんなに大した人間じゃないけど、一緒に頑張りましょう」
 「はい!」
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 石神は、想像以上に優秀だった。
 資料にあった、アメリカ人の少女を奇跡的に救ったというのは、納得出来た。
 その他にも、難手術を膨大にこなしている。

 また部下の人間たちも優秀だった。
 石神の指示らしいが、時間があれば論文を読み、念入りに解剖図譜を見ている。
 こんな真剣で真面目な医者たちは見たことが無い。
 オペ看の中にも傑出した人間がいる。
 峰岸鷹という女性で、資料では石神の女の一人だ。
 石神は複数の女と付き合っている。
 ハーレム状態らしい。
 女好きな石神であれば、自分もその中へ入るのは難しくないだろう。
 既に複数の女がいるということは、簡単な仕事になるはずだった。

 峰岸鷹には簡単に接近出来た。
 私の培った社交術で、峰岸とはすぐに仲良くなれた。
 もう一人の一色六花の方は簡単には行かなかった。
 特殊な患者の専属のようで、接点が持てなかった。
 無理にやれば綻びが出来る。
 私は機会を待つことにし、一色の方は諦めた。



 「峰岸さんの御仕事を拝見しましたが、実に素晴らしいですね」
 「そんなことはないわ。経験で慣れているだけよ。猪俣さんこそ優秀じゃない」
 「そんなことは!」

 まずは峰岸鷹に好印象を持たせることにした。
 それは成功しつつある。
 自分で優秀さを示しつつ、峰岸の方が上であることを常に指摘した。
 もう、自分への信頼は厚い。
 次の段階へ進んだ。

 「石神先生って、素敵ですよね」
 「そうね」

 峰岸鷹と一緒に食堂で食事をした。

 「ああいう方と付き合ってみたいです」
 「アハハハハ」
 「峰岸さんは親しいんですよね? 紹介して頂けませんか?」
 「それは無理ね」
 「え、どうしてです?」
 「石神先生はお忙しい方だから。お付き合いしたいという女性を紹介することは出来ないわ」
 「そうですか」

 峰岸は、他にも石神と付き合いたがっている女性が幾らでもいることを話した。
 峰岸鷹が石神の女であることは分かっていたが、そこを衝くわけには行かない。
 まあ、ハーレムの女なのだから、これ以上ライバルは作りたくはないだろう。
 私は別な手段で行くことにした。
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