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百家訪問 Ⅵ

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 俺は宇留間との因縁から「業」との戦いが始まった経緯を説明した。
 響子がいるので、陰惨な場面は割愛する。
 そして後から知った「業」の正体、「大羅天王」との融合を話す。

 「元々、「業」は冷酷無残な性質で、周囲の人間を遊び半分で殺すような奴でした。花岡家では「業」の粛清を考えていたようですが、当時の道間家の当主が妖魔との融合を実験しており、「業」に目を付けたようです。そして当主の花岡斬を騙して、性格の変革の可能性を持ちかけた。その結果、「大羅天王」との融合を果たした現在の「業」が生まれたのです」
 「その性格は?」
 「俺は元からそうだったと思いますが、残虐で冷酷なままですよ。ただ、一つの目的が出来たのではないかと思います」
 「それは?」
 「この世界の破壊です」
 「「「「!」」」」

 俺は一旦言葉を切った。

 「そして、これは俺の確信なのですが、説明しにくいことです」
 「はい?」
 「「業」は、俺と邂逅することで、その目的に目覚めた」
 「「「「!」」」」

 「それまで「業」は人間を殺すことに興味はありましたが、世界をどうこうということは無かった。フランス外人豚の中でも最も激しい戦場を志願していたことは分かっています。それだけ多くの人間を殺せるからです」
 「……」
 「しかし、俺と出会ってからは外人部隊を辞め、日本で道間家を襲い、当主の宇羅を連れて行った。妖魔を呼び出す研究のためです」
 「道間家のことは聞き及んでおります。一族を皆殺しにされたと」
 「はい。今はたった一人の生き残りの女性が当主になっています。俺たちと共闘する関係になりました」
 「それは!」
 「現当主・道間麗星さんは、「業」の目的を知り、それを止めるために俺たちと一緒に戦っています」
 「では、まだ道間家は続いているのですね?」
 「はい。当主の麗星さんは、人間では到底宿せない強大な妖魔を命懸けでその身に入れ、歴代当主の中でも最高峰の能力を得ました」
 「なんと!」
 
 響子がやはり眠くなってきた。
 丁度いい。
 俺は中断し、響子を寝かせに行った。

 「何かあったら「高速トラちゃん通信」で呼べ」
 「うん!」

 響子に痴漢撃退ブザーを持たせた。
 応接室に戻り、話の続きをした。

 「業」との出会いにより、俺の状況も激変したことを話していく。
 引き取った子どもたちが「花岡」の技を習得し、更にそれを超えたこと。
 「クロピョン」と呼ぶ「地の王」の妖魔との関り。
 親友の家の「オロチ」の話。
 双子が悪戯で開発した「Ω」たちの驚異的な性能。
 「業」の何度かの襲撃、蓮華のゾンビ部隊、フランス外人部隊の本格的地上戦、防衛システム輸送の海上戦、御堂家を襲った強大な妖魔との戦闘。
 俺たちの大事な仲間レイの死とアメリカとの戦争とその終戦処理で得たアラスカの軍事基地。
 響子との縁で繋がったロックハート家との絆。
 そして「虎王」との出会いとその後の強大な妖魔たちとの出会い。
 特に「地の王」「天の王」「死の王」「海の王」の超絶の能力。

 幾つかの場面をPCの画像や動画で示しながら、俺は多くのことを話した。

 「今、アメリカは俺の傘下にあると言ってもいい。まあ、俺はアメリカを支配するつもりはありませんので、協力関係です。アメリカが個人に敗北したとは言えないので、「虎の軍」との共闘を発表していますが、概ねあの通りですよ」
 「まさか、あの大規模なテロが石神様の力だったとは、姉に教えられるまではとても」
 「麗星さんが事前にくれた秘薬が無ければ、俺は本当にアメリカを壊していたかもしれない。我を喪うほど激怒しましたからね」
 
 俺は現在の日本での活動を話した。

 「アラスカの軍事基地はほぼ出来上がりました。それで現在日本国内の統制を始めています。一つは警察の公安内部に「対妖魔部隊」を設置しました。親友がその長を担っています。もう一つは自衛隊です。こちらは主に避難誘導とある程度の迎撃を。迎撃は妖魔以外の「業」の戦力に対してです」
 「改造人間や改造動物ですね」
 「はい。そしてもう一つ。政治の方面で、俺の親友が総理大臣になります」
 「え!」
 「次の来年三月の総選挙で出馬しますよ。根回しは済んでいます。もうすぐ、大々的なキャンペーンも始まると思います」
 「それは、どなたですか?」
 
 「御堂正嗣。俺の大学以来の大親友で、俺がこの世で最も信頼する人間です」
 「そうですか。それは驚きです」

 百家の方々は、俺が語る非日常の事件の連続に驚愕している。

 「莫大な票田も得ています。そのためにヤクザ組織を幾つも傘下にいれました」
 「私共も、それは存じています。石神様は、もう日本の裏社会を制しておられると」
 「はい。それに資金もありますし、優秀なブレーンもいます。これまでの綺麗事の政治が変わりますよ」
 「それは楽しみです。戦後の日本は何か大切なものを喪ってしまった」
 「俺たちがいれば、対外戦争はアメリカで示した通りです。でも、俺たちはそんなことに興味は無い。まあ、専守防衛は現状と同じですが、世界はそんな温い状況ではなくなります」
 「「業」ですね」
 「はい。あいつもロシアを支配しつつあって、強大な軍事力、しかもジェヴォーダンのような驚異的な戦力を持ちつつあります。そして妖魔軍です。あれは世界中に対抗措置がない」
 「恐ろしいことです」
 「世界は戦乱で覆われるでしょう。俺たちは、それと戦って行きます」
 「はい」
 
 多くの話が終わった。
 百家の方々も、俺の話で呆然としている。
 一部のことは知っていたようだが、それ以外のことは驚天動地だっただろう。
 
 「そしてこれは俺の勝手な思い込みなんですが」
 「なんでしょうか?」
 「すべてのことは、俺と響子との出会いから始まっている。そう俺は感じています」
 「「「「!」」」」

 「響子はスキルス性のガンに冒され、末期症状でした。日本の高度医療の技術に一縷の望みを掛けて来ましたが、ついにそれも諦めざるを得ない状況でした」
 「そうだったんですか」
 「響子はロックハート家にとって、唯一の後継者でした。ロックハート家も絶望していました」
 「石神様が、それを御救いになったのですよね?」
 「あれは奇跡です。俺なんかの力じゃなくて、響子自身の運命だった。でも、俺との出会いがその奇跡を起こしたとも思っています」
 「……」

 「響子と出会い、響子が俺を好きになってくれ、そこからすべてが始まった。昨晩、教えて頂いた百家の伝承の通りですね」
 「はい。ついにこの世の終わりが来たのですね」
 
 俺は笑った。

 「それはどうだか知りません。俺は俺の戦いをやり抜くだけです。俺はこの日本が大好きですからね。でも、世界が崩壊に近い状態になるのは感じています。「業」の破壊の力は決して侮れない。今は或る程度大人しくはしていますが、着々と力を拡大していますよ」
 「そうですか」

 「特に妖魔を操る力は、通常の戦力では対抗出来ませんでした。「虎王」と俺が出会わなければ、俺たちは確実に負けていました」
 「すべては運命ですね」
 「はい、そう思います」

 全ての話は終わった。
 全員がそれぞれに考えているようだった。

 「最後にもう一つだけ」
 「はい?」
 
 「先ほど、俺と響子との出会いから始まったと申し上げましたが、実はそれ以前に俺は出発点になることがあったと思っているんです」
 「それは?」
 「親友の山中の子どもたちを引き取ったことです。四人の兄弟なんですけどね。突然に山中と奥さんが交通事故で亡くなってしまい、俺が引き取ったんです」
 「それは、なんという……」
 「可愛い連中なんですよ。姉と弟、双子の姉妹。俺はずっと独身だったんですが、突然家の中が大騒ぎで」
 「アハハハハ」
 「あいつらがね、「業」との戦いに必要なことを全部揃えてくれたんです。「花岡」の習得も、超絶ゴキブリの育成も、世界経済を動かすほどの資金も、軍隊を迎撃する防衛システムも、妖魔との出会いも。全部あいつらのお陰です。まあ、何度かそのお陰で死に掛けましたけどね」
 
 全員が大笑いした。

 「そして何よりも、俺を支えてくれている連中なんです。もう、あいつら無しではいられない。大事と言うよりも、俺の命そのものですね」
 「そうですか」
 「あ、でも響子が中心ですよ?」

 全員が笑った。
 俺は暗い話が続いたので、俺の子どもたちの無茶振りの話題を話して笑って頂いた。

 「ディーラーに借りたフェラーリをぶっ壊しましてね」
 「肉好きで、20キロも喰うんですよ。それでも足りないって顔するんです」
 「引き取った時には金融資産だけで20億以上あったんです。だから余裕で育てられると。そうしたら、今じゃ2000兆円を超えてるんですから。あいつらにお小遣いをもらってるような始末で」
 「京都に修学旅行に行ったら、夜に酒を呑みに出てヤクザと死闘ですよ! おまけに、女親分と知らずに仲良くなってて」
 「ゴミ箱を隠してるんで、俺が問い詰めたら50センチのゴキブリですよ! マグナム弾でも入らないっていう!」
 「千万組の盃事に行ったら、武闘派ヤクザを全滅させて。ヤクザが気圧されてると、血まみれのままみんなの膳を漁るんですから」

 一部ドン引きの話題もあったが、みなさんが大笑いして聞いてくれた。
 深夜の0時になって、俺は何度かそろそろと言ったが、みなさんが話を聞きたがってくれた。
 結局2時頃まで笑いながら話した。

 俺も子どもたちの話をするのは楽しかった。






 部屋へ戻ると、響子が痴漢撃退ブザーを握り締めて寝ていた。
 俺はそっと手から抜き取り、その手を俺の顔に触れさせた。

 「もう俺がいるから大丈夫だぞ」

 小さな声で囁くと、響子が笑顔になった。
 俺は額に軽くキスをして横になった。

 「ああ、お前が甘い物をたべてデブになった話をしなかった。明日の朝にしような」

 響子はスヤスヤと眠っている。

 「俺が必ずお前を守るからな」

 俺も眠った。
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